2016年2月3日水曜日

ロシアの侵略を阻止せよ! - 米国とNATOは完全に冷戦モード



米ロ間の弁舌による応酬は激化する一方である。それだけに、疑問を感じさせられるような論理がしばしば見られる。

問題は口喧嘩がいつの間にか暴力沙汰に変わることであり、しかも、その可能性は決してゼロではないことだ。このような状況は血気にはやる若者の間では頻繁に見られる。特に、口論の当事者が腕力に自信がある場合、口論が暴力に変わる確率は急速に高まる。つまり、核大国間においては地域的な偶発的軍事対決が何時の間にか世界規模の核戦争になるかも知れないのである。

また、軍事力による古典的な戦争の前段階としては、あるいは、それとはまったく違う性質の抗争としては情報戦争や金融戦争、経済戦争、あるいは、サイバー戦争がある。これらは米ロ間ではもう大分前から進行している。

もうひとつ忘れてはならないことがある。それは宣戦布告のない戦争だ。これはさまざまな形で遂行される。今ヨーロッパでもっとも大きな懸念となっているのは、イスラム国で戦闘を経験した兵士らが出身国(ヨーロッパ各国やロシア)へ帰って来て、そこでテロ行為を起こすという可能性だ。もしも自国に対して何らかの復讐心を持っているとすれば、あるいは、誰かのイデオロギーによって扇動された場合には、彼らは過激なテロリストに変身するかも知れない。資金的にこれらの連中を支援する闇組織も存在する。ロシアではこの種のテロリストが何人も逮捕されたと報じられている。

英国にはニール・クラークというジャーナリストがいる。今までも「芳ちゃんのブログ」では彼の記事を何回か引用させて貰っている。本日引用する記事の冒頭には彼を紹介する段落がある。まずは、彼のプロフィールを再確認しておこう。ニール・クラークは作家であり、放送ジャーナリストであり、ブログ作家でもある。数多くの英国の新聞や雑誌に寄稿している。たとえば、ガーディアン、モーニング・スター、デイリー・アンド・サンデイ・エクスプレス、メール・オン・サンデイ、デイリー・メール、デイリー・テレグラフ、ニュー・ステーツマン、ザ・スペクテイター、ザ・ウィーク、ザ・アメリカン・コンサーバティヴ、等々。彼はRTの常連評論家であり、BBCテレビやラジオ、プレスTVやヴォイス・オブ・ロシアにも登場したことがある。彼はCampaign For Public Ownership @PublicOwnershipの共同設立者である。受賞に輝いた彼のブログはwww.neilclark66.blogspot.comにて参照可能。@NeilClark66にて政治や国際問題に関してツイートしている。

このジャーナリストが米ロ間の口喧嘩の現状を分析し、報告している [1]。彼独特の簡潔さが感じられ、辛辣な批判があちらこちらに観察されて、実に小気味がいい。また、重要な点のひとつとしては、彼の国際政治に関する論評の背景には「反戦」という基本姿勢があることに留意しておきたい。

この記事を読んでみると、西側の主流メディアが流す情報が如何にいい加減な内容であるか、あるいは、如何に宣伝臭が強いかといった基本点に関して読者の皆さんにも納得していただけるのではないかと思う。少なくとも、その切っ掛けになるのではないか。

さっそくこの記事を仮訳して、読者の皆さんと下記に共有したいと思う。


<引用開始>

 Photo-1: © Rafael Marchante / Reuters

米国欧州軍(USEUCOM)は「戦域戦略」の改訂版を発表した。そこには6項目の最優先戦略が記載されているが、何が最優先項目であるかを皆さんに言い当てて貰いたい。何と「ロシアの侵略を阻止せよ!」が最優先項目となっているのだ・・・

「ロシアの侵略が欧州におけるNATO加盟国やパートナーに脅威を与えている」と記している
ロシアは「欧州における隣国の主権を無視しており」、これは「ロシアが国際法の枠内で行動することを要求している幾つかの協定に違反するものだ。」 

[ヨーロッパの]東部や北部において今まで以上に好戦的な姿勢を見せており、ロシアは大きな懸念要因となっている・・・ クリミア半島やウクライナ東部での実例によってはっきりと見て取れるように、ロシアが採用している形態は一種の戦争である。これは不安定な政情を助長するために従来型の手法や非正規兵を採用し、非対称型の戦法を組み合わせたものだ。これには政治的ならびにイデオロギー的な紛争を長期にわたって操作する意図が含まれ、ロシアは国際社会との協調的な安全保障の追求を拒んでいる。」 

そして、ロシアの脅威は単に欧州だけには留まらない。「クマ」は世界中を徘徊している!「ロシアは複数の地域でわれわれの同盟国やパートナー諸国に対して挑戦をしている。これは世界規模の挑戦であることから、世界規模の対応が必要となってくる。」 




米空軍司令官であるフィリップ・M・ブリ―ドラブ将軍によるこの12ページに及ぶ文書には1950年代初期に見られたような一種独特な感じを覚える。そのこと自体は驚くには値しない。何故ならば、ロシアに対して遂行されている宣伝戦争はマッカーシー旋風が吹き荒れた頃のように強烈であって、衰える気配もないのだから無理もない。「失地を回復したいロシア」は、冷戦の終結以降、「欧州の安全保障環境において出現した状況の中ではもっとも否定的な変化であって、今やもっとも重要な緊張要因であると見られている。」 

この「戦域戦略」の改訂版はフィクション部門に属する作品として2016年の文学賞のトップに指名するべきではないだろうか。何故かと言うと、現実においては、「冷戦の終結以降、欧州の安全保障環境に現出したもっとも否定的な変化」はネオコン等に端を発した「東方への拡大策」にあったからだ。欧州だけではなく全世界の安全保障を低下せしめた要因はモスクワ政府にあるのではなく、それはまさにワシントン政府にあり、彼らが採用した好戦的な政策そのものにある。

皮肉なことには、この文書の中で「ロシア」という言葉を「米国」という言葉で置き換えてみると、現状をより適切に説明してくれる。

1990年代を振り返ってみよう。当時、冷戦の終結によって、進歩主義者たちは所謂「平和の分け前」を享受することが出来るとして極めて正当に喜んだものだ。武器に費やされる膨大な資金がもっと有用な使い道に充当することができるからだ。病院や学校あるいは図書館のために・・・ しかしながら、ワルシャワ条約機構軍とは違って、NATO は解体されずに残り、しかもロシアとの国境の近くにまで拡張されて行ったのである。

NATOクラブへの参加を望まない国々は制裁を受けた。たとえば、ベラルーシは経済制裁を受け、ユーゴスラビアは経済制裁だけではなく、爆撃も受けた。専守防衛の目的で1949年に設立されたNATOは、1999年、ユーゴスラビア連邦共和国を攻撃した。この際にはNATOは国際法を破った。また、それだけではなく、NATO憲章の第1条にも違反したのである。つまり、第1条はこう述べている 締約国は国際連合憲章に定めるところに従い、それぞれが関係することのある国際紛争を平和的手段によつて、国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように解決し、並びに、それぞれの国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、国際連合の目的と両立しないいかなる方法によるものも慎むことを約束する。 [訳注: NATO憲章の第1条の和文は東京大学東洋文化研究所によるデータベース「北大西洋条約」から借用したものです。www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/.../texts/.../19490404.T1J.ht...]

「ロシアは国際法の枠内で行動することが要求されている幾つもの協定に違反するものだ」とする米国欧州軍の報告書の記述はいったい何だろうか?

ロシアが嫌々ながらも黙認している間はまだ良かったが、ロシアが自国のために立ち上がり、自国の国益を正当に防衛しようとし始めると、「冷戦」の再開となった。私の同僚である論説委員のジョン・ワイトは最近の記事でウラジミール・プーチンを悪魔視する風潮について次のように述べている: 「プーチンは領土を拡大したいという目標を持っているとする西側のでっち上げは西側自身の東欧への影響圏の拡大策を煙幕を張って隠し、ロシアの周囲に緩衝地帯を設けようとするものであって、これは冷戦構造を模索するものだ。」

阿呆らしいほどに親米策をとっていたジョージアが、2008年の夏、南オセチアを攻撃した際には、ロシアはロシア市民の安全を防護するためにこれに応戦した。しかし、ネオコン派のメディアは侵攻したのはロシア側であるとして報道した。

ウクライナにおいても、米国務省とEU によって中立的な政府が倒され、阿呆らしいほどに親米、親ヨーロッパ、反ロシア的な政府への政権移行が行われた2014年から2015年にかけてもまったく同様であった。

キエフでの政権移行の後にウクライナの東部やクリミア半島で起こった出来事はロシアの侵攻によるものではなく、米国・EU によるロシアへの侵攻に対する反応がもたらしたのである。 



Photo-3: 米国のフィリップ・ブリードラブ将軍。© STR / Reuters

私がここで述べているように、もしもロシアがカナダで資金を提供し、民主的に選出された政府に対して「政権移行」作戦を組織化したとしたら、米国はどんな風に反応するだろうか?ちょうどウクライナに関してヴィクトリア・ヌーランドとジョフリー・パイアットとの間の会話が盗聴された時のように、 もしもロシア外相とカナダ駐在ロシア大使との間の会話が盗聴され、親ロシア的なカナダ新政府では誰をトップに据えるべきかといった内容が暴露されたとしたら米国の反応はどんなだろうか?

改訂された「戦域戦略」に記述されている「国益」についての二重基準振りは実に見事と言う他はない。 

「ヨーロッパは米軍にとっては歴史的にもっとも重要な地帯であったし、今後ももっとも重要な地帯であり続けるだろう」と、ブリードラブ将軍は書いている。「同盟国や欧州のパートナー各国によって米国に提供される基地、ならびに、特定の地域への侵入や行動の自由を維持することは、戦力を世界規模で配置し、作戦を実行し、米国のもっとも重要な国益を防衛する米国防省の任務を遂行する上で不可欠である」と言う。

しかし、米国からは何千キロも離れた大陸が米国にとっては「もっとも重要な地帯」であると主張し、「国益」を守るために不可欠であると米国は言い張っているが、米国がロシアの玄関先で政権移行作戦を展開することに対してロシアにはそれに反応する権利さえも与えようとはしないのである。再度、ここで、想像力を働かせてみよう。ロシア軍が何等かの文書において中米地域は「ロシア軍にとってはもっとも重要な地帯である」との記述をした場合、その記述を見た時の米国側の憤怒を想像してみて欲しい。

米国欧州軍の野心は、ブリードラブ将軍の文書が示すように、ヨーロッパ内には留まらず、それよりも遠方にまで及ぶ。

「地中海の東部地域や地中海もまた米国欧州軍が完全に関与する地域である。米国欧州軍の中心的任務のひとつはイスラエルの自衛権に対して支援を行うことである。」 これは「イランやレバノンのヒズボラーから受ける脅威」について言及したものであって、米国欧州軍は「イスラエルの自衛に深く関与し、この地域が急速にかつ予期することが困難な形で変貌する中、イスラエルがその敵に対して軍事的優位性を維持することを保証するべくイスラエル軍との緊密な連携を図る」としている。

しかし、この種の「防衛」は、もちろん、高水準の人的資源や資金を必要とする。ブリ―ドラブ将軍は最大で65,000人の米軍将兵が「ヨーロッパに恒久的に駐留し、グリーンランドからカスピ海に至る地域、さらには、北極海から地中海の東部にいたる地域において米国の国益を確保する」との見方をしている。




「時代を先取りした米軍の存在が希薄になり、運用面での準備態勢が低下すると、環境を好ましい形に維持する米国の能力を損なうことになる」と、彼は警告する。 

さあ、お願いだ、オバマ大統領!国庫の財布を開いて、「ロシアの脅威」と戦い、「グリーンランドからカスピ海に至る地域、さらには、北極海から地中海の東部にいたる地域において」米国の国益を促進するためにもっと多くの資金を出して欲しい! 

米国とその同盟国は「ロシアの脅威」に対抗したいとしているが、それは余分に増強された兵力を使っての話である。

ロイター電によると、 NATOはクレムリン政府による「情報の兵器化」に対しても戦うことを目指している。 

NATOと欧州連合は、ロシアがテレビやインターネットを駆使してNATOと欧州連合が言っている事は意図的な虚偽情報であるというイメージを与えており、その手腕には手を焼いている」と、ロイターは言う。 

明らかに、23ぺージの文書はこの問題に対処するためにNATO の軍事委員会によって作成されたものだ。ある西側の外交官はこう言ったと伝えられている。「連中は皆を混乱させ、特定の目的を達成するために仮想現実を作り出そうとしているのだ。」 西側のネオコンに関してはもっと立派な説明に出合いたいものだ。 

NATO や米国欧州軍がいったい何をしようとしているのかを知ることは決して難しくはない。
ヨーロッパにおける米軍の関与が非常に歓迎された時期があった。それは1944年から1945年にかけてヨーロッパがナチの占領から解放された時だった。

第一次世界大戦時とは違って、米軍はヨーロッパに駐留した。1930年代に欧州大陸で何が起こったかを考慮すると、多分、そのこと自体は理解可能である。それと同時に、米軍が欧州大陸に駐留し続けることを正当化するために、西ヨーロッパに対する「ロシアの脅威」が誇張されていたという事実は疑う余地もない。今日、これとよく似た状況が起こっている。ただ、「ソ連の脅威」が「ロシアの脅威」に置き換えられただけの違いだ。とは言え、これには問題がある。一般庶民には実際に脅威が存在するということを説明しなければならない。特に、緊縮財政が実施され、重要な分野においてさえも予算の削減が行われている際にはなおさらのことだ。インターネット時代においては、一般庶民は情報源へのアクセスではより多くの機会を与えられ、一般庶民に対して「もっとたくさん質問をするように」と訴えるRTのようなチャンネルは人気が上昇するばかりである。このような現状から、公衆をだまし、間違いだらけの筋書きを押し付けようとすることはより困難になっている。

さらには、イラク戦争の遺産が残っている。2003年の非合法な軍事侵攻を開始する前、「イラクは大量破壊兵器を所有している」との見え透いた大嘘が喧伝された。このことは決して忘れてはいないし、今後も決して忘れることはないだろう。

NATOおよび米軍最高司令部は、ヨーロッパの市民が最近の一連の反ロシアの宣伝文句をそう簡単に呑み込もうとはしないからと言って、それを「クレムリンによる情報の兵器化」のせいだとするべきではない。はっきり言って、ジョージ・W・ブッシュとトニー・ブレア―の二人を責めるべきである。

このコラムに掲載された文言や見解および意見はあくまでも著者のものであって、RTの意見や見解を代表するものではありません。 

<引用終了>


これで、引用記事の仮訳は終わった。

最後の段落は秀逸だと思う。

企業経営の対象である主流メディアは「プレスティチュート」と呼ばれて久しい。かっては公衆の絶大な信頼を勝ち取っていた大手の新聞を含めて、数多くのメデイアがジャーナリスト精神を失い、政府が言いたいことを単に右から左へ流しているに過ぎないとして今批判されている。そのような現状にあるだけに、政治的な出来事の本質的な意味を伝えることに注力するニール・クラークというジャーナリストの存在には計り知れない意味があり、大きな価値があると思う。

また、この記事で参照されている諸々の記事にも貴重な内容が多く見られる。しかし、残念ながらそれらをすべて網羅する余裕は小生にはない。

庶民の立場からすれば、情報戦争の詳細を知れば知る程、国際政治が持つ醜悪さが目の前に現れてくる。これらを読む度に辟易とさせられる。情報の歪曲、嘘の情報、情報の隠ぺい、主要メディアによる結託、等々、ありとあらゆることが起きている。

もちろん、このような状況は国際関係だけに留まらず、それぞれの国の国内政治でもまったく同じことである。日本も例外ではない。

今、米国は財政難が進行して、従来のような軍事費の浪費は許されない状況に直面している。当面、好転する可能性はなさそうだ。そうした現実があるからこそ、軍産複合体を代表し、その利権を擁護する立場にある米軍トップの発言はますます厳しい口調に走り、タカ派的になるばかりだ。もっとも説得力のある仮想敵は半世紀も続いた冷戦の申し子であるロシアであり、今経済的に急速に台頭しつつある中国である。こうして、「ロシアの脅威」論や「中国の脅威」論が数多くのシンクタンクや専門家から提出されてくる。何と言っても、彼らの生業は米国経済を何とか維持することにあり、軍産複合体の繁栄はその中心課題でなる。そして、それを主流メディアが後押しをする。

このような経済的な「共生」関係はいたるところに見られる。米国の大統領選ではアイオワ州の党員集会の結果が出始めた。この大統領選で興味深く感じた点がひとつある。それは共和党のトランプ候補の言動だ。他の候補とは一味も二味も違う。何故か?それは既存の組織や集団からの資金に依存しないで、トランプ候補は自前で選挙資金を供給することができるからだ。誰かの意向に迎合する必要はまったく無い。彼は自分の考えを率直に喋る。今回の選挙戦を通じて、莫大な選挙資金を必要とする大統領選挙が候補者と有権者との間の経済的な共生関係によって如何に害されているかを具体的に観察することができた。

日本でもそうであるが、今や何処でも主要メディアだけに頼っていては世界の動静を正確に理解することは不可能である。あるいは、不可能とは言わないまでも、非常に困難だ。しかも、このような現状がもたらす危険の度合いは定量的に測ることはできそうにない。こうして、われわれは日々の生活に追われ、迫って来る危険の本質を明確に把握することもできないまま毎日を過ごしている。これはわれわれ一般庶民にとっては非常に危険な状況であると言わなければならない。


参照:

1Deter Russian aggression! - US and NATO in full cold war mode: By Neil Clark, RT, Jan/29/2016, https://www.rt.com/.../330602-us-russia-threat-useuco...



2 件のコメント:

  1. ロシアのテレビでこの数週間の話題は、何と云ってもイギリスからのニュースです。先ず3週間くらい前だったか、突如ロンドンの「裁判所」で被告人不在のまま、10年前の「リトビネンコ」殺害事件の審理が始まり、プーチンの関与が疑われるということがニュースになりました。裁判長がやたら possible とか probably とかを連発したというので、かなりの馬鹿扱いになっていました。(ロシアTVの言い分ではリトビネンコは、全く凡庸な職員で国家機密に関与できるような立場ではなかったとされています)2週間前は、BBCがニュース番組内で「プーチンの汚職」という特集を組み、プーチンの顔を悪の権化のようにCGで変換し、音と共におどろおどろしく見せかけていました。この番組についてはコメントするのも馬鹿馬鹿しいという扱いでしたが、「プーチンの汚職」を取材するのに何故ワシントンに行く必要があるのかという言葉が印象に残っています。そして極めつけが、先週BBCで放送された「第3次世界大戦」というドキュメンタリー風ドラマです。内容は、ラトビアでロシア系住民の独立運動が先鋭化し、ロシア人保護の名目でロシア軍がラトビア侵攻する。ラトビアを守ろうとしたスウェーデンに対し、ロシアがミサイル攻撃。この事態にどう対処するかの専門家会議が招集され、ロシアに対し核ミサイルを発射するか否かが話し合われた。ここで重要なのは、この10人ほどの会議を演じたのは、役者ではなく、実際の政治家、役人(元閣僚、元大使とか)で、現実性を持たせようとしていることです。最早こうなると、単にオバカ扱いでは済まなくなり、これを題材に議論が行われているところです。某ニュースキャスターは、「このシナリオで核攻撃可能というなら、リビア、シリアでイギリス軍が行った爆撃に対し、ロシアは核攻撃して良いのか、という理屈になる」と言っていました。「情報戦争」について既にいくつかの番組が放映されています。その中でご紹介したいのは先週土曜日放送のПраво знать!(知る権利)という番組です。
    http://www.tvc.ru/channel/brand/id/1756/show/episodes/episode_id/43266/
    毎回、旬の話題についてゲストを呼んで質疑応答するという番組ですが、今回はRTのシモネヤン女史(アルメニア人)が出ていました。彼女の肩書きは「編集長」ですが実際はRTのトップ、経営者でもあります。未だ確か30代の若さだと思うのですが、かなりの切れ者です。面白い話がいつかありましたが、要は、仮にBBC、CNN, FOX?等メインストリームの報道がマトモであればRTのような零細放送局の出る幕はない。しかしRTのアメリカでの成功(イギリスではかなり政府から報道規制を受けている)は、視聴者のニーズに全く応えられていないことを物語るものではないかという主張でした。視聴者の選択を広げる役割を果たすのであり、何もロシアプロパガンダをやっているという意識はないというのは、僕には分かる気がしましたが実際の所はどうでしょうか。僕は英語が良く分からないので教えて下さい。

    「金融資本主義」の変調が誰の目にも明らかになりつつあると思います。ネオリベ、ネオコンとすれば、ドル防衛は絶対でしょうから、西側経済圏ではこれに異を唱える報道はタブーです。その結果が「自由社会」と称しながら全く画一的、お上のご機嫌伺いしかできないようなジャーナリズムに成り下がったように見えます。シモネヤン女史は西側ジャーナリストの保身とか出世欲とかも指摘し質の低下を嘆いていましたが。勿論、僕もロシアの報道が全て正しいとかは思うわけでもありませんが、彼女の言う「選択肢」のひとつとしてロシアのマスコミの存在は貴重だと考えています。

    あと最近の「情報戦争」の討論の中でよく引き合いに出されるのが、Russophobia(ロシア蔑視 ロシア語でも同じ発音です)の感情があります。この議論はかなり深く複雑なのでまた機会を改めて報告したいと思います。

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    1. 石井鶏児さま

      コメントを有難うございます。

      石井さまからいただいた詳細な情報を見て、私自身がこのブログで実現しようと思っている目標のために何十倍もの味方を得たような気分です。このコメント欄にインプットしていただいた情報を目にして、多くの読者のみなさんは大きなショックを受けたかも知れませんね。

      世界の覇権国たる米国を支援し、そのパートナー役を演じる英国では、最近、リトビネンコ事件が再燃しました。長い目で見ると英国は墓穴を掘っているようにも見えます。法律論についてはまったくの素人の議論で恐縮ですが、12年前の事件をめぐって「リトビネンコ審理」を行ったことによって11,000語にも及ぶ大きな報告書を作成したとは言え、結局、この審理そのものはロシアのプーチン大統領を中傷するためのものであって、法律論的には何の意味も持ってはいないように思えます。リトビネンコの殺害はロシア政府が行ったのだという断定は結局不可能に終わったわけで、英国当局は、しかたなく、「多分」という言葉を付け足して「ロシア政府が多分殺害命令を下した」と結論付けざるを得なかったというのが実情のようです。

      この報告書は法律論的には何の成果もあげることが出来ずに終わり、言葉の綾を駆使してそれとなくロシア政府が殺害命令をくだしたと言おうとしているわけです。法律の専門家はもっと厳密に結論を下すものだとばかり思っていましたが、政治的な課題が絡んでくると決してそうではないようです。何という喜劇でしょうか!

      これはいわゆる情報戦争、あるいは、心理戦争の一部でしかないみたいです。しかし、真理戦争はそれ自体が効果を挙げることは確実であり、この種の心理戦争を軽く見ることはできませんよね。確かに、別の議論を要するかと思います。

      ロシア蔑視論あるいはロシア脅威論は根が深いようですね。日本の中国蔑視論あるいは韓国の日本脅威論も同じ範ちゅうに入ると言えましょう。ロシア脅威論の背景には米国の軍産複合体がいるようです。NATOの高官は存在してはいない「ロシアからの脅威」を喧伝して、軍事費の拡大をNATOの同盟国にも迫っています。米国のシンクタンクであるランド研究所は最近の報告書でロシア軍は60時間以内にバルト諸国の首都へ到達することができるという分析結果を報告して、ロシア脅威論を煽っています。「新冷戦」が始まっています。軍産複合体に属する多くの大企業はこれで自分たちの職場を確保し、大きな利潤を手にすることができるとしてほくそ笑んでいることでしょう。

      こうした米国の社会・経済的な状況を報告する記事が最近目につきました。その表題は「ペンタゴンが大量の予算を獲得したい時には決まって新たな敵が登場する」というものです。この表題は米国の国際政治の現状を辛辣に捉えています。たとえば、中東ではイランの核疑惑が収束しました。シリアも近い内に和平に漕ぎつけるかも知れません。大量の軍事費を注ぎ込める次の戦場はいったいどこでしょうか?新しい敵の存在がどうしても必要になってきたようです。

      世界は今どこへ行こうとしているんでしょうかね?

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