2015年9月23日水曜日

アサド大統領 - シリア内戦の原因はISISや西側のプロパガンダにある



今夏、何十万人にもなるシリア系の難民がヨーロッパを目指して移動した。それに加えて、イラクやアフガニスタンからの難民もだ。今も続いている。

これを見て、ヨーロッパ各国では多くの人たちがイスラム国(IS)の過激派武装集団の残虐性が自分たちの街の通りや自宅の裏庭へ迫って来るかも知れないと心配し始めた。自分たちがその原因を作ったことはすっかり忘れてしまったかのような言動も多く見られる。

難民問題を解く鍵は根本的な原因を取り除くしかない。それはシリアやイラクで勢力を拡大しているISを阻止し、排除することを意味する。また、イスラム過激派を醸成した要因は米国政府の中東における石油や天然ガス資源に対する飽くなき利権の追求にからんで、安定した政権を潰して、米国に都合のよい傀儡政権を樹立しようとしたネオコンの政策にあると指摘する専門家の意見も多い。つまり、米国政府の対外政策の変更が重要な要素だ。現行の政策を続ける限り、たとえイスラム国を潰すことに成功しても、第二、第三のイスラム国が出現することだろう。

実績を挙げてはいない米国主導のIS対策は今見直されようとしている。

米国はどうして実績を挙げることが出来ないのか?それはこういう背景から来ている。米国は建前上ではIS対策を声高に喋りながらも、背後ではイスラム国を支援し、戦場になっているシリア領内ではシリア政府軍を攻撃するという二重の政策を採用しているからだ。米国のこのような行動はIS対策を隠れ蓑にしたものであって、アサド政権の弱体化、さらには、その崩壊を目指したものであると、専門家たちが指摘している。

最近、ロシアは国際的な協力によってIS対策を進めようと動き始めた。外交ルートを通じて秘密の交渉が関係各国との間で進められているという。ロシアの主目的は、米国のそれとは大きく違って、国際協力体制を樹立して、それらの勢力をシリア軍の下へ統一して、実効性のあるIS対策を実施しようという点にある。

このような新しい状況の中、今、シリア大統領は何を考えているのだろうか?

ここに、つい最近行われたインタビュウに関する記事がある [1]。現状を理解するために、アサド大統領が今何を思っているのかに関しておさらいをしておきたいと思う。


<引用開始>

 Photo-1: アサド大統領

RTを含めたロシアの複数のメディアとのインタビュウで、シリアのバシャル・アサド大統領はテロリズムや難民危機、ならびに、西側のプロパガンダについて言及した。歴史的な背景にも分け入り、同大統領は米国のイラクへの侵攻がシリアに騒乱状態をもたらす切っ掛けになったと述べた。

シリア内戦の原因について:

シリア大統領はもし自分がシリアで起こった事柄の中に「重要な岐路」があったと言えば、それはいささか驚きとして受け取られるかも知れないが、「これは多くの人にとっては思いも寄らないことだと思う」と述べた。 

「あれは2003年のイラク戦争でした。米国はイラクへ侵攻しましたが、あの武力侵攻については我々は強く反対しました。そんなことをすれば、イラク社会が分断され、不安定な状態を作り出すだけだということを我々は予見していたからです。しかも、われわれはイラクの隣国です。あの当時、この戦争はイラクを派閥抗争の国に変えてしまうだろうと我々は推測していました。自国の利益に反した、分断された国家です。シリアの西側にはもうひとつの分断された国家、レバノンがあります。我々の国はそれらの間に位置しています。我が国が影響を受けるだろうということは十分に認識できることでした。その結果、シリア危機の始まりは、つまり、最初に何が起ったかと言うと、イラク戦争からごく自然に派生した影響やイラク国内の派閥争いです。その一部がシリアへも波及して来たのです。彼らにとっては派閥という論理に立つ幾つかのシリア人のグループを扇動するのは容易いことでした。」

大統領はさらにこう述べた。1980年代に西側はアフガニスタンで「公式に」テロリズムを採用し、テロリストを「自由の戦士」と呼んだ。そして、2006年に米国の支援の下でイラクにおいてイスラム国(IS、以前のISISまたはISILを指す)が出現した時、西側はIS とは戦おうとはしなかった。



Photo-2: シリア危機はイラク戦争やイラク国内での派閥間の状況から自然に生じたものだ

「これらのことのすべてが一緒になって、西側からの支援や湾岸諸国、特に、カタールやサウジアラビアからの資金を得て、また、エルドガン大統領は知的にはムスリム同胞団に共鳴していたことから、トルコは兵站面での支援を行いました。うまく事が運べば、シリアやエジプトおよびイラクで状況が変化し、それは新しいサルタンの支配国の誕生を意味することになるのです。今回はオットマン・トルコではなく、エルドガンの下に大西洋から地中海にまたがる同胞団のためのサルタンの統治というわけです。」

「これらのすべてが今日我々が直面している問題をもたらしたのです。もう一度言いますが、間違いもありました。間違いが起こると、常にギャップや弱点を形成します。でも、そうしたギャップや弱点だけでは問題をもたらすには十分ではありません。実際に起った問題点を説明し切れないのです。もしもこれらのギャップや弱点が原因のすべてだとしたら、湾岸諸国では、特に、民主主義についてはまったく無知とも言えるサウジアラビアではいったいどうして革命が勃発しなかったのでしょうか?答えは自明だと私は思います。」 

ISISおよびテロリズムについて: 

アサド大統領は、シリアは外国から支援を受けたテロリズムとの「戦争の真っ最中である」と言い、さまざまな政治勢力はシリアが求めている市民の安全の確保に向けて一致協力すべきだとも言った。

「我々は先ずテロリズムと戦うために団結するべきです。これは論理としても当然のことであり、自明の理でもあります」と大統領は言った。

彼はこう述べた。「以前はシリア政府軍と戦っていたけれども、今はシリア政府軍と一緒になってテロリズムと戦っている勢力も幾つかあります。この点に関しては我々は進歩したと言えますが、この機会にすべての勢力がテロリズムと戦うために団結するよう要請したいと思います。何故かと言うと、我々シリア人にとっては、自分たちのやり方としては対話や政治的行為を通じてのみ政治目標を達成することができるからです。」 

国境地帯をイスラム国の武装兵力がいない地帯にしようではないかとの提案をトルコから受けた時、アサドはその概念には他の地域ではテロリズムが容認されるかのような響きを持っていると言った。「あの提案はとてもじゃないが受け入れられない」と彼は言った。

「テロリズムはすべての地域から排除するべきです。我々はテロリズムと戦うために国際的な一致協力体制を確立するようすでに30年にもわたって提案し続けて来ました。」 

難民危機について: 

ヨーロッパで進行中の難民危機に関して、シリア大統領は、西側は「難民については片方の目で涙を流し、もう一方の目では自動小銃で彼らに照準をつけている」と言った。

その発言に加えて、アサド大統領はこうも言った。「もし難民について心配をしているならば、テロリストに対する支援を中断するべきです。これがこの危機についての我々の考えです。これこそが難民問題の中核的な要素です。」 

Photo-3: 西側は1980年代の初期にアフガニスタンで公式にテロリズムを採用した

また、西側のプロパガンダは、難民はテロリストたちから逃れようとして国外へ脱出しているにもかかわらず、難民たちはシリア政府から逃れているのだと報道している。しかも、メディアはシリア政府を強圧的な政権だと形容している。

この「プロパガンダ」はさらに多くの難民を西側にもたらすだけだと、シリア大統領は述べた。
「…今、アル・ヌスラやISISのようなテロリストが存在するが、西側はそれはシリア国家、シリア政権、あるいは、シリア大統領のせいだと言っています。彼らがこの種のプロパガンダを続ける限り、より多くの難民が創出されることでしょう。」 

内戦をシリア大統領のせいだとするプロパガンダについて: 

西側のプロパガンダはシリア危機を過剰に単純化しており、「シリア国内の問題のすべては一人の人物のせいだ」と報じているとして、アサド大統領は西側を非難した。この種の誇張の結果、市民らは「その張本人を排除しさえすればすべては上手く行く」と思ってしまう、と大統領は付け加えた。

また、自分が権力の座に居る限りは、西側はテロリズムに対する支援を継続するだろうとも大統領は述べた。「何故かと言いますと、シリアやロシア、ならびに、その他の国において西側が従っている行動原理は大統領を交代させよう、あるいは、政権を転覆させようという点にあるからです。何故でしょうか?彼らはパートナーを受け入れようとはしませんし、独立心が旺盛な国家は受け入れたくはないからです。」 

シリアでは大統領は市民による選挙を通じて選出される、と大統領は言った。そして、彼が下野する場合は、彼は市民の意志にしたがって下野する。一国の指導者は「米国の決定や安全保障理事会、ジュネーブ協定、あるいは、ジュネーブ・コミュニケにしたがって下野するわけではありません」と、彼は強調した。 

「指導者はその座に残って欲しいと国民が望むならば、彼は権力の座に残るべきです。国民が彼を更迭したいならば、彼は速やかに下野するべきです。これがこの問題を見る際の私の行動原理です。」 

シリア危機の政治的解決について: 

ダマスカスは、この国の将来について合意を得るためには、「シリア政権」「政治団体」との間で対話を継続し、それと同時にテロリズムと戦う必要がある、とアサド大統領は言った。

「前にも言っていますように、意見の一致を達成するには我々は対話を続けなければならないわけですが、実際的に何かを実現したいと思っても、国民が殺害されたり、流血沙汰が続いていたり、市民が安全・安心を感じることができないでいる限りは、何事も実現することはできません。シリア人の政党あるいは勢力として一堂に会して、何らかの政治、経済、教育、医療、あるいは、何でも結構ですが、特定のテーマについて合意を得ましょう。でも、シリア市民の一人一人が自分自身や家族の安全を確保することで精一杯でいる時に、いったいどうやってそのようなテーマを実現できると言うんでしょうか?合意を得ることはできるでしょうが、シリアにおけるテロリズムを撲滅しない限りはそれを実現することは不可能です。ISISだけに限らず、我々はテロリズムを撲滅しなければならないのです。」 

Photo-4: 我々はテロリズムを敗北させなければならない。ISISだけの話ではない。

ロシアやイランの協力について: 

ダマスカス政府はテロリズムとの戦いにおいて「友好国」との協力を準備している、とシリア大統領は述べた。これは、特に、ロシアやイランとの協力関係についての言及である。

シリアとイランとの間の関係は「古くからのもの」であって、この同盟関係は「非常に大きな信頼に基づいている」とアサド大統領は言った。

「イランはシリアならびにシリア市民を支援しています。同国は政治的にも、経済的にも、そして、軍事的にもシリアを支持しています」と、彼は言った。さらには、「この非常に困難な時に、残酷な戦争のさ中にあって」、イランからの支援はシリアにとっては非常に重要であるとも付け加えた。 

しかしながら、テヘラン政府は軍隊あるいは武装兵力をシリアへ派遣したとする西側メディアの主張に関しては、彼はそれを否定した。

「あの主張は本当ではありません。イランは武器を送ってきますし、勿論、シリアとイランとのあいだには軍事専門家の交流もあります。これはいつもの通りです。それぞれが戦争状態に置かれたふたつの国の間ではこの種の協力関係が進行するのはごく自然なことです」と、アサド大統領は言った。

ロシアに関しては、「モスクワとダマスカスとの間にはしっかりした、しかも、長い歴史を持った協力関係があります」とアサド大統領は言った。

しかし、アサド大統領はこうも述べている。「米国主導の国際的連携と称されるような軍事行動ではなくて、本当にテロリズムと戦う意志がある国についてはどの国に対してもシリアは拒否はしません。」 

「トルコやカタール、サウジアラビア、ならびに、テロリズムに支援を与えているフランスや米国、その他の西側諸国はテロリズムと戦うことはできません。単純に言って、テロリズムを支援しながら、それと同時に彼らと戦うことなんて不可能です。これらの国が自分たちの政策を変更し、テロリズムはサソリのようなものであるということを認識しさえすればいいのです。サソリを自分のポケットへ入れていると、サソリに刺されてしまうでしょう。そういった新たな認識があれば、我々はどこの国とも協力し合うことに異存はありません。勿論、テロリズムと戦う意志が本物であって、偽物ではないという前提です。」 

Photo-5: 西側は片方の目では難民に同情を寄せてはいるが、もう一方の目では彼らに銃口を向けている。

クルド人に対するアサド大統領の姿勢: 

クルド人については何か具体的な姿勢はあるのかとの問い掛けに対して、「彼らはシリアを構成する一員です」と、アサド大統領は言った。

「彼らは外国人ではありません。彼らは何世紀にもわたってシリアに住んで来たアラブ人やチェルケス人、アルメニア人、あるいは、その他諸々の民族性や分派のようにこの地域に住んでいます。これらのグループを除いては、同質のシリアは生まれなかったことでしょう…」

「その一方、クルド人のすべてを同一視することは不可能です。シリアを構成する他の民族のどれをとっても同じことですが、彼ら自身の間にはそれぞれ違った流れがあります。彼らはそれぞれ異なる党派に属しています。左派もおりますし、右派もいます。諸々の種族がいますし、互いに異なるグループもいます。したがって、クルド人を単独の集団として議論することは客観的ではありません」と彼は述べた。

Photo-6: 我々は30年間にもわたってテロリズムと戦うために国際的連携を呼びかけている。

しかしながら、「この段階では、誰かが示唆しているようなクルド人との同盟関係は何ら存在してはおりません」と、彼は強調した。

「シリア軍と一緒に戦って、戦死したクルド人はたくさんいます。これは、彼らがシリア社会を構成する一員であることを示しています。しかし、特定の要求を掲げた政党もあります。危機が始まった頃、幾つかの政党に対して我々の方から呼びかけたことがあります。国家とはまったく関係なく、国家として関心を寄せることができないような要求もあります。また、全国民や憲法に関わる要求もあって、そのような場合には、市民は国家が意思決定をする前にそれらの要求を承認するべきです。何れの場合にも、提案事項は国家的な枠組みの中で取り扱うべきです。だからこそ、我々はクルド人と共にあり、その他の種族についても彼らと共にあるのです。我々は皆がテロリズムと戦うための連携関係にあるのです。」 

シリアにおいてテロリストを駆逐した暁には、「特定の政党によって表明された」クルド人の要求は国家的な規模で議論することが出来ると、彼は付け加えた。

<引用終了>


アサド大統領とのインタビュウ記事を読むのはもう何回目になるだろうか。何時も感じることだが、アサド大統領はしっかりした政治哲学を持っているという点が非常に印象的である。さらには、民主的な選挙によって地滑り的な勝利を得ているからだろうか、一国を率いる大統領としての自信に満ちている。

シリアに関しては国際政治が急展開を見せているように思えるが、ここでシリアを取り巻く基本的な事実関係を再確認しておきたい。

こうした背景にあって、ロシアのプーチン大統領は国際社会に向けてシリアを中心とした連携を呼びかけ、テロリズムを排除しようとしている。928日の国連総会では各国首脳の演説が予定されているが、プーチン大統領の演説がどれだけの賛同を得ることが出来るのか、シリア内戦が収束する方向へ大きく舵を切ることになるのかどうか、今後の展開が見物である。 


参照:

1Cause of Syrian civil war, ISIS and Western propaganda: Assad interview highlights:  By RT, Sep/18/2015, http://on.rt.com/6rpk



2015年9月19日土曜日

14兆ドル – 2014年の全世界における戦争の代償



最近の米国は戦争に首まで浸かったままである。しかも、何年も続いている。

米経済の50パーセントは軍産複合体とそれに関連するサービスが占めると言われている。どこかで戦争をしていないと、米国の経済は動かない程である。

米国の2014年の軍事予算(5,810億ドル)は二番手の中国(1,290億ドル)を始めとした9か国(中国、サウジアラビア、ロシア、英国、仏、独、日、インド、韓国)の軍事予算の合計(5,660億ドル)を越す。中国の軍事予算は米国のそれの22パーセントに相当するに過ぎない。調査の対象となった残りすべての156ヵ国の軍事予算の合計は3,420億ドルである [1]

そして、不幸なことには、戦争による破壊活動は今年も続いている。
武力紛争はすべてを破壊する。住居、学校、病院、公共施設、道路、橋、鉄道、空港、上下水道、通信施設、等、ありとあらゆる構造物が破壊されてしまう。そして、何よりも悲惨なことは庶民の生活を破壊してしまうことだ。
シリア紛争で破壊された市街地の様子は凄まじいばかりだ。生命の危険を感じて国外(トルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、およびエジプト)へ逃げ出したシリア市民の数は4百万人、長年住みなれた故郷を離れて国内で移動した市民は7.6百万人に達すると伝えられている。合計で、千2百万人に近い。死者数は32万人に達する。さらに、行方不明者や記録されてはいない死者が9万から11万人もいる。

「シリア紛争はプーチン抜きでは解決はできない - ドイツの政治家の弁」と題された913日の「スプートニク」の記事にはすっかり破壊された街の写真が掲載されている。街の名前は分からない。まさに瓦礫の山である。

 Photo-1: 瓦礫の山 © AFP 2015/ ABD DOUMANY 

この種の写真は嫌と言うほど見てきた。ボスニア・ヘルツエゴヴィナで、アフガニスタンで、イラクで、ガザで、リビアで、ウクライナのドネツク・ルガンスク両州で。そして、今、イエメンで。

紛争の当事者間で和平が実現したとしても、街の再建には莫大な費用と長い時間を必要とする。砲撃を受けて負傷した人の経済的損失や心的苦痛は想像する術もない。働き手を失った家族の苦難は計り知れない。

別の記事 [2] を見ると、2014年中の全世界での戦争による代償は14兆ドルに達すると報告している。

この14兆ドルという金額はいったいどれほどの額なのか私にはとても実感が湧かない。

これは全世界のGDP13パーセントに相当し、英国、フランス、ドイツ、カナダ、スペインおよびブラジルの経済規模の合計値にほぼ匹敵するという。仮にこの14兆ドルの10パーセントだけでも節減することができたとすれば、それだけで破産寸前のギリシャの負債を6回も繰り返して支払うことができるという。国の借金の総額をGDP70パーセントのレベルへ引き下げるために、ギリシャは2,120億ドルの融資を必要とする。昨年全世界が被った戦争による代償の10パーセントは1.43兆ドルに相当。さらに、その6分の12,383億ドルとなる。これだけあれば、EUをあれだけ騒がせたギリシャの救済には十分だ。

基礎的な大小関係を上記のように大雑把に把握した上で、二番目の記事を仮訳し、皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>



Photo-2: 米兵士の墓を訪れる家族

新しい報告書が金曜日(2015619日)に公開された。それによると、2014年の世界における戦争の代償は14兆ドルに達するという。

経済平和研究所(IEP)が作成した本報告書は、シリアやイラクおよびアフガニスタンでの紛争が世界における死者の殆んどをもたらす要因になったと報告している。

この報告書によると、シリアは地球上でもっとも平和に欠けた国であると位置づけられ、イラクとアフガニスタンがこれに続く。米国はこれら3カ国の戦争のすべてに関与している。「10年前は年間平均でテロリストの攻撃による死者はせいぜい2千人のレベルであったが、昨年は2万人が死亡した。」と、同報告書は述べている。

「世界平和度指数」報告書は戦争による代償は全世界のGDP 13パーセントにも達し、これは英国、フランス、ドイツ、カナダ、スペインおよびブラジルの経済規模を合計した値にほぼ匹敵すると報告している。

ムサブ・ヨセフはツイッターに下記を掲載している。pic.twitter.com/0rej5PF0Ze — Musab Yousef (@musabyousef1) June 18, 2015


経済平和研究所(IEP)報告によると、全世界の戦争による代償は14兆ドルに達する。


Photo-4: 戦争が世界経済に及ぼす影響 

経済平和研究所の創立者であり所長でもあるスティーブ・ギラレイは「世界中の戦争を均等に10パーセント程小さくすることができるとしたら、1.43兆ドルもの富が世界経済に追加されることになる…」と述べている。

2014年は矛盾に満ちた1年であった。OECD加盟諸国は歴史的に見てもより高い平和度を実現した。その一方、紛争国では、特に、中東では武力紛争が今まで以上に激しくなった。この状況は非常に深刻である。これらの紛争はますます解決が困難となり、テロリズムは他国へと広がって行く」と、ギラレイは付け加えた。

世界でもっとも平和な国はどこか? http://t.co/KXt1PoratJ #peace @GlobPeaceIndex pic.twitter.com/gIvitYCG1j世界経済フォーラム (@wef) June 18, 2015

2008年から毎年発行されている「世界平和度指数」は23個の指標、ならびに、「社会の安全とセキュリティーのレベル」、「国内や国外での紛争」および「軍事化の度合い」といった三つの重要なテーマを用いて算出される。

武力紛争によって死亡した人の数は2010年の49,000人から2014年には180,000人に急増した。中東や北アフリカでは2008年に平和度指数が公開されてから最悪の年となった。 

La nueva Televisión del Sur C.A. (TVSUR) RIF: G-20004500-0

この記事は最初にteleSUR [訳注: ベネズエラに所在するメディア] によって下記のサイトに掲載された: 
この記事を使用する際には情報源を記述し、オリジナルの記事とのリンクを示してください。www.teleSURtv.net/english
La nueva Televisión del Sur C.A. (TVSUR)

<引用終了>


あれだけ大騒ぎをしたギリシャに対する融資パッケージを(数字の上では)こうも簡単に充当することができるのだとすれば、ウクライナの救済なんて容易いことなのではないか。ウクライナの場合、融資必要額は、少なくとも、計算上では一桁も小さいからだ。

要は政治だ。如何に健全な政治を行うことができるかということに尽きる。

残念ながら、いつの時代にも戦争をしようとする国はある。誰かが言った。「戦争ほど大事な政治的行為はない」と。頷けるような気もするが、この論理は完全に覇権国側の論理である。

しかしながら、戦争を遂行する側の負担も無視することはできない。率直に言って、米国の今日の姿を見ると、そのことが良く分かる。非生産的な戦争を継続することによって、米国の経済は軍事産業だけに頼る経済と化しており、国家財政は破産寸前である。

「今日の米国は西暦460年のローマ帝国だ」と誰かが論評した。国家の変革を求める真面目な政治家もたくさんいるのだが、戦争経済にうつつをぬかし、強硬路線を叫ぶ政治家は大衆に受けるのが常である。こうして、変革には失敗し、ローマ帝国は崩壊した [3]

日本は日露戦争(1904~1905年)を遂行するために、戦争の開始前からロンドンで外債の募集を試み、多額の借金をして、戦争のための資金を確保しなければならなかった。戦費は19.8億円となり、これは1904年度の政府歳出額である2.2億円の8.9倍に相当。つまり、9年分の国家予算に相当するほどであった。

日露戦争の終結の交渉過程では、日本は戦費に相当する賠償金をロシアから奪おうとしたが、賠償金を手にすることはできなかった。日本国内では「ロシアに勝った!」として大騒ぎをしていたが、国際的には必ずしもそのようには評価されていなかったということだ。日本は負けないで済んだ、あるいは、引き分けに終わったということに過ぎない。

そして、日本は日露戦争での借金を返済するのに80年もかかった。借金は金利を含めて何倍にも膨らんだのである。

第一次世界大戦で敗戦したドイツは戦時中の借金を返済するのに92年もかかった(2010年まで)。これは日露戦争が日本に与えた影響と同程度の年月だ。

英国政府は、昨年10月、第一次世界大戦時に発行した戦時公債を100年たった今(20152月)償還することに決めたそうだ [4]。この戦時公債は償還期限がないことから、「永久債」とも呼ばれていた。昨今は金利が安い。相対的に高い金利の100年前の公債を償還して、もっと安い金利の国債を新たに発行しようということだ。政府にとっては、利払いを縮小するための策である。

「世界でもっとも平和な国はどこか?」のサイトを覗いてみると、日本は平和度指数が高く、トップの10ヵ国に入っている(8番目)。

しかし、この夏日本の政治は軍事化の傾向を強めている。中国や韓国およびロシアとの領土問題で敵対関係を続け、海外の戦争へ日本の自衛隊を派遣することができる体制の整備に身をやつしている。こうして、日本は「軍事化の度合い」を高めていると見られ、三つの重要なテーマのひとつで平和度の評価がさがるのではないだろうか。来年の平和度のランキングではトップ・テンから脱落するのかも知れない。

政治的には非常に不健全であると言いたい。


♞  ♞  ♞

我々一般庶民の目にはつきにくいことではあるが、借金の返済で苦労した各国の歴史を読んでみると戦争の惨たらしさを改めて痛感させられる。

そして、今の日本政府が抱えている債務はどのように返済していくのだろうかと考えさせられてしまう。

日本政府の債務総額は膨らむばかりで(2014年度の国債残高は885兆円)、減少の兆候はない。2014年度の国債残高は対GDP比で181パーセント。そして、日本の人口は減り続け、GDPは縮小の方向にある [注:これらの数値はウィキペディアによる]

戦場となった国や兵士を送り出した国では一番苦労させられるのは決まって一般大衆である。このことを忘れてはならない。幸いにも戦争を生きながらえることができたとしても、何十年にもわたって多額の税金を課され、支給される年金は雀の涙ほどでしかない。

要するに、戦争は非常に長い年月にわたって国民に負の影響を与えるのだ。


♞  ♞  ♞

日本政府は対外派兵や集団的自衛権の行使を容認しようとしており、本日、919日未明、安保関連法は参院本会議を通過し、可決された。

将来の日本を考える時、この安全保障関連法案は果たして賢い選択であるのかどうかを即断することは生易しいことではないが、少なくとも、米国の戦争に日本の自衛隊が参加する道を開くこの法案は日本が太平洋戦争以降70年間求めてきた平和国家、戦争を放棄する国家を希求することからの決別であると言える。この安保関連法は「将来の日本が生き残る道は米国の戦争に加担することしかないのだ」と言わんばかりだ。

しかし、本当にそうなにだろうか。決してそうではないと思う。

世論調査によると、有権者の3分の2は反対しているのである。世論が反対するこの法案を成立に導いた現内閣は「悪い内閣」の見本として歴史に名を残すことになるだろう。また、政府の言うことを無批判に右から左へ流してしまうような主要メディアはその存在理由が疑われる。ニュースを取り扱うメディアとしての基本的な機能を放り出してしまったのである。

「だからどうなんだ」と開き直らずに、我々一般庶民はますます広く、そして、ますます深く勉強し続けなければならない。幸いなことには、理解を深めるために必要な情報はいくらでも入手することが可能だ。


参照:

1This map shows how the rest of the world doesn’t even come close to the U.S. military spending: By Amanda Macias, “teleSur”, Feb/24/2015

2Global Cost of War Was 14 Trillion Dollars Last Year: By “teleSUR / mh-CM” and “Information Clearing House”, Jun/20/2015

3: It’s 460 AD in Rome: This won’t be fixed: By Paul Rosenberg, Information Clearing House – FREEMANSPERSPECTIVE

4UK bonds that financed first world war to be redeemed 100 years later: By Julia Kollewe and Sean Farrell, Oct/31/2014, www.theguardian.com > Business > Bonds