2013年9月23日月曜日

<シリア>YouTubeに掲載されている化学兵器使用のビデオは「でっち上げ」


副題:シリアのカトリック系修道院に20年間在住しているマザー・アグネスが指摘 

もうしばらく前の話になるが、96日のRTの記事[1]によると、マザー・アグネスの言について下記のような報道があった。
シリアのカラ地区にある聖ジェームズ修道院にて女子修道院長を務めるマザー・アグネス・マリアム・エルサリブは「シリアで起こった化学兵器使用のビデオはでっち上げだ」とRTに対して述べた。彼女は自分が見い出した事実を国連へ報告する積もりだと言う。
マザー・アグネスはカトリック系修道院の修道女である。彼女は20年にもわたってシリアに住んでいるが、戦渦に巻き込まれた同国の様子に関してその様子を今まで積極的に報告してきた。彼女の言によると、8月にゴータ地区で起こった毒ガス攻撃による被害の様子を伝えたビデオを詳細に検証した。その結果、彼女はビデオ映像の信憑性に強い疑問を抱くようになった。
RTによるインタビューで、マザー・アグネスは、かなり多くのビデオが非常に短時間の内にYouTubeに掲載されたことに不自然さを感じたという。また、それだけではなく、亡くなった子供たちの親たちはいったい何処へいってしまったのか、と疑問を投げかけている。彼女は国連へ報告書を送ると約束した... 

(Photo 1) マザー・アグネス

インターネットには無数の子供たちが白い布に包まれて安置されている様子が掲載されている。マザー・アグネスが指摘するまでもなく、私も第一印象として同様な感じを持っていた。化学兵器の攻撃が早朝に行われ、ほとんどの人たちは寝込みを襲われ、毒ガスによって殺害されたと報道されているにも拘らず、インターネットでの第一報の写真では大人たちの様子がまったく伝えられていないことに非常に不自然な印象を抱いた。多くの人たちがそういった第一印象を抱いたに違いない。
私は何らかの作為があるのではないかと感じていた。
そして、919日にはマザー・アグネスが国連の人権委員会宛に報告書を出したという事実が報道された[2]。その記事の一部を仮訳して、下記に示したいと思う。

 
(Photo 2) シリアの反政府派のシャーム・ニュース・ネットワークが配布した資料。子供たちが白布に包まれ、臨時の死体置き場に横たわっている。シリアの反政府派の言によると、これらの子供たちは821日にダマスカス近郊のゴータ東部地区で政府派の毒ガス攻撃に遭って死亡したとされている。 (AFP/Shaam News Network)

米国の諜報機関はひとりのキリスト教系の修道女による献身的な作業によって、ならびに、彼女の固い決心によって恥を感じざるを得ない立場に立たされよう。彼女はシリアでの化学兵器攻撃のビデオを詳細に調査した。その結果、これらのビデオはいかさまで、死体を演出したものであることが判明したのだ。
マザー・アグネスと彼女を支援する国際団体(ISTEAMS)による報告書[3]を読むために時間を割いた人たちは、これらのビデオは明らかに怪しげで、素人による注意深い調査にさえも耐えられそうもなく、これらのビデオ映像を支持したことによって米国の諜報機関は面目をすっかり失うことになると認識するだろう。
化学兵器が使用されたという事実を否定する人はいない。米国政府ならびに米国やその同盟国の主要なメデイアは、この悪意に満ちたゲームに没頭して、a)シリア政府が化学兵器を使用したことを拒否することは、b)化学兵器が用いられたという事実を否定することに等しいと述べるに至った。これは一般大衆を混乱させるためにふたつの事柄を故意に混ぜ合わせたものだ。要は、いったい誰が化学兵器を使ったのか、という点だ....
マザー・アグネスの指摘には鋭いものがある。インターネットへ掲載された映像を入念に調査し、これらの映像が作為的に演出されたものであることを指摘してくれたのだ。具体的な指摘内容を挙げると次のような具合である。


写真の拡大:写真の上を二回左クリックしてください。写真が拡大されます。
(Photo 3) ザマルカ(左側の写真)で撮影された赤いシャツを着た男の子がジョバール(右側)で撮影された写真でも観察される。これらの写真はマザー・アグネスの国連への報告書から抜粋。

 
Photo 4) 同報告書によると、同一の映像がそれぞれ違ったシナリオに用いられている。これらの写真はマザー・アグネスの国連への報告書から抜粋。

....米国の諜報機関は13本のビデオを抽出し、オバマ政権はシリア政府に責任をとらせる根拠としてそれら13本のビデオを取り上げた。これらのビデオは注意深く精査する必要がある。 
これらの映像に関して米国務長官のジョン・ケリーは、830日、報道関係者を前にして、前もって準備した原稿を読み上げてある点を強調したが、その内容は非常に巧妙なものとして受け止められた。 ケリー国務長官はとりわけシリアからの映像を参照しながら、「自分たちの目で」とか「目撃して」といった言葉を使った。これらのビデオは一般大衆も見るように、とまで彼は述べた。彼こそがこの仕事に取り組むべきだった。そして、マザー・アグネスが行った詳細な分析をやり遂げるべきだった。
子供たちの死骸の傍には大人の死骸が皆無であり、「これは自分の子供だ」と指摘する両親、特に、母親の姿がまったく見られないという事実をまったく問題にしない人たちもいるかも知れない。しかし、親たちはどこへ行ってしまったのか?文化的脈絡からは、これは驚くほど奇異なことだ。これらすべての子供たちの親たち、特に、母親たちが子供たちを置き去りにした、あるいは、子供たちが横たわっている場所へ急いで駆けつけてくることはなかった、といった状況はとても有り得ないことだ。
社会学的な観点から見たマザー・アグネスの疑問は見事に的を射ている。母親たちの行動は人種、文化、言語、宗教、教育、歴史、等の違いには関わりなく、全世界に共通したものだ。それとは対照的に、図らずもこれらの写真に表面化したわけではあるが、戦争屋、一部の政治家、あるいは、軍産共同体の連中が考えるシナリオは人々の常識に比べて何とお粗末なことだろうか、と今更ながら思い知らされる。

 
Photo 5) アル・マルジ地区プレス・オフィスのビデオに撮影されている少なくとも9人の子供の死体(右側の写真)はカファルバトナ(左側)から移送されてきたもの。これらの写真はマザー・アグネスの国連への報告書から抜粋。
....同報告書は、公的な埋葬や亡くなった子供たちに関する報告は何もなかったという事実についても強調している。これは文化的ならびに宗教的なしきたりからは程遠いものだ。
....マザー・アグネスは、緊急時特有の雰囲気がまったく欠如しているとも指摘している。また、ある証言によると、使用された化学物質の匂いを感じたとも指摘している。しかしながら、サリンは無臭の筈であり、この証言は新たな重要な問題点を提起しているのかも知れない。   
演出された映像:
マザー・アグネスの論点の一部を無視する人はいるかも知れないが、この報告書には否定のしようがない論点が幾つもある。これらの論点は、誰が見ても、米国の諜報機関が取り上げたビデオ映像のある場面は演出されたものであるという結論に導くものだ。
同一の死体がまったく違った現場やそれぞれ異なる場所にある仮の死体置き場に据えられていたのだ。同一の子供の死体が違った場所で指摘することができる。
....子供たちの死体があちらこちらへ移動されたことを示している。
シリア紛争については私も幾つかのブログを書いて、情報を掘り起こそうと努めてきた。ここに掲載したマザー・アグネスの国連への報告書は数多くの情報の中でも抜きん出ていると言えよう。人としての直感や人間としての常識から出発してここまで詳細に映像を分析し、重要な発見をした彼女の努力には敬意を表したいと思う。なかなか出来ないことだ。
830日のブログ、「<シリア> 毒ガス使用は反政府派の「自作自演」ではない」では、821日の早朝に起こった毒ガス攻撃の被害の様子を伝えるビデオ映像が前日の820日に早々とインターネット上へ掲載されていた、という奇妙極まりない事実があることを紹介した。
今回のマザー・アグネスが指摘したビデオ映像の偽造疑惑と上記の一日前に発表してしまったヘマとを併せて考えてみると、米国をして「シリアを空爆する」との脅しに走らせることになった821日のシリアでの化学兵器攻撃は反政府派の自作自演であったことはほぼ間違いない。

 

参照:

1'Footage of chemical attack in Syria is fraud': Pubrished by RT, Sep/06/2013, http://on.rt.com/n9vdh8

2One nun puts entire US intel community to shame over 'stage-managed' Syria footage: By Mahdi Darius Nazemroaya, RT, Sep/19/2013, http://on.rt.com/z6tmmo

3THE CHEMICAL ATTACKS ON EAST GHOUTA TO JUSTIFY MILITARY RIGHT TO PROTECT INTERVENTION IN SYRIA: By Mother Agnes Marian of the Cross, President of the ISTEAMS, Sep/11/2013

 

        

 

 

2013年9月4日水曜日

<シリア> やっぱり、化学兵器を使ったのは反政府派


今朝(93日)、非常に興味深い情報が見つかった。シリアで化学兵器を使ったのは、やっぱり、反政府派のようだ。 

これが事実だとすると、米国政府がシリアへの空爆の理由として挙げた根拠の信憑性は大きく揺らぐことになるだろう。またしても! 

そうなった時、つい最近シリア空爆を押し進めようとしている米国に対して外務大臣が賛意を表した日本政府も面目を失うことは免れられない。われわれは国際政治の不可思議な世界をまたもや見ることになりそうだ。 

米国のミネソタ州に本拠を置くニュース・サイト「ミントプレスニュース(MintPress News)」の報道が非常に重要な情報を提供している。今朝配信されたInformation Clearing Houseの一連の記事の中に「Which Syrian Chemical Attack Account Is More Credible?」という表題が目に飛び込んできた。その記事ががここに引用するミントプレスニュースの記事を紹介していた。 

さっそく、ミントプレスニュースの記事[1]を覗いてみよう。その仮訳を段下げして下記に示す。
 

副題: ゴータ地区の反政府派や住民らは、アル・カイーダと連携する反政府グル-プに化学兵器を提供したとしてサウジアラビアのバンダル・ビン・サルタン王子を非難
 

注:デイル・ガヴラックはこの記事のための調査や作成の過程で手助けをしたが、シリアの現場へは出むかなかった。デイルと一緒に本報告書を作成したヤーヤ・アバブネーは特派員としてゴータの現地へでかけ、そこで反政府派の人たちやその家族、科学兵器の犠牲者やその地域の住民たちと直接話をした。

ガヴラックはミントプレスニュースで中東を担当する記者であって、以前はヨルダンの首都アンマンでAPの特派員として10年近く活動していた。この報告はAPの記事ではなく、ミントプレスニュースの独占記事である。 

【シリアのゴータ発】 先週の化学兵器攻撃を受けて米国主導のシリアへの軍事介入のための戦争マシーンがその速度を高める中、米国やその同盟国は間違った相手に向かって攻撃を加えようとしているのではないか。 

首都のダマスカス、ならびに、人道支援団体である「国境なき医師団」によって神経ガスによると思われる攻撃のせいで少なくとも355人が犠牲となったと伝えられている現場、シリアの首都郊外のゴータ地区で行ったインタビューは多くのことを語っている。 

米、英、仏およびアラブ連盟はシリアのバシャル・アル・アサド大統領が化学兵器攻撃を行った、その犠牲者はほとんどが一般市民だったと述べて、同大統領を非難した。化学兵器による大量虐殺を行ったシリアに罰を加えるためとして、米国の艦船が地中海に配置されている。米国や他の国々は、アサドの罪は「全世界にとってすでに明白だ」と米国務長官のジョン・ケリーが月曜日に述べたのを受けて、それとは食い違うような証拠を検証することには消極的だ。 

しかしながら、現地で医師たちやゴータ地区の住民、反政府派の戦闘員やその家族と行った数多くのインタビューからはまったく異なる世界が現れてくる。反政府派のあるグループがサウジアラビアの諜報部門のチーフであるバンダル・ビン・サルタンから化学兵器を受け取り、彼らが毒ガス攻撃を行ったのだ、と多くの人たちが確信している。 

「息子が二週間前に私の所へやってきて、彼が輸送するようにと頼まれた兵器についてどう思うかと聞いてきた、あれが化学兵器だったのだ」と、ゴータ在住で息子が反政府派のために闘っていたアブ・アブデル・モネイムが語った。 

アブデル・モネイムによると、彼の息子と他の12人はアブ・アイエシャという名前のサウジの過激派(戦闘集団を率いるリーダー)から提供された兵器を貯蔵するトンネルの中で死亡した。この父親は問題の兵器は「チューブのような構造」だった、他の者は「大きなガスの容器」のようだったと描写した。 

ゴータの町の人たちの話によると、戦闘員たちはモスクや民家で寝泊りし、兵器はトンネル内に保管する。 

自分の息子や同僚たちは化学兵器攻撃の最中に亡くなった、とアブデル・モネイムは言った。あの当日、過激派グループのジャブハット・アル・ヌスラ(アル・カイーダと連携している)は、報復のためにアサド政権の重要拠点である西海岸にあるラタキアの一般住民に対しても同一の手法を用いて攻撃すると宣言している。 

「彼らはこれらの兵器が何であるか、どう取り扱うのかについては私たちには何も教えてはくれない」と、「K」という名前の女性戦闘員が言った。「あれが化学兵器だとは私たちは知らなかった。誰も化学兵器だとは想像もしなかった。」 

「サウジのバンダル王子がそのような兵器を一般民衆に与える時には、それらの取り扱いや使用方法をよく知っている連中に渡すべきだ」と、彼女は警告した。他の多くのシリア人のように、彼女も報復を恐れて自分の氏名を明かすことは好まない。 

ゴータの町ではよく知られている反政府派の「J」もそれに同意する。「ジャブハト・アル・ヌスラの過激派は、地上戦で一緒に戦うことを除いては、他の反政府派グループと協力する気配はまったくない。彼らは機密情報をわれわれと共有しようとはしない。連中はごく普通の反政府派の戦闘員をこのような兵器の運送や取り扱いに当たらせる」と、彼は言った。 

「われわれはこの兵器に非常に強い関心を抱いている。でも、不幸にも、何人かの戦闘員は兵器の取り扱いを間違えて、爆発させてしまった」と、「J」が言った。 

化学兵器の犠牲者たちを治療した医師たちはインタビューを行うわれわれに対して「誰がこの化学兵器攻撃を行ったのか」という質問は慎重を期すようにと言った。 

人道支援グループである「国境なき医師団」は、3,600人の患者の治療に当たっている医療関係者たちからも「患者たちと同様な症状を体験したという」報告を受けていると付け加えた。つまり、口から泡を吹いたり、呼吸困難、けいれんや目がかすむといった症状だ。しかし、われわれのインタビュー・グループはこの情報を独立に検証することはできなかった。 

十指に余るほどにもなる数多くの反政府派グループに対してインタビューを行ったが、彼らは自分たちの給料はサウジ政府から支給されていると答えた。 

先日(830日)の小生のブログ、「<シリア> 毒ガス使用は反政府派の「自作自演」ではないか」の中で、「国境なき医師団」とはどのような組織かに関して一部の情報を掲載した。重要な部分を下記にも転載してみる。 

....西側の報道ではこの組織は「独立した組織」として記載されることが多いが、この記述は真実とはかけ離れたものだ。
まず、「国境なき医師団」はウオール街やロンドンの企業投資家あるいは海外政策(シリアやその隣のイランにおける政権の移行といった政策を含む)に関与する集団とほぼ同義語である企業からそのすべての資金を提供されている。「国境なき医師団」の年次報告書(2010年の報告書はここからアクセス可能)を見ると、ゴールドマン・サックス、ウェルズ・ファーゴー、シテイグループ、グーグル、マイクロソフト、ブルームバーグ、ミット・ロムニーのベイン・キャピタル、ならびに、その他たくさんの企業や投資会社が資金の提供者として名を連ねている。「国境なき医師団」の役員会には投資家が含まれ、そこにはゴールドマン・サックスのエリザベス・ベシェル・ロビンソンも含まれている。
「国境なき医師団」のいわゆる「独立性」や「支援」をさらに複雑にしている要素はこの組織の医療施設がシリアのテロリストたちに占拠された地域に設定されているという事実であり、特に、NATOのメンバーであるトルコとの国境に近いシリアの北部地域にあるという点だ。NPR(訳注:NPRは米国のNational Public Radioの略)とのインタビューにおいて、「国境なき医師団」のステイーブン・コーニッシは彼の組織がシリア紛争にどにように関与しているかその性格を述べた。それによると、支援物資はシリア政府軍が占拠している地域外(訳注:つまり、反政府軍が占拠している地域)へ送付され、同組織はこれらの反政府軍地域で医療施設を設定していると述べた。また、コーニッシは下記の状況を認めた:

最近の何ヶ月かの間にわれわれは洞窟の中で手術用施設を開設したり、養鶏場にも開設した。三番目の施設は民家だ。こういった組織で、われわれは十分に近代的な技術や必要な全領域をカバーする医療チームを提供することができるように全力をあげている。元来の目的は、戦闘員の負傷に対処し、紛争によって直接の影響を受けた市民を治療することだ。

言葉を換えて言えば、ウオール街から資金提供を受けるこの組織は西側の諸国によって資金や武器を受け取っている武装勢力に対して支援を行っているということになる。そして、そのほとんどはシリア人ではなく外国からやってきた連中であって、アル・カイーダと近かったり、直接そのメンバーだったり、あるいは、事実上の政治団体であるムスリム同胞団に所属していたりする。このいわゆる「国際支援」組織は、実際には、シリアに対抗することになった軍事的マシーンのもうひとつの歯車であって、医療部隊としての役割を演じているのである....
上記のような背景を念頭において、冒頭で引用したミントプレスニュースの独占記事とを平行して読むと興味深い情景が浮かび上がってくる。 

ミントプレスニュースの特派員に対して、化学兵器の犠牲者たちを治療した医師たち(つまり、「国境なき医師団」の医師?)は「誰がこの化学兵器攻撃を行ったのかという質問は慎重を期すようにと言った」とのことだ。その「慎重を期す」とはいったいどのような意味だろうか。察するに、「そういう質問はしないでくれ」、「答えは分かっているが、そういう質問には答えられない」、「私らは給料を貰ってここで治療に当たっているだけだ。余計なことには関わりたくはない」、等を容易に想像することができよう。 

再度、ミントプレスニュースの独占記事へ戻ろう。 

サウジアラビアの関与: 

ビジネス・インサイダー(訳注:ニューヨークの拠点を置くビジネスとテクノロジー関連のニュースを専門とするウェブサイト)での最近の記事で、レポーターのジオフレイ・インガーソルは2年半にわたるシリアの内戦におけるサウジアラビアのバンダル王子の役割を詳しく述べている。多くの観測者は、バンダル王子こそが自分が持っているワシントンとの結びつきを活用してアサド大統領に対して米国が戦争を起こすように行動した中心人物である、と確信している。  

インガーソルはロシアとサウジアラビアとの間で行われた秘密会合に関する英国のデイリー・テレグラフの記事を引用した。その会合で、バンダル王子はロシアのプーチン大統領に対してアサドを切って捨てる代償として安い石油を提供したい、と申し入れたとのことだ。

「アサド政権が転覆しても、シリア国内のロシアの海軍基地はそのまま温存させることをバンダル王子は約束したが、それと同時に、合意が成り立たない場合はロシアが主催するソチの冬季オリンピックではチェチュニアのテロリストたちを送り込む、と匂わせた」と、インガソルが記述している。
「来年の冬季オリンピックを保護することは私がすべてを保証する。オリンピック会場の安全を脅かすかも知れないチェチュニアのテロリストたちはわれわれのコントロール下にあるからだ」と、バンダル王子はロシア側に言ったと伝えられている。
「サウジ側を支持して、米国はこれらの話をロシア側に伝えることに親指を立てて賛成した。したがって、このような話があったこと自体は驚くには値しない」と、インガソルは書いている。
「バンダルは米国で軍事教育と大学教育の両方を受け、影響力が非常に高い在米サウジアラビア大使の役を務め上げ、CIAは彼が大好きだ」とも彼は付け加えている。
英国のインデペンデント紙によれば、この2月にシリアの政府側がサリン・ガスを用いたとする報告を最初に西側の同盟国に流したのはこのバンダル王子が率いる諜報部門だった。
サウジ国王がバンダル王子をアサド政権を転覆する作戦を主導する地位に指名した時サウジアラビアがこの作戦に真剣に取り組んでいることを理解した、と最近になってウオールストリートジャーナルは報道した。
「バンダル王子はワシントンやアラブ世界の外交的陰謀のベテランであり、CIAさえもが成し得なかったようなことを実現するだろうと周囲は信じていた。つまり、飛行機に満載した金や武器、ならびに、米国のある外交官が言うように、テーブルの下での影響力、アラビア語で言えば「ワスタ」に長けている。」と、同紙は伝えている。
バンダル王子はアサド大統領や彼の同盟者であるイランやヒズボラを駆逐したいサウジアラビアの外交政策を操るトップの座に上り詰めた、とWSJ紙が報告した。
その目的のために、バンダルはワシントンを動かして、ヨルダンで軍事基地と予定されている場所で反政府派を武装し訓練するプログラムを支援させることに成功した。
「そのような基地に関しては気分が進まないヨルダン側」と彼が面会をした時の様子を同紙は伝えている:
ヨルダンのアブドラー国王との彼の会談は、時には、会合が始まると8時間にもなることがある。アブドラー国王は「またバンダルがやって来るのかい。それでは、会合のためには二日間をあけておこうじゃないか」と冗談を言っていた、と会談の様子を知っている側近が語っている。 
ヨルダンは財政的にはサウジアラビアを頼りにしており、このことがサウジ側には強力な切り札となっているようだ。2012年の夏、滑走路や武器の貯蔵庫を含めて、ヨルダン国内の作戦センターが稼動を開始した。サウジが調達したAK-47や弾薬が到着した、とアラブ高官の話を引用して、WSJ紙が報道している。
サウジアラビアは公的にはより穏健な反政府派を支援すると述べているが、同紙の報道によると、「資金や武器は、ただ単にカタールが支援するライバルのイスラム過激派に対抗するためだけだ。」 
インタビュウを受けた過激派の連中が言うには、シリアにおけるアル・カイーダ過激派の間ではバンダル王子は「アル・ハビブ」のような存在だ。つまり、「愛する人」だと。 
木曜日にデイリー・テレグラフ紙に寄稿したピーター・オボーンは、米国はアサド政権に対して政権を打倒しようとするものではなく、化学兵器を使用する能力を低下させるものだとする、いわゆる「抑制された攻撃」を急ぐ必要はまったくないと、警告を発している。 
次のことを考えてみよう: 最近起こった大量虐殺の最大の受益者はそれまでは戦いに劣勢であった反政府派だ、その反政府派に対して今や米英が彼らの側に立って軍事介入をしようとしている。化学兵器が使用されたことについては疑念の余地がなくなった今、誰がその化学兵器を使用したかについても疑いようがない。
以前アサド大統領は一般市民に対して毒ガスを使用したとして非難されたことがある。そのときのことを思い出すことが重要だ。あの時、国連のシリア検査官のカーラ・デル・ポンテはアサドではなくて、反政府派の仕業だ、と結論付けた。
この記事の一部の情報については独立に検証することはできなかった。ミントプレスニュースは引き続きさらなる情報や更新情報を提供していく所存である。
デイル・ガヴラックはミントプレスニュースの中東担当記者であり、以前はヨルダンのアンマンからAPNPRならびにBBCに寄稿していた。中東での出来事を専門とし、ガヴラックは地中海の東海岸一帯の国々を網羅し、政治、社会および経済動向について報道する。デイルはシカゴ大学で中東の研究で修士号を取得している。デイルとのコンタクトはdgavlak@mintpressnews.comで。
ヤーヤ・アバブネーはヨルダンの自由契約ジャーナリストであり、現在ジャーナリズムを専攻して修士号の取得を目指している。今まで彼が網羅した出来事はヨルダンから始まり、レバノン、サウジアラビア、ロシアおよびリビアにまで及んでいる。彼が報道する内容はAmman NetSaraya NewsGerasa News、その他至る地域で報道されている。
ミントプレスニュースの829日のニュースを最初から最後まですべてを仮訳し、それを上記に示した。この現地報告はジャーナリズムの基本を実践して、現地で情報収集を行ったという点で非常に貴重だと思う。 

米国のケリー国務長官が化学兵器を使用したのはアサド大統領だとしてシリアへの空爆を叫んでいた時、ロシアのプーチン大統領は、「国連でその証拠を示すべきだ」と述べた。そう言われてみると、ケリー国務長官は、たとえば、821日当日の早朝、シリア政府軍の化学兵器を担当する高官の電話の内容を傍受したとしているが、これを国連で証拠として公表できるのだろうか? 

また、主流のメデイアがまったく報道しない情報として他にもたくさんの情報が存在する。それらと本記事とを並べてみると、ジグソーパズルのようにひとつの情景が浮かんでくる。その情景は本記事によって物の見事に描写されている。 

今後も、さまざまな記事が毎日出版されることだろう。現地に密着した情報は、たとえその情報源が知られた存在ではなくても、その情報自体に大きな価値があると思う次第だ。今や、インターネットの普及によって、ちょっと時間をかければ無数の情報にアクセスをすることが可能である。 

このことが、多分、自分の選挙区の人たちがシリア情勢に関しては多くのことを理解しているという厳然たる事実があって、英国の議員たちは、与党や野党の区別なく、政府提案のシリア空爆の動議に対して反対票を投じたのではないだろうか。
 

 

参照: 

1: EXCLUSIVE Syrians In Ghouta Claim Saudi-Supplied Rebels Behind Chemical Attack: By Dale Gavlak and Yahya Ababneh, MintPress News, August 29, 2013

 

 

 

 

2013年9月2日月曜日

シリア紛争と国際的な厭戦気分

<注:この投稿でもフォントコントロールがうまく行かず、文字の濃淡が不必要に生じてしまっています。読みにくいかも知れませんが、ご容赦願います。>


829日、英下院が英国軍のシリア空爆への参加を否決した。与党内の保守派議員の反対や野党の労働党からの強い反対にあって、票は285272と二分され、政府が出したシリア空爆参加の動議は否決された。その結果、キャメロン首相は英国はシリア空爆には参加しないと宣言した。
米国のオバマ大統領は、この英国の離脱を見て、弱気になったようだ。831日のCNNの報道[1]によると、オバマ大統領はシリア空爆に関して99日に再開する米議会で賛意を取り付けたい模様だ。米国は国連の決議案もなく、NATOからの権限の付与もなく、米議会からの承認もない現状にある。そして、最も頼りにしていた英国が戦列から離脱した。
一方、ドイツのシュピーゲル誌の言葉[2]を借りると、英議会による否決は米国政府に甚大な影響を与えた。この記事の冒頭部分を仮訳して下記に示そうと思う。引用部分は段下げして示す。
オバマ米大統領にとっては、これは最悪の事態だ。彼はワシントンが最も頼りにしている同盟国の英国のせいで窮地に陥った。木曜日(つまり、829日)にロンドンで起こったことはまさに歴史的な出来事だ。軍隊の配備という場面では、米英両国は、少なくとも過去20年間を見ると、非常に信頼感の高いパートナーであった。第一次および第二次イラク戦争やアフガニスタンでは両国は常にお互いのために戦ってきた。フランスと英国がリビアに対して空爆を開始した際には、ワシントンは当初迷っているようではあったが、オバマは最終的にこの作戦に参加した。
両国はお互いによく通じ合える兄弟のような間柄で、この瞬間がやって来るまでは何年間にもわたっていつもそうだった。突然、英下院の過半数がシリア空爆に関して反対票を投じた。
軍事行動に対する疑念:
英国の突然の、まったく予想もしなかった戦列からの離脱は軍事行動に対する疑念が非常に根強いことを示している。これは何年にもわたってヨーロッパ大陸では支配的ではあったのだが、今回英国では保守派と進歩派が同盟を結んだ。木曜日の夜の投票ではこの同盟を推進する多くの議員たちが政府の動議に関して反対票を投じた。
イラクとアフガニスタンでの戦争に深く関与して来た英国にとってはひとつの理由がある。英国は、これらの戦争に参画したヨーロッパのどの国と比べても、より大きな犠牲を払っていた。近年、英国では多くの政党でそうした軍事的冒険に対する疑念が高まっていた。
この英国議会によるシリア空爆に対する否決はシリア紛争をめぐる国際政治では劇的な転換点となるかも知れない。そんなふうに私には思えてくる。米国のオバマ大統領に同調していたタカ派的な言動をしていたフランスのフランソワ・ホランド大統領もその後は語気を弱め、最近の報道[3]によると、下記のような具合だ。
フランソワ・ホランド大統領は米国が提案した軍事行動を忠実に支援するという政治的意味合いにおいては今までのところ歴代の仏大統領と比べて異色の存在である。しかし、ホランド大統領は、本日、直ぐにでもシリアに対する空爆を行うべきだという論調から後退し、シリア紛争には「政治的解決」が重要だとの言い方に変わった。

西側が後押しをしてきたシリア国民連合の指導者、アフマド・アル・ジャルバ氏とのエリゼー宮での会合の後、ホランド大統領は、もし国際社会が先週ダマスカス郊外で市民に向けて使用された化学兵器に見られるような「暴力の拡大」に「終わりを告げる」ことに失敗するようなことになった場合、平和の実現は不可能になるだろうと警告した。

結局、ホランド大統領の発言は「フランスは罪もない市民を毒ガスで殺戮するという不道徳極まりない決定をした者たちを罰する用意がある」という木曜日の発言よりも遥かに慎重なものとなった。躊躇している米国や議会での手続きが始まった英国と歩調をそろえるために同大統領はブレーキを踏まざるを得なかったようだ。

....大統領の発言は、「シリア政府に対する懲罰的な攻撃」を求めていたジャルバ氏にとっては失望だったのではないか。

....IFOP(訳注:フランスの市場調査会社で、企業や政党向けの調査を行う)の世論調査によると、59%のフランスの選挙民はフランスがシリアへの空爆を行うことには反対である。仏軍が関与しない限り、国連の作戦にはフランス人の55%が賛成である。

ドイツのメルケル首相やカナダのハーパー首相ならびにイタリアのレッタ首相はシリア空爆には参加しないと述べた。それぞれが国連の決議案なしでの軍事行動には参加できないと述べている。つまり、国連の役割を期待している。
オーストラリアのラッド首相は、829日の報道によると、シリア空爆に賛成である。しかしながら、艦艇を振り向けることで対応することが可能なオーストラリアに対して、シリア空爆の参加要請はまだないとのことだ。
ロシアのプーチン大統領は、BBCの報道[4]によると、下記のような発言をしている。 

プーチン大統領は米国に対してシリアがダマスカスの近郊で一般市民に向けて化学兵器を使用したとする証拠を国連に提示するよう求めた。プーチン大統領は、シリア政府軍にとっては反政府軍に対してそのような攻撃を仕掛けたとする説は「まったくナンセンスだ」と述べた。 

国際社会に対して証拠を示さない米国の怠慢は「簡単に言うと、礼を失している」とも述べた。「もし証拠があるならば、それを示すべきだ。証拠を示さないならば、その証拠は存在しないのではないか。」 

....プーチン大統領は英国の下院が木曜日に軍事作戦への参加を否決したことについて率直な驚きを隠さなかった。「私は正直に言いたいと思う。これは私にとってはまったく予想外だった」と述べた。「英国では、同国が米国の主要な同盟国ではあっても、自国の国益や常識に沿って行動する人たち、ならびに、自国の主権に大きな価値を見出す人たちがいるということを示している。」 

 

♘    ♘    ♘ 

米国の議会は今後どのような動きをするのだろうか。 

99日から始まる米議会は大波乱となるかも知れない。831日の報道[5]によると、バージニア州選出、共和党のスコット・リゴール議員はオバマ大統領宛に手紙を送った。この手紙には共和党の140人の議員ならびに民主党の21人の議員が署名をしているという(訳注:米下院の議席数は435)。その内容を覗いてみよう。下記のイタリック体で示した部分が大統領宛の手紙の部分である。 

大統領、リビアに対する軍事作戦の際、われわれの軍隊は「戦闘」に関与しないので議会の承認を取り付ける必要はない、とあなたは言った。それに加えるに、201141日には、あなたの弁護士事務所からのあなた宛のメモには、「オバマ大統領は、リビアにおいて予見される軍事作戦をその性格や範囲ならびに期間を限定したものとすることによって、事前に議会の承認を取り付けることもなしに、国益を守るためには憲法で認められた大統領権限を頼りにすることが可能である」と記されている。

われわれは、「国益」 が明白でありさえすれば議会の承認もなしに戦闘に関与することが可能であるとする弁護士からの意見は違憲であると判断する。

われわれは、シリアにおいて米国の軍隊の使用を命令する前に議会に相談し、その承認を得るようあなたに強く要請する。そうしなければならないあなたの責任は憲法ならびに1973年に採択された戦争遂行権限に関する決議に明記されている。

創設者たちは賢明にも大統領府に緊急時には行動を起こす権限を与えているが、その一方で、彼らは米国の軍隊を派兵する前に国民的論議を確実にする必要性、ならびに、議会の積極的な関与が必要であることを先見していた。米国に対する直接の脅威が存在しないシリア紛争にわれわれの軍隊を関与させることは憲法で明記されている権力の分離を侵害することになろう。

多分、歴史にも残るかも知れないようなこれらの強い言葉によって、議会は憲法に明記されている戦争と平和に関する諸々の事柄を決定する権限を自分たちの手に取り戻そうとし始めたのだ。重要なことは、この手紙は共和党の議員からのものであり、特にロン・ポール、ジャステイン・エイマッシやランド・ポール、等の共和党内でも自由主義を標榜する議員たちの指導に対する賛辞でもある。

しかし、状況は十分に深刻であり、世界大戦へと発展する可能性を秘めているとして、民主党の21人の議員も大統領に対して挑戦状を叩きつけ、自分たちの党のボス議員たちに対しても声明文に署名をするよう迫っている。彼らの動きは、かってイラク戦争に突入しようとしたブッシュ大統領に異議を申し立てたロン・ポールのように、党派の垣根を越えている。

その手紙が言いたいことが上記のようなことだとするならば、極めて重要な状況にある。しかし、この声明文はさらに先へ進み、リビアに対するオバマの過酷な戦争は議会の賛同もなしに実行されたことから「違憲」であるとしている。結局、大統領の重大な行動が「違憲」であると議会が判断した場合、議会がこうすると決定した内容については弁護士や裁判所、あるいは、最高裁であってさえもそれを覆すことはできない。リビアに対する空爆では、オバマは議会の権限を侵害した。もし議会が次の一手を取り、そのような行動が「政府高官の罪」の域に達するならば、それは弾劾されても当然な違法行為である。

....下院議員たちがリビア問題を取り上げながら発した警告の意味するところを読み取ることはそれほど困難ではない。もしオバマ大統領が議会の承認もなしにシリアを攻撃するならば、それは二回目の罪となり、大統領罷免の訴えをさらに強めることになろう。

この共和党員が開始した行動、大統領に対する手紙はいったいどこまで波及するのだろうか。そこには大統領を罷免するような破壊力が秘められているという点に留意する必要がありそうだ。オバマ大統領およびその側近たち、ならびに、ネオコンで固められていると言われている安全保障補佐官たちにとっては今頭痛の種となっていることだろう。

 

参照:

1Obama urges military action against Syria, but will seek Congress’ OK: By Tom Watkins, CNN, August 31, 2013

2: War Weary Europe, The US Loses an Ally: by Severin Weiland, SPIEGEL ONLINE INTERNATIONAL, August 30, 2013

3Syria crisis: France is no longer shoulder-to-shoulder with US: By John Lichfield, THE INDEPENDENT, 29 August 2013

4Russia’s Vladimir Putin challenges US on Syria claims: BBC, 31 August 2013, www.bbc.co.uk/news/world-europe-23911461

5Impeachment: Congress Fires Opening Shot Across Obama’s Bow: By John Walsh, Information Clearing House, August 31, 2013