2012年8月26日日曜日

酷暑に見舞われたブカレストの夏

この夏は暑い。実に暑い。

ロンドンでのオリンピック競技場では熱い戦いが毎日のように展開されたが、ブカレストで代表されるルーマニア南部の平野地帯では「長い暑い夏」となった。

そして、乾燥した日々が続いている。夜の間に雨が降ったことが2回あった。日中はほとんどが快晴続き。この夏の最高気温は、私の断片的な記録によると、下記のような推移だった。昨年の夏は40Cを超すことはなかったと記憶している。今年は何度も40度Cを超した。

619日に35-36Cの予報が出て、「黄色コード」の注意報となった。

624日、久しぶりの雨。

74日、40Cの予報。

714日、41Cの予報。

721日、38Cの予報。

86日、40-41Cの予報。日陰で44C、日当たりで50Cとなった。51年振りの暑さだったとのこと。

87日、42Cの予報。実測値は不明だが今夏最高の温度みたい。

89日、夜中に雨。かなり降った模様。

810日、夕刻から遠雷が聞こえたが、雨にはならなかった。

821日、38-39Cの予報。また熱波がやってきた。

824日、39Cの予報。

825日、40Cの予報。

決して詳細な記録ではないが、この夏のブカレストの様子はある程度お分かり願えたものと思う。 

暑さだけではなく、降雨量が非常に少なかった。

地域によってその程度は大きく異なるが、ある地域では旱魃が2ヶ月間も続いた。ルーマニア南部の平野地帯の殆どは旱魃に見舞われ(ルーマニアの全農地の約40%が旱魃の影響を受けたとのこと)、トウモロコシやヒマワリといった農産物は大打撃を受けた[注1]。収量がかなり落ちるのではないかと予測されている。旱魃に見舞われた農家には総額で5千万ユーロの補助金(1ヘクタール当たり22ユーロ)が支給されるとのことだ。でも、1戸当たりの金額はほんの僅かだろう。

ヨーロッパでは2番目に大きなダニューブ川の水位が下がっている。ダニューブ川がルーマニアへ流れ込む地点での流量は2,900m3/秒。この流量は例年8月の平均値よりも40%も低い。その結果、幾つかの区域では水位が2メートルを割ったとのことだ[2]。ダニューブ川は古くから内陸の農産物を河口まで運び、黒海の港へとつなぐ重要な水路である。

隣のブルガリアでもダニューブ川の水位が下がり続けており、昨年夏の危機状態がまた繰り返されるのではないかと懸念されている。シリストラ区域では24時間の内に水位が12cmも下がって、ダニューブ川の水位は85cmに低下。航行する船やバージは船底が川底に接触することを避けるために積荷の量を減らし始めている。数日前には100人ほどの外国人旅行客を乗せたクルーズ船が川底に接触し、他の船に曳航され、何とか浅瀬から脱出するまで1時間も立ち往生した[3]

この夏、旱魃は各地で起こっている。北米、ソ連、そしてヨーロッパではバルカン諸国。ロシアからの小麦輸出が無くなり、米国のトーモロコシや大豆が減収となり、ヨーロッパの穀倉地帯ではトウモロコシやヒマワリが打撃を受けている。国際市場ではこれから農産物価格が急騰することになるのではないだろうか。

 

参照:

1Drought damages 40% of Romania’s land, corn, sun flower crops, most affected

Business & macroeconomy, Daily News (2012823)

2Agriculture • Re: Russian Grain Crop Estimates Lowered Againhttp://www.agrimoney.com/news/weak-whea … -4905.html (2012823)

3Danube Level Declines Further in Bulgarian-Romanian Sectionwww.novinite.com/view_news.php?id=1424782012820日)


 

2012年8月2日木曜日

「この国の不都合な真実」を読んで


菅沼光弘著の「この国の不都合な真実」[1]を読んだ。
これは日米間の政治の話である。日米間というと双方向的なものを感じさせるが、実際には米国が日本をどのように属国にしたかという一方向的な話である。

真実を知ろうとすると、おどろおどろしい政治の現実をみなければならない。ほとんどの人にとっては日頃それ程に考えが及ばなかったさまざまな事象の背景には何十年にも及ぶ米国の日本叩きがある、と著者は言う。歴史的に俯瞰する、非常に説得力を持った本である。
一時期「ジャパン・バッシング」(=日本叩き)という言葉が用いられた。1980年代、燃費が抜群に良く、メンテナンス費用がかからない日本製の小型車が米国市場では飛ぶように売れていた。一方、米国産の農産物(牛肉やオレンジ)は日本では売れず、日米間の貿易不均衡として見なされていた。米国では有力議員が日本車を大きなハンマーで叩き壊すシーンを何度もテレビのニュースで眼にしたものだ。

ジャパン・バッシングはその規模をさらに大きくして今に到っている、とこの本の著者は捉えている。
先に、私もTPPについて個人的な考えをブログに書いた。

この本はTPPの本質を歴史的に掘り下げ、米国が日本に何をしようとしているかを述べている。著者の菅沼光弘さんは公安調査庁の元部長さんであって、国際政治に関して地政学的な情報分析に当たっていた方である。それだけに、TPPが日本に及ぼす影響についての分析には非常に鋭いものがある。NHKや民放あるいは全国紙からは聞くことができないような内容ばかりである。そこにこの本が持つ最大の価値があると言える。
そして、TPPは日本を米国の属国にする最終的な仕上げの段階だという。日本を米国の草刈場にする最後の詰めであるというのだ。

非常に刺激的な言葉が続いてしまうが、昨年の福島原発事故後に決定的に政治不信に陥った人も多数いると思う。なぜそうなのかを問うたり理解しようとする際、この著者が歴史的に解説してくれる内容をよく吟味し理解することが大きな助けになるのではないか。

具体的な論点のひとつを下記に紹介したい。

....TPPの問題を農業だけに矮小化してはいけないのです。貿易の自由化とか関税ゼロとかいってみんな議論していますが、実はそんなことは大したことではない。TPPには24のワーキンググループがありますが、その中で日本にとって本当に問題になるのは金融と投資の分野なのです。たとえば農業問題でも、アメリカがいちばん狙っているのはJA(農協)の共済制度です。JA共済の保険をアメリカの保険会社が買収しようと虎視眈々と狙っているのです。....

2012年、米国では大統領選挙が進行中だ。もしオバマ大統領が再選されたとしたら、TPPはどうなるのだろうか。小生のブログでは「大統領選に当たってオバマ大統領は選挙資金の出所である自動車業界が日本製小型トラックの市場参入を嫌う意向を汲んで日本に対するTPP参加の要請では声を低くせざるを得なくなった」とブログに書いた。それが日本の参加を実現できなかった理由だと。
しかしながら、オバマ大統領が再選された場合、オバマ大統領はまたもや日本のTPPへの参加を呼びかけてくるのではないだろうか。国内の雇用を促進し、輸出を伸ばし、雇用を増やすことがオバマ大統領の選挙公約である。これらを実現するために、さらに「円高ドル安」政策を進め、日本企業の米国での工場建設を導こうとするのではないか。

TPPが成立すると、この本の著者がいうところの米国による「日米経済戦争」はさらに深入りし、仕上げの段階に入ってくる。「二国間協議」という言葉に騙されてはいけない、とこの著者が警鐘を鳴らす。アメリカにとってはこれは明らかに「戦争」であると。戦争であると位置づけした米国側にとっては「何でもあり」だ。日本側はこの真実に気付こうとはしない。日本は「二国間協議」という自己催眠に身を任せたままでいる。

もうひとつの刺激的な論調をここに紹介しよう。
この本の著者は「日米安保条約があってもアメリカは日本を守ってはくれない」と看破している。たとえば尖閣諸島をめぐる日中間の領土問題だ。著者の言葉を下記に引用してみる。

....尖閣諸島をめぐって日本と中国が衝突したとき、アメリカが日本を守るために核を装備した大陸間弾道弾を持っている中国と戦闘状態になったら、アメリカは核攻撃の脅威にさらされることになります。日本の尖閣諸島みたいなちっぽけなところを守るために、アメリカが自国の危険をかえりみずに行動を起こすかといったら、アメリカ議会はどう考えても「ノー」です。日本を守るためにアメリカの青年の命を犠牲にするわけがありません。そんなことは絶対に「ノー」です。アメリカは日本を守ってくれない。それは明らかです。....

ここで思い出すのはBBC NEWS20101030日の記事[2]だ。クリントン国務長官は尖閣諸島は日米安保条約の適用対象になると述べた。丁度、日中間で激しい論争が起こっていた時期だ。尖閣諸島沖で中国漁船が日本の巡視艇に体当たりをしてきて、当時の外務大臣は同船長を逮捕したがその後保釈した。この事件をきっかけにして、世論調査によると日中市民のそれぞれの相手側国民に対する不信感は最悪になった。
また、その当時、安部元首相や自民党幹部は米国側に「尖閣諸島を巡って日中間に(武力)紛争が発生した場合、日米安保条約の対象になるか」と尋ねた。米国務省のスタインバーグ副長官は「安保条約5条の適用になる」と答えたという。これは20101016日付けの読売新聞の報道である[3]

しかし、情報分析の専門家である菅沼光弘さんの分析結果は上記に紹介した通りだ。マスコミが伝える内容は誰それがこう言ったとかああ言ったとかを報告するだけで、具体的な軍事行動を起こす前の米国議会がどう反応するかといった分析結果は皆無だ。議会が賛成しないかぎり、米国は尖閣諸島のために軍事行動を起こすことはあり得ない。マスコミの報道とこの本の著者との間には決定的に大きな違いが存在する。
また、米国は中国とは経済的には仲良くやって行こうとする政策をとっている。米国の国債の最大量を保有する中国に対して米国が簡単に軍事行動を起こせるような環境にはない。日本と中国との間で二者択一を迫られた場合、米国の本音は日本を抜いて経済規模が世界第二位となった中国、今後さらに広大な市場に発展していく中国ではないだろうか。誰が見てもこの答えに変わりがないのではないか。さまざまな報道に基づいて、米国は日本の肩越しに中国に接近しようとしている、とほとんどの日本人が感じているのではないだろうか。

クリントン国務長官や国務省副長官の言い草はどちらも政治的な発言であって、単なるリップサービスだということのようだ。そう考えた方が現実的だろうと思える。

皆さんはこれらの日本にとっては非常に「不都合な真実」をどのように受け止めていますか?



参照:
1:「この国の不都合な真実」:菅沼光弘著、徳間書店発行、20121月。

2Hillary Clinton faces Japan-China wrangle at Asean BBC NEWS, 30 October 2010 Last updated at 03:46 GMT, www.bbc.co.uk/news/world-asia-pacific-11657577

3:「船長釈放、『間違った判断』と米上院小委員長」: 読売新聞20101016()115分配信