2014年8月16日土曜日

米国流「収容所群島」へようこそ! – 思想統制

米国における主流メデアによる一般市民に対する思想統制は今やその極に達したかのごとくだ、と指摘する論評に出合った。

マレーシア航空MH17便の撃墜が報じられた直後から、何の証拠もないのに、「あれはウクライナ東部の反政府派がブク・ミサイルを発射して撃墜したのだ」、「ロシアからミサイルを持ち込んだ」、「プーチン大統領は大悪党だ」といった根も葉もない言動が繰り返された。しかし、この大狂想曲はそう長くは続かなかった。ロシア政府が数多くの主要なメデアを前に、ライブで、全世界に対して検証可能な衛星画像等を用いて実際に何が起こっていたのかを提示し、説明したからだ。このロシアからの情報提供はそれまで続いていた米国・NATOEUによって行われていた宣伝の大合唱を大きく後退させた。
米国政府は当初MH17便を撃墜したのは親露派(とロシア)であるとする説に跳び付いたが、今や当初の見方からは後退し、米国の諜報部門の高官がウクライナ軍の関与説を支持するまでに変わった。これは724日のことだった。
オバマ大統領やジョン・ケリー米国務長官が余りにも声高に親露派説をぶち上げたことから、諜報部門としては政府の見解とは異なる自分たちの意見を公表しにくい立場に押しやられていたとも伝えられている。基本的には、米政府が諜報部門からの最終的な報告を待たずに、政府側の見解(つまりは、素人の見解)をゴリ押ししたことが大きな間違いであった。米国務省は昨年8月のシリアでの化学兵器による市民の大虐殺の際にもまったく同様の間違いをしでかした。そして、昨年の夏の記憶が冷めやらないこの夏、またしても同じ間違いをしでかしたのだ。
このような現状に関して、最近、諜報部門でかって高官の地位にあった人たちは現政権が政策を推進する際に諜報を取り扱う姿勢には間違いがあることを連名で指摘し、オバマ大統領あてに苦言を表明する手紙を送付した。
何らかの政治的な筋書きに沿って嘘の情報を流し、それを何回も繰り返す。そうすると、嘘の情報であってもそれはやがて独り歩きを始める。このような情報操作は第二次世界大戦前から戦中にかけてナチ・ドイツ政府の国民啓蒙・宣伝大臣であったヨーゼフ・ゲッペルスが採用した手法である。第一次世界大戦の前は、戦争の形態は二国間の軍隊と軍隊とが戦い、非戦闘員は戦争に直接関係することはなかったものだが、第一次世界大戦からは戦争の形態はガラッと変わって、当事国の国民全体を含む総力戦となった。こうして、一国の政府にとっては国民を如何に戦争に駆り立てるかが重要な課題となったのである。歴史を見ると、日本を含めて、他の多くの国でも同様であった。
ゲッペルスは「宣伝の天才」と称され、ナチ・ドイツを維持するための情報操作で辣腕を振るった。ウィキペデアによると、彼はこう言っている。「もしあなたが十分に大きな嘘を頻繁に繰り返せば、人々は最後にはその嘘を信じるだろう。嘘によって生じる政治的、経済的、軍事的な結果から人々を保護する国家を維持している限り、あなたは嘘を使える。よって、国家のために全ての力を反対意見の抑圧に用いることは極めて重要だ。」 また、「もっとも速度の遅い船に船団全体の速度を合わせる護送船団の如く、知識レベルの低い階層に合わせた宣伝を心掛ける」ことが政治宣伝のあるべき姿であると心掛けていたとも言われている。
米国・キエフ・NATOEU枢軸ならびにその主要メデアはMH17便が撃墜された直後から宣伝戦に突入し、「撃墜をしたのは親露派の分離主義者だ」、「ロシアが支援した」、「プーチンは大悪党だ」という大合唱を始めた。ゲッペルスが述べた宣伝の手法と何とよく合致するのだろうか。まさに、驚くほどである。
こういった昨今の欧米のメデアの風潮を「まるで収容所群島のようだ」と評した人物がいる。
「収容所群島」と言えば、旧ソ連時代のソルジェニーツンの小説で有名だ。1970年代、われわれ読者はあの本が伝えようとしたソ連における強制労働収容所の実態にひどく興味をそそられたものだ。たかが一冊の本とはいえ、この本は欧米の読者にとっては歴史の一部として語り継がれるほどの衝撃を与えた。一方、旧ソ連では、この本は1989年まで禁書であった。 
そういった歴史的背景を持った「収容所群島」という言葉が米国やヨーロッパの今の世相を描写するのに使われ、それが妙に的を射ていると感じられるのは何故だろうか。
「米国社会は収容所群島のようだ」と言ったのはアイルランド出身のフィニアン・カニンガムというジャーナリストだ [1]。このジャーナリストは国際問題に関して数多くの論評を著しているが、そのひとつは47日に「ロシアとEUを戦争に引っ張り込みたい米国の戦略」と題した小生のブログでもご紹介した。
それでは、フィニアン・カニンガム氏の最近の論評を仮訳し、下記に皆で共有したいと思う。
ウクライナでロシアとNATOとが武力衝突をした場合、それは米露間の核戦争に発展する可能性があることから、私は米国の主要メデアが行っている反ロシアの大合唱は戦争を煽ることになって、危険極まりない行為であると認識している。ふたつの核大国の間で核戦争になったら人類の終焉が待っているだけだ。どちらが先に核攻撃をした場合であっても、結果は同じである。発行部数や視聴率を重視して扇動的な報道に走ることは極力自制して、もっと冷静な報道をして欲しいと願うばかりだ。
この願いこそが「米国社会は収容所群島のようだ」と言った記事をご紹介する理由である。
当然のことながら、ここに引用する論評の内容にご賛同いただけるかどうかは読者の皆さんのご判断次第だ。私としては、日本のメデアが取り上げてはいないだろうと思われる英語圏の記事を日本語でご紹介することに尽きる。ウクライナ危機に関して言えば、最近は仮訳を待つ記事の数が増える一方である。 

<引用開始>
米軍の高官が公の席でウクライナでの出来事に関してロシアを悪者扱いしようとして根も葉もない「メデアの話題」を繰り返して喋ると、米国の諜報部門にとっては厳しい事態となることは皆さんもご承知の通りだ。
誰の場合であっても、たとえば、それが数多くの勲章で身を飾っている将軍の場合であっても同じことであるが、何の考えもなしにどうして自分の身を辱めるようなことをするのだろうか? 
思想統制を行っている米国流収容所群島へようこそ!これはひとつの文化であるとも言えそうであるが、メデアは自由と独立という大いなる幻想に浸り、惰眠を貪っている。しかしながら、現実には、彼らは反対意見をことごとく潰そうとし、異議を唱える者を罰する専制君主のように振舞う。 
先ずは米国のマスメデアがどのようにウクライナ紛争やマレーシア航空の旅客機の撃墜を取り扱っているかを見て欲しい。その様子は恐ろしい限りであって、物事をじっくりと考えようともせず、十分な情報に根ざそうともせずに、「ロシアがやった!」とか「プーチンがやった!」あるいは「モスクワには経済制裁を!」との大合唱だけが進行している。村八分にされたり、中傷されたりすることの痛みを避けようとして、この思想統制から外れることは誰も許されず、質問をすることさえもできない。  
米国には物理的な収容所として2百万人を超す囚人を収容することが可能なグアンタナモ刑務所やその他無数の刑務所が存在する。それに加えて、専制的なマスメデアと思想統制によって縛られた米国流収容所群島がもうひとつの現実として存在するのである。
この仮想の監獄に入った最近の囚人は米統合参謀本部議長のマーテン・E・デンプシーである。彼はウクライナにおけるロシアを非難し、東部のドネツク地域で撃墜されたマレーシア航空の旅客機の話を持ち出した数多くの公僕の中でも最後のひとりとなった。同機は717日に多くの疑惑が存在する環境下で墜落し、298名の乗員・乗客全員が死亡した。
オバマ米国大統領と他の米政府の高官たちはこの大惨事を政治問題化しようとして、ジェット旅客機を撃墜したのはロシア政府とウクライナ東部の反政府派勢力であるとして非難した。信頼できる証拠はそのかけらさえも提示することはなかった。ワシントン政府や西側の同盟国ならびに欧米のメデアによって今までに引用された証拠は多くが検証が不可能な秘密の情報であって、キエフ政権によってでっち上げられた素人じみた偽データであることが判明している。キエフ政権の嘘をつき、否定し、突飛な主張をする能力には限界は存在しないかのようだ。 
しかし、信頼できる情報が欠如している中、ワシントンとEUのいわゆる指導者たちはロシアの戦略的な分野であるエネルギーや金融および防衛産業に対する経済制裁を、今週、一段と厳しいものにしようとしている。 
ロシアがこの旅客機の撃墜に対して責任を持っていると主張するにしてはワシントン政府は信頼できる証拠にはまったく欠けているのだが、大騒ぎをしてそれを埋め合わせようとしている。しかも、大量にだ。別の言い方をすれば、宣伝文句をますます主張する始末である。
こうして、宣伝文句を主張するために通りを練り歩いているのはオバマ大統領であり、ジョン・ケリー国務長官であり、大統領選への出馬を目論んでいるヒラリー・クリントンであり、民主党の議会指導者であるナンシー・ペローシであり、長老のダイアン・フェインスタインである。それに続いては、政治貴族であり、ずる賢い米国帝国主義者のズビグニュー・ブレジンスキーやマデレーン・オルブライトの姿も見える。これらの高位高官の連中は誰もがロシアのウラジミール・プーチン大統領はMH17便の撃墜に何らかの形で関与していたと、判で押したような非難をすることによって米国のメデアをもてなした。控えめに言っても、お喋り好きの操り人形たちの大合唱によると、プーチンは独立を標榜する反政府派に武器を供給したことから有罪であると言う。
しかも、これはこの大惨事に対して独立した国際的な調査が行われる前の段階での話である。今週、オランダとオーストラリアの調査団は墜落現場へ入ることができなかった。何故かと言うと、西側によって支援を受けているキエフ政府がウクライナ東部の独立派でありロシア語を喋る地域住民に対して戦争を仕掛けているからだ。何故西側は調査を妨害するような政府を支持しているのだろうか?何故西側は町や集落を無差別に砲撃し、何百人もの犠牲者を出している政府を支援しているのだろうか? 何故西側のメデアや政治家はこういった紛れもない質問をしようとはしないのだろうか? 
さて、プーチンをやり玉に挙げようとするこの愚かな大合唱に加えて、一銭程の価値しかない自分自身の重々しさを示そうとする最高位にランクされたひとりの軍人が登場してきた。それはデンプシー将軍である。
リンチをしようとする暴徒たちの痛烈な非難に一種の歪曲を新たに付け加えて、デンプシーはプーチンに対する非難の言葉を繰り返した。プーチンのロシアは国境を越してウクライナへ向けてミサイルを発射している、と。デンプシーは先週コロラド州のデンバーで安全保障の会議場で話をしていた。彼はこれらの言葉を撃墜されたMH17便に関する文脈の中で引用していたことは明白である。
聴衆に向けてデンプシーはこう言った。「ここには自分たちが所有する武力を他国の領土内で行使することを意識的に決定したロシア政府がある。このような事態は、私が思うに、実に1939年以降初めてのことだ。」
彼の怪しげな歴史の捉え方は別にしても、ロシアがウクライナへ向けて砲撃を行ったとする証拠に関しては、この米軍のトップは自分の主張を支える証拠を挙げようともしなかった。彼は単に米国務省の報道官であるマリー・ハーフが当日もっと早くに述べた事柄を繰り返して喋っただけであった。米国政府は自分たちが行ったロシアに対する主張を支えると思われる衛星画像を公表した。しかし、これらの画像はソーシャル・メデアに掲載されたものであって、解像度が低く、検証可能な地理的な場所を示すデータもないことから、冷笑を誘う始末であった。
それでもなお、デンプシーは彼の相手であるロシアの軍部はむしろ彼の側にあると主張した。すなわち、これらのロシア軍の大物たちはモスクワ政府の政策とは意見を異にしている、と述べたのだ。
デンプシーはウラジミール・プーチンがヨーロッパにおいて地政学的な戦略を実行しようとしているが、それはあたかも「コントロールを失うことになる火遊び」のようなものだとして、プーチンを非難した。 
さらには、この米国の将軍は自分の相手であるロシア軍の参謀総長であるヴァレリー・ゲラシモフ将軍の名前を挙げて、ゲラシモフは「ウクライナならびにヨーロッパに対するプーチンの干渉については消極的である」と述べた。
米国防省のある報告書に引用されていることであるが、デンプシーは「ロシアの軍部は、恐らく、その気ではないと私は思う。こういったことを喋るのは私にとってもリスクが伴うけれども、連中の10人位は明日にでも収容所送りとなるのではないか。でも、私が知っているロシア軍やその指導者たちは、恐らくは、この種の武力衝突には、どちらかと言うと、参加したくないと思っているのではないか」と述べた。
ロシアのゲラシモフ将軍は先にワシントン政府がウクライナや他の国で推進した「カラー革命」を非難している。これはロシアを不安定化させることを目的とした新種の戦争行為であると言った。ゲラシモフやロシアの軍部はウクライナで燃え上がっている紛争は米国がウクライナで関与した非合法的な政権交替に端を発していることを十分に認識している。マレーシア航空の旅客機の悲劇は米国の扇動という厳しい文脈の中でじっくりと見つめなければならない。ウクライナの国境を越してロシア領内に対して行われている砲撃についても同様である。これらはデンプシーや他のワシントンの高官らが主張する内容とはまったく矛盾するものである。 
ロシア側の相手に対してデンプシーが心理的な作戦を展開していると推測するのは誇大解釈だろう。証拠が示す実像は、この米軍のボスは余りにも愚かであって、とてもそのような黒魔術を遂行するだけの器量はない。 
彼が公共の場に現れることによっていったい何が表面化するのかと言うと、それは米国の諜報活動が如何に低いレベルにとどまっているかという点だ。もしも米軍の高官が安っぽい政治的な得点を達成するために素人くさい嘘や作り話をまじめに繰り返すことが出来るのだとすると、それは米国の最高機関がひどく悪化してしまったという事実を顕わにすることに他ならない。
一国の兵は誠実さのために勇気をもって立ち上がる高潔な戦士であると見なされている。米国においては、米軍の指導者は余りにも多忙であって、客観的な証拠や誠実さに基づいて独自の判断をするのではなく、むしろ、周りに広く喧伝されている筋書きや思想警察に調子を合わせようと専念する始末だ。 
米メデアの統一見解に奴隷のように従順について行く他のすべての評論家や政治家の場合と同様、デンプシー将軍も真実について自分自身の考えを巡らし、真実を喋ろうとすると米国社会から隔離されるのではないか、つまり、収容所群島のどこかに放り込まれるのではないかとひどく恐れているように見える。
© Strategic Culture Foundation
<引用終了> 

米国社会全体が収容所群島と化したかのようだとの指摘は秀逸だ。とにかく、分かりやすいところがいい。この記事によって、米国の社会は今やこのような状況になっているのか、米軍の高官はこういう風に動いているのか、等についてより具体的に理解することができる。
また、この著者は米国の諜報部門は質が低下していると見ている。
NH17便が撃墜された時、米国政府はいち早くウクライナ東部の反政府派をその犯人扱いをし、それと同時にロシアを、さらには、プーチン大統領を大悪党だと位置づけた。しかし、その1週間後、米国の諜報部門はロシアはこの民間機の撃墜には直接の関与をしてはいないと認めた。
この一連の動きを見ると、米国の諜報部門(CIA)にはふたつの部門があって、ひとつは国際政治部門、もうひとつは情報分析部門であり、これらの間では米国政府の政策を巡っての主導権争いがあるように見受けられる。
CIA内部の暗闘はわれわれ素人にとっては興味津々であるが、それに関しては、別途、詳細に検討したいと思う。 

   
MH17便の墜落原因はまだ特定されてはいない。ブラックボックスの解析が進行中である。ただ、その作業が行われている場所は英国の研究所である。英国は米国とならんで上述の大合唱を扇動してきた。この事実を考慮すると、このブラックボックスの解析作業が誠実に実施されているのか、何も隠さずに結果が公表されるのかはその時が来るまでまったく予測がつかない。
今は何の報道もなくて、台風の前の静けさみたいだ。そよ風程度で終わってくれれば申し分ないのだが、超ド級台風となる可能性もある…
 

参照:
1The American Gulag Of Thought-control: By Finian Cunningham, Information Clearing House – Strategic-Culture Foundation, Aug/03/2014






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