2015年4月28日火曜日

「影のCIA」とも称される米シンクタンク「ストラトフォー」の考え - ウクライナ紛争



本日引用しようと思う記事 [1] はもう1ヶ月以上も前に出版されたものである。この記事はウクライナ紛争を巡って今後ロシアがどのような軍事的展開を見せるかについて幾つかの可能性を論じている。

前回のブログではロシアの諜報機関のトップに対するインタビューを掲載したばかりである。そこではウクライナ紛争に関するロシアの諜報専門家の見方を学ぶことができた。本日は、ロシアの対極にある米国における民間シンクタンク「ストラトフォー」の考えについてもこの際おさらいをしておきたいと思う。

<引用開始>

米国の分析者は、ロシア軍はウクライナの東部および中央部に侵攻し、ドニエプル川まで到達するだろうと予測している。これらの結論は米シンクタンクの「ストラトフォー」が図解しながら示した一連の筋書きの中で公開された。
最初の筋書きでは、米分析者によると、ロシアは黒海沿岸に沿って全面戦争を展開し、クリミアへの陸続きの橋頭保を築くためにヘルソン地域にまで到達すると予測している。
Photo-1: 陸路でクリミアと接続

この地域を占領するには、ロシアの攻撃軍はヘルソンやドニエプル川に沿って位置するノーバヤ・カホーヴカに向けて進撃し、ドニエプル川を天然の防衛線として活用するだろう、と米分析結果は予測している。
クリミアへの陸続きの地域を確保することを目標とし、24,000から36,000人の兵力で、46,620平方キロの面積を抑えることによって、クリミアへの電力や水の補給路を陸続きで確保することができる。ストラトフォーによると、ロシア軍がこの選択肢を実行するには14日間を要する。
この考察によれば、ウクライナ南部の海岸地帯の全域を占領すること(二番目の筋書き)に比べ、より多くの利点があると判断される。
 Photo-2: 海岸部全域を確保

沿ドニエストル共和[訳注:モルドバ共和国の東側に接した南北に長い地域。ルーマニア語では「トランスニストリア」と称する。公用語はルーマニア語、ウクライナ語およびロシア語。人口は約50万人。軍事、経済をロシアに頼っている。] に到達するまでの侵攻となり、103,600平方キロの地域面積には6百万人が住んでおり、ロシア軍は40,000から60,000人の兵力を投入する必要がある。地域住民からのゲリラ活動や潜入してくる破壊工作員に対抗し、この地域の防衛を実現するためにはさらに20,000から70,000人の兵力を必要とする。この選択肢はキエフ政府には深刻な打撃となり、ウクライナは黒海への進出が不可能となる。ロシアは黒海地域における防衛拠点をすべて確保することができる。ストラトフォーの推算によると、この選択肢の実行には23日から28日を要する。
また、ストラトフォーはロシアがキエフ軍部の中枢の戦闘意欲を削ぐためにウクライナ東部の国境線に沿って一連の攻撃を仕掛ける可能性があることについても配慮している。これは、ハリコフやドニエプロペトロフスクおよびザポロジエといった都市を含め、ウクライナ東部と中央部のすべてを占領することを意味する(3番目の選択肢)。 
 Photo-3 : ウクライナ東部を確保

ドニエプル川に沿ってウクライナを二分するという考えはウクライナのすべての工業力が剥ぎ取られてしまうということに等しく、ロシア側にとっては比較的容易にドニエプル川に沿って天然の防衛線を確立することが可能となる。ドニエプル川はそのほとんどの部分で川幅が非常に広く、橋は数カ所に存在するだけであり、クリミアへの補給を可能とし、NATOの基地をロシアとの国境の直ぐ側の地帯よりも遥かに遠ざけてくれる。
仮にロシアが全面的な軍事行動を起こし、長期的な防衛線を確立しようとする場合は、ロシアにとってはこの選択肢がもっとも妥当であるとストラトフォーは見ている。
占領するべき総面積は224,740平方キロとなり、91,000人から135,000人の兵力を必要とする。この地域には1300万人が住み、住民の抵抗の程度によって大きく左右されるが、同地域の占領にはさらに28,000人から260,000人の警備用の兵力を必要とする。ロシアは現在280,000人の地上兵力を持っていることから、このウクライナでの軍事行動はロシアの保有戦力の非常に多くの部分を必要とすることになる。
有利な点がひとつある。それはこの作戦ではロシア軍がドニエプル川に到達するのに11日から14日を要するのみであるという点だ。その一方、本作戦は大規模な動員を行い、警備要員を配置することになることから、モスクワ政府の意図は丸見えとなり、NATO軍は早期の段階から対抗措置をとることが可能となる。
ストラトフォーは数多くの作戦の組み合わせを作成したが、何れをとってみても、ウクライナは領土や人命の面で恐ろしいほどの損害を喫することになろう。
何時もの行動様式から判断すると、米国人はまたもやこう主張するだろう。「ロシアはノヴォロシアの民兵に対して膨大な支援を行っており、これこそがルガンスクやドネツクの地域からウクライナ軍を撃退する作戦を可能にしているのだ」と。
 <引用終了>

最後の3行の文章は何を言いたいのだろうかと、考えさせられてしまった。オブラートに包まれたような表現であって、真意がなかなか見えて来ないのだ。
私の個人的な理解ではこんな具合になる。米国はロシアとの直接的な軍事衝突はしたくない。ウクライナに対する支援はあくまでも軍事訓練を提供したり、武器を供給することだけにとどめたい。しかし、戦争努力のためには何でも行う。IMFがその内規に反することにはお構いなしに、IMFにはウクライナ政府に対する融資さえも行わせた。すべてはロシア正規軍のウクライナ領内への侵攻を誘発させることが目標である。つまり、ウクライナの領土を守ることではないのだ。一たびロシア軍がウクライナへ侵攻したら、上記の筋書きのどれかによって決着を見る、あるいは、決着させる。今までに繰り返された停戦とは違って、これが最終的な停戦となる。
キエフ政府軍が敗北することによって、米国にとっては、今までのロシアに対する非難とは比べ物にならない正当さをもって、ロシアのウクライナ領内への侵攻を事実として大ぴらに非難する口実が成立する。米国の軍産複合体は、またもや、この先50年も続く「新冷戦」を確立したことになる。経済が低迷する米国にとっては「めでたし、めでたし」である。第二次世界大戦後数十年にわたって継続した冷戦は米国の軍産複合体にとっては重要な利益源であったことは誰にでもよく理解されている。
ロシアがクリミアを割譲したという米側の非難は説得力に欠けていた。西側が無理に独立させたコソボの前例もあるからだ。最近、オバマ大統領は民主的な選挙によって選出されていたヤヌコヴィッチ大統領を追い出した昨年2月のキエフでのクーデターは米国が支援していたということを公に認めた。あの暴力的なキエフでの政変に反応して、クリミア住民の大多数は住民投票でロシア側につくことを意思表示したのである。この一連の出来事を考慮すると、クリミアの割譲はロシアが積極的に遂行したものだとは決して言い切れない。今や、新冷戦を標榜する米側に残されたロシアに対する非難の口実はロシア軍のウクライナ領内への侵攻というシナリオだけである。
歴史を紐解くと、ベトナム戦争は南ベトナム軍を支援するために軍事訓練を行う米軍の将兵を南ベトナムへ送り込むことから始まった。正規軍を送り込む理由は何時ものように自作自演によって簡単に作り出せる。そして、まさにそのように展開した。ウクライナでは、米軍の将兵がすでに現地に派遣され、ウクライナ軍の訓練を開始している。ベトナムで見られた軍の高官や好戦派の政治家の論理は、多分、ウクライナでも繰り返されることになるのではないか。そして、NATO加盟国間で意見の一致が見られない場合は有志連合軍を大量に投入することになるのかも知れない。その場合は、特に、米軍とポーランド軍とがその中心となりそうだ。さらには、英国やカナダも続く。
しかし、どちらに転んでも、ウクライナの一般庶民にとっては非常に迷惑な話である。国連の最近の報告によると、ノヴォロシア地域での内戦による犠牲者の数は6,000人を超したという。物価は上がり、失業者が急増。生活水準は低下する一方である。ウクライナ政府は近いうちに債務不履行に陥りそうだとも報道されている。経済はますます悪化するだろう。ウクライナの政治家はこれらの問題についてはまったく無頓着であるかのようだ。キエフ政府内の汚職は一向に改善されてはいないと報道されているが、政府や軍部の高官にとっては今を除いては大金を稼ぎ出す機会は二度とやっては来ないという明確な判断があるのかも知れない。
このような状況がヨーロッパの一角で起こっており、ヨーロッパの政治家はこれを食い止めることができないままでいる。ウクライナ紛争の収束のためにはヨーロッパの英知を期待したい、と何時だったかこのブログで書いたことがある。しかし、それは望めないのかも知れない。


参照:
1: US Think Tank: Russia Could Reach Dnepr in Ukraine: By Ayre OT, Voice of Sevastopol, Mar/13/2015, en.voicesevas.ru > ... > News > Analytics




2015年4月18日土曜日

ロシアの諜報専門家はウクライナ紛争をこう見ている



ウクライナ紛争は収束の兆しが見られない。415日の一部の報道によると、曲がりなりにも続いていた停戦はついに破られ、大っぴらに戦闘状態に入ったたようだ。今後、どのような展開を見せるのだろうか。

ロシア政府の外交に関して助言を与える専門家集団のひとつに「ロシア対外情報庁」(SVR)がある。SVRを退役したレオニード・レシェトニコフ中将はロシア戦略調査研究所の理事長を務め、ウラジミール・プーチンの顧問でもあるが、「ウクライナ南東部の住民はウクライナに帰属することを嫌っており、もはやノヴォロシアがウクライナの一部になるという可能性はない」と述べている [1]

ロシアは、当初(昨年)、ウクライナの反政府勢力として武力闘争に入ったノヴォロシア地域(ドネツク自治共和国およびルガンスク自治共和国)が連邦国家の一部としてウクライナ国家を構成することを望んでいた。この基本的な方向性はウクライナ紛争を巡る国際的な停戦合意内容からも窺える。

上記のレオニード・レシェトニコフ中将が予測している状況が将来不可避的に起こるとすれば、ロシアはかなり大きな修正を迫られるのではないだろうか。

余談になるが、米国の歴史家、ジョン・トーランドがInfamyと題する本を出版した(1982年)。これは真珠湾攻撃が起こることを当時のルーズベルト大統領が事前に知っていたという仮説をさまざまな情報に基づいて実証しようとした本である。この本には諜報活動のすべてが収録されていると言ってもいい程の大作である。次の頁にはいったいどんな情報が登場して来るのだろうかという、言わば怖いもの見たさのような精神状態に私はまんまと放り込まれたことを今もありありと思い出すことができる。この本を読んで、私自身も含めて、一般読者が到達する結論は、米国のルーズベルト大統領は日本海軍による真珠湾攻撃が起こることをかなり正確に予知していたことは確実であり、米国の世論をヨーロッパ戦線への参戦に導くためにこの真珠湾攻撃を「奇襲」として仕立て上げることに見事に成功したということではないだろうか。軍事的には大損害となったが、ルーズベルト大統領にとっては国内政治的には大勝利であった。戦争の遂行と言う大目標の前ではひとつの艦隊さえをも犠牲にしてしまう。約2,400人が死亡したと言われている。一国の存亡が迫っている時、政治はそのような犠牲さえをも正当化してしまうことがある。

ネオコン用語にしたがって言えば、敵や味方の犠牲者はすべてが単なる「巻き添え被害」に過ぎないのだ。しかし、核大国間の核戦争になると、ネオコンの政治家や戦争計画担当者たち全員を含めて、全人類がその巻き添え被害者となることはほぼ確実である。

さて、上述のロシアの諜報分析の専門家はウクライナ紛争の将来をどのように展望しているのだろうか?何と言っても、核戦争にまで発展する可能性をもっているウクライナ紛争は単なる局地戦では終わらないかも知れず、その場合、まかり間違うと文明の終焉となる。この可能性を決して忘れてはならないと思う。

本日はレオニード・レシェトニコフ中将とのインタビュー記事 [2] を中心におさらいをしておきたい。毎日のように揺れ動く国際政治に関して新たな洞察を与えてくれるものと思う。早速、その仮訳を下記に示そう。


<引用開始>

モスクワの北部郊外、頼りがいのあるロシア国内軍の保護の下に、かっては秘密の組織であった「ロシア対外情報庁」(SVR)が構えている。今日では、その正面には金文字で誇らしげに「ロシア戦略調査研究所」(RISS)との表札が掲げられている。ここでは200人以上もの職員がさまざまな情報の解析によって祖国のための防衛を築き上げようとしていることからも、この平和的な名称があなたの知識を誤った方向に導くようなことはないだろうと思う。

Photo-1レオニード・レシェトニコフ中将

ウクライナの南東部では新たな戦争が起こるのだろうか?米国の大統領の背後にはいったい誰がいるのか?我々の高官の多くはどうして影響力のあるイデオロギー諜報員と呼ばれているのか?これらの質問だけではなく他の質問に対しても、何時ものようにそれぞれの言葉を慎重に選びながら、RISSの理事長であるレオニード・レシェトニコフ中将は答えてくれた。 

同一領域におけるライバル同士:

- あなたはSVRという真剣に取り組まなければならない「ボス」をお持ちだったわけですが、どうして秘密の場所から公開の場所へ突然出て来られたのですか? 

- 確かに、我々の職場は秘密に覆われた世界でして、近隣諸国や遠隔地の国に関する情報を集め分析をすることに専念していました。即ち、諜報部門が必要とする情報ばかりではなく、一国の外交政策を決める組織にとって必要となりそうな情報もその調査対象です。不思議なことに、ロシア大統領府(AP)には真剣に情報分析を担当する部門はありませんでした。数多くの部門がありましたが、それらの中には一人の理事長がおり、秘書嬢がいて、理事長の奥さんが分析担当者を務めるといった調査機関も数多くあります。APは本物の専門職員に欠いており、諜報部門は配下の専門家を派遣しなければなりませんでした。

我々の職場を創設したのはロシア大統領です。今日、政府からの調査の要請はすべてが大統領府を取り仕切っているセルゲイ・イヴァノフの署名付きです。

- あなたの分析論はどれほどの需要があるのですか?我々は確かに「書類の国」とも言えるようで、誰もが物事をたくさん記述していますが、これは最終的な結論に対して何らかの影響を与えるのでしょうか? 

-我々は、時には、我々の分析ノートの内容と共鳴するような行為を目にすることがあります。また、ある時には、特定の考えを口にした途端、それらの考えがロシアの世論となってしまうこともあります。驚くばかりです。そういった事例はかなりあります。

- 米国では、シンクタンクとしては「ストラトフォー」や「ランド戦略研究所」がまったく同じような仕事をしています。どのシンクタンクの仕事振りがよりクールだと言えるでしょうか?

- 20094月にAPへの移籍後、我々はこの研究所の新しい憲章を作成していました。彼らの例を出来るだけ辿ってみるようにと我々は指示されました。その時私は思ったのです。「ストラトフォーやランドが財政支援されているように我々に対しても財政支援をしてくれるならば、これらの外国のシンクタンクの何れもが恥ずかしく思う程に立派な仕事をしてやろうではないか」と。結局、世界中を見ても、ロシアの分析能力はもっとも強力です。特に地方の専門家たちは「新鮮」であり、偏見を持ってはいません。最初はKGBの第一総局(FCD)で、その後は対外情報庁で33年間も情報分析をやって来ましたから、私は自信を持って断言することができます。 
NGOは我々を何処へ連れて行こうとしているのか:

- ランド研究所がウクライナの南東部における「テロ殲滅作戦」を立案したことは良く知られています。あなたの研究所もウクライナに関して、特にクリミアに関してそういった資料の作成を行ったのですか?

- もちろんです。基本的には、ウクライナについてはふたつの研究所が関与しています。RISSとコンスタンチン・ザツーリンが率いるCIS研究所です。創立以来、我々はウクライナにおける反ロ感情の台頭やクリミアにおける親ロ感情の高まりについて分析報告書を作成しています。ウクライナ当局の活動についても調査しました。しかし、我々は「すべてが失われる」といった人騒がせな報告書は作成せず、我々は、むしろ、拡大しつつある問題点に注意を向けるように促しています。

我々は親ロ的なNGO組織を強化するよう提案し、今や誰もが言っているように、「ソフトパワー」政策による圧力を強化するように提案しました。 

- ウクライナにはズラボフ大使を配しており、我々には如何なる敵も必要ではない!

- 大使館や大使の活動はさまざまな制約によって制限されています。そういう制限を越してしまうと、外交上のスキャンダルに発展するかも知れません。さらには、ロシアでは専門職員の不足が現実の課題です。外交の分野だけではありません。言わば、公共サービスは消耗しており、芯がしっかりとした人材は非常に少ないのです。

NGOの役割を過大評価することはあり得ないでしょう。端的な事例はカラー革命ですが、これは外国の、特に、米国のNGOによって組織化されて来ました。ウクライナにおいても同様です。残念なことには、我が国の利益のために活動するNGOの創立やそういった組織に対する支援について十分な関心が払われていたとは言えません。もしもそういった組織が存在しているならば、それらは大使館十個所、あるいは、有能な大使10人にも匹敵することでしょう。直接の指示が大統領から発せられてからというもの、今や、状況は変化し始めています。さらなる展開が台無しにならないように神様にお祈りをしたい程です。

もしも明日にでも戦争が起こるとしたら:

- ノヴォロシアではこの春から夏にかけてどのような展開になるのでしょうか?どのように予見していますか?新たな軍事行動はあるのでしょうか?

- 悲しいかな、その可能性は非常に高いです。1年前には連邦化という考えは実現可能でした。しかし、今は、キエフ政府は戦争だけを必要としています。単一国家だけを必要としています。その理由はいくつもあります。主たる理由は、イデオロギー的には反ロ的な連中が国家の指導者として並んでおり、ワシントンの忠実な従者であるというだけではなく、彼らは実質的に米国政府の背後にある勢力から給与を貰っているのです。

- この悪名高い「世界政府」は何を望んでいるのでしょうか?

- 彼らが何を望まないのかを議論する方が手っ取り早いでしょう。彼らはウクライナが連邦化されることは望んではいません。制御することが余りにも難しくなると予測されるからです。連邦化したウクライナへ軍事基地や新たなミサイル防衛網を設けることは不可能です。そういう計画はすでに立案されているのです。ルガンスクやハリコフから戦術型巡航ミサイルが発射されると、我が国の主要な核抑止力が配置されているウラル山脈の向こう側にまで到達することが可能となります。そして、100%の確立でもって、これらのミサイルは地下に格納された弾道ミサイルや発進前の移動型ミサイルに命中させることが可能でしょう。さて、こういった適地はポーランドにも、トルコにも、あるいは、東南アジアにも存在しません。これが中心的な目標なのです。したがって、ドンバスを入手するためには、米国はウクライナ軍が最後の一兵となるまで戦うでしょう。

- あの地域はシェールガスが埋蔵されていますが、そのこと自体は問題外ですか?

- 米国の戦略的目標の中核はロシアと戦うために中央集権的なウクライナを完全なコントロール下に置くことです。シェールガスの存在や耕作可能な農地は単に素晴らしいボーナスに過ぎません。さらには、ウクライナとロシアの軍需産業との間の関係が崩壊しますと、我が国の防衛産業にとっては深刻な打撃となります。これはもう起こってしまったことですが。

- つまり、我々はもうしてやられたということですね。あのヤヌコビッチは特殊部隊の手で救出しなければなりませんでした。また、ワシントン政府はキエフに傀儡政権を設立しましたよね。

- 軍事戦略的な観点から見ますと、もちろん、我々は出遅れています。ロシアは「補償」としてクリミアを入手しました。そして、もうひとつの補償はウクライナ南東部の住民による抵抗です。しかしながら、敵側はかってはソ連領やロシア帝国の一部であったウクライナの大部分を手に入れています。

- ウクライナでは今年はどんなことが起こるのでしょうか?

- 半ば崩壊、あるいは、完全な崩壊が進行するでしょう。本物のナチズムを目の前にして、当面、多くのことが静かに起こっています。ウクライナとロシアは互いに固く繋がっていると理解する住民はまだ自分たちの言いたいことを明らかにはしていません。オデッサでもそうですし、ハリコフやザポロジエでも然りです。チェルニゴフでも同様です。ボイラーの蓋は不可避的に吹っ飛んでしまうでしょう。

- ノヴォロシアとウクライナとの関係はどうなるのでしょうか?

- トランスニストリアのような筋書きがありますが、これはあり得ないと私は思います。ドネツク人民共和国やルガンスク人民共和国はトランスニストリアよりも遥かに大きく、何百万もの住民が戦争に巻き込まれています。ロシアは当面これらの自治共和国の指導者を説得して、停戦に漕ぎつけています。しかし、これはあくまでも「当面の策」です。ノヴォロシアが何らかの形でウクライナ国家に参加するという話は何も進行してはいません。南東部の住民はウクライナに属することを望んではいないのです。

- クリミアを吸収したことによって我が国は既に世界から孤立していますから、ウクライナの南東部でいちかばちかやってみたらどうでしょうか?国際政治の偽善には誰もが飽き飽きしているのではないでしょうか?

- 私の意見では、いちかばちかの行動に出るのは時期尚早です。我々の大統領は覗き見されるような危険がまったくない水面下での動きが今ヨーロッパで進行していることに気が付いています。今事を起すと、大統領の考えを過小評価してしまう結果になります。彼らは何らかの手法や手段によって我々が国益を防御することができるようにしてくれるでしょう。

前線が明確ではない前線:

- ウクライナに関する膨大な量の情報の流れを目の前にして、ややもすると我々は中央アジアにおける宗教的過激主義の台頭を見落としてしまいそうです… 

- この傾向は我が国にとっては非常に危険です。タジキスタンは困難な状況に陥っています。キルギスタンも不安定です。しかし、あなたの新聞が書いていますように、最初の一撃はトルクメニスタンに向けられるでしょう。首都のアシュガバートは非常に離れているものですから、どうしても忘れ勝ちになってしまいます。しかし、この「区域」が最初に崩壊するかも知れません。彼らは自分たちを防衛するに十分な戦力を持っているでしょうか?場合によっては、我々はこの非常に遠距離にある国に介入しなければならないかも?とてつもなく困難な場所となりそうです。

「イスラム国」の武装勢力がこの地域へ浸透してきたからと言うだけではなく、最近のデータによりますと、米国とNATOはアフガニスタンからは撤退せず、軍事基地を温存させようとしています。軍事的観点から見ますと、残っている5千あるいは1万の兵力は1ヵ月以内に5万とか10万の兵力に拡大することが可能です。

これはロシアを包囲し、圧力を加えようとする総合計画の一部です。この計画は米国が作ったものですが、ウラジミール・プーチン大統領を失脚させ、ロシアを分断しようとするものです。通りを歩いている一般庶民は、もちろん、このようなことは信じようとはしませんが、十分な情報に接している人たちは正確に理解しています。

- 分断の境界はどの辺りにあるのでしょうか?

- 最初は彼らは「守りの緩い地域」を狙うだろうと思います。何処が分断されるかは問題ではないのです。カリーニングラードかも知れないし、北コーカサス、あるいは、極東地域かも知れません。これが雪崩のように進行するプロセスの起爆剤となるのです。この種の考えは単なる宣伝ではなく、現実の問題です。西からの圧力(ウクライナ)や南からの圧力(中央アジア)は高まるばかりとなります。西側の扉の隙間から浸透しようとしつつ、その一方、彼らは南側の扉がどれだけの強度を持っているのかについても試してみようとするでしょう。

- 我々の戦略的にもっとも危険な方向は何処でしょうか? 

- 南方向がもっとも危険です。しかし、今のところは緩衝国家として旧ソ連邦に属していた中央アジアの国々があります。さらには、西方向です。ウクライナの内戦は国境の間際で起こっています。実際問題として、この戦争は我々の影響圏の内部で起こっているのです。

あそこで進行しているのはウクライナとロシアとの間の戦いではなく、世界全体のシステムに関わる戦いです。住民の間には「ヨーロッパ」であると考える人もいますし、自分たちをロシアと関係付けて考える人たちもいます。結局、我々の国は単なる領土を指すものではなく、世界秩序について自分たちの考えを世界にもたらすことができる明確な文明圏だとも言えます。当初は、もちろん、東方正教文明のモデルとしてロシア帝国がありました。ボルシェビキがそれを破壊してしまいましたが、新たな概念が導入されました。そして、今、我々は第三の概念に到達しようとしています。5-6年もすれば、それを目にすることができるでしょう。

- それはどんなものでしょうか?

- 初期のさまざまな概念を上手く共生させたようなものになると私は思っています。我々の「目の敵」はそのことに気づいています。したがって、攻撃はあらゆる側から行われることでしょう。 
- すなわち、テロに対するロシア・米国連合、特に、イスラム国に対する戦いは単なる作り話であるとでも? 

- もちろんです。米国はテロリストを育成し、彼らに食を与え、軍事訓練を施し、テロリスト集団の全員に「攻撃!」と命令を下すのです。多分、「狂犬病」に罹った一人か二人は殺害されるでしょうが、残り全員は扇動の対象となります。

そして、悪魔がダンスをリードする [訳注:これはカトリーヌ・ドヌーブが主演した1962年のフランス映画のタイトルを流用した表現]: 

- レオニード・ぺトロヴィッチ、よく分かりました。あなたは米国とその大統領は単なる手先でしかないとお考えですね。それでは、政策を実際に操っているのはいったい誰でしょうか?

- 一般大衆には実質的には分かりませんが、誰かを米国大統領に就任させるだけではなく、「偉大なるゲーム」の全体を操る規則を決定する人たちの集団があります。詳しく言うと、彼らは多国籍金融企業の集団です。しかも、これは彼らだけに限るものではありません。

今、世界中の金融や経済のシステムを組み換える作業が進行しています。資本主義を崩壊させることもなく、資本主義の構造全体を考え直そうとしています。対外政策は劇的に変化しています。イランとの関係を改善するために、米国は中東では米国の主要な盟友であったイスラエルを突然破棄しました。何故にイランがテル・アヴィヴよりも重要だと言うのでしょうか?何故かと言いますと、イランはロシアを包囲するベルト地帯の一部であるからです。これらの秘密集団は我が国が国際舞台で相当な地位を占める国であると見なして、我が国を一掃しようと決めています。結局のところ、西側全体にとってロシアは代替文明を持っているのです。

今は特にそうです。今、世界中で反米感情が爆発的に高まっています。ハンガリーでは、保守的右派が舵をとっています。ギリシャの左派は当初はまったく正反対の位置にあった別個の集団であったのですが、実際には互いに統合して、旧大陸における米国の支配に対して頑固に抵抗しています。イタリアでも、オーストリアでも、そしてフランスやその他の国々でも「抵抗」勢力がいます。もしもロシアがこの時期に台頭しますと、ヨーロッパではさまざまなプロセスが始まります。これは世界征服を目指す勢力にとっては不利な状況を導くでしょう。彼らはこのことを完全に理解しています。

- ヨーロッパの指導者の幾人かは米国の対ロ経済制裁は実質的には自分たちの国に対して課された経済制裁みたいなものだとして嘆いています。ヨーロッパは果たしてこの「友好的な」米国の支配から逃れることが出来るのでしょうか? 

- それは出来ない相談でしょうね。米国は数多くの鎖を用いてヨーロッパをしっかり縛っています。例えば、連銀はドル紙幣の増刷を行い、カラー革命によって脅迫をし、気に入らない政治家を物理的に葬り去っています。

- 物理的に葬り去るって、誇張ではありませんか?

- これは決して誇張ではありません。米国のCIAの本来の任務は諜報サービスではないのです。KGBFCDまたはSVRは古典的な諜報サービスに徹しており、情報を収集し、国家の指導者に対して報告をしています。CIAの場合、これらの伝統的な諜報の属性は彼らの任務のリストでは一番下の方にようやく発見することができます。主要な仕事は特定の政治的指導者を排除することであって、これには物理的な排除も含まれます。それと並んで、もうひとつの主要な任務はクーデターを組織化することです。彼らは実時間モードでこの仕事に従事しています。

原子力潜水艦「クルスク」の事故による沈没があった後、米CIAの長官を務めるジョージ・テネットがルーマニアを経由してロシアへ飛んできました。その際、私は空港で彼を出迎える任務を与えられました。テネットは中々飛行機から姿を現さないのです。しかし、入り口が開かれ、私は彼が使っているハーキュリーズ輸送機の内部を垣間見ることができました。それはまさに「飛行する司令塔」そのものでした。さまざまな装置や通信システムで満杯となっており、世界中の状況を監視し、シミュレーションを行うことができます。随員の数は20名。我々も飛行機で飛び回ったものです。依然として今でもそうですが、我々の場合は通常の旅客機を予約し、2人から5人位のグループで行動します。皆が言うように、この大きな違いを感じて欲しいと思います。

- 諜報サービスについてですが、SVRFSBを統合して、ロシアの諜報サービス全体を再構築するという考えについて議論が再燃しています。あなたはどうお考えでしょうか?

- 大反対です。仮にふたつの諜報局を統合しますと、我が国のトップの指導者のためのふたつの種類の情報源である「諜報」と「防諜」とを統合することになります。そうしますと、この「情報の源泉」を指揮する人物は独占的になります。彼は特定の目標を達成するために情報を操作することが可能となります。KGB時代には、私自身(レシェトニコフ中将)にとっても情報の操作は明らかでした。国家の最高権威者である大統領や王あるいは首相にとっては、複数の互いに独立した情報源が存在すること自体が非常に有益です。さもなければ、政府はこの特定の組織の長官の人質に化してしまうかも知れません。それは非常に危険なことです。

この考えを唱導する人たちはそのような統合をすることによって自分たちの能力を強化することができると考えていますが、実際には、我々は自分たちを滅茶苦茶にしてしまうかも知れません。

誰かに判決が下されましたか?

- 世界規模の陰謀論から「我々の地味な仕事」へと移行しましょう。自分がするべきことをわきまえてはいなかった高官は創造的な行為によって意欲的に周囲に影響を与える人たちからはどのように区別したらいいのでしょうか? 

- 周囲に影響を与え、しかも、素晴らしいレベルに達している人は世界中でもそう多くはいません。自国の国益に反するような真剣な戦略上の意思決定を採用するにせよ、採用しないにせよ、主としていわゆるイデオロギー派の連中によって議論が開始されます。この連中は政府のトップに居座っているロシアの高官ではあるのですが、彼らの信条は西側に傾いています。これらの人たちを情報提供者として採用したり、彼らに命令を与える必要はありません。と言うのは、これらの連中は、「あちらの世界で」実施されている物事はすべてが最高とも言える文明によって達成されたものであると受け取るからです。そして、こちらで目にする物事は「洗練されてはいないロシア的」なものであると見なし勝ちです。彼らは自分たちの子供の将来をこの国と結びつけて考えようとはせず、子供たちを外国へ留学させます。これは西側の銀行に預金口座を所有すること以上に深刻な兆候であると言えます。こういった「同志」は、ロシアの「発展」こそが自分たちが精魂を込めて面倒を見なければならないテーマであるにもかかわらず、心底からロシアを憎んでいます。

- 我が国の大臣の何人かについて、人物像を実に正確に描いていただきました。こういった大臣たちと一緒にいる訳ですが、我々はこの2015年をどのように過ごすことになるのでしょうか? 

- 彼らと一緒であろうとなかろうと、今年は非常に困難な年となるでしょう。翌年は容易になるだろうとは決して言えません。しかしながら、その後は新しいロシアを誇りとする大行進が始まることでしょう。

人物紹介: レオニード・レシェトニコフ。194726日、(当時の東ドイツの)ポツダムにて軍人の家庭に生まれた。ハリコフ国立大学の歴史科を卒業し、(ブルガリアの)ソフィア大学で博士課程を修了した。1974年から1976年まで、ソ連邦科学アカデミーの国際社会主義システム経済研究所に勤務。19764月から20094月まで、外国諜報の分析部門にて勤務した。彼の最後の役職は「ロシア対外情報庁」の情報分析部門の最高責任者で、SVRの理事を務め、中将にランクされた。20094月、軍務の年齢制限に達したために予備役となった。ロシア安全保障委員会のメンバー。セルビア語とブルガリア語を流暢に喋り、ギリシャ語での会話も可。さまざまな国家勲章(勇敢勲章、名誉勲章)、ロシア正教会からの勲章(Order of Holy Prince Daniel of Moscow, Order of Saint Prince Dmitry Donskoy)、ならびに、メダルを授与され、表彰も受けている。

<引用終了>


昨年から今年にかけて、世界はめまぐるしく変化し始めた。上述の引用記事は資本主義世界は全面的な見直しを始めていると報じている。大きな変化が起こりつつあること自体は我々素人の目にも明らかである。

例えば、米国による単独覇権の構造が今急速に多極化の方向に移行している。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)には、米国の制止も聞かずに、西側諸国は雪崩をうって参加を表明した。残された主要な国は日米だけとなった。その米国でさえも、結局は、ルー財務長官がAIIBを歓迎すると表明した(331日)。この全体の動きは、ヨーロッパ勢の先頭を切って参加を表明した英国の姿を見るまでは、素人にとっては予想もつかない展開であった。

上記の引用記事には「我々の大統領は覗き見されるような危険がまったくない水面下での動きが今ヨーロッパで進行していることに気が付いています」という文章があるが、このAIIBの件もそういった水面下の動きのひとつであったのかも知れない。

このめまぐるしく変化する状況を素人分かりするように懇切丁寧に解説してくれているニューズレターがある。田中宇の国際ニュース解説 無料版 2015416日(http://tanakanews.com/)である。その一部分を下記に転載してみよう:

…これまで「対米同盟」という電車は世界各国が乗り込んで大混雑で、敗戦国
として「3等切符」の日本は、座ることもできず苦しい姿勢だった。ところが
最近、他の乗客がこぞって「親中国」という別の電車に乗り換え、対米同盟電
車はがらがらになり、日本は特等席に座れて大満足している。しかし実のとこ
ろ、他の乗客が降りていったのは、対米同盟の電車が終点(覇権の終焉)に近
づいているからだ。良い席に座れて喜んでいる日本は、電車が間もなく終点に
着くことに気づいていない。日本は、小泉や鳩山の政権時代に親中国に乗り換
える機会があり、早めに乗り換えていたら良い席に座れただろうが、今ではも
う遅い。再び最下位の「敗戦国」の地位からやり直すことになる。

AIIBを巡る英国の米国離れ、イランを巡っての米・イスラエル関係の冷却、等、従来の世界秩序には亀裂が入り始めた。このプロセスはどこまで展開するのだろうか?

上述のレオニード・レシェトニコフ中将によると、ひとつの答えとして、新秩序がどのような内容となるかは別にしても、その出現の時期は数年先となるようである。


参照:

1Putin Advisor: Novorossiya Will Never Be Part of Ukraine Again: By Paul Goble, Apr/09/2015, russia-insider.com/.../putin-advisor-novorossiya-will-never-be-...

2Interview of a senior Russian Foreign Intelligence analyst: By Alexander Chuikov, Apr/09/2015, http://argumenti.ru/toptheme/n481/394395