2016年12月6日火曜日

それは我々次第だ



米大統領選ではどうしてトランプが勝利を手にすることができたのであろうか。今、さまざまな見解がインターネットを賑わしている。

そして、世界の将来像に関して日本でも、ロシアでも、ヨーロッパでもそれぞれ違った見方がたくさん出回っている。世界に対する米国の覇権が揺らぎ始めたとは言え、トランプ次期米大統領が描く世界像は広く関心を集めている。

今回の米大統領選が見せた新しい基本的な潮流は草の根的な一般庶民が政治的に覚醒したことにあると見られる。西海岸や東部の都市部に強い民主党のクリントンは捨てられ、経済的に疲弊している中西部や南部の州の住民は多くがトランプを選んだのである。換言すると、多くの住民が既存の政治路線、つまり、寡頭制や軍産複合体に支配された対外政策には決別して、まったく新しい政治を求めているのだ。

興味深いことには、フランスやドイツにおいても、来年の大統領選に向けて、今、米国の潮流と同じような胎動が感じられる。124日、イタリアでは首相が提案した憲法改正に関する住民投票が行われたが、反対が多数を占め、首相は辞任に追い込まれている。ここでも、権力者対民衆の構図で争われ、民衆が勝ったのだ。

そんな世相に答えるかのような興味深い記事が見つかった [注1]。その表題は「それは我々次第だ」と題されている。

本日はその記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

ドナルド・トランプは彼が人種偏見主義的であり、女性嫌いであって、米国人たちもそうだからこそ、この選挙に勝ったのだろうか? 

そうではない。そのような見方は権力層からたっぷりと給料を貰っている連中や「リベラルな進歩派」、シンクタンク、あるいは、大学の連中のたわ言に過ぎない。

トランプが選挙を盗んだからこそ、この選挙に勝ったのだろうか?

それもたわ言だ。投票装置をことごとくコントロール下に置いているのは権力層だ。彼らは今回の選挙を盗むことには失敗した。世論調査ではヒラリーに投票をしたいと言いながらも、実際の投票では多くの市民が権力層を出し抜いたのだ。ヒラリーは間違いなく勝利するというプレスティチュートのプロパガンダが独り歩きし、権力層は自分たちが推進していたプロパガンダ路線を信じ込んでしまい、自分たちの勝利を確実にしなければならないなんて夢にも思わなかった。

[訳注: 「プレスティチュート」とは「プレス」と「プロスティチュート」との合成語。この新語はジャーナリズムの腐敗ぶりを表現する言葉として米国では多用されている。]

トランプは米国の市民に直接語りかけ、真実を喋ったので大統領選に勝った。彼は市民らが以前から知っていることだけではなく、今まで政治家が口にしたこともないようなことまでも喋ったのである。たとえば、こんな具合だ:

「我々の新政府は、失敗に失敗を重ね、腐敗し切っている政治的権力層をあなたたちによって、つまり、米国市民によってコントロールされた政府で置き換える積りだ。権力層の連中は何十億ドルもの金をこの選挙に賭けている。ワシントンで権力のレバーを握っている連中、ならびに、彼らと連携してグローバルな規模で特別な利害関係を持っている連中はあなた方のためになることなどは何も考えようとはしない。我々の動きを止めようとする政治的権力層こそがわれわれに惨めな自由貿易協定をもたらし、大量の不法移民を放置し、この国の富を流失させてきた経済政策や対外政策にかかわってきた張本人なのだ。」

「経済に関する意思決定に関与しているのはグロ-バルな権力構造だ。この構造こそがわれわれの労働者階級を強奪し、この国の富を略奪して、その金を一握りの巨大企業や政治家集団のポケットに押し込んできたのだ。この腐敗し切ったマシーンを止めることが出来るのはあんた方だけだ。我が国を救うことが出来る唯一の勢力は俺たち自身だ。この堕落した権力者集団を出し抜いて選挙で勝ち抜くことができるのはあんた方、米国市民だ。」

トランプは投票者に多くの約束をしたわけではない。彼はあれについても解決する、これについても解決すると言ったわけではない。彼はほころびてしまったわれわれの国を修復できるのは米国市民たちだけだと主張し、彼自身は有権者から付託された権限を行使するエージェントであると言う。

市民たちはこの選挙戦を勝ち抜いたが、権力層は依然としてそこに存在している。しかも、前と同じように強力なままだ。彼らは、トランプの合法性を認めないとして、メディア界における彼らの追従者やリベラルな進歩派グループを介して抗議や請願およびフェーク(偽)・ニュースを使ってすでに攻撃を開始している。ジョージ・ソロスは、彼がかって英国通貨に対して攻撃を仕掛けて大儲けした金を使って、トランプ新政権の発足を邪魔しようとして何千人ものデモ参加者に金を支払うことだろう。

トランプの動きはどうだろうか?トランプ自身が見い出したように、寡頭制の経済や対外政策を操る権力層には属さないような人物を指名することは非常に難しい。ワシントンは批判者や反対者が心地よく感じることができるような場所ではない。たとえば、パット・ブキャナンのことを考えてみよう。ふたつの政権でホワイトハウスの高官として勤め、二回も大統領候補になった。彼は非常に経験豊かな人物である。しかしながら、ワシントンは彼を脇に押しやってしまった。

さらには、たとえ部外者のための居場所を見つけたとしても、部外者は内部の連中によって生きたまま喰われてしまうことだろう。トランプは部内者を採用しなければならないだろう。しかし、彼はある程度は自己主張がはっきりしている部内者を任命しなければならない。マイケル・フリン将軍を国家安全保障担当補佐官に任命したことは決して悪い選択ではない。フリンはシリアに対してISISを採用することについては反対だとオバマ政権に提言した前国防情報局長官である。シリアにおけるISISの出現はオバマ政権の「意図的な意思決定」の産物であると、フリンはテレビで公言している。換言すると、ISISはワシントンのエージェントであり、それが故にオバマ政権はISIS を防護したのだ。

トランプの首席補佐官となるプリーバスや最高戦略責任者となるバノンは妥当な選択である。セッションズ(検事総長)とポンペオ(CIA長官)は彼らのメディアが名声を盛り挙げたものであって、いささか気に掛かる指名だ。とは言え、もしもセッションズが拷問を認めるようであるならば、憲法が拷問を禁止していることから、彼は検事総長には向かない。米国としては米国憲法を支持しない検事総長がまたもや出現することは許容することができない。

もしもポンぺオが実際には余りにも情報不足であったが故にイランとの和解に反対したというのであれば、彼はCIA 長官には向かない。イランは核兵器プログラムを持ってはいないと CIA自身が言い、ロシアの助けを得てあの問題を解決したのである。トランプはネオコンの連中がイランとの喧嘩を再開するために使えそうなCIA 長官を望んでいるのであろうか?

セッションズやポンぺオの見解は時世の産物であると言えそうであって、心の底からそう思っているものではなさそうだ。とにかく、トランプは強靭で、強情な人物である。もしもトランプがロシア人や中国人との和平を望むならば、邪魔をしようとする指名者は更迭されるだろう。まあ、トランプ政権をこき下ろす前に、まずは同政権が何をするのかを注視しようではないか。

過激なネオコンであるジョン・ボルトン、あるいは、以前は地方検事を務め、ニューヨーク市長を歴任したルディ―・ジウリアーニが国務長官の候補者として挙げられているというプレスティチュートの報道は信用出来そうにはない。もしもトランプがプーチンと仲良くやって行きたいと思うならば、彼の国務長官がロシアとの戦争を望むようではトランプはいったいどうやってロシアとの和平を実現するのだろうか?トランプは旧ソ連邦と交渉をした経験を持つ外交官を見つけるべきである。リチャード・バートは戦略兵器制限交渉で重要な役割を担ったことから、彼は理に適った人選ではないだろうか。もう一人の妥当な候補者としてはリーガン政権時代に駐ソ連邦米国大使を務めたジャック・マトロックが挙げられる。

もしもトランプがロシアとの和平を望むならば、国務長官の任命は非常に重要なものとなる。もしもトランプとしては権力層が米国市民を略奪することを何としてでも中断させたいならば、国務長官の任命は非常に重要なものとなろう。

過去3代の大統領の下では、財務長官は潰すには余りにも巨大な銀行やウールストリートのためのエージェントであった。金融ギャングが財務省を抱き込むことは、今や、伝統と化してしまっている。この伝統が余りにも強固であって、トランプにはそれを壊すことが出来ないのかどうかは時を待つしかない。

権力層はトランプ大統領が就任する前に彼の信用を落とそうとしいる。この動きはリベラル派や進歩派が移民法を執行しようとはしないこと、同性愛者や性転換者の権利を擁護すること、等を表面化させ、逆に彼ら自身の信用を落とすことになろう。しかし、これらの課題は経済的な富が減少するばかりで、過去の15年間はネオコンの覇権を推進する政策を支え、軍部・警備の複合体に利益や権力をもたらしただけの戦争にすっかり飽きてしまっている有権者にとっては重要な争点ではないのである。

The Saker [訳注: 米国の多言語ブログ・サイトのひとつであって、ロシアの情勢について詳しい分析を提供することで人気を博している] の報告によると、プーチンは ロシア国内の第5列部隊の一員である汎大西洋主義者の影響力を低減するために、彼らを排除し始めた。トランプがわれわれの国の第5列部隊、つまり、米国の市民や米国の品位を売り渡したネオコンの連中やネオリベラル派を排除することが出来るかどうかに注目しよう。

[訳注: 「汎大西洋主義」とはロシアではEUや米国との協調を重視しようとする一派を指し、中国や中央アジア諸国との連携を強めようとしているプーチン路線とは異なる。また、「第5列部隊」とは戦争などで敵を支持するグループを指す。第二次世界大戦前のスペイン内戦で使われた言葉が定着したもの。]

もしもトランプが成功しなかったならば、米国の市民に残される唯一の解決策はもっと急進的になることしかない。 

著者のプロフィール: ポール・クレイグ・ロバーツ博士はリーガン政権にて財務省の副長官を務め、経済政策を担当した。また、ウールストリートジャーナル紙の共同編集者の任にも就いた。ビジネスウィーク、スクリップス・ハワード・ニュースサービス、クリエーターズ・シンジケート、等でコラム記事を執筆した。多くの大学から招聘を受けた。彼のインターネットでのコラムは世界中のファンの関心を呼んでいる。近著: The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the West, How America Was Lost、および、The Neoconservative Threat to World Order.

<引用終了>


これで、仮訳が終了した。

今回の米国の大統領選は革命的であるという指摘もある。それは、この選挙を通じて、有権者は権力層が推進していたヒラリー・クリントンを捨てて、ドナルト・トランプを勝利させたからだ。

ヒラリー・クリントンを支持していた権力層とは米国の有権者の1パーセントのことであり、米国の資本主義を支える大富豪や軍産複合体、大銀行、多国籍企業、それらを取り巻き、情報を操り、一般大衆をひとつの方向に誘導しようとしていた大手メディア、等が含まれる。そして、残りの99パーセントは民主党と共和党に二分された。

クリントン支持派は「自分たちが推進してきたプロパガンダを信じ込んでしまって、クリントンの勝利を確実なものにしようなんて夢にも思わなかった・・・」という指摘は痛快だ。彼らは熱狂した挙げ句に、自己暗示に陥り、冷静な判断が出来なくなったのだ。競争相手であるトランプの選挙演説会場は大入り満員であるにもかかわらず、自分たちの会場では有権者を十分に動員できなかった。挙げ句の果てには、報道に使われる写真を加工して、あたかも数多くの有権者が駆け付けたかのように見せるべく改ざんさえも行った。そうした目に見える現実がありながらも、自己陶酔のあまりに彼らは盲目になっていたのだ。

フェーク・ニュースは昔から存在していた。しかし、今回の大統領選では大手メディアによるフェーク・ニュースの横暴振りはその極に達した。それだけに、118日の開票結果はクリントンを支持していた権力層には大きなショックを与えた。米国の大手メディアは自らの手で自分たちのために大きな墓穴を掘ったことに今気付いている筈だ。

それとも、一部の者にとってはこの大統領選の展開のすべては最初からシナリオ通りであったのであろうか。私には分からない。

要は、一国の将来を決めるのは一般大衆だとする古くて新しい方程式が、今、その勢いを増しているかのようだ。資本主義国ではどこの国でも富裕層とそれ以外の大多数の持たざる者たちとの間では富の配分が過剰なまでに偏ってしまっている。今までの民主主義は権力者たちの意向に沿って展開されて来た。そこには、大多数の一般民衆に対する情報操作や洗脳さえもが巧妙な形で動員された。今、一般大衆はその現実に明確に気付いたのだ。

今回の米国での大統領選の結果はこれまで見られていた現実に対する反発であり、民主主義の本質を探ろうとする動きであるのかも知れない。そういう意味で、すべては我々次第なのである。

有権者は今までの政治の在り方にうんざりしている。米国ではトランプの勝利となった。英国では欧州同盟からの脱退となった。そして、今度はイタリアでも政府が提案した憲法改革案が拒否された。権力層にとっては脅威の時代がやって来たとも言えよう。要は、有権者が日頃感じている政治に対する不満感を建設的な政治への参画に結集させることができるかどうかだ。政治家は本気で有権者の声なき声を聞かなければならない。

この構図は日本にも当てはまりそうだ。

最後にこの著者は「もしもトランプ政権が有権者の期待に応えなかったとしたら、有権者はもっと急進的にならなければならない」と述べている。それは、質的には一般大衆が政治に目覚めることであり、量的には一人でも多くの庶民が覚醒しなければならないという意味であろうか。それがなくしては、米国における極端に偏った富の配分が是正されることはない。ネオリベラリズム、あるいは、ネオキャピタリズムによって米国の社会から消えてしまいそうだとも言われている中産階級が復帰してくることはないだろう。

米国においてさえも、本当の民主主義はこれからなのである。今後の4年間、有権者から付託を受けたトランプ大統領が有権者のエージェントとして働いてくれるのかどうかに注目して行きたいと思う。



参照:

注1: It Is Up To Us: By Paul Craig Roberts, Information Clearing House, Nov/24/2016







2016年11月30日水曜日

EU:市民を洗脳するために市民自ら資金提供をすることについて投票



この表題を見ていったい何のことを言おうとしているのか「ピーン」と来る人は今欧州がどんな政治課題に振り回わされているのかについて適時に情報を得ており、その現状をよくご存じの方々だけだろうと思う。

米ロ間の情報戦争、ハイブリッド戦争、あるいは新冷戦は次々と新たな局地戦を展開している。私はそういう印象を受ける。

対ロ経済制裁がヨーロッパでその効果を挙げるどころか、ヨーロッパ各国では不人気であり、EU圏の政治地図を二分してしまっている。大雑把に言うと、EU圏の南部は対ロ経済制裁が自国の経済にとっては余りにも打撃が大きいことから、それを中断することに傾いている。その一方、ポーランドやバルト三国を中心とするEU圏に比較的最近加わった中・東欧の国々は国内の経済不振から一般庶民の関心を外に向けるためにも現行の対ロ強硬路線は堅持したいようだ。

クリミア半島の市民の圧倒的大多数が住民投票によってロシアへの復帰を選択した。つまり、極めて民主的な手法を使って民族自立の決断をした。それを受けてロシア政府はクリミアのロシアへの編入を認めた。ロシア政府がとったこの政策に関して、西側の圧力があるからと言って、プーチン大統領がその決断を元に戻すような気配はこれっぽっちもない。また、最近の世論調査 [1] によると、ロシア国内では西側離れが進行しており、一般大衆の政府の外交政策に対する信頼感は減退するどころか、むしろ強化されている。西側の政策立案者にとっては残念なことではあろうが、対ロ経済制裁は完全に裏目に出たということだ。

それどころか、国際政治におけるロシアの地位は今上昇中である。

米国のトランプ次期大統領はロシアとより良い関係を構築したいと表明している。そればかりではなく、最近行われたモルドバとブルガリアの大統領選挙では親ロ派が勝利した。オランダ、ギリシャ、キプロス、イタリアおよびスペインは対ロ経済制裁の続行には反対を表明している。フランスでは大統領選が来年の4月に行われるが、もっとも中心的なふたりの候補者、つまり、共和党のフィヨン大統領候補もナショナル・フロントのル・ペン党首もロシアとは仲良くやって行きたいと言っている。今までEUへの加盟を推進してきたトルコは、この夏のクーデター未遂事件を境にして、EU加盟の推進から一転して親ロ派に転向しつつあるようだ。トルコはNATOのメンバーでもあることから、トルコの政治的転向がどこまで進展するのかについては今大きな関心が集まっている。

対ロ経済制裁に代わって、あるいは、それを補完するために、もしくは、完全に新しい試みとして登場して来たのがロシアの国営メディア、Russia Today (RT)を痛めつけるという新しい戦術だ。経済戦争から情報戦争へと移行している。英国では、同国で活動するRT支局を叩き始めた。この動きは英国による対ロ制裁であると見られている。

RTの編集局長を務めるマルガリータ・シモニアンは「英国のナショナル・ウェストミンスター銀行がRT-UKの口座をすべて閉鎖すると通告して来た」と1017日のツイッターで公表した。最大級の皮肉を込めて、彼女は「表現の自由、万歳!」と書き添えている [2]。「表現の自由」や「民主主義」を声高らかに謳い上げて来た英国人にとってはさぞ耳に痛いメッセージであろう。

ナショナル・ウェストミンスター銀行はロイアル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)を親会社としており、RBSの過半数の株式は英国政府が所有している。この事実から、多くの外部の専門家たちは今回のナショナル・ウェストミンスター銀行によるRT-UKの口座の閉鎖に関する発表は英国政府の意向を多分に反映したものだと推測している。もちろん、ナショナル・ウェストミンスター銀行のトップは英国政府の関与を認めてはいない。

RTが如何に多くの人気を得ているかに関しては、まずは、1027日のRT報道 [3] を吟味していただきたい。その表題は「RTはユーチューブで40億回もの視聴回数を記録」としており、RTの人気度を報告している。確かに、これは世界でもトップクラスのニュース報道機関を自負する米国のCNN や英国のBBCを凌ぐものである。これを見ただけでも、西側の一般市民は、特に、イラク戦争以降、西側の大手メディアの報道には飽き足らず、真実の、あるいは、少しでも真実に近い情報を求めてRTの報道を頼りにしているという現実を理解することができるのではないか。

率直に言って、2003年のイラク侵攻を開始した前後の西側のメデイアの大騒ぎ振りや大量破壊兵器が見つからず、あの戦争の大前提が砂漠の蜃気楼の如くものの見事に崩れて行った結末は、多くの人にとっては今でさえも大手メディアの大失敗として鮮やかに蘇って来る。一般庶民のわれわれにとっては、これらの一連の出来事は今まで神話のように語り継がれてきた西側ジャーナリズムの旗艦とも言うべきBBCCNN、ニューヨークタイムズの信頼性を根底から覆すものとなった。あれから10年、視聴者の信頼感を呼び戻すために、西側の大手メディアはいったいどんな改善努力をして来たと言うのであろうか?


最近、新たな動きが浮上してきた。欧州議会がひとつの決議を採択した。その内容はロシアの国営メディアに対抗して、ロシア側のプロパガンダの嘘を暴くために、EUはメディアを監視する機関を拡大し、その活動を強化するために予算や人的資源を注ぎ込むべきだというものだ。

ロシア側のメディア、特に、RTにとって最大の関心事は過去10年間に築き上げてきたテレビ・ニュース局を西側各国において今後とも活動を続けることができるかどうかという点だ。ウィキペディアによると、拠点のモスクワだけではなく、ワシントンDC、マイアミ、ロサンジェルス、ロンドン、パリ、ニューデリー、テルアビブに支局がある。

この欧州議会の最近の決議についての本質的な議論は今まで西側が旧ソ連邦やその後のロシアに対してお説教をするかのように喧伝してきた「表現の自由」にかかわるものである。

表現の自由は国連憲章でも謳われており、欧州連合の基本理念の一部でさえもある。それに逆らって、今回、EUは上記の決議を採択した。逆説的に言えば、最近の国際情勢を見て、EUの一部の国々はパニックに陥っているのかも知れない。また、EU全体にとってはEUを二分するもうひとつの厄介な要素が加わったということでもある。

本日はこういった議論を詳しく解説している記事 [4] を下記に仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>



Photo-1: ストラスブールにある欧州議会の全景 © Reuters

「ロシアのプロパガンダ」に対抗するために欧州委員会によって設立されたばかりのグループにはもっと多くの公的資金やさまざまな資産を投入して、拡張・強化することになった。しかし、これはヨーロッパ市民は自分たちの無知を助長し、自分たちに偽情報をもたらすことになる枠組みに資金供給を行うことを意味する。

今週、ストラスブールの欧州議会は「ロシアのプロパガンダの偽りを暴くこと」を目的とするメディア監視機関の業務を拡大するために資金を注入することに怪しげな賛成多数の投票を行った 

ほとんど知られてはいない本メディア・グループは11人の「外交官」で構成されていると報道されており、偉大な権力を有するとは言え、選挙で選ばれているわけではない欧州委員会によって1年前に設立された。したがって、このメディア・ユニットは選挙民からの委任は受けてはいない。しかし、潜在的には、ヨーロッパの5億の市民が将来如何にニュースにアクセスし、如何に公的な情報にアクセスをすることができるかに関して影響力を持っているのだ。

上述のEU のメディア・プログラムは、特に、急進的なロシア恐怖症という偏見によって動機付けられたものであることは明白だ。このメディア監視機関と一緒に作業をしているのは熱狂的な反ロシア派であるポーランド人欧州議会議員、アンナ・フォティガを筆頭とする7人の議員たちである。右派の「欧州保守改革同盟」のメンバーでもある57歳の同議員はウクライナにおけるロシアの「侵攻」を常に非難して来たし、一般論としてもヨーロッパへのロシアの侵攻を非難している。

フォティガの自らが決めたメディア・グループは東欧の反ロ派によって占有されており、このグループは「プロパガンダへの対抗に主眼を置いたEUの戦略的コミュニケーション」と題された報告書を今年の始めに作成した。それはヒステリックな調子を帯びた書き物であり、ロシアのニュース・ネットワークであるRT やスプートニクはクレムリン政府のプロパガンダ機関であり、EU のメンバー国を二分し、各国間に不一致を生ぜしめているとして非難している。

本報告書は次のように述べている。「ロシア政府は広範にわたる道具や手段を採用している。たとえば、シンクタンク、多言語テレビ局(つまり、RT)、疑似ニュース局やマルチメディア・サービス(つまり、スプートニク)、ソーシャル・メディアやインターネットにおける扇動行為。これらは民主主義的な価値に挑戦し、ヨーロッパを二分し、国内の支持を集め、EUの東部地域における国々が大失態を犯しているという認識を植え付けようとするものである。

「ロシアのプロパガンダの偽りを暴く」とするメディア・プログラムのために資金提供を拡大するべく今週採択された欧州議会の決議の基礎を固めたのはこの偏見に満ちた「研究」報告書であった。

このメディア監視機関にどれだけの規模の資金が提供されるのかは明らかにされてはいない。しかし、最終的にはヨーロッパ市民が資金を提供することになる。市民が納めた税金が28か国からなる経済ブロックの参加各国の費用を負担するのである。

特に、欧州議会によって今週採択された決議には説得力があるのかと言うと、実はまったくそうではない。「反ロ・プロパガンダ」グループのために304人の議員が賛成票を投じ、179人が反対票を投じた。そして、208人の議員が欠席した。[訳注:全議席数の691に対して賛成票は304で、44パーセントにしかならない。] これは「ロシアのプロパガンダの偽りを暴く」とする機能や信頼性に関しては多くの議員たちが不審を抱いていることを示すものだ。

その結果はこんな具合だ。選挙で選出されたわけではない匿名の職員やイデオロギーに支配され、ロシアに対抗するための斧を公然と研ぎ澄ませようとしている政治家で構成された極めて小さなグループがEU 圏全体の外交政策における重要な領域に関して影響力を与えることが可能となる。また、そればかりではなく、情報へ自由にアクセスする一般庶民の権利を大きく侵害することにもなりかねない。

「ロシア政府主導のプロパガンダ」という非難は西側の指導者、たとえば、バラク・オバマ米大統領やアンゲラ・メルケル独首相が述べた「フェーク(偽)・ニュース」が西側の民主主義を弱体化しているとする最近の主張によって燃え上がったものである。これらの主張に続いて、NATO と繋がっているシンクタンクはさまざまな報告書を発表した。それらの報告書はロシアのニュース報道番組はクレムリン主導の情報操作の最前線だと主張している。 

政治的圧力は今やインターネットやソーシャルメディアのプロバイダー、たとえば、グーグルやフェースブックに対してまでも影響を与え、彼らのネットワークから「フェーク・ニュース」を締め出すような動きになっている。ドイツのメルケル首相は今週こう宣言した。 インターネット企業がフェーク・ニュースを規制する」よう立法化する積りだと彼女は述べている。

この話がどこまで進展するのかはまったく不明である。西側に本拠を置くインターネット企業は 全面的な検閲を持ち出して来るかも知れない。しかし、問題点がひとつある。それは特定の情報や情報源が「偽物」だと断定する上で何処に限度を置くかだ。

ロシア恐怖症を巡る政治的環境は西側の指導者やNATO との繋がりが太いシンクタンクによって扇動されて来たが、今や、それに欧州議会が新たに加わった。そして、RT やスプートニクを「非正統的な情報源」として名指しで実際に非難することはロシアのメディアを全面的に禁止する舞台作りに外ならない。

今週の報道によると、「ロシアのプロパガンダへの対抗」を拡大・強化することになったEUのメディア監視機関は「インターネットの利用者には偽の情報について警告を与える」何らかの手法を採用すると言った。恐らくは、それはオンラインのニュース解説者(扇動者)を採用し、彼らがクレムリンのプロパガンダであると判断されるニュース記事についてはその価値を過小評価するコメントを付けることになるのであろう。今のところ、インターネット・プロバイダーが実際にコンテンツを削除するような動きは明らかに存在しない。しかし、容赦のない反ロの雰囲気、ならびに、「フェーク・ニュース」が民主主義を弱体化していると西側の指導者らが主張をしたことから判断すると、全面的な検閲がすでに一歩手前にまで迫っているかのようである。

今展開しつつある事態は陰湿な側面を持つ。それはNATO 軍に所属するベルギーのジェット戦闘機が先月シリアを爆撃した事件によって簡潔に描写することができる。現地の消息筋によると、1018日、アレッポ県のHassadjek集落が空爆を受け、6人が死亡した。 

その後、ロイター通信を含めて、いくつかのニュース報道機関が報告を行った。 それらの報告によると、ロシアの国防省はベルギーはテロリスト集団と戦っている米国主導の同盟国によるシリアへの空爆作戦の一部としてこの爆撃を行ったものであるとして非難した。

ロシア側の情報は飛行データやレーダー情報からベルギーの戦闘機を割り出したものであって、実体的な内容である。モスクワではベルギー大使が呼び出され、ベルギー空軍がこの死者を出した爆撃に関与した事実をベルギー政府はどうして否定するのかについて説明を求められた。

気掛かりなことには、先月アレッポで起こったベルギー空軍の空爆に関するこれらのニュース報道は、このグループに対する更なる資金提供に関して今週欧州議会で行われた投票ではEU メディア監視機関によって「フェーク・ニュース」のひとつとして扱われている点だ 

これは極めて悪質な意味合いを示している。如何に実体があり、如何に事実に基づいていようとも、個々のニュース報告や分析内容がEU 政府の政治的な感受性や評判に少しでも触れるような場合には如何なるものも「偽物」として見なされる危険性があるのだ。その結果、検閲に晒される。

西側政府がイスラム過激派のテログループに対して行う武器の供給に関する報道は果たしてどう受け止められるのであろうか?あるいは、ロシアが推進しているシリアのアレッポの街の解放ではロシアは国際法を違反しているとして非難するホワイト・ヘルメットのようなテロリスト側のプロパガンダの最前線と西側のメディアとの共謀に関する報道は果たしてどう受け止められるのであろうか?

これらの報道のすべては検証が可能であり、文書化することができる。しかし、これらの報道はたまたま西側のシリアへの関与に関する公式の主張には沿わないことから、これらの西側の「意に沿わない」報道は、単純に言って、「ロシアのプロパガンダ」であるとして捨て去られる可能性があるのだ。

これはヨーロッパや米国政府が自分たちをメディアによる批判や詮索から無縁の存在とする大胆極まりないライセンスを与えることになりかねない。しかも、それは単にロシアのニュースは「偽物」であり、「プロパガンダ」に過ぎないとする非常に主観的で、政治問題化された主張をすることによって実行される。

ところで、今週、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領はブリュッセルでEU の指導者たちに遇せられていた。そこで、彼はこう警告した。「欧州連合はロシアからの厳しい攻撃にさらされている」と。 

ポロシェンコの長く手厳しい非難演説が「フェーク・ニュース」の紛れもない事例であることにヨーロッパのメディア各社やメディア監視機関が気付いている兆候はまったくないのである。

陰鬱な将来が今手招きをしている。EUの市民は、批判的なニュースや情報を入手できなくさせようとする、選挙で選出されたわけでもないメディア管理者たちに資金提供をすることを義務付けられ、それと同時に、市民らは極めて不当な反ロ・プロパガンダにさらされることになろう。

その最終的な結末として、EUの市民は次第に強制され、自分たち自身を洗脳することに資金を提供することになるのである。

EUの市民はEU の寡頭政治のルールに疎外感を抱き、その数が増えている現状は決して驚くには値しない。彼らは専制君主のように振舞っており、粉々に潰してやりたいほどである。

(注)上記の発言、見解および意見は全面的に著者のものであって、RT の見解や意見を代表するものではありません。

著者のプロフィール: フィニアン・カニンガム(1963年生まれ)は国際関係について広範囲にわたって執筆し、彼の記事は幾つもの言語で出版されている。アイルランドのベルファースト出身で、彼は農芸化学の修士号を有し、英国のケンブリッジで英国王立化学協会で科学分野での編集委員として勤務。その後、新聞ジャーナリズムに身を置いた。20年以上にわたって、てミラー、アイリッシュ・タイムズ、および、インデペンデントの各紙で編集者、あるいは、物書きとし働いた。今は東アフリカに在住し、フリーランスのジャーナリスト。彼のコラムはRT、スプートニク、ストラテジック・カルチャー・ファウンデーションおよびプレスTVにて発表されている。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

これは「民主主義」の根幹である「表現の自由」にかかわる問題である。

最大の懸念は「フェーク・ニュース」というレッテルが権力者によって恣意的に乱用されることだ。乱用に歯止めを掛ける策は欧州議会では論じられてはいない。

しかし、この概念は権力者側にとっては情報コントロールのためには非常に好都合な手段となることだろう。政府の政策やイデオロギーに基づいて一般大衆をひとつの方向に向けて洗脳することが可能となる。そこでは、政府が発信した偽りの情報が大手を振って闊歩する。一般市民は自由に物も言えないような世界が間もなくやって来るのかも知れない。現状から判断すると、その可能性は高い。

それは日本の戦前の社会を想い起こさせ、ヨーロッパではナチドイツの陰鬱な社会を彷彿とさせる。ヒトラーの宣伝相ゲッペルスは嘘は大きいほど良い、そして何百回も繰り返せば本当になる」と言った。

上記のEUの動きに何の抑制もかけられないままで放置していると、やがては陰惨な社会がやって来る。歴史が証明しているにもかかわらず、またもや繰り返すのであろうか?恐ろしい話である。




参照:

1Have Western Sanctions Against Russia Backfired?: By Fred Weir, Defense News, Oct/22/2016, defensenews-alert.blogspot.com > ... > IFTTT

2UK bank to close RT accounts, ‘long live freedom of speech!’ – editor-in-chief: By RT, Oct/17/2016, http://on.rt.com/7s3p

3RT hits record 4 billion views on YouTube: By RT, Oct/27/2016,  http://on.rt.com/7t2e

4EU votes for citizens to fund their own brainwashing: By RT/Op-Edge, Nov/26/2016,  http://on.rt.com/7w5h