2014年10月26日日曜日

なぜコウモリはエボラや他の致死的なウィルスの宿主でいられるのか


人はどのようにしてエボラ・ウィルスに感染するのだろうか?
科学者にとっては答えるのが結構難しいようだ。現時点で支配的な見解によれば、エボラの生物学的な起源はコウモリにあるらしい。要するに、コウモリが宿主の役目をしている。ウィキペデアによると、コウモリは世界中で980種類程もあるという。
多くの人にとってもっとも今日的な関心事であるエボラを理解するために、今日のブログではコウモリをテーマにしたいと思う。
まずは、1015日に報道された記事 [1] に注目し、その内容を追ってみよう。 

<引用開始> 

Photo-1: 淡黄色オオコウモリ(Eidolon helvum). 写真:Steve Gettle / Getty

エボラや狂犬病、マールブルグ病およびSARSを含めて、地球上でもっとも恐れられ、致死的な疾病を引き起こすいくつかのウィルスはコウモリの体内に自然の避難場所を見い出している。いくつもの大流行がコウモリに端を発しており、科学者らはコウモリと関連する新しいウィルスを次々と発見している。
コウモリ自身は病気に見舞われることもなく病原体を巧みに抱え続け、外部へまき散らしているようだ。科学者らはコウモリのゲノムに有力な手掛かりを見出し、その理由を詳しく理解しつつある。しかし、これに批判的な科学者はコウモリをウィルスの宿主として汚名を着せるには根拠が薄いと言う。
「コウモリは特別な存在か?そう言い切るには時期尚早だと私は思う」と、豪州科学・工業研究機構(CSIRO)の豪州獣医学研究所にて科学部長を務め、デューク大学とシンガポール国立大学とが共同設立した医科大学では教授を務めるリンファ・ワンは言う。リンファ・ワン教授は過去20年間コウモリを宿主とするウィルスについて研究を続け、コウモリをウィルスの宿主にしている特質は何かを究明しようとしてきた。
「この課題は非常に重要ですので、とてもほおってはおけません。」と言う。
恒常的にウィルスの宿主となっているコウモリとならんで、クマネズミやハツカネズミ等の他の動物もさまざまな病気の保有宿主として知られている。ほとんどの場合、これらの宿主は正常なまま生存しており、感染をしていても症状は示さない。しかし、時には、ウィルスを体外に放出して、このウィルスによって他のもっと被害を受けやすい動物の間では感染が広がる。西アフリカで勃発したエボラの大流行はこうして起こったことはほとんど間違いない。同地域では昨年の12月に起こった小規模な発症からすべてが始まった。あれ以降、今までに8,900人が感染し、4,400人以上が死亡した。 科学者らはギニアやシエラ・レオネおよびリベリアを打ちのめしたこの大流行はコウモリのせいだ としている。
 
コウモリについての生物学:
事例を挙げると、コウモリは非常に多くの危険極まりないウィルスの宿主となっているようである。しかし、これが実際に本当であるかどうかについては議論の余地がある。
この議論に関しては、科学者たちは二手に分かれる。ひとつの考え方としては、コウモリを介して起こる大流行は、単純に言うと、数のゲームである。コウモリは非常に種類が多く、個体数が非常に多いことから、コウモリを宿主とする疾病が現れること自体は驚くに当たらないという考え方である。もうひとつの考え方は、コウモリは確かに特殊な存在であって、コウモリの生理学的な側面、あるいは、生活様式の何かが関与しており、コウモリを格好の宿主にしているというものだ。
その「何か」がいったい何なのかは今後特定しなければならないのだが、ワン教授および彼の同僚はこの問題を解決するためにすでにかなりの時間を費やしてきた。まずは、コウモリの免疫システムに何かの手掛かりを見出そうとして、たとえば、コウモリに特有なゲノムに注目している。

宿主としての犬:
先週、スペイン当局は西アフリカに居たことがある伝道者を治療した後、この伝道者が所有する犬を安楽死させた犬がエボラを感染する証拠は不十分だとして、多くの人たちがこの対応は極端すぎて、是認できないとして異議を唱えた。
2001年から2002年にかけてのガボンで大流行が起こった際、 ヒトのエボラが発症した集落の犬の間ではその約25パーセントにエボラの抗体が検出された。しかし、ヒトのエボラが発症しなかった集落の犬についても抗体が検出されたのである。フランスでは、ウィルスを保有する宿主に遭遇したことはないと想定される2頭の犬が陽性として検出された。これらの犬は何れも症状を示すこともなく、死亡してもいない。ということで、犬が伝染性を示すかどうかという問題は未解決のまま残されている。
 
宿主動物からヒトまでのエボラのルートを追跡する仕事は結構油断がならない。現在でさえも、科学者らはエボラがコウモリからヒトに至るまでの経路について熟知しているわけではない。すでに知られている伝染の形態がひとつだけある。それは感染した動物を食べた場合だ。コウモリや霊長類および他の野生動物が西アフリカの地域では食用に供されている。今や、地域住民たちには野生動物を食べることは非常に危険であるとの警告が出されている。
これとは別の感染経路は定かではない。感染したオオコウモリの唾液、尿または便は果物を汚染し、人または宿主の動物がこの果物を食べることがあり得る。この種の経路はニパ・ウィルス脳炎やヘンドラ・ウィルス感染症を引き起こすウィルスで知られている。バングラデシュでは、二パ・ウィルスはデーツの実を産するナツメヤシの樹液を介してコウモリからヒトへ直接伝達されると考えられている。オーストラリアでは、ヘンドラ・ウィルスの場合は馬が中間宿主であると考えられている。 エボラの場合は霊長類に感染し、それを人が食べて感染する。
上記に代わって、この研究チームはより微妙な違いを見出した。コウモリのゲノムは他の哺乳類の動物とまったく同じ成分を含んでいるが、その活用の仕方がいささか異なる。特に、損傷したDNAを検出し、それらを修復するタンパク質をコード化するコウモリのゲノムは想像以上に 一般化しているより簡単に言えば、それらのゲノムはコウモリが生き残り、繁殖する上で何らかの役割を持っており、これらのゲノムは子孫に受け継がれているものと考えられる。
201212月に「サイエンス」誌に報告されたこれらの結果は以前の知見とも一致する。つまり、侵入して来るウィルスにとってはDNAの損傷を修復するDNAが攻撃目標であり、このことは進化を促進させる圧力として作用する。これらの知見はさまざまな事例に見られる内容ともよく一致し、コウモリに腫瘍ができることは非常に稀である。多分、これは修復遺伝子による修復作用が悪性腫瘍の成長をしのぐことができることに起因しているのではないか。
それ以来、ワン教授と彼の同僚たちはさらに先へと研究を進めた。最近の研究であって、まだ公表されてはいない知見によると、腫瘍やウィルスに対抗する遺伝子は脅威に曝された時だけ活性化されるヒトやハツカネズミの場合とは異なり、コウモリではこれらの遺伝子は常時活性化されているとのことである。この機能こそが体内に保有されているウィルスを危害を及ぼし始めるレベル以下に抑制してくれる。換言すると、進化がコウモリの監視機構を11倍にまでも高めるに至った。 [訳注:この直前の文章では「11倍にまでも」との言葉があるが、原文では「11」の単位が何なのかは定かではない。文脈からは、「11倍」という意味ではないかと思われた。しかし、その妥当性については専門家のご意見を伺いたいと思う。]
なぜかについては、ワン教授はコウモリが飛行することとの関連性を提案している。つまり、飛行をすることにより、コウモリは休んでいる時に比べて自身の代謝率を何倍も高める。そのような高いエネルギー生産を維持するとストレスが生じる。その結果、損傷を素早く探知し、修復を行わない限り、細胞やDNAを損傷してしまう。
多分、最初は、損傷を修復するタンパク質が、コウモリが毎晩飛び回わることによって、生活様式によって起こる損傷と闘うようになったものと思われる。もしそうだとすれば、致死的なウィルスを保有する能力は共進化の偶然として二次的に備わったものであろう、とワン教授は言う。
この5月に「Emerging Infectious Diseases誌にて報告された別の仮説はコウモリが飛び回ると発熱と同じような効果を挙げるだけの熱を生成すると提唱している。多くの哺乳類で観察されるように、通常の免疫反応の一部として起こる発熱によって、侵入してきた病原体を非活性化するだけの体温にまで高めることで侵入して来た病原体と闘っている。この仮説は、毎晩飛び回って体温を高めることによりコウモリは体内のウィルスの負荷レベルを戻していると提唱している。
この考えについては実験が実施されてはいないが、コウモリが宿主となっているウィルスが人や他の哺乳類へ放出され、感染が起こると、極端に致命的なものとなるが、そのひとつの理由はこれらのウィルスは活性レベルの特に高いコウモリの免疫システムに何とか耐えるように進化してきた結果によるものではないか、と科学者らは推測している。
「われわれ自身はそのような免疫システムは持ってはいません」と、モンタナ大学にて病気生態学を専門とし、発熱・飛行に関する研究発表の著者でもあるアンジェラ・ルイスは言う。警戒を怠らず、防衛機能が常時スイッチ・オンの状態に維持されているコウモリからウィルスが放出されると、これらのウィルスはより弱体の免疫システムを圧倒することなんてまったく問題ないのである。
 
コウモリ談義?
ワン教授はコウモリがウィルスの宿主として特別に良好な環境であると即断することはまだできないとしているが、学会はその可能性を受け入れる方向に近づきつつある。
他の可能性としては数と機会との組み合わせである。つまり、コウモリが宿主となっているウィルスの流出は統計学的状況が作用しているだけであって、それ以上のものではないと言う。
既知の種類だけでも1,200種以上もあってコウモリは地球上の全哺乳類の20%以上を構成している。そして、哺乳類の間でコウモリよりも多いのは齧歯動物(ネズミやリスおよびビーバー、等)だけである(一般に理解されていることとは異なり、コウモリは齧歯動物ではない)。しかし、多くの地域ではコウモリは齧歯動物よりも個体数が多く、単一の集団でさえも数百万にもなることがある。
コウモリはどう見ても特殊であるとする考えは、大流行の勃発が人の関心を呼ぶことから、あるいは、コウモリはウィルスの巣であると見なす研究が他の理論を背景とする研究と比べても多いという事実が色濃く反映されているのかも知れない。「自己達成的な予言については私は警告をしたいところであるが、掘り下げれが掘り下げる程われわれはますます多くのウィルスを発見する」と、「エコ・ヘルス・アライアンス」にて病気生態学を専門とするケヴィン・オリヴァルが述べている。  

Photo-2: スリランカの海岸にて果物を食べるIndian flying foxと称されるオオコウモリ(Pteropus giganteus) 写真:Jan Arendtsz / Flickr

2013年の文献によると、オリヴァルのチームはIndian flying foxと称されるオオコウモリ(Pteropus giganteus)の生体内ウィルス集団を詳しく調査した。たった1種類のコウモリから、彼らは55種のウィルスを特定し、その内の50種は新規の発見であった。大雑把に言っても、これがあの独創的な2006年の研究でコウモリから検出されたウィルスの全数であった。同研究はその時点で行われた研究のすべてを網羅するものであった。8年の期間を介して、その数値は、「既知のウィルス」をどのように定義するかによって異なるが、2倍あるいは3倍以上に膨れ上がった。
しかし、この流れは必ずしもコウモリに特有というわけではないとオリヴァルは主張する。「哺乳類のウィルスの多様性については、われわれが理解しているもっと広範なスペクトルに注目すると、すべての哺乳類が極めて多様なウィルスを持っている」と、彼は言う。「それほど多くを持ってはいない種というのはわれわれがまだ十分に研究を行ってはいないということに過ぎない。」 
とすると、最後に残された疑問は、われわれはどうしてコウモリを宿主とする病気の大流行の話ばかりを聞くのであろうかという点だ。
「重要な点は生態学だと思う。これらの動物が何処に住んでいるか、人がどのようにこれらの動物と接しているのかを考えることです」と、オリヴァルは言う。本当に重要なことは人間とコウモリとの付き合い方にある。別の言い方をすれば、人間がコウモリの領域を侵害している点にあることを示唆している。

<引用終了> 

これで、全訳が完了した。
このブログの表題に対する答えとしてコウモリのゲノムを研究することによって得られた「コウモリに腫瘍ができることは非常に稀である。多分、これは修復遺伝子による修復作用が悪性腫瘍の成長をしのぐことができることに起因しているのではないか」という知見は非常に面白いと思う。
「腫瘍やウィルスに対抗する遺伝子は脅威に曝された時だけに活性化されるヒトやハツカネズミの場合とは異なり、コウモリの場合にはこれらの遺伝子は常時活性化されているとのことである。この機能こそが体内に保有されているウィルスを危害を及ぼし始めるレベル以下に抑制してくれる」と報告しており、興味深い研究成果だ。
でも、まだまだ説得力のある研究成果が新たに出てくる可能性は多いにある。
また、生態学者の見方はわれわれ一般人が考えてみたこともない側面を浮き彫りにしてくれているとも言えそうだ。
コウモリの長い歴史を考えれば、何千年も前にも、今と同じように、コウモリはエボラ・ウィルスの宿主であったのではないかと思う。しかし、その頃は人とコウモリとは棲み分けができていた。人がエボラに感染することは非常に稀であっただろうし、現代人の移動の頻度や距離に比べると、当時はエボラの大流行なんてあり得なかったのではないか。
現代の文明は果てしなく増える人口を抱え、従来はまったくなかったコウモリの生息領域への人の侵入をいやが上にも増加させた。結果として、エボラの人への感染を引き起こし、われわれは今その代価を支払っているのだとも言えそうだ。
一方、治療薬の開発が世界中で進行している。中でも日本初の治療薬が効果を示したとの報道もあって、これは非常に明るいニュースである。 

参照:
1Why Bats Are Such Good Hosts for Ebola and Other Deadly Diseases: By Nadia Drake, Oct/15/2014, www.wired.com/2014/10/bats-ebola-disease-reservoir-hosts/

 

 

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