2012年11月12日月曜日

徹底的に悪者扱いされているアサド大統領 — RTによるインタビュー


ロシアのテレビ局、RTの記者ソフィー・シュワルナゼが最近シリアのアサド大統領にインタビューを行った。そのインタビューの内容が118日に公表された。そして彼女がインタビューを通じてアサド大統領について受けた印象は「アサド大統領はメデアによって徹底的に悪者扱いされている」というものだ。いわば、アサド大統領の人物像みたいなものが報道されている[1]。これについて今日はおさらいしてみたい。

この種の論評あるいは報告は日本の大手メデアからはこの2年間お目にかかったことがないように思う。この記者は何故にそういう結論に到ったのだろうか。一読に値する気がする。読後どのような結論や判断を抱くかは読者個人の自由であるが、ここで大事なことは、まずは情報を収集し、その内容を知ることだと思う。

以下にその仮訳を示す。

       *     *

シリア紛争はメデイアが報道する内容よりも遥かに複雑だ。また、バッシャール・アサド大統領についても然りだ。RTのソフィー・シュワルナゼ記者によると、彼は高い教育を受けた人物であるが、メデアの悪者扱いによってその犠牲者になっているという。

RT: あなたはシリアを訪問して、帰国したばかりですよね。先ず最初に、アサド大統領は悪魔のような存在として描かれ、現状では徹底して悪者扱いされていますが、あなたの第一印象はどんなでしたか?

ソフィー・シュワルナゼ(SS: アサド大統領の人となりですか、それとも、シリアの現状ですか?

RT: 両者についてお願いしたいと思います。人物像については、殆どのメデアが 言い伝えているような人物なんでしょうか?その後で、シリアという国や国民の生活についても触れていきたいと思います。

SS: 私にとって際立って印象深かった点は、メデアで人々が伝え、描いている内容よりも全てがずっと複雑であるということです。事実、あらゆるメデアの報告よりも遥かに複雑です。ですから、私は重ねて何度でも言っておきたいと思うのです ー 非常に複雑だってことを。アサド大統領に関しては、インタビューの前に15分間ほど彼とおしゃべりをする機会があったのですが、彼はメデアによって徹底的に悪者扱いされていると思います。実際は、彼は非常に高い教育を受けている人だし、非常に心地よい人物です。彼は吐き気がするような大統領でもないし、よく言われているような類の人物ではないんです。地に足をつけた立派な人物だという印象です。

一番印象深かった点は、シリア国内の状況は私たちがメデアを通じて知ることができる内容よりももっともっと複雑です。これは人々と話をしてみた結果から言っているんですが....国は二分されていますし、この紛争が始まる前からアサド大統領を好きではなかったという人たちでさえも今は原理主義者たちが入ってきて、権力の座につくのではないかという脅威におののいている状況です。原理主義者とは「自由シリア軍」として闘っている連中のことです。でも、シリアの人たちはそういう連中とは違います。たくさんの宗教グループがあって、他の宗教グループの人たちと一緒にスンニ派、シーア派、アラウィ派、キリスト教徒たちが平和裏に暮らしてきたのは非宗教的なアラブ国家だったからだと思います。もしもアサドが権力の座から去ったとしたら、シリア軍は崩壊し、これらの過激派のイスラム教徒が入ってきて、彼らと同じような過激な宗教を強制するのではないかと怖がっています。実際に、自由シリア軍のツイッターを覗いてみたのですが、彼らには標的があるのです。消してしまいたいと思う人物を標的に位置づけている....基本的には、原理主義者が権力の座に着くことを嫌っている有名人たちを彼らは狙っているのです。つまり、ただ単にアサド大統領だけが標的という訳ではないのです。アサドが去ろうと留まろうと状況は次第に悪くなって行くと皆が感じとっています。もしもアサドが去ってしまったら状況は一変して....テロリストたちの襲撃が続き、原理主義者が政治権力を奪うことになる。人々はこのような展開が実際に起こるのではないかと非常に怖れているのです。

RT: インタビューは大統領官邸で行われたと思いますが、アサド大統領の実権が失われつつあるという感じはありましたか? 

SS: いいえ。大統領官邸の中へ入ってしまいますと、そういった感じは全然ありません。しかし、大統領官邸から一旦外へ出ますと、状況は非常に悪いことが明らかに見てとれます。状況が緊迫して行くかも知れないなあ、と感じたことが一度ありました。と言いますのは、ダマスカスでは月に一回とか、二週間に一回とかテロリストの襲撃があるからです。それから、一日に二回も三回も襲撃があったりします。市の中心部でさえも起こります。ダマスカスの郊外では反政府派と政府軍の闘いが日夜続いており、砲弾の音が聞こえてきます。私は朝の7時とか8時には起きます。特に、従軍記者ではない私にとっては、砲弾の音を聞いたり、砲弾の音を聞きながら眠りにつくことには慣れていないのです。あれは特別な経験でした。でも、現地の人々は慣れ切っていて、毎日の生活が続いています。そのこと自体が強烈な印象として残っています。そして、最もショッキングなことは現地に住んでいる人たちには何の出口もないということです。袋小路に閉じ込められた状態です。 

現地の通りを歩きまわる時は、自分が狙われるかも知れないとか、テロリストの襲撃に遭遇して死ぬかも知れないといったことで実際に恐怖心を覚えることはありません。心理学的には、自分が認知的不協和の状態になるからだと思います。その一方、人々の毎日の生活が営まれており、人々には選択の余地が全然ないのです。つまり、彼らは何処かへ行こうとしても行く場所がない、何処もビザを発給してはくれない。彼らが何処かへ行きたいと言っても、それさえも出来ないのです。

ところで、アサドについて....たとえ彼が権力を放棄したいと言っても、彼が何処かの国へ亡命することができるとはとても思えません。私たちはインタビューの前に尋ねたんです。「選択肢はあるんでしょうか?民衆が大統領の座から降りてくれと言った時....」と。いったい彼は何処へ行けるでしょうか。何処の国も彼を引き受けてくれるとは思えません。多分、イランだけ。せいぜい、そんなところでしょうか。 

RT: さて、リーダーとしての彼についてですが、つまり、インタビューの際に彼と一緒に座っていて、彼は依然として自国をコントロールしている大統領である、一国の大統領として任務をこなしているという感じがありましたか?それとも、外では闘いが続いており、彼は身を隠しているというような感じでしたか?

SS: 現実には、彼にはもう選択の余地がまったくないという感じです。彼ははっきりと言ってました。インタビューの前に私たちがおしゃべりをしていた際に、彼は私にこう言ったのです。「私は大統領になろうなんて決して望んでいた訳ではない。でも、34歳の時にこの国の大統領になった。」 彼の大統領としての生活や時間中には、自分の選択肢を持つことができないまま、どんどんと時間だけが経過して行ったのではないかと思います。そして、この時点では、彼はあたかも癌におかされているみたいなものです。つまり、癌を克服するかも知れないし、癌で倒れるかも知れない。彼の家族はダマスカスに住んでいます。子供たちは9歳と7歳と6歳。彼らは地元ダマスカスの学校へ通っています。家族をダマスカスの外へ送り出そうとは思ってもみない、と彼は言っています。「私はまだ若い。スポーツを愛好し、妻を愛している。たとえば、チュニジアのベン・アリ大統領がやったみたいに身の回りを片付けて、国を離れることだってできた。カダフィ流にではなく....」 

RT: ここでちょっと時間をいただいて、ソフィーがシリアの大統領にインタビューした時の状況をお聞きしたいと思います。

SS: ここで私が忘れずにお伝えしたいことは、さまざまな話題がありましたが、当然ながら、大統領官邸で働いてはいない人たちとの会話で、通りの何処にでもいるような人たちと話をした内容です。私は市場へ出かけて、アバーヤ(訳注:アラビアの女性用の衣服で、全身を包む袖なしのコート)をいくつか買いました。そこで、アサドについて質問してみたのですが、彼らはこう言ってます。「多分、彼は何度か大統領の座を離れたいと思ったのではないだろうか。でも、彼の周りの連中が彼を引きとめた。何故かいうと、キリスト教徒の少数派やアラブ少数派には虐待が待っていることが明らかだったから。彼が権力の座から離れようとは思っても、そうした場合、民衆は彼らを殺戮し、彼らを完全に殲滅することになりかねない。こうした状況から、そうしたくっても彼には出来なかった。」 

RT: 実際のインタビューはどんなでしたか? 当地では金曜日にRTで放映され、週末いっぱい続きます。あなたはジャーナリストとして多くの国の政府高官とのインタビューを行ってきていますが、常にある種のプロトコールがついてまわりますよね。彼らは事前に何らかの質問をしてきますが、あなたが質問したい内容について彼はどの程度知っていましたか?厳しい制約があったのでしょうか?

SS: 大統領官邸へ到着した時点ではかなり厳しい状況でした。まず、私たちは大統領の報道官と面会しましたが、彼女はちょうどわたしたちと同年齢、多分、35歳くらいで、元はアル・ジャジーラの司会者です。彼女はテレビによる報道について非常に良く知っていました。自分が何を話しているかを十分にわきまえており、実務的に仕事を進めるタイプの人でした。彼女はアサドについては非常に防御的な感じです。彼女が最初に私たちに与えたのは契約書でした。それに署名をしなければなりませんでした。この契約書はバーバラ・ウオルターズ(訳注:米国の有名な女性ニュース・キャスター)のインタビューの後から始まったものです。始めてアサド大統領とのインタビューを行ったのが彼女です。彼女は官邸を訪問し、彼女には完全な自由が与えられました。アサドへの質問の内容については全く制約をしなかったのです。私の推測では、彼女はアサドとの会見の模様を1時間以上にもわたって録画を行い、アサドの人物像を徹底的に歪曲して編集したのです。それ以来、彼らは非常に警戒し始めたのです。あの時点から、大統領官邸を訪れる人たちについては誰に対しても契約書を作成しなければならなくなったのです。私たちも契約書に署名をしました。幾つかの項目は交渉が可能です。例えば、ある項目は大統領に質問する内容を事前に提出し、大統領への質問はそれより多くなっても少なくなってもいけないと規定しています。ですから、私は彼女にこう言ったのです。「私が大統領に質問することができて、大統領が答えられないことなんて何もないと思います。ただ私が大統領に質問をし、大統領が単にそれに答えるだけで結構です。何事が起こっているかについては、大統領は明らかに私が知っている以上に良くご存知の筈ですから....」 私たちは主要なラインを提出しました。でも、大統領は実際の質問内容については何も知らなかったのです。

他の重要な点は、大統領とは1時間の予定をとることが可能だったのでが、その場合、報道担当官と一緒に放映時間に合わせて編集をしなければならないことになります。ですから、報道担当官と一緒に編集を行うのではなく、むしろ、編集を行わなくても良い26分ぴったりのインタビューを行う方を選んだのです。そんな訳で、私たちは質問をしたかった項目のすべてについて質問した訳ではありません。しかしながら、与えられた状況の中で私たちは最善を尽くしました。

RT: 非常に簡潔に言って、彼がこの危機を乗り切れると思いますか? 

SS: それは私には分かりません。恐らく、誰にも分からないでしょう。アサド大統領自身にも分からないのではないでしょうか。

RT: 結構でした。ソフィー・シュワルナゼさん、どうも有難うございました。

       *     *

上記に引用した内容はアサド大統領とのインタビュー後にRT内部で行った簡単なまとめである。最大の関心事はシュワルナゼ記者がアサド大統領についてどんな印象を抱いて帰ってきたかという点にある。一言で言えば、ジャーナリストとしての彼女は西側で報道されている内容が大きく歪曲されていることに気付いた、と率直に述べている点が興味深い。

インタビューそのものの内容は別途インターネットに掲載されている[2]。その表題を仮訳すると、「私は西側の操り人形ではない。私はシリアに生き、シリアで死ぬ」というもの。そこでは、アサド大統領は自分の去就は投票箱を通じて決めることだと述べている。また、シリアで起こっているのは内戦ではなく、最大の敵はテロリストだとも言っている。

また、米国のABCテレビのバーバラ・ウオルターズによるインタビューの内容は昨年の127日に報道されている[3]。シュワルナゼ記者が述べた「歪曲された報道」とはこの記事だと考えられる。

       *     *

バーバラ・ウオルターズのアサド大統領とのインタビューを覗いてみると、興味深い状況を見出すことができる。それはアサド大統領が西側のメデアを全く信用してはいないという点だ。バーバラ・ウオルターズがシリアで起こっているとされる悲惨な状況を示す3つの事例をアサド大統領に示すのだが、それらの提示によってアサド大統領に気後れや羞恥心を感じさせるどころか、「メデアは単なる噂話を持ってくるのではなく、私が冒頭のメッセージとして言ったように、真実を報道して欲しい」と逆襲されてしまう。

アサドが国連をどう見ているかは非常に秀逸だと思う。彼の政治的信条の背景には国連の長年にわたる不作為があることが明白だ。一部分ではあるが、仮訳を下記に示したい。

 
バーバラ・ウオルターズ:暴力を受けたとする反対派の225人を調査した結果、国連の独立委員会はシリア政府が人道に対する犯罪を犯しているとの報告書を発行しました。これはご存知ですか?

アサド:簡潔に言って、その文書と証拠を当方へ送ってきて欲しい。我々はその内容が正しいか否かを検討します。あなたはご自分の主張を十分に当方へ提供したとは言えませんよ。

バーバラ・ウオルターズ:国連はこの文書を送ってきませんでしたか?

アサド:まったく何も。

バーバラ・ウオルターズ:最初にお聞きになったことは....

アサド:何も言ってきてはいない。名前もなし、性的暴力を受けたのは誰か、拷問を受けたのは誰か、この連中は一体誰なのか、我々は彼らの名前について全く何も知らされてはいない。

バーバラ・ウオルターズ:でも、これは国連が発行した....

アサド:お粗末な!

バーバラ・ウオルターズ:大統領、これは彼らが発行したものですよ。

アサド:いかにも。

バーバラ・ウオルターズ:彼らはあなたとあなたの政府を批判している....

アサド:何に基づいて?

バーバラ・ウオルターズ:彼らが報告している男女・子供を含む225人の証人に関して彼らはインタビューを行い、身元を確かめ、その結果、人道に対する犯罪だと断定しています。

アサド:彼らは当方へその文書を送ってくるべきだ。その文書ならびに証拠を見ない限り、我々は何とも言えない。ただ単に国連の文書だからと言って何かをコメントすることはできない。これはごく普通のことだ。何はともあれ、誰が国連は信用できる組織だと言ったのですか?

バーバラ・ウオルターズ:国連が....

アサド:誰が言ったのですか?国連では米国が二重基準のポリシーを持っていることを我々は知っていますよ。この二重基準ポリシーは米国によってコントロールされている。だから、国連は信頼性に欠けている。これは証拠とか文書の問題だ。現実に関連する実態が見えては来ない報告書について議論のために議論をすることはできる。しかし、それは時間の浪費だ。

バーバラ・ウオルターズ:国連には信頼性があるとは思わないんですか?

アサド:思わない。理由のひとつとしては、彼らはアラブ世界と関連する決議をしても、それを実行に移したことが一度も無いからです。例えば、パレスチナとかシリアの領土についてはどうして何もしないのか。もしも彼らが人権について議論をしたいならば、占領地で悲惨な目にあっているパレスチナ人はどうなんですか。我々の領土についてはどうなんですか。イスラエルに占領された土地に住む私の人民についてはどうなんですか。勿論、彼らはそれを議論しようともしない。

アサド:大統領としての私のためにではなく、個々の市民のために、私はこの地域一帯の考え方をいまあなたにお伝えしているのですよ。

バーバラ・ウオルターズ:国連は信頼性があると、あなたは思わないのですか?

アサド:思いません。
アサド:全然。これは私の世代から始まったものではなく、これは我々が信念として受け継いできた考え方なんです。

バーバラ・ウオルターズ:国連には大使を送っているでしょうが。

アサド:確かに。あれは我々のゲームでしかない。だからと言って、国連を信用している訳ではないのです。

       *     *

さすがのバーバラ・ウオルターズもアサドの理詰めの議論にはかなわないとみて、この国連に関する議論はここで止め、他のテーマに切り替えた。このインタビューはさらに延々と続く。

アサド大統領は机上の空論は避けて、現実を見つめようとしているとの印象を受けた。当然かも知れないが、論調から見ると米国政府を代表するようなバーバラ・ウオルターズとアサド大統領との間では会話がかみ合わない部分がたくさん出て来る。中東を巡る国連、あるいは、国際世論の不条理に関しては、アサド大統領からは言いたいことが山ほどあるという感じだ。

シュワルナゼ記者が述べた「歪曲された報道」の中身については、何を指しているのか断定が難しい。思うに、バーバラ・ウオルターズがアサド大統領に示した、国連の独立委員会が調査した性的暴力や拷問を受けた225人のことかも知れない。これについて、その後、国連がシリアに対して詳細な報告書とそれを支える証拠を送付したのかどうかは私にはわからない。

今回の一連のRTの報道はアサド大統領の人物像やシリアでは何が起こっているのかを知る上で多いに役立つのではないかと思う。今まで公表されてきた報道内容が如何に意図的に歪められたものであったかということが今回改めて公になった。この事実は非常に重い。これだけでも一歩前進したと言うべきかも知れない。

シュワルナゼ記者が言っているように、状況は非常に複雑だ。ここに取り上げた内容は巨大なジャングルの中の一本の木でしかない。掘り下げなければならない点がたくさんあるのは確かだ。おさらいをさらに継続していきたいと思う。

 
参照:

1Assad is completely demonized by the press - RT’s interviewerBy RT, Nov/08/2012

2Assad: I’m Not Western Puppet, ‘I Have to Live and Die in Syria': By RT, Nov/08/2012

3TRANSCRIPT: ABC’s Barbara Walters’ Interview with Syrian President Bashar al-Assad: ABC, Dec/07-2011

0 件のコメント:

コメントを投稿