2014年9月27日土曜日

MH17便に関するオランダの報告書は米国からの情報に欠けている - これはいったい何を意味するのか?


一時あれほど騒いでいたメデアに異変が起こった。 

主要メデアの宣伝や米国・英国政府の主張が急に静かになってしまった。その沈黙振りは当初のはしゃぎ様と比べるとまさに異様な感じがする程である。 

そこへ、818日、「メデアやオバマ政権はNH17便に関してなぜ沈黙してしまったのか?」と題する記事 [1] が現れた。同記事が言わんとする内容は一般大衆が抱く常識的な疑問を代弁しているように感じられた。その記事を部分的に引用してみよう。こんな具合だ。 

「…MH17便がどのようにして撃墜されたのかを結論付けることは時期尚早ではあるが、数多くの証拠によると、それらの証拠はウクライナ政府が犯人であることを示唆しており、その背後には米国政府とヨーロッパのNATO諸国が控えている。彼らはMH17便を破壊する環境を整え、この2月にはキエフでクーデターを支援し、西側に傾倒する勢力を政権の座に就かせた。そして、西側のメデアはウクライナ東部において反政府派を武力で制圧するというキエフ政権の政策を支持した。これがウクライナ東部を戦場と化してしまい、MH17便は同地域で撃墜された。 

298人もの犠牲者を出したこの撃墜事件では、彼らは重要な役割を果たしているが、十分な説明は成されてはいない。この撃墜事件の後、西側の政府や諜報機関はこぞってこの悲惨な撃墜事件を絶好の機会として捉え、プーチン政権に対する脅かしをいっせいに展開した。沈黙は同意を意味する。キエフ政権がMH17便の撃墜に関与していたことに関する気まずい程の沈黙は外交政策関係者だけではなく追従者でもあるメデアや各国の指導者階級全体の犯罪性を立証するものである。」 

上記のような指摘だ。なかなか手厳しい。 

このMH17便の撃墜事件でもっとも多くの犠牲者を出したオランダは事故調査を率いる役目が与えられた。そして、最近、暫定的な調査報告書が「オランダ安全会議」のウェブサイト(www.safetyboard.nl)にて公開された。 

この暫定的な報告書に関しては、ロシア政府を始めとして、数多くの批判が寄せられている。 

ロシア政府の最大の不満は現行の調査が透明性を欠き、客観性にも劣るという点であって、透明性や客観性を高めるために国連の積極的な関与を要請している [2] 

また、ある研究者はオランダ安全会議が発行した34頁にわたる暫定報告書は米国が所有していると思われる諜報データをまったく反映してはいないことから、そのことを同報告書の信ぴょう性を疑う根拠としている [3]。これは非常に鋭い指摘だ。 

今日のブログでは、この3番目の記事を仮訳し、皆さんと共有したいと思う。
 

<引用開始> 

ウクライナで起こったマレーシア航空MH17便の撃墜に関して「オランダ安全会議」が公表した暫定報告書では米国が所有していると思われる「諜報データ」がなぜか欠如している。この状況を見ると、米国政府の政治課題やすべての省庁・組織およびその背後にいる政党にはいったい信頼性や正邪を判断する分別があるのかと問いかけたくなる程だ。 

暫定報告:マレーシア航空ボーイング777-200型機、MH17便の撃墜 (pdf)」と題した報告書はMH17便の撃墜の理由を解明するために幅広い証拠を取り上げ、将来同種の事故が二度と起こらないようにしようとしている。証拠としてはコックピット・ボイス・レコーダー(CVR)、フライト・データ・レコーダー(FDR)、航空管制(ATC)の監視データや無線連絡内容の分析、気象環境の分析、損壊した機体の科学的捜査、病理学的な調査結果、ならびに、機内で進行した破壊の順序に関する分析、等が含まれる。

撃墜事故後の現場を解析するに当たっては衛星画像が参照されているのだが、この報告書には、何処を見ても、米国の諜報機関から証拠として入手される筈のミサイル発射装置に関する衛星画像、あるいは、MH17便がミサイルによって撃墜されたことを示す情報や証拠はまったく見当たらないのである。事実、本報告書は次のように結論付けている:

本報告書は暫定的なものである。この報告書に含まれている情報は当面のものであって、追加的な証拠が入手できた時点で変更や改訂が行われるものと理解して欲しい。今後の作業の結果、事実情報を立証するために少なくとも下記の分野を網羅するものとする:

·        機内で記録されたCVRFDRおよび他の情報源を含め、諸々のデータの詳細な分析
·        ATC監視データや無線通信の詳細な分析
·        気象環境の詳細な分析
·        損壊した機体の科学的捜査(機体が回収され、外部から侵入した物体が発見された場合)
·        病理学的な調査結果
·        機内で起こった破壊の順序に関する分析結果
·        紛争地域や安全上のリスクが高い地域の上空における運航者ならびに事故発生当事国の航空安全管理体制の評価
·        この調査中に調査が必要と認められたその他の分野 

ブラックボックスを入手し、機内からの情報源やウクライナやロシアの地上の情報源から得た膨大なデータを所有しながらも、「オランダ安全会議」は結論を下すことには躊躇し、誰も結論に跳び付いてはならないと主張している。

この報告書はロシアから収集した情報を具体的に記述し、そこには航空管制やレーダーの情報など
撃墜事故後にロシアによって一般公開された情報も含まれている。本報告書はウクライナの航空管制官から入手したデータも引用している。米国はどうかと言うと、航空機の機体が米国製であることから撃墜された航空機に関する技術データが提供されていることを除くと、他には如何なる情報も提供されてはいないのである。

米国の諜報データが欠けているという事実は自作自演を示唆している  


Photo-1:ブラックボックス
 

もしも米国がMH17便はミサイルによって撃墜されたとする説を支持するような情報を所有していたならば、米国は間違いなくその情報を提出した筈であり、オランダ安全会議は当該情報を暫定報告書に含めた筈である。そういった情報が予想通り欠如しているということは世界中の批評家や分析専門家ならびに政治家が当初から長い間抱いていた疑念を裏付けるものとなった。即ち、MH17便に関する西側のあまりにも時期尚早な結論は政治的な計略に支配されたものであって、真実の究明に根ざしたものではなかったということである。NH17便はミサイルによって撃墜されたとする西側の主張は報告書には見られない。何故かと言うと、まず第一にそのような事実はなかったからだ。

オランダ安全会議は膨大な量の情報を手にしていながらも、依然として最終結論を述べることができず、暫定的な結論を記述するに留まったという事実はMH17便の撃墜後何時間あるいは何日間かにわたって西側の評論家や政治家が証拠もなく言い張っていたあの確信が如何に無責任なものであったか、如何に政治的動機に支配されたものであったかを暴露し、そして、彼らはあの悲劇を利己的に活用しようとしたものであることを暴露した。最悪の場合、西側、特にNATOがこの犯罪の主犯ではないだろうか。この悲劇からもっとも得をするのはNATOではないかと見られるからだ。

自作自演が動機付けを促す

MH17便の悲劇の後、西側は大急ぎでロシアに対する経済制裁を発動し、キエフ政権やウクライナおよび文字通りネオ・ナチの民兵組織のためにさらなる軍事支援を与えることを正当化した。彼らは西側の政治目標のために奉仕し、ウクライナのもっとも東部に位置する州において残虐な内戦に従事している。経済制裁を掌握し、内戦が本格化する中、
MH17便の悲劇は西側の脚本からは完全に排除されたかのようであるあたかも何も起こらなかったかのように…  もしも西側がウクライナ東部の反政府派またはロシアを糾弾する証拠を持っているとしたら、世界はその真実が公衆の面前に完全に提供されるまではMH17便の悲劇にケリがついたなんて理解することは決してできない筈だ。


Photo-2:破壊された機体 

オランダの調査官が暫定報告書を発表した時、西側は単に当初の主張を繰り返して述べ、同報告書に対しては自分たちの矛盾する主張を単純に強要しようとした。これは、あたかも、一般大衆は34頁もある報告書を実際に読むことはないだろうと彼らは思っているかのようだ。

たとえば、「
マレーシア: オランダの報告書はMH17便は地上からのミサイルで撃墜されたと題する報告の中でロイター通信は厚かましくも下記のように主張している:  
 
マレーシア航空MH17便はウクライナの上空で数多くの発射物体の衝突によって破壊されたと、この火曜日(916日)、オランダ安全会議が公表し、マレーシアの首相ならびに何人かの専門家はある報告で同機は地上からの攻撃によって撃墜されたと語った。
ロイター通信の宣伝臭の強い記事の表題はその記事の最初の節とは真っ向から矛盾する。オランダ安全会議ではなく「専門家」たちは「同機は地上からの攻撃によって撃墜された」と主張していると伝えているのであって、実際のオランダの報告書自体はその種の主張はまったくしてはいないにである。
ロイター通信が引用した「専門家」とは実際にはこの暫定報告書とは何の関係もなく、彼らは実際には何時ものように西側が選んだ、自分たちに都合のよい評論家たちのことを指している。自分たちの政治目標を世界的に推し進めるために、でっち上げのシナリオを作り、それを永続させながら、西側は常に彼らの言うことに従う。そういう評論家のことである。

MH17便の悲劇から学ばなければならない教訓は実際の調査や調査の結果から得られる結論に漕ぎつけるには時間を要するということだ。何週間も、あるいは、何ヶ月も必要となる。MH17便の悲劇が起こった後何時間か何日か以内に直ちに結論めいたことを喧伝していた連中は悲劇的な出来事を活用しようとしたのだと言える。最悪の場合は、彼ら自身がその出来事を仕掛けた犯人であることを示唆している。そういった喧伝を通じて彼らはさらなる無秩序や紛争ならびに混乱を誘発させようとする。

結論に跳び付こうとする衝動を抑えきれない連中は指導者的な位置につくにはもっとも不適格である。米国や英国ならびにEUは、疑問の余地がない程に、自分たちはせいぜい無神経で、無責任、しかも、政治的な動機に基づいて人類の悲劇を不当にも活用したことを証明した。最悪の場合、彼らはウクライナならびにさらにその先の地域において戦争や大虐殺を起こそうとするハイエナにも似た行為をする主犯格であることを証明したのである。

著者のTony Cartalucciはバンコックを拠点とした地政学の研究者であり、作家でもある。
“New Eastern Outlook”というオンライン・マガジンへの寄稿を続けている。  
 

<引用終了> 

かなり手厳しい論評である。入手可能なさまざまな証拠に基づいて、米国・EUNATOMH17便撃墜の犯人であると断定している。 

政治家や彼らを取り巻くメデアには特有の言い回しがあって、われわれ一般大衆はなかなか真の情報に辿りつけないことが多い。 

その最たるものは2001911日にニューヨークの世界貿易センターの崩壊を中心として起こった「911同時多発テロ」ではないだろうか。主要メデアばかりではなく、米国議会が指名した独立調査委員会の報告書さえもが不完全で、偏見に満ちていると評されている。「911テロ」の真相について十分な調査が行われてはいないのである。 

多くの建築工学や材料工学の専門家がワールド・トレード・センター・ビルでは一体何が起こったのかを科学的に説明しようとしている。彼らの報告書は多くが事実を解明し、真相を究明しようという熱意あるいは使命感に基づいて作成されている。そういった専門家の報告書を読むと、独立調査委員会作成の報告書が報告しなかった事実が如何に多いか、また、報告をしていても如何に偏見に満ちた報告をしているかを悟ることになる。情報の隠ぺいや歪曲が行われているのだ。

この911テロ事件にまつわる政府や議会の報告ならびに主要メデアの報道にはどこか共通点が感じられる。それらの背後には最終的な意思決定者がいて、彼らが全てを取り仕切っているという構図が浮かんでくる。 

そうした経験をそう遠くはない過去に持っている米国民や真相を知りたいという率直な願望を持つ世界の市民にとっては、今回のMH17便の悲劇の真相も十分に究明されないのではないかという疑念が払拭できない。少なくとも、今回公開されたオランダ安全会議の暫定報告書では歯切れの悪さについての不満は決して小さくはないようだ。
 

♞  ♞  ♞ 

もうひとつ付け加えておきたい情報がある。 

非政府系の「ロシア技術者団体」(Russian Union of Engineers)がMH17便の撃墜に関して調査結果を公表した [4]。この調査グループはロシア技術者団体に属する専門家によって構成され、対空ミサイルの扱いに経験を持っている予備役の将校や航空機搭載の武器の取り扱いに習熟している元パイロット等も参画している。 

その調査報告書によると、撃墜時の様子が再現されている。同報告書の一部を下記に示してみよう。
 

<引用開始> 

9章  何が起こったのかに関する再現
上記に基づいて、われわれは下記の結論を得るに至った:
9.1. マレーシア航空のボーイング777ジェット旅客機が撃墜された際の周囲の状況:
マレーシア航空のボーイング777型機は、2014717日、アムステルダムからクアラルンプールへ向けた飛行を同社が設定した運航経路に沿って行っていた。それと同時に、手動による飛行は止めて、自動パイロットによる飛行が行われていたことはほぼ間違いがない。飛行は水平状態にあり、運行ルート上を飛行し、ウクライナの管制塔の指示に従っていたものと想定できる。
1717分から1720分、ボーイング777型機はウクライナのドネツク市に近い空域にあって、飛行高度は1万百メートルにあった。所属不明の戦闘機(Su-25またはMig-29)が雲の層に隠れて一段下の高度にあり、旅客機と交差するコース上にあった。同戦闘機は急速に高度を上げて、突然雲の層の中から民間機の前に現れ、30ミリあるいはそれよりも小口径の機関砲を用いてコックピットに向けて掃射した。戦闘機の操縦士は「自由追跡」モードで、あるいは、地上のレーダー基地からの航行支援を得ながら、こういった作戦を実行することが可能だ。
機銃による多数の銃撃を受けた結果、コックピットは損壊され、機内圧力を突然失い、乗組員は即死状態にあった。この攻撃は突然起こったもので、ほんの短時間の出来事だった。乗組員は通常飛行モードにあり、このような攻撃を予期する術もなかったことから、緊急警報を出すこともできなかった。
エンジンや油圧機構ならびに飛行を継続するために必要な他の機構は何れも運航状態を維持していたことから、ボーイング777型機は(基準通りに)オートパイロット状態にあり、水平飛行のルート上を飛んでいたが、恐らくは、次第に高度を落としていった。
所属不明戦闘機のパイロットはボーイング777型機の後方に回った。同戦闘機は攻撃コースを維持し、操縦士は目標追跡装置をオンにして攻撃目標を定め、R-60 またはR-73ミサイルを発射した。
その結果、キャビンの圧力は低下して、航空機操縦システムは破壊され、オートパイロットは中断、同機は水平飛行を継続する能力を失い、きりもみ降下状態に陥った。その結果、過大なストレスにより機体の損壊が高高度にて進行した。
フライト・レコーダーから得られる情報によると、同航空機は空中で破壊されたが、これは1万メートルもの上空から垂直に落下した場合においてのみ起こり得る破壊であって、最大許容荷重よりも大きな負荷がかかった場合にのみ起こる。失速し、きりもみ状態に陥るのは乗組員が航空機の制御をすることができなくなった場合であって、本事例においてはコックピット内の緊急事態とそれに続いて起こったコックピット内や客室内の瞬間的な圧力低下の結果である。この航空機は高空で破壊した。これはその残骸が15平方キロにも及ぶ広大な地域に散在している残骸によって説明できる。
9.2. 283人の乗客と15人の乗務員の犠牲者を出したのは誰の責任か:
2014717日、自称ドネツク民主共和国の武装自警団はボーイング777のような航空機を破壊することが可能な戦闘機を有してはいなかったし、必要となる空域ネットワークやレーダー探査や照準ならびに追跡を行うことが可能な手段を持ち合わせてはいなかった。
ロシア連邦の軍部の戦闘機がウクライナの空域を侵犯した事実はなく、ウクライナ側だけではなくウクライナ情勢ならびにその空域を監視する第三者によってもこの事実は確認されている。
真実を確立するためには、マレーシア航空のボーイング777の撃墜の状況を客観的に、かつ、公平に調査し、何らかの状況を目撃した何千もの市民を聴取することが求められる。当然ながら、経験の豊かな調査官がこのような調査を実施するべきである。適切な質問を行わなければならない。これは厳密な科学であり、真理を追究する上で必要となる偉大な技でもある。航空機の残骸や死体には重要な情報が含まれているが、この貴重な情報は容易に破壊され、歪曲され、隠ぺいされたりする。また、真理を隠ぺいしようとする当事者も少なからずいる。確認のために断っておくが、ウクライナとオランダ、ベルギーおよびオーストラリアは、88日に撃墜の調査を開始するに当たって、ある合意書に署名した。これは調査結果の情報は当事者全員が同意する場合に限って公表することができるという内容だ。「調査は専門知識に基づいて進行しており、その他諸々の調査活動が行われている」と、ウクライナ検事総長の報道官であるユーリ・ボウチェンコが言った。また、「結果は調査が完了した時点にこの合意書を作成した当事国の同意に基づいて発表される」とも付け加えた。  

<引用終了> 
 

何をかいわんやである。
 
このロシア技術者団体の報告書の「誰が主犯か」の項では、主犯とは思えない者を消去していった。ドネツク民主共和国の武装自警団は戦闘機を所有してはいないということで、消去された。そして、ロシアも消去された。しかし、誰にとっても明白ではあるが、もっともそれらしい国が消去されないまま残っている。すべては読者の判断に任されている。心憎い報告書である。 

88日、ウクライナとオランダ、ベルギーおよびオーストラリアの間で合意が成された。その合意内容によると、それらの国の何れかが自国に都合が悪いと言って同意しない場合はその特定の情報は公表されることはないとしている。 

この民間機撃墜事件の調査ではリーダー役を務めるオランダがこの協定に絡んでいるという点、ならびに、犯人ではないかと推察されるウクライナが同協定の一翼を担っているという事実はNH17便撃墜の真相が果たして公表されるのだろうかという疑惑を嫌が上にも高めている。 

結局、このNH17便撃墜事件の調査結果の最終報告書は「911テロ」に関する調査報告書のように中途半端な、的を得ないものになってしまうのではないだろうか? 

今後の展開に注目したいと思う。 

 

参照:
 
1Why Have the Media and Obama Administration Gone Silent on MH17?: By Niles Williamson, Information Clearing House - World Socialist Web Site, Aug/18/2014

2Russia critical of MH17 inquiry, wants bigger U.N. role: By Michelle Nichols, Reuters, Sep/19/2014
3Dutch MH17 Investigation Omits US “Intel": By Tony Cartalucci, Information Clearing House – Land Destroyer, Sep/19/2014
4Analysis of the causes of the crash of Flight MH17 (Malaysian Boeing 777): By the Russian Union of Engineers, Aug/15/2014

 

2014年9月20日土曜日

ウクライナ停戦プロトコールを分析する

914日掲載の「ウクライナ停戦 - Q&A」に続いて、ウクライナ停戦プロトコールを専門家はどう解釈しているのかについて詳細を調べてみたいと思う。今回の情報の出処もハヤブサ・ブログ [1] である。

さっそく、その仮訳を下記に示してみよう。 

<引用開始>
数多くの人たちが何の正当な理由もなしにパニック状態に陥っていることに私は非常に強い印象を覚えた。私は最近掲載したQ&Aを通じて(もしもまだ読んではいないならば、是非とも読んでみて欲しい!)、私は鎮静化に最善の努力をしてきたが、私の言いたかったことは聞く耳を持たない人たちの上を素通りしただけであったというのが私の印象だ。それから、ユーリ・バランチクの記事を掲載してみた。返って来た反応に私は再度がっかりさせられた。そこで、今回は、私自身よりも遥かにましな人物に登場してもらうことにした。アレクサンダー・メルクーリスを試してみたいと思う。正直言って、すっかり心を決めてしまった連中は私のこの努力によって気を変えてくれるとはとても思えないが、少なくとも、塀の上に登って塀のどちら側へ跳び下りようかと思案にくれている人たちや複雑な現状にすっかり惑わされている人たちを少しでも安心させたいと思う次第だ。
このテーマにあれこれと関与している間、モズゴヴォイやストレルコフの手紙を掲載したことによって私は明らかに多くの人たちを惑わせてしまった。ここではっきりさせておきたいことがある。私は(1)彼らは私にそうして欲しいと思っていると想定した、(2)彼らは正直である、そして、(3)彼らは正しいみたいだ、といった判断に基づいてそうしたのだ。しかしながら、私が何度も言っているように、「可能性がある」と「起こりそうだ」との間には大きな隔たりが存在する。そう、モズゴヴォイやストレルコフは正しいのかも知れないが、私の意見では、これは起こりそうにはない。彼らは間違っていると私は思う。
また、私はここで他の事についても共有しておきたいと思う。「洞察の水準」には違いがある。 一般幕僚の立場で戦略分析を行ってきた者として私は、師団や軍団あるいは国軍の水準で物を見る場合と比較すれば、国家を指揮する立場で見る場合には物事は非常に違って見えるということを断言しておきたい。モズゴヴォイは立派な連隊指揮官であり、ストレルコフは明らかにもっと上位の指揮官となる可能性を示している。つまり、彼はそのような階級(少将)を有してはいないが、偉大な軍団指揮官となる可能性を秘めているようだ。とは言え、これらの地位は依然として国家指導者の水準ではない。国家指導者は遥かに複雑な現実、私に言わせると無限に広がる現実を扱わなければならない。1812年や第二次世界大戦において、ロシアの将軍たちはクツゾフやスターリンとは非常に食い違う考えを持っていたが、将軍たちの意思決定の段階では結局のところ常に後者の考えが優勢であった。一方ではモズゴヴォイやストレルコフを、他方ではプーチンを信頼することが選択肢であるとするならば、私に言わせると、それはもう頭を使う必要なんてまったくない。前者の二人には、単純に言って、プーチンが所有する情報を入手することはできないからだ。事実、ロシア政府においては、限られた少数の者たちだけが全体像を見ることができる。それはロシア連邦の安全保障会議のメンバーたちであって、現実には、彼らは個人的にプーチンに近い人たちから成る非公式で小さなグループである。彼らは正しいのかも知れない。私はそれを否定はしない。だが、モズゴヴォイやストレルコフが全体像を把握していると想定することは単純な間違いだ。もしもその事実を受け入れるとすれば、彼らが行う現状分析は必ず正しいのだなどとどうして言えるのか?

ノヴォロシアの指導者のほとんどをいとも簡単に、かつ、迅速に交替させてしまったことはこれらの人たちが如何にロシアの権力構造の高位に位置していたのかということを皆に示してくれた。さらには、彼らが享受していた権力へ接近する手段についても皆に示してくれたと言えよう。

まずは、停戦合意プロトコールに関するメルクーリスの分析を読んでみて欲しい。


敬具


ハヤブサ・ブログ


追伸: 全体像を見るためには、マーク・スレボダによる分析も読んでほしい。彼はメルクーリスとは反対の視点を持ち、この停戦によってロシアはこの戦いを失うと推測している。
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アレクサンダー・メルクーリスによる停戦プロトコールの分析

(201496日記述) 

本停戦合意は激しい議論の結果であり、明らかに、ある人たちを不幸にした。今感じている時間の切迫が和らいだ時点で私は本格的な評論を書きたいと思うが、その前に本稿で私が観察した内容を手短かに述べておこう。 

1. 次の二点がポロシェンコや暫定政権に停戦を強要した:(1)暫定政権は軍事的には壊滅的な状況に陥っている、ならびに、(2NATO/EUはウクライナがバランスを再構築するために必要となる軍事的介入を拒否した。二番目の項目は昨日のNATOサミットでオバマが明確に言及した。彼は暫定政権に対して武器を供給することを公式に拒否した(注:でも、これを真剣に受け取るべきではない。武器はすでにかなりの規模で供給されているからだ。しかし、ひとつのしるしとなる公的な武器の供給は外見的にもその関与が否定されたことになる)。ところで、オバマはNATO憲章の第5条の重要性について述べているが、それはこの点を強調するためのものだ。第5条はバルト諸国を安心させるものではないと述べた(バルト諸国は脅威を受けてはいないので、これを再確認する必要はない)。キエフに対しては、ウクライナはNATOの一部ではないことからNATOからの軍事的支援は提供されないと強調した。 

2. 昨日公表された停戦合意はまだ出版されてはいないが、これは敵対行為を速やかに停止するための純粋に技術的で、かつ、暫定的な文書であるという印象が強い。この停戦合意は長続きするとは思えない。もっと永続的な合意によっていずれ置き換えられるか、戦闘が再開されるかのどちらかだろう。 

3. 停戦合意でもっとも重要な点はその文言にあるのではなく、プーチンが停戦についてポロシェンコと「合意」することを拒んだことを受けて、ポロシェンコはNAF(ノヴォロシア軍)と停戦を合意しなければならなくなったという事実だ。これはポロシェンコや暫定政権およびマイダンの活動家たちがこの時点まではそうすることを何とか避けてきたことである。しかし、停戦という非常に重要な案件についてNAFと交渉をし、彼らと合意を取り交わすことによって、NAFが単なる「テロリスト」という存在ではなく、紛争の当事者であり、暫定政権は彼らと交渉をしなければならないという事実を強制的に認識させられたのである。 

4. DPR(ドネツク人民共和国)やLPR(ルガンスク人民共和国)は武力闘争において決定的な勝利を手にしたことから、両共和国が生き残れるのかどうかという疑いの念は解消した。暫定政権がその軍隊を再構築して攻撃を再開するのではないかと心配する向きは次の事項を見落としている:  

(1)     軍事的成功を達成しようとする暫定政権の試みは彼らの軍事的な勝ち目が圧倒的に強かった時点において壊滅的な失敗に終わった。NAFは、「反テロ作戦」が開始された4月の時点、あるいは、暫定政権がNAFに対して大攻勢を仕掛けた7月の時点に比べて、今や計り知れないほど強力になっている。これは「私を破壊するに至らないすべてのことが、私をさらに強くする」 というニーチェの金言にも匹敵するようなケースだ。暫定政権が4月から7月の間にNAFを破ることができなかったとするならば、今やそれを破ることはもう不可能だ。

(2)      暫定政権は7月に実行したような大攻勢を近い将来に再開する環境にはない。暫定政権の軍部が大攻勢を再開する条件を備えてはいないばかりではなく、危機的な経済の現状ならびに冬の到来によってこのような動きは完全に排除される。停戦が維持されれば、さらに力を付けるのは確実にNAFの方であり、彼らは兵隊を訓練し、武器を修理する時間に恵まれ、拿捕した数多くの重火器を戦列に加えることができる。

(3)      ロシアはDPRLPRが破壊されることは決して許容しない。暫定政権やNATOはウクライナ軍はNAFではなくて、むしろ、ロシア軍に敗れたと主張するが、これは正しくはない。実際には、NAF側に利益を与えている始末だ。何故かと言うと、彼らは危機が到来するとロシアが決まって自分たちを救うために軍事的な介入を行うとの認識を持っているからだ。政治においては戦いの90%は認識次第であり、ロシアはNAFが負けること、ならびに、DPRLPRが破壊されることは許容しないという認識が今後ワシントンやブリュッセルならびにキエフの意思決定でも優先されることになろう。

5. DPRLPRが今や崩壊するような可能性がなくなったことから、政治的な主導権は彼らの手中にある。彼らは自分たちの目的が何であるかを明確にした: (1)すべてのウクライナ軍は彼らの領土から撤退すること、そして、(2)キエフ政府からは完全に独立することだ。プーチンは(1)を支持しており、(2)についてもやがては支持するだろうと私は以前言ったことがある。ポロシェンコはもちろん両項目とも拒絶している。何日か前、彼は停戦ならびにNAFとの交渉を否んだが、今や両方とも譲歩せざるを得なくなった。NAFからのさらなる要求を拒否するだけ力はもはや彼にはない。彼らの要求を無視すると止むを得ず公言した事実は彼がそのことを認めていることを示唆するものだとも言えよう。 

6. この一連の出来事の成り行きは暫定政権が戦場における自分たちの状況を改善するためにこの停戦を活用しないと言うことではない。また、ポロシェンコが惨敗を喫したという事実は彼がその事実に甘んじるという意味でもない。 彼が事実を認めてしまって、それに甘んじるとすれば、キエフにおいて彼がそれなりに所有している権力は胡散霧消してしまうだろう。ポロシェンコにとってはこの大敗北を認めることなどは到底できないことから、自分の地位を強化するためにはこの停戦を悪用して、彼は自分にできることならば何でも実行するだろうと私は推測する。まさにこの理由から、この停戦は一時的なものであって、やがてはNAFに対する新たな攻勢が始まるのではないかと私は推測している。  

7. 停戦に不満を感じる多くの人たち(たとえば、グレブ・バゾフやカッサド大尉)にとっては、暫定政権を倒すべくキエフへ侵攻するという選択肢が排除されたことが不満の大きな理由ではないかと思う。しかしながら、ザハルチェンコが2週間前に記者会見で明確に述べているように、キエフへの侵攻という選択肢は排除された。ザハルチェンコがDPRの指導者として指名された時点から、彼のコメントの調子や内容はすべてがNAFは住民と領土とを守るために純粋な防衛戦争を行っているのだと説明している。多くの人たちにとってこの言明は不満足かも知れないが、これが全てだ。 

8. 最後に後書きとして次の事項を追加したいと思う:

(1) キエフに向けて侵攻はしないという決定は明らかにストレルコフ司令官(彼はキエフへの進撃を公言していた)の更迭の理由のひとつであった。ストレルコフの更迭はウクライナに対するモスクワの政治戦略の一部を成していると今や世界中が信じている。これは必ずしも正しくはないと思う一方、自分の家族や家庭を守るために戦っている多くの人たちはキエフに向かって軍事的に侵攻することには乗り気ではなく、本件がドンバス内ではどのように捉えられているのかという現状が過小評価されているのではないかと私には思える。 ストレルコフが注目の的となっていたことから、これは自分たちが果たした貢献が過小評価されていると感じていた他の指揮官たちをイライラさせたに違いない。暫定政権が89日にクラスヌイ・ルチを攻撃した際に、ストレルコフはパニック気味の反応を示し、彼が町の防衛司令官を不当に批判したことがこれらの人たちにとっては最後の一撃となったのではないだろうか。    

(2) 今や確実視されるドンバスの分離はウクライナ危機が終結することには繋がらない。ウクライナ危機は依然として始まったばかりであって、この先は長い。良く言っても、われわれは、目下、危機の始まりが終わった時点にいるに過ぎないのだ。このテーマについては私に時間がもっとたくさんある時に議論したいと思う。 

 
停戦に関するいくつかの要点 

停戦が公表されてから、グバレフのような人たちからは批判がたくさん寄せられている。この種の批判のいくつかは私もよく理解することができるが、いくつかの要点を説明すれば、さらに分かりやすくなるのではないだろうか。 

これらの批判はふたつの論点に集中している: 

(1) 停戦合意プロトコールはロシア語のみで作成されている。  


ならびに、 

(2) 本停戦はNAFよりも暫定政権により多くの利益を与え、 時期尚早であるとの苦情が多い。 

私の意見としては、(1)は単純に言って間違いだ。(2)につては、もっと論じたい内容がある。そして、(2)については主張しておきたい点もある。 

プロトコール 

プロトコールを詳細に論じる前に、私はこれは純粋に学問的な議論であるということを述べておきたい。たとえ単に紛争に関与している人たちはプロトコールを自分たちの好む形で解釈するということが批判の理由ではあっても、プロトコールの文言は皆が重要視することを保証するわけではない。他のひとたちが議論をするから、この点を下記の議論にも含めておきたい。   

1.  本プロトコールを理解するために必要な最初の要点はポロシェンコの(非)和平案を「実施する」ために設置された「三者接触グループ」というフォーラムから始まったという事実だ。NAFはこの接触グループの正式メンバーではない。このメンバーはOSCE(欧州安全保障協力機構)とロシアおよびウクライナである。接触グループはNAFの代表者の出席を促し、暫定政権とNAFの間に話し合いの場を提供した。これは停戦に合意するためには有効であった。 しかしながら、このプロトコールはどう見ても最終的な合意ではない。最終合意はプロトコールが示しているように「国民的な会話」を経て行われるとしており、先の話である。  

2. 本プロトコールは技術的な文書である。ポロシェンコの(非)和平案を実行するという接触グループの元来の設定目的に由来するプロトコールの言語は無視し、その代わりにその内容に着目すると、このプロトコールから多くを得たのはNAFであるということが明白である。特に、下記の事項においてそう言える。 

(1) このプロトコールによって相互停戦が実現した。これは4月以来求めていたことである。ここでは「相互」というキーワードに注目して欲しい。ポロシェンコの前の停戦案は一方的なものであって、ポロシェンコ自身が望むときに停戦することを意味し、停戦をポロシェンコが宣言するに当たってはNAFを認識しないという立場であった。「相互」停戦はウクライナ政府がNAFを紛争の当事者として認め、NAFと交渉することを意味する。私が以前論じていたように、ポロシェンコはこうした事態を避けるために、NAFとではなく、プーチンと停戦交渉をするためにありとあらゆる手段を尽くした。しかし、プーチンは「否」と言った。 

ところで、「相互」という言葉はクチマの立場についてももう疑問の余地がないことを意味する。暫定政権は、以前は、クチマが暫定政権を代表するわけではないといった素振りを見せていた。クチマが「相互」を拘束する停戦の交渉を行ったことから、ならびに、暫定政権は彼が合意した内容に縛られることからも、クチマが暫定政権を代表するものではないとする虚構はここで終わりを見せ、彼はNAFとの交渉に従事する暫定政権の代表者であることが確認された。 

(2) このプロトコールは暫定政権に対して政治犯の恩赦や捕虜の交換を強制する。人道上の配慮という通常の定義からは離れるが、こうして恩赦を与えられた人たちは刑事犯または「テロリスト」とは見なされなくなることから、本プロトコールはNAFが紛争の当事者であることを認めることになる。 

(3) 本プロトコールは2014417付けの「非合法組織」の解体について記述をしている「ジュネーブ声明」の文言を再現している。項目(1)および(2)に関して、暫定政権はNAFを交渉の当事者として認めたことから、暫定政権はもはや国際法上の論理としてもNAFを「非合法組織」と見なすことはできなくなった。NAFの指導者は、すでに、プロトコールのこの部分をコロモイスキーや極右派の傘下にある私設武装集団を指すものとして扱っている。 

4) ロシアは本プロトコールの署名国である。このことは非常に重要だ。それとは対照的に、米国やEUは本プロトコールの署名国ではない。彼らはこれらの交渉からは完全に切り離されたままだ。本プロトコールがロシア語だけで作成され、他の言語への翻訳がされてはいないという事実(ウクライナ語への翻訳もされてはいない)はそれ自体が非常に意味深である。ロシアは米国やEUに向けて交渉をしようとしたものだが、今年の2月から7月までの何週間にも及ぶ失敗続きの期間はこれで終わりを告げた。ロシアはこのプロトコールの署名国であることから、ロシアはこのプロトコールの当事国である。米国やEUはこのプロトコールの署名国ではないから、彼らはこのプロトコールの当事国ではない。もしも本プロトコールの一部に違反があった場合、その署名国であるロシアは何らかの行動を起こすことができる。ロシアは今までは行動を起こす基盤を持ってはいなかったが、本プロトコールの当事国として今や本プトコールの保証人でもあり、行動を起こす基盤を持つことになった。 

3. 本プロトコールの中でもっとも大きな反響を呼んだ部分は「地方分権化」であり、「地方分権化」のためにウクライナ法の下で行われる地方選挙である。   

(1) これらの項目を理解する上で重要なことは、本プロトコールがこの紛争を政治的に決着する最終的なものではないという点である。それは理論上は本プロトコールで参照されている「包括的な国民的対話」によって総決算となる(この文言は基本的には2014417日付けのジュネーブ声明に由来している)。このプロトコールに署名した直後、ザハルチェンコとプロトニツキーはNAFの目標は完全独立にあると言明した。ザハルチェンコは本日(201498日)も同じことを述べている。 

(2) ザハルチェンコとプロトニツキーが本プロトコールへの署名の直後自分たちの声明を出したという事実は、「彼らがプロトコールに署名をした際彼らは何について署名をしているのかを分かってはいなく、彼らは自分たちの面前に示された書類を単に署名したに過ぎない」と述べたグバレフのような人物の批判に対して反論するためのものだ。彼らはプロトコールの文言によって自分たちの意図が誤解されることは望んではいなかったので、むしろ、彼らは不明瞭さを排除し、自分たちの立場を明確にしようとしたのである。 

(3) ここで重要な点としては、本プロトコールが地方選挙の機会を提供し、この選挙はウクライナ法にしたがって実施されることからウクライナ政府は選挙の結果を法的に認める義務がある。これらの選挙が実施された暁にはNAFの勝利になることは既定の事実である。もしそうであるならば、ウクライナ政府は法的に選挙の実施を認める義務があることから、同政府は選挙の結果も認める義務が生じる(同様に、国際社会もこれを認める義務がある)。  

(4) 本プロトコールのこの部分が何を意味するのかと言うと、それはウクライナ政府がNAFを紛争の当事者であることを認めるばかりではなく、選挙に異常があった場合でさえも、NAFをドンバスの政治的指導者として合法的に認める義務があるということでもある。  

4. これらの点を主張した上で、もっとも重要な点を挙げておこう: 「このプトコールは完全におとりだ」というのが私の意見だ。このプロトコールは契約書でもないし、条約でもない。プロトコールの文言が何を意味するのかに関して仲裁を行う裁判所は存在しない。それぞれの当事者は誰もが自分たちの都合のいいように本プロトコールを解釈する。暫定政権は、もちろん、私が理解したようには理解しないだろうし、たとえ私の解釈が疑いの余地もなく正しいとしても、暫定政権の支持者である西側もそのようには理解しないだろう。暫定政権は引き続きNAFを「テロリスト」と呼び、彼らが選挙で勝とうが敗北しようが、彼らがドンバスの代表者であると認めることは拒み続けるだろう。暫定政権はNAFが勝利を収めるような選挙は認めることはないだろうし、NAFが宣言する独立を認めることもないだろう。私の意見の中で傾聴に値するだろうと思われる点は、ドンバスがウクライナの一部として残っている限りは、賛同を得られるような選挙結果が存在する可能性はほとんどないということだ。 

5. 私は本プロトコールの意味する点を詳しく論じてみた。何故そうしたのかと言うと、この問題に特に重要性があると感じたからではなく、他の人たちが議論をしているからであり、また、本プロトコールへの署名を行った際にザハルチェンコやプロトニツキーがNAFの立場についてある種の処分をしたからでもある。単純に言って、本プロトコールが実際には何を言っているのかについてはもはや問題ではない。ということで、本プロトコールは早晩忘れられてしまうだろうと私は思う。紛争をめぐる出来事がさらに展開するにつれて、本プロトコールはどこかの誰も訪れることもないような書庫で埃を被っていることになるだろう。   

 
停戦は暫定政権に利することになる 

この主張は非常に強い批判であると思う。しかしながら、私は下記の点について主張しておきたいと思う。   

(1) この批判は評価に値すると私は言いたい。もしもマリウポリやデブラツヴォを奪還していたならば、確かに、NAFはもっといい立場にあっただろう。現状では、数週間から数か月の内に特にマリウポリの情勢について議論をしなければならないだろう。  

(2) NAFの指導者たちが停戦に合意した際、彼らがこのことに気が付かなかったとはとても信じられない。しかしながら、何ヶ月にもわたって停戦を求めていたことから、暫定政権側が停戦を求めた際、彼らはそれに合意する以外には現実的な選択肢を持ってはいなかったことが明白だ。どちらかと言うと、彼らは現実的な選択肢を持ってはいなかったのではないかと私は思う。また、状況はもっと違った形で展開したかも知れないが、私は彼らの決定を後からとやかく言う立場にはないし、彼らが何故そう決心したのかを知る術もない。疑いもなく、ロシアからの圧力が部分的に作用していたことだろうが、ひとつの要素としてはドンバス内部の厭戦気分を見逃すことはできない。停戦の申し込みがあった時にこの戦争がさらに引き伸ばされたとしたら、ドンバスの一般市民やNAFの一部の戦闘員はそんなことを理解してはくれないだろうし、幸せな気分ではいられないだろうといった懸念を、多分、NAFの指導者らは持っていたのではないか。停戦が宣言された時ドンバス内部では集団による抗議行動は起こらなかったし、(幾人かの指揮官たちとは違って)NAF戦闘員たちも停戦を受け入れたようであったという点を私は指摘しておきたい。 ザハルチェンコやプロトニツキーは愚かで反逆者だという主張があるが、私はこの批判は排除したい。私はザハルチェンコを観察してきたが、彼はそのどちらでもないと確信している。 

3)ともかく、この戦闘がほぼ間違いなく時期尚早の内に終結されたことから生じる問題をあれこれと大袈裟に表現しないことが大切だ。たった3週間程前には、NAFならびにDPRLPRが生き残れるかどうかが危ぶまれていた。当時、ルガンスクは人道的危機に見舞われていたし、ルガンスクとドネツクは敵に取り囲まれて脅威を感じていた。 

(4) あの危険は過ぎ去った。暫定政権は軍事的大勝利を手にする代わりに決定的な敗北を喫した。NATOは暫定政権を助けることを拒んだ。公に認められるような武器の提供を通じて、少なくとも、形だけでもNATOによる支援を得ようとするキエフ暫定政権による必死の試みがあったにもかかわらず、この要求は拒否された。米国やEUは追加的な経済支援を与えることにも失敗した。最近のEUNATOサミットでは勇ましい話があったものの、NATOEUは暫定政権を切り捨てた。その一方で、ロシアの天然ガスやドンバスの石炭を入手することができず、ウクライナの経済は自由落下の様相を呈しており、生産は急速に衰え、通貨価値が下落し、外貨保有高は垂れ流しのままだ。それと同時に、引き締めも行われている。直近の報告によると、ロシアはヨーロッパ側に対してひそかにこう言っている:これを実施すると自分たちへのガスの供給は目減りすることにはなるだろうが、天然ガスを「逆流」させることによってウクライナへガスを供給したらどうかと。  

(5) 最近行った軍の再配備は暫定政権側に決定的に有利に作用するとの考えは何れも、率直に言って、人騒がせなものに過ぎない。実際には、これらの再配備については、私に言わせると、暫定政権側は、もはや防備することができないマリウポリやデブラツルヴォへ軍を送り込むことによって、恒常的に失敗に失敗を重ねることになり、そんな事例をまたも経験することになると思われる。 

(6) NAFは、本日、暫定政権の軍隊はNAFの領土から撤退するようにとはっきりと要請した。私が前にも言ったように、プーチンはこの要求を支持している。もしも暫定政権が軍隊を撤退しないならば、NAFは攻撃を再開し、彼らを追い出そうとすることは避けられそうにはない。NAFは、確かに、本日そう言った。   

(7) 前に述べたことを繰り返しておきたい。軍事的な観点からの私の意見では、休息の時間が長くなればなるほどNAFの戦闘能力は暫定政権よりも強化される。私は他の多くの専門家が私と違った意見を持っていることは評価する。しかしながら、NAFは今やたっぷりと時間があって、勝利を確固たるものにし(一部の人たちはNAFは近いうちに手を広げ過ぎることになるのではないかと心配していた)、もっと多くの補充兵を集め(勝っている今、これは容易いことだ)、捕獲した大量の重火器を自分たちのものとして取り入れることができる。英気を養った後のNAFの攻勢はわれわれがこの8月に見たものよりも遥かに強力になっていることだろう。暫定政権の軍隊は弱体化していることから、NAFに対する抵抗戦では苦労するだろう。JAFは敗戦を喫したばかりであり、背景には経済危機を抱え、冬将軍の到来もある。今年の7月に見せてくれた暫定政権によるあの大攻勢のような新たな攻撃は、当面、あり得ない。  

結論 

過去数週間から学んだ重要な教訓としては、もはやNAFを撃退することはできないということであり、今やロシアが関与しており、米国やEUは意味のある形では何の関与もしてはいない。敗戦を喫し、経済危機に直面する暫定政権は単独でNAFとロシアに向き合っている。ウクライナでは何かを頼りにすることは賢明ではないが、この紛争のバランスは今や決定的に変わってしまった。この状況をさらに変える目途は見えては来ない。あくまでも私見ではあるが、これは英国における評価でもある。当地における雰囲気はある種の屈辱感と失敗したという認識だ。 
 
<引用終了>

これで全文の仮訳が終了した。これは非常に詳細な報告である。商業的なメデアでは、スポーツ記事には大きな紙面が提供されてはいるが、ウクライナ情勢に関してここまで詳細な分析や見解を手にすることは事実上非常に稀ではないかと思う。
こういった情報の提供を可能にしているのはインターネットであり、多くの場合、専門知識を持ち、商業的なメデアとは距離を置くブロガーたちの献身的な努力によるものだと言える。
米国主導の対テロ戦争が開始されてからというもの国際政治に関心を寄せる人は増える一方であるのではないか。私もその内の一人だ。イラク戦争、アフガン戦争、シリア紛争、イランの核疑惑、イスラム国家、等、幸か不幸か、題材に事欠くことはない。最近、ウクライナ紛争も新たに加わった。さらには、尖閣諸島、環境破壊、放射能による健康被害、TPP、新資本主義、新世界秩序、等の非常に重要な課題もある。
様々な形で展開する国際情勢の深層にはいったい何があるのか、あるいは、何が隠されているのかという疑問は今や強まるばかりである。そして、主要なメデアに頼らずに情報を探そうとすると、英語で書かれた情報をインターネットで検索することになる。目の前には「英語が苦手だ」とは言ってはいられない切羽詰まった現実がある。日本語を読むことに比べたら2倍も3倍も時間がかかることを承知の上で、情報検索をすることになる。
自然環境の破壊が進行するのを見て、ノーム・チョムスキーはこう言っている。「人類の文明は資本主義の時代を生き長らえることができるのだろうか」と。
また、米ロ間にはウクライナを舞台とした「冷戦V.2」が表面化し、NATO圏がロシアの国境に迫ってきたことによって、人類の存続を脅かす核戦争(これには、何らかの間違いに端を発した偶発的な戦争も含まれる)の危険が今まで以上に増大していると識者たちは警鐘を鳴らし始めている。
今、そんな時代にわれわれは生きているのだ… 

参照:
1Analysis of the ceasefire by Alexander Mercouris: By The Vineyard of The Saker, Sep/09/2014