2013年7月15日月曜日

慰安婦問題は情報戦争だ!


副題: 慰安婦問題は歴史認識の課題ではあるが、女性の人権に関する大きな政治的課題でもある。 

旧日本軍の慰安婦問題については、「慰安婦問題について - 国際的な視点から 副題: ベトナム戦争における米軍、ならびに、ドイツの占領下にあったフランスを開放した米軍」と題してブログを投稿したばかりである(79)
そのブログでは米軍においても「戦場の性」の問題は非常に大きな課題であったこと、米軍に関して言えば、朝鮮戦争中にもベトナム戦争中にも基地内に売春宿を設けてそれに対応していたこと、ドイツ軍の占領下にあったフランスを開放した際にはフランスの女性はセクシャルであるとする以前から存在していた米国人による偏見を巧みに活用して、戦いが終わった後には「マドモアゼル」が手に入ると妄想させて、米兵の戦いへの取り組みを鼓舞したこと、また、政府レベルでは占領軍側の米国政府と被占領国の政府との間で条約を締結し、具体的な条文を用意し、「遊興施設」の運営の責任は被占領国に任せ、見かけ上、米国側は米兵に対して売春を許しはしなかったという形にしようとしていたこと、ベトナム戦争中の兵站基地であったタイのバンコックでは「遊興施設」によって莫大な米ドルが転がり込んできたこと、また、バンコックでの「遊興施設」の建設に当たっては米国の大手銀行から別の名目でローンが準備されたこと、つまり、「遊興施設」を建設するために資金洗浄を行っていたこと、等について検証をした。
ここまでは歴史的な事実関係の話である。つまり、歴史認識の話である。
歴史認識の次元で言えば、523日の報道に「現代史家・秦郁彦 橋下発言の核心は誤っていない」という記事[1]があった。その要点は次のとおりだ。
(1) 「軍自体が、日本政府自体が暴行・脅迫をして…女性を拉致をしたというそういう事実は今のところ証拠で裏付けられていない」

(2) 「当時慰安婦制度は世界各国の軍は持ってたんですよ」

(3) 「なぜ日本のいわゆる従軍慰安婦問題だけが世界的に取り上げられるのか」

歴史家の秦郁彦氏が述べたこれらの要点はわれわれ一般人が当時の歴史的事実を学ぶ上で非常に貴重だ。
橋本大阪市長は、「日本以外の国々の兵士も(戦場で)女性の人権を蹂躙(じゅうりん)した事実に各国も向き合わなければならないと訴えたかった」と語っているが、歴史的事実の確認の段階ではその通りだと私も思う。歴史的事実については、今日、歴史家たちによってさまざまな情報や資料が提供されている。これらの情報の存在は歴史認識にとっては非常に重要だ。 

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今日のブログでは歴史認識の後にやって来る今日的な政治的課題、つまり、女性の人権についてもう一度おさらいをしておきたい。
橋本市長は、半世紀以上前に起こった慰安婦問題に関して歴史的事実を述べるだけではなく、今日的な目的意識を持って、あるいは、将来の社会の方向性を示しながら、女性の人権について自分はどのような政治信条を持っているかを詳しく述べていたならば、米国を始めとする海外からの反応は違ったものになっていただろう。日本叩きにまで発展することはなかっただろうと思う。
しかしながら、女性の人権とどう取り組んでいきたいのかという政治姿勢を曖昧にしたまま、橋本市長が「米国の過去も同じだったではないか」と発言し、さらには「在日米軍に風俗業の活用を提案した」ことから、橋本市長が言いたかったことと太平洋をはさんだ向こう側の政治家やメデアならびに人権擁護の活動家たちの受け止め方との間に大きな食い違いを生ぜしめてしまった。
このボタンの掛け違いはどこから来たのだろうか。
私個人の考えでは、今回の騒動で女性の社会進出の度合いとか女性の人権について社会全体がどう受けとめ、どのように取り組んでいるかといった面での日米の違いが浮き彫りにされたように見える。橋本市長の言動に対する米国のメデアの反応、ならびに、米議会調査局や国連人権委員会の批判は女性の人権を如何に守るか、如何に促進するかという視点からのものだ。
米国では1960年代の後半から始まった女性解放運動を経て約半世紀がたち、今や女性の社会進出は著しい。日本と比べると大きな違いがある。女性活用の国際比較を見ると、最近の情報[2]を引用すれば下記の通りである。
ILOの統計では、管理職に占める女性比率は2008年にデータのある57カ国の平均で30%である。女性比率が高い国ではフィリピン(53%)やカザフスタン(49%)など、意外なことに途上国も上位に挙がる。先進国では米国(43%)やフランス(39%)、ドイツ(38%)などが上位国だ(※3)。これらの国々と比べると、日本の現状はやはり見劣りする(※4)。
(※3)ILO (2012) LABORSTA Labour Statistics Database.
(※4) 同統計では日本の管理職に占める女性比率は9%とされている。ただし、日本とベネズエラはその他の国と異なる定義を採用しているため、単純比較はできない。多くの国は自営業やマネジメント以外の仕事を兼務する場合も含む値だが、日本は自営業やマネジメント以外の仕事を兼務する場合は除外している。
また、女性の社会進出を考えるとき、職場の管理職に占める女性の割合とならんで、政治の場における女性の発言力あるいは発言する機会についても日米間には大きな違いがあると言わなければならない。
2012年の米国大統領選挙でオバマ大統領が再選を果たした際、非白人系の票と並んで女性票が決定的な役割を演じたとして報道されている。女性に対する候補者の政治姿勢は選挙の際に厳密にチェックされる。それが米国流の選挙の姿だ。大統領や議員たちは次回の選挙のことを配慮して機会がある毎に実績を挙げておかなければならない。それを十分に承知しているメデアは監視の目を緩めず、大統領や議員あるいは市長たちの発言を大々的に取り上げる。
一方、今回の慰安婦問題に関する橋本市長の発言については、誤解がさらに新たな誤解を生む段階になってから、下記のような報道があった[3]
橋本市長は「日本は過去の過ちを反省し、慰安婦の方々に謝罪とおわびをしなければならない」と述べた上で、「日本以外の国々の兵士も(戦場で)女性の人権を蹂躙(じゅうりん)した事実に各国も向き合わなければならないと訴えたかった」と語った。慰安婦について、「私が容認していると誤報されてしまった」とも話した。国家の意思による慰安婦の強制連行があったとの指摘に対しては、「事実と異なる」と強調した。また、在日米軍に風俗業の活用を提案したことについては「不適切な表現だったので撤回するとともにおわびする」と陳謝した。その上で沖縄での米兵の性犯罪に触れ、「沖縄県民の怒りは沸点に達している。何としてでも改善してもらいたい」と訴えた。
橋本市長は「在日米軍に風俗業の活用を提案したことについては不適切な表現だったので撤回するとともにおわびする」と陳謝したが、私の意見では、21世紀の今、「在日米軍に風俗業の活用を提案した」こと自体が誤解を生む最大の要因だったと思う。橋本市長は歴史認識と政治姿勢とを明確に区分して発言することの重要性をあの発言の時点では意識していなかったのではないだろうか。
米国では、このような言動は女性の人権を軽視する姿勢であるとして受け取られる。これは米国の政治家やメデアならびに人権擁護の活動家たちにとっては決して受け入れることができない内容だ。女性の人権を擁護する団体は、日本国内も含めて、橋本市長の言動にすばやく反応した。従軍慰安婦についての旧日本軍の歴史的事実が米国で誤認されたということではない。今に生きる政治家の姿勢として、将来の子孫のためにどのような社会を確立したいのかを語って欲しかったのだが、それを語る意識や発想がまるで欠如していると受け止められたのだろう。これがあの日本叩きにまで発展していったのだと推測する。
歴史的事実の確認は歴史家に任せておくべきだ。歴史家が詳細にわたって再現してくれた歴史的事実をわれわれは学ぶだけでよい。歴史的事実を受け入れる際、時には、苦い思いあるいは辛い思いをするかも知れない。しかし、それを乗り越えて前へ進まなければならない。この過程が歴史認識だ。たとえ苦い思いがあっても社会全体としてその歴史的事実を認めることができるならば、日本の社会は十分に大人になったと言えるのではないか。
言うまでもなく、これは韓国や中国の人たちについても100パーセント当てはまることだ。
政治家には国家の将来像や社会の在るべき姿を存分に語って貰いたいと思う。国際的な議論にまで発展した今回の慰安婦問題を見て、「政治的に健全な信条」を保ち、機会があるごとにそれを表明していくことが如何に大切であるかを我々は学んだような気がする。 

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この慰安婦問題は情報戦争である。
今日本を取り巻き、声高に叫ぶ「反日本」の動きは歴史認識そのものとは次元が異なり、他の目的を持った政治的な「情報戦争」の様相をなして来ている。「戦争」となれば、必然的に歴史的事実からはかけ離れて、さまざまな戦術を駆使した「何でもあり」の状態になってくるのが落ちだ。日本政府や外務省は情報戦争の状態にあるというこの現実を冷静に受け入れる必要があるのではないか。この現実を受け入れないと、具体的な戦略は浮かんでは来ない。
韓国系米国人のロビー活動が活発化している。
ニューヨーク市の地図を広げてみよう。マンハッタンからハドソン川に沿って北上し、95号線の高速道路に乗っかり、ハドソン川にかかっている橋を渡る。そこはもうニュージャージー州だ。パラセイズ・パークという小さな町がある。人口は2万人足らず。この町の人口の52%は韓国系だ。ニューヨークタイムズ紙[4]によると、昨年の5月、日本政府を代表してふたつの代表団がこの町を訪れた。その新聞記事の主要な部分を仮訳し、下記に要約してみたい。引用部分は段下げして示す。
....日本の代表団は公園に設置された小さな記念碑を撤去するようパラセイズ・パーク市に求めた。この記念碑は第二次世界大戦中に日本陸軍によって性奴隷を強要された何万人もの韓国人の女性や少女たち、いわゆる、慰安婦についての記憶を新たにするために2010年に設置されたものだ。しかし、記念碑の撤去を求める日本側のロビー活動は逆効果を招き、慰安婦問題をめぐって日本と韓国との間にある反感をさらに悪化させた模様だ。これは両国間に古くからある、いらいらさせられる難題だ。マンハッタンからハドソン川を挟んだ向こう側に位置するパラセイズ・パーク市はこの要求を拒否した。そして、今や、日本側の努力はお隣のニューヨーク市に在住する韓国人をも刺激し、同類の記念碑を設置する計画さえも出てきている。そればかりではなく、この動きは全米規模にまで広がりそうだ。
 
出典:mochi thinking Palisades Park library hosts plaque unveiling, http://snowdrop.iza.ne.jp/blog/entry/2558078/
「あのふたつの代表団は実際にはわれわれの助けにもなっている」と、パラセイズ・パーク市に記念碑を設置することで活躍をした市民団体の「韓国系米人投票者の評議会」で弁護士として活動するチェジュン・パク氏が言った。国勢調査によると、この市では約2万人の人口の半分を韓国系の住民が占めている。「この問題についての認識度をさらに高めることができるからだ。」
....前の週には、パク氏が所属する市民団体は米国内で韓国人が多い少なくとも5箇所の市や町から電話を受け取った、と彼は言った。ジョージア州、ミシガン州、ニュージャージー州、テキサス州などからであって、自分たちも記念碑を立てたいと興味を示しているとのこと。すでに作業に入っているカリフォルニア州やジョージア州での5件はこれらとは別にあるという。
....慰安婦をめぐる日韓間の緊張は前年の12月に韓国の首都、ソウルで日本大使館の真前の通りを挟んだ向こう側に犠牲者のブロンズ像が設置されたことから再燃した。日本政府はこの像を撤去するよう韓国側に求めた。
日本の指導者は公けの謝罪や反省の念の表明ならびに慰安婦の扱いに対する責任は、犠牲者に対する10億ドルの基金を設置する提案を含めて、すでに十分に示されていると述べた。しかし、それらの動きは適切ではないと多くの韓国人が頑固に主張している。生き残った犠牲者たちは基金の出所が個人的に拠出されたとして同基金を拒否した。彼女らは政府による償いを求めている。 
パラセイズ・パーク市のジェームズ・ロタンド市長は、日本側のロビー活動は前月の末頃に遠まわしに始まったと語った。ニューヨークの日本総領事館の職員が同市の職員と会合を持ちたいと電子メールを送ってきたのだ。
『私は秘書を呼んで、「これは一体何のことかね?」と尋ねた』と、市長はインタビューの場で当時を回想した。『彼女は「それは日米関係の案件です」と言い、私は「ああ、そう。分った」と言った。』
51日の最初の会合は結構快調なペースで始まった。廣木総領事がこの代表団を率いていた。彼は、アフガニスタンでの業務を含めて自分の業績を語ってくれた。「あれはしきたり通りの外交辞令だ」と、ロタンド氏は述べた。
ロタンド市長によると、会話は突然その方向を変えた。総領事が二通の文書を取り出し、それらを大きな声で読み上げた。
そのひとつは1993年当時内閣官房長官を務めていた河野氏が発した談話のコピーであった。日本政府は慰安婦の強制に日本軍が関与したことや慰安婦が被った苦難を認識するという内容であった。
二番目の文書は当時首相であった小泉潤一郎氏から生き残りの慰安婦に向けて出状された2001年の書状で、その内容は慰安婦の扱いに関して陳謝するというものであった。
日本政府は「この記念碑を撤去することを要望している」と廣木総領事が述べたと、当日の状況を思い出しながら、ロタンド氏が語ってくれた。
総領事は、さらには、日本政府は同市に桜を植樹し、図書館には書籍を寄贈し、「われわれはこの世界において互いに結ばれており、分断されているのではない」ことを示すような何かを実施したいと述べた。しかし、この申し出は記念碑の撤去を条件とするものだった。「私は自分の耳を信じることができなかった」と、パラセイズ・パーク市の副市長を務め、この会合にも同席していた韓国系アメリカ人のジェイソン・キム氏が言った。「頭へ一気に血が上ってきた!」
パラセイズ・パーク市はこの要求を拒否し、代表団は帰っていった。
56日、4人の日本の国会議員からなる二番目の代表団がやってきた。彼らのアプローチには外交的なしきたりは特になかったとロタンド氏は言う。野党である自由民主党の議員たちは、記念碑の撤去を求める中、慰安婦は性奴隷として徴用されたのではないと述べ、パラセイズ・パーク市の職員たちを説得しようとした。
「彼女らが慰安婦であったというのは嘘であって、外部の団体によってでっち上げられたものであり、彼女たちは給与を受け取って、兵隊たちの面倒を見ていたのだ」という説明だったと市長が語ってくれた。『私は「われわれは記念碑を撤去する積もりはないが、当地までお越しいただき有難うございました」と述べた。』
在ニューヨークの日本総領事館は自分たちが行ったロビー活動に関しては口が重い。
今週のインタビューでは、副総領事の岩井文男氏は総領事が記念碑の撤去を求めたかどうかに関しては何も言おうとはしなかった。しかし、彼は総領事が記念碑の撤去の代償として市に提言した支援については否定した。彼は、廣木氏は「そのような提言はしてはいない」と述べた。
岩井氏は、この慰安婦問題は、パラセイズ・パーク市だけに限定する場合を除くと、日韓両国政府の高官レベルで継続的に議論が行われているテーマでもあると述べた。
「だから、状況は非常に複雑だ」と、彼は言葉を選びながら言った。
ニューヨークタイムズの記事をできるだけ忠実に上記に仮訳してみた。
この記事を読んだだけではパラセイズ・パーク市を訪れ、市長との間で行われた日本側の交渉について正しい判断をすることは難しいかも知れない。
しかしながら、日本側は情報戦の壁につき当たって、見事に跳ね返されたようだ。そういう印象を受けたのは私だけだろうか。私の第一印象では、在ニューヨーク総領事がパラセイズ・パーク市の市長と面談した際、自分の言い分を相手に理解させようとする有効な糸口が見つからなかったように見える。それに続いてやってきた野党の自民党の4人の議員の訪問についても、どうも同じ結果だったようだ。交渉の歯車がまったく噛み合っていない。
「あのふたつの代表団は実際にはわれわれの助けにもなっている」と関係者が発したコメントがそのことを見事に物語っているのではないか。

パラセイズ・パーク市が記念碑の設置をすることに踏み切った背景には韓国人社会のさまざまな思いがあり、たくさんの情報が行き交い、さまざまな政治的プロパガンダが行われ、ひとつの方向性を持った政治的信念へと発展して行ったものと推測される。その政治的信念の中央にある表向きの顔は「人権を擁護する」という今日的な世界観である。これは、米国政府がイラク戦争では何十万人もの一般市民の命を奪ったという人権じゅうりんのお手本のような現実が存在しているにもかかわらず、市民的なレベルでは米国人一般の支持を獲得し易いテーマだ。人権擁護の領域では米国が世界のリーダーであるという自負心が非常に強い。したがって、彼らの政治的信念は国の内外を問わずに適用される。
それに加えて、議員たちは洋の東西を問わず政治献金には弱い立場にあり、ある団体から多額の政治献金を受け取るとその団体のために汗を流すことになる。
碑文に使われている文章を見ると、「20万人以上の女性や少女が...」とある。歴史家にとっても慰安婦が何人いたのかを正確に洗い出すことは難しいようではあるが、歴史学者の秦郁彦氏はさまざまな推計を試みた結果、旧日本陸軍の慰安婦総数は2万人前後だろうとしている[5]。海軍の場合は陸軍の値の10パーセント程度だろうと推算した。「20万人以上の女性や少女が...」とあるが、これはかなりの誇張だと言えよう。
また、「日本陸軍に拉致されて...」という表現がある。これは前借金で娘を売った親の実態や慰安婦が公募されたという実態とは明らかにかけ離れている。要するに、このような表現は歴史的事実の解釈上の観点から見ても大きな疑問が残る。
碑文の全体的な印象としては「誇大表現」と言えよう。
一方、パラセイズ・パーク市に設置された記念碑の碑文を読むと分るように、「20万人以上の女性や少女が...」と言いながらも、韓国人だとは限定していない。韓国人は多くの犠牲になった女性たちの一部であると暗に訴えているに過ぎないのだ。この普遍化が情報戦争にとっては最も重要だと思う。歴史的事実に関して細部を議論した際の逃げ場が用意されているのだ。国連の人権委員会も慰安婦問題は世界に普遍的な人権問題であり、人間性に対する犯罪でもあるとしている。
こうした政治的な動きの真の目的は何か。私の推測はこうだ。海外の市場へ製品を輸出して金を稼ぐことで国が成り立っている韓国にとって、日本との競争は必然的に起こり、それを避けて通ることはできない。特許の出願数やノーベル賞受賞者の数を取り上げても、技術面で日本に太刀打ちができないとしたら、他の何らかの有効な手法を模索せざるを得なかったということではないだろうか。国際市場での競争に生き残るために、慰安婦問題を活用して日本の評判を落とそうとしたのではないか。これがうまく行けば韓国にとっては非常に好都合だ。日本の治世下にあった頃から第二次世界大戦にかけて体験した悲惨な状況を縦糸とすれば、こういった経済的な理由を横糸としてこの慰安婦問題は対日政治運動に発展していったのではないだろうか。しかし、あまりあからさまなやり方はできない。推敲に推敲を重ねた結果、あのような碑文ができあがったのだと思う。
歴史的背景や米国特有の政治的な環境をうまく駆使したのがパラセイズ・パーク市の人口の52パーセントを占める韓国系の人たちだったと言えるだろう。情報戦争としては非常に巧みだと言うしかない。 

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次に、カリフォルニア州のグレンデール市の例を検証してみよう。
グレンデール市は慰安婦の像を設置することを72日に決定した。730日にはその除幕式を行うとのことだ。日系米人からは数多くの反対の意見が寄せられたが、グレンデール市の評議会はこの火曜日に41で可決した[6]

グレンデール市はロサンジェルス郡に属し、郡の中ではロサンジェルス市、ロングビーチ市について3番目に大きな市である。人口は2010年の国勢調査によると19万人強。韓国人居住者は4.9%を占め、約9,500人。

総人口の4.9%しか占めない韓国系居住者がどのようにしてグレンデール市を動かしたのだろうか?712日の記事[6]によると、こうだ。引用部分を段下げして下記に示す。
 
日系米人からは反対の声が挙がったが、市の協議会は火曜日にグレンデール中央公園に韓国や中国ならびに他の国からのいわゆる「慰安婦」の尊厳を称える目的で記念碑を建立することを41で票決した。
 
1万人の韓国系米人が居住するロサンゼルス郊外の町で730日には除幕式が行われる。厳しい試練を生き抜いたひとりの女性がその式典に列席する予定である。
非営利団体の加州韓米フォーラムが慰安婦の像の建立費用を拠出する。
市の評議会のメンバーであるローラ・フリードマン氏は「これが日本を侮辱することにはならないと思う。これらの少女たちに実際に起こったことは大きな悲劇だった。この像はそのことを伝えてくれる」と、述べた。
歴史家によると、日本軍によって強要された少女や女性の数は20万人に上るとされている。
この報道は、この慰安婦の像を設置する費用が韓国系米国人の団体から寄付されたことについては簡単に触れただけで、女性の人権の擁護の観点からこのような悲惨なことが二度と起こらないように願うためのものだと強調している。この記念碑でも、設置目的が巧みに普遍化されている。市の評議会のメンバーの言動を見ると、費用を提供したのは加州韓米フォーラムであることから、真の目的を何とか隠そうとしているかのように聞こえる。
712日の他の報道[7]によると、米国カリフォルニア州のグレンデールに設置される海外第1号の日本の従軍慰安婦少女像は下記のような像だ。
 
 
引用部分の仮訳は段下げをして下記に示す。
この日の会議には参加者の半分を超える80人余りの日系住民らが席を満たした。40人余りは席がなく会議場に入ることができなかった。

会議が始まるとすぐに彼らは先を争って発言を申請した。今回の公聴会議論のテーマである少女像のデザインは関心の外だった。80歳をはるかに超えた老人からグレンデールで生まれ育った二世、引退した教授や有名建築家までが発言台に立って「日本の従軍慰安婦は歴史のねつ造」「グレンデールは韓日外交問題から手を引け」 「慰安婦は売春婦」など鋭い発言を吐き出した。アンディ・ナオキという住民は発言制限時間の2分を超えて「きちんと真実を検証したという書類を提出しなさい。売春婦を記念する都市がどこにあるか」と声を高めた。日系女性たちからも一言あった。「売春婦は日本の将校よりも多くのお金を儲けた」「米国も韓国戦争で韓国の慰安婦を利用した」と主張した。

....グレンデール姉妹都市委員長のアレックス・ウ氏は「少女像は日本を処罰しようというのではなく、真の平和と和解を成し遂げようという一つの約束」と強調した。
....グレンデール市議会は3月に平和の少女像設置を議決した。韓国人団体である加州韓米フォーラムが主導し、韓国人募金を通じて3万ドルの制作費を集めた。今月30日にグレンデール公立図書館で除幕式を行う。
ここでも、グレンデール姉妹都市委員長の言葉に見られるように、この少女像の設置目的には普遍化が施されている。しかしながら、現実には、この像の設置の推進母体はあくまでも韓国人の団体である加州韓米フォーラムだ。彼らが3万ドルの設立費用を出したのだ。
ある人の714日のブログ[8]には貴重な情報が掲載されている。
....ユダヤ系住民に続き、在米韓国人やグレンデール市の韓国系住人が狙ったのは、グレンデール市のアルメニア系住民です。グレンデール市は、2000年の国勢調査当時の総人口は19万4973人で、このうちアルメニア系住民は27.6%を占めています。
2012年当時の市長、フランク・クィンテーロ市議もアルメニア系で、アルメニア系住民は政治にも影響を及ぼしています
....アルメニア系住民は政治にも影響を及ぼしている。2009年現在、グレンデール市議会の市議員5名のうち1名はアルメニア系である。また、歴代の市長にもアルメニア系住民が就任した例が複数回ある。
グレンデールを含むカリフォルニア第29選挙区から当選した連邦下院議員アダム・シェリフは、この地域のアルメニア系住民の影響力を反映し、アルメニア系アメリカ人に関する諸問題のリーダー的存在となっている。シェリフは19世紀末から20世紀初頭にかけてのアルメニア人虐殺を認知し、事後処理を進めさせる下院第106号法案を推し進め、20071011日に採択へとこぎつけた 
韓国系住民は、グレンデールで政治的に影響力の強いアルメニア系住民に取り入り、日本が数十万の性的奴隷の大罪を認めないと、アルメニア人虐殺と同じとしたのです
韓国系アメリカ人や在米韓国人は政治活動のためにニューヨーク市ではユダヤ人を、グレンデール市ではアルメニア人を巻き込んだのだ。冒頭で述べた質問について、ここに引用したブログ[8]がひとつの回答を示してくれた。これは米国で次々と起こっている慰安婦の記念碑設置の背景を理解する上で貴重な情報だと思う。
こうした諸々の要素を見ると、慰安婦問題は情報戦争であることがよく分かると思う。
情報戦争を最も効率よく展開した事例としては、ボスニア紛争中にイスラム系勢力が米国のPR会社を雇ってセルビア系勢力に勝ったことがよく知られている。戦力的には劣勢にありながらも、国際社会を前にしてPR戦をあれほどまでに有効に実施して、強力な相手に打ち勝った例は少ないのではないか。あの事例は、日本が何もしないでいると、セルビア系勢力みたいに、韓国によって展開されている情報戦争によって徹底的に打ちのめされる可能性があるということを示唆している。
情報戦争では、如何にたくさんの情報を動員することができるか、主要な目的は表へ出さず如何に普遍化することができるか、などが最も重要な戦略となる。普遍化することによって多くの人たちや団体の関心を呼ぶことが可能となる。それは一般市民、メデア、市会議員、市長だけではなく、国会議員、米議会調査局、国連人権委員会にまで及んでいくのだから。
これから英知を集めて失地回復の戦略を練らなければならない。決して遅すぎることはない。何もしないで手をこまねいているよりは遥かにましであろう。 

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そして、ひとつのニュースが飛び込んできた。
714日のニュースによると、キャロライン・ケネデ氏が新駐日米国大使として内定したそうだ。彼女は弁護士の資格を持つ、人権問題を重要視するリベラル派だそうだ。
このことは日本にとってはどのように作用するのだろうか。余程の間違いが起こらない限り、今のままだと、米国の世論を背景に考えれば、日本の立場は新大使にとっては救いようがないのではないかと心配だ。結局、日本政府が追い込まれて、慰安婦問題を認めさせられるのではないか。そうなったら、韓国の思い通りだ。
韓国は大喜びするだろう。そして、韓国の思い通りに事態が進行し、政治的に弱まった日本は中国にとって非常に組しやすい存在となることだろう。中国はそのような状況を今待っているのではないだろうか。
現行の情報戦争に関して日本は一体どんな戦略をとることができるのだろう?
もし私が外務次官であったならば、下記のような項目を即座に実行したいと思う。そのために関係省庁とは協力体制を組み、国家プロジェクトとして推進する。
(1) 海外の歴史家や研究者向けとして:Amazon.comで「慰安婦と戦場の性」の著者の「秦郁彦」を検索すると、19冊の書籍が検索できる。これらの本は英語、日本語もしくは中国語である。その中には[5]で示した「慰安婦と戦場の性」がある。しかし、残念ながら、それは日本語だけで出版されており、英語版はない。この事実は非常にさびしいことだ。海外のジャーナリストや研究者が慰安婦について参照することができる英語版の研究書は1冊しかないとどこかで読んだ覚えがある。外務省は秦郁彦著の「慰安婦と戦場の性」の英語版が早急に出版されるよう出版業界に対して政治指導をするべきだ。英語版の「慰安婦と戦場の性」を米国の大学図書館へ寄贈しよう。米国には4年制大学が公私含めて2,400校程ある。たとえば、カリフォルニア大学は10箇所にキャンパスを持っている。全米の大学図書館へそれぞれ一冊配布するとすれば、その総数は1万冊を越すだろう。ヨーロッパでも1万冊程度が必要になるかも知れない。

(2) 海外のメデイア向けとして:安部首相は自民党党首として「日本を取り戻す」ことを参院選挙のために約束している。今、日本の名誉は慰安婦問題によって国際的に低下するばかりである。上述したように、韓国は慰安婦問題を活用して国際的な市場から競争相手としての日本を追い出そうとしている。この現状を打破する必要がある。そのために具体的な行動を起こす時が来た。大手新聞社の英語版オンライン新聞を活用して、海外向けの大キャンペーンを実施するよう政治指導をするべきだ。このキャンペーンでは歴史家の手によって究明されている基本的な歴史的事実を取り上げ、それぞれについて詳細に報告しよう。そして、その報告の際には、相反する研究成果がある場合はそれらの情報を客観的に報告しよう。週に一回のキャンペーンを実施した場合、基本的な要素は2-3ヶ月で網羅することができるのではないか。

(3) 海外の一般大衆向けとして:身近な例を挙げると。私が今居住しているルーマニアのブカレスト市ではNHKの海外向け番組を視聴できない。それに比べて、ロシア、中国、韓国のTVプログラムは毎日24時間ケーブルテレビで配信されている。尖閣諸島問題では中国のCCTVがいち早く特集を組んで放送をしていた。毎日のようにニュースが一般大衆の茶の間に届くのだ。また、韓国について言えば、韓国ドラマの浸透は驚くばかりだ。日本はアニメやマンガでは国際的に知られた存在ではあるが、テレビ文化における韓国ドラマの存在感にはまったく比べようがない。これが現実の姿である。テレビの影響力には計り知れないものがある。情報戦争にとっては非常に基礎的なものの一つとしてNHKの海外向け番組を拡充する必要がある。このような状況を各国でつぶさに調査して、隙間をひとつずつ潰していくべきではないか。そしてNHKは特別番組を組んで、海外に向けて継続的に日本の見解を発信する。

(4) 日本社会全体のために:女性が働きやすい社会を実現しよう。日本が各国と比較して見劣りするこの分野については、日本はねじり鉢巻で真剣に取り組まなければならない。女性の権利に関する諸指標で韓国や中国と水を大きくあけることができた暁には、日本には情報戦争のための新しい強力な武器が備えられることになる。民間に任せておいては何も始まらないことはすでに十分に認識されている事実であるので、これを実現するためには政府の強力な指導や推進が必要となる。新たな法整備が必要になるのかも知れない。女性の権利についての先進国はさまざまな手法を模索した結果、他国が羨むような現在の地位を実現したのだ。日本は今こそ真剣に取り組まなければならない。
これらを実現する途上ではさまざまな二次的なプロジェクトの必要性に迫られるだろう。また、他に多くの違った手法もある筈だ。このプロジェクトは1年や2年で終了するものではない。5年も10年も必要とするのではないだろうか。

 

参照:

1現代史家・秦郁彦 橋下発言の核心は誤っていない: 産経ニュース、2013523日、sankei.jp.msn.com/politics/news/.../stt13052303220000-n1.ht... 
2女性活用の国際比較: 環境・CSR調査部 物江陽子、大和総研、2012312日、www.dir.co.jp/library/column/120312.html
3橋下代表、特派員に「慰安婦正当化の意図ない」: 読売新聞 527()1318分配信
4In New Jersey Memorial for Comfort Women Deepens Old Animosity: By Kirk Semple, May 18, 2012, www.nytimes.com/.../monument-in-palisades- 

5: 慰安婦と戦場の性: 秦郁彦著、新潮選書、1996年発刊。 

6: California memorial to honor World War II ‘comfort women’: Associated Press, July 12, 2013
7米国1号「慰安婦少女像」30日除幕日系住民ら公聴会集まり騒動: 中央日報/中央日報日本語版、20130712
8韓国人がユダヤ系住民に続きアルメニア人虐殺事件でグレンデール市のアルメニア系住民・フランク・クィンテーロ市議に取り入り反日活動、米カリフォルニアにまた「慰安婦像」日系住民や日本国内の反対全く通じず:2013/7/14() 午前 9:00blogs.yahoo.co.jp/x1konno/37976292.html