2016年5月23日月曜日

ロシアの交響楽団がシリアのパルミラでコンサートを開催 - 私は防弾チョッキを持参した



戦禍が続くシリアでまったく思いがけないクラシックの演奏会が催された。

ユネスコ世界遺産のひとつであり、このコンサートの開催地となった古都パルミラではロシア空軍の支援を受けたシリア政府軍がイスラム国のテロリストによる占拠を駆逐したばかりであった。328日、パルミラがイスラム武装勢力から解放されたという最初の報道があった [1]

その報道の一部を掲載してみよう:


Photo-1: 古代ローマ時代の円形競技場

「パルミラの古代ローマ時代の円形競技場はイスラム国が犯した犯罪の現場でもあった。その舞台は公開処刑場として使われていたのである。イスラム聖戦士たちはここで数十人もの捕虜を処刑し、その様子をビデオに収めて公開した。退役する前にはパルミラの遺跡を管理していた歴史家、ハレド・アル・アサードも犠牲者の一人となった。この歴史家はイスラム聖戦士らによって拷問され、斬首された。彼らはこの古都の宝物に関する情報を喋るようにこの歴史家に迫ったのである・・・」

上記に記述されている流血沙汰はシリアにおける戦禍、無数の市民が受けた苦難のほんのひとコマでしかない。しかしながら、それぞれの出来事はまさに想像を絶する程だ。

55日、この円形競技場でロシアでも名門の交響楽団のひとつであるマリインスキー劇場交響楽団がクラシック・コンサートを催した。サンクト・ペテルブルグから数十人もの交響楽団員が飛来し、その公演の様子はユーロニュースでも放映された。また、YouTubeの動画サイトにも掲載されている(たとえば、https://youtu.be/uvUkeR4jKCEhttps://youtu.be/9b0hFIf4Zaw、あるいは、https://youtu.be/UVTQkYjv1h4) 

2000年にもわたって風雨に耐えてきた巨大な石造りの柱がそそり立つ円形競技場にバッハのシャコンヌが響いた。シリアの住民はこの演奏をどう聴いたのであろうか。バイオリンの独奏でありながらも、その音は実に力強い。それはあたかも自己主張をする文明の姿を象徴しているかのようにも感じられる。

そして、この演奏会には交響楽団と共にジャーナリストたちの一団もやって来た。

ニューヨーク・タイムズの記者がこの公演の模様を伝えている [2]

本日のブログではこのニューヨーク・タイムズの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

ロシア人にとってはクラシック音楽のコンサートに不都合な時期とか場所なんてあり得ない。

そして、戦禍に見舞われたシリアの古都パルミラでの演奏会は先週ロシアの名門楽団のひとつであるマリインスキー劇場交響楽団によって開催された。この演奏会は実に予想外であったが、その招待状もそれと同じ位に予想外にやって来た。

ロシアの外務省が土曜日の朝私の携帯に電話をして来た。「23日の内にシリアへ飛ぶ準備をしておいてくれ。これ以上は何も言えないが、ドレスコードがある。防弾チョッキを持参してくれ」と。

シリアの内戦に対するロシアの軍事的介入の中でももっとも直近の、非常に意外な展開が始まった。ロシアの介入が9月に開始されてからというもの、その介入に関しては言い分けやまったく違う印象が横行した。巨大なイリューシン76輸送機がロシアからシリアへ飛んだ時、それは人道支援物資を輸送するものだと報道された。しかし、実際には、ロシア兵と軍需物資だった。

空爆が開始された。ロシアの軍用機はテロリストを攻撃すると言った。しかしながら、西側政府は実際の目的はモスクワ政府の盟友であるバシャル・アル・アサド大統領の政府を支援することにあると注釈した。

この3月、ロシアのウラジミール・V・プーチン大統領はこの作戦は完了したと宣言したが、  少なくとも数百人の将兵や何十機かの軍用機はシリアに留まっている。

シリアに対するロシアの冒険的な行動を覆っているカーテンがほんの僅かばかりとは言え開け放たれ、記者団を乗せたロシア機は、先週のある日の夜明け頃、海岸地帯のラタキア市近郊に位置するロシア空軍基地に着陸した。

100人近くのモスクワ駐在の外国人記者たちが眩しい太陽に目をパチパチさせながら、ぞろぞろと現れ、砂漠に慣れ切っているロシア兵たちの挨拶を受けた。丸顔の、陽に焼けたスラブ人の顔が褐色のヘルメットの下からこちらを覗いていた。

シリアにおいて人々の心や魂を勝ち取ろうとする(そして、今は耳をも勝ち取ろうとしている)ロシアの戦いを見物するツアーはテント作りの食堂から始まった。そこでは、中年の女性たちが一列になってロシア製のトーションカ(缶入りのブタ肉)が入った粥を盛り付けていた。

テレビカメラのために紺の短パンとTシャツを着た一団の兵隊たちがバレーボールに興じていたり、サンドバッグを相手にパンチを繰り出していたりした。

下士官兵の一人は輸送用コンテナ―で作られた図書館に配置され、彼の顔はロシアの軍用メダルについて記述している百科辞典のページに釘付けとなっていた。本当とは思えないほどに、彼はカメラが回る中でにわか勉強を開始したかのようだった。

壁を飾るプラカードには「防衛とは政治的、経済的、社会的、法的ならびに軍事的な手段からなるシステムである」と記されており、これは我々が目撃している戦争を現代のロシアがどう描写しているのかを示しているかのようでもあった。

2014年のウクライナへの介入以降は時には「ハイブリッド戦争」と呼ばれているが、それはこれらの戦術に光を当てることになった。これは外交やメッセージングが密に統合された教義であり、「マスキロフカ」(つまり、カモフラージ)と称され、軍事的にはまったく違った印象を与えるように意図されており、旧来の戦力と共に用いられる。シリアでは、今、まさにこの手法が用いられている。

この戦略はいわゆるソフト・パワーを重要視する。しかしながら、シリアでは旧来のハード・パワーも豊富に用いられている。 

この空軍基地は全景が見渡せられ、ヘリコプターや他の軍用機が雑然と散らばっていた。ロシア製の装甲車やトラックが何エーカーもある駐車場に観察された。ロシアの作戦が終了したという宣言があったにもかかわらず、すべてを片付けようとする様子は見られない。我々がこの地を訪問している間、もっと広いスペースを準備するためにシリア人の道路整備を行う一団が煙の立ち上る真新しいアスファルトを敷き詰めていた。

しかし、ロシアもまた、米国がイラクで試みていたように、戦争にまつわる地域政治の渦の中を何とか航行しようとして来た。 

我々報道陣はいわゆる「和解センター」の真っ只中を歩き回った。そこでは、十数人のロシア人将校がこの2月に公表された停戦への参加を希望する武装勢力からの電話を受け取り、彼らが地域毎の停戦に関してシリア軍との交渉を始めるとが出来るように支援をしていた。壁に掛けられた広幅のテレビ画面にはハトやオリーブの小枝ならびにシリア国旗から成る静止画像が光っていた。

停戦努力の様子を描写するために、ロシアの軍部は我々報道陣をバスに乗せて、ハマ区域にある埃っぽいカウカブという集落へ案内した。この集落は今も戦闘が行われているアレッポの街から70マイル程の距離にあって、前線に近かった。

破壊された軽量コンクリートブロック製の家屋が散らばる現場はオリーブ畑を見下ろす丘の上にあって、一見、見捨てられてしまったかのように思えたが、一群の子供たちが現れ、歌ったり、アサド大統領のポスターを掲げたりして、我々のバスに向かって挨拶をした。

「戦争の当事者たちが交渉のテーブルに着くまでには何ヶ月も要しましたが、ついに実を結びました」と、ロシア軍の広報を担当するイーゴル・コナシェンコフ准将がこの地域に関して喋ってくれた。

廃墟となった市場に張られた大きなテントの中で、シリア人の将校が集落の指導者らと共に停戦合意書に署名をした。そして、そのテントの裏側の隙間を通って、赤と白のスカーフで顔を被った若い男たちが現れた。新たに和解に応じることになったこの集落のイスラム武装兵たちである。

プラスチック製の白い屋外用の椅子に座ったロシア人将校を前にして、これらの若者たちはガチャガチャと音をさせながらカラシニコフをテーブル上に置き、武器を差し出し、書類に拇印を押した。

この2月以降、町や集落でこういった式典を90回以上も行い、7000人以上もの反政府派との和解に漕ぎつけたとロシア人の将校は言う。この作業は、単にアサド大統領の軍隊を支援するだけではなく、この地で行われているロシア軍の活動の中核を成すものだと言った。

しかしながら、この式典で誰が誰と和解をしたのかははっきりとしなかった。

ロシア軍の通訳が政府側にやって来た時彼を通じて質問されて、合意書に署名をした集落の指導者のひとりであるアクメド・ムバロクは困惑している風であった。彼は一方の側に立ったことなんて一度もないと言った。

「私はいつも政府を支えて来た」と彼は言う。通訳は肩をすぼめた。 

テントの外では、ロシア人の広報担当者がこの地方の住民であるモハマド・ショイクにインタビューをしてみたらどうかと提案してくれた。驚いたことには、彼は英語を喋った。



Photo-2: 海岸地帯にあるラタキア近郊のロシア空軍基地で戦闘機を整備する作業員たち。
出典:ニューヨーク・タイムズのアンドリュー・クレマ―

「ロシアは立派な軍隊を持っている」とショイクは言う。「我々にはロシア軍が必要だ。ロシア軍の撤退なんて考えたこともない。ロシア軍が全部ここへやって来て欲しい程だ。プーチンは立派な指導者だ。」 

この間ずっと、古代ローマ帝国時代の廃墟や中東文化で有名ではあるが、今年の始めまではイスラム国による血なまぐさい拘束下にあったパルミラの街で行われるというコンサートに関しては確認することができるような言葉は何もなかった。

これは秘密裏に実施された軍事作戦であった。ジャーナリストたちだけではなく、3台のコントラバスならびにチェロを含めて諸々の楽器や楽団員たちをサンクト・ペテルブルグからシリアの最前線にある街へと送り込んだのである。

明け方に地中海の沿岸を発った。ロシア軍のヘリが頭上で爆音を響かせる中、報道陣や弦楽器の奏者たちが分乗した何台かのバスは列をなして東へ向かい、シリア砂漠へ入って行った。

後に、英国のフィリップ・ハモンド外相はこの演奏会を苦難のドン底にあるシリア人の「関心を逸らせる、趣味の悪い試みだ」と酷評し、彼は同日行われた難民キャンプへの空爆 28人もの犠牲者を出したと述べた。これに対して、ロシア機は難民キャンプを空爆してはいないと言って、ロシアは否定した。

しかし、単純に言って、このコンサートは非常に美しく、午後もすでに遅くなって廃墟に陽が陰る中で展開された。

マリインスキー劇場の音楽監督であるヴァレリー・ゲルギエフは自分たちの楽観的な気分を表すような曲目を選んでいると言った。昨年の夏イスラム国の武装勢力が大量処刑を行い、その様子をビデオフィルムに収めたこの場所で演奏をするのだ。「我々は世界の文明に残されていた偉大な記念物を破壊した蛮行に抗議をする」とゲルギエフ音楽監督が述べた。「この舞台で行われた大量処刑に抗議をする。」 

二世紀に建てられた古代ローマ時代の円形競技場でクラシック・コンサートが挙行され、これはまさに一生に一度の稀な機会となった。このコンサートが実現するまでには何人かの命が失われたに違いない。イスラム国の前線からは約15キロであると伝えられた。バスが到着した頃、撃ち出された大砲の音が辺りを揺るがした。 

しばらくして、ヨハン・セバスチャン・バッハの無伴奏バイオリンのためのソナタ「シャコンヌ」を演奏するパヴェル・ミリウコフの遥かに優しい音が異常とも思えるような砂漠の空間に響きわたった。

プーチン大統領のクラシック界の友人であり、最近、パナマ文書による金融スキャンダルに関係があるとされているセルゲイ・P・ロルドギンは、コンサートの後で、ロシア人作曲家のロデオン・シュチェドリンのチェロの独奏曲では幾つかの音符でミスをしてしまったことを認めた。でも、この曲は依然として最初から最後まで心地が良かった。この交響楽団はセルゲイ・プロコフィエフの交響曲第1番を演奏した。

厳かな調べを聴いた後、我々は帰途についた。イラクからイランにまたがる空域で何とも滑稽な不協和音が湧き起った。

何人かのロシア人のジャーナリストがラタキアで厳重な保安網を潜り抜けてこの地域の地酒を何本か調達していたことが判明したのだ。「アラク」と呼ばれる地酒で、ロシア人の報道陣はこれに「イギロフカ」、つまり、「リトル・イスラム国」というニックネームを付けた。

リトル・イスラム国のボトルが登場した。何か毒気のような雰囲気が機内を流れた。米国人もロシア人もあるひとつのことに同意した。この「イギロフカ」をやっつけなければならないと。そして、モスクワ郊外のチカロフスキー空軍基地への降下態勢に入る前までにはやっつけてしまった。

アンドリュー・クレイマーを追跡するには彼のツイッター、@AndrewKramerNYTをご利用ください。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

演奏そのものに関する報告が非常に少ないところを見ると、この記事を書いた記者はクラシック音楽を専門とする記者ではないみたいだ。この記事は、結局、パルミラへの旅行記といったところだ。

そして、大手メディアの間では反ロ的報道では急先鋒の位置にあるニューヨーク・タイムズらしく、ロシアに対する批判めいた眼差しが行間に感じられた。


♞  ♞  ♞

旅行記とは違って、ロシア人の交響楽団がパルミラで行ったクラシック・コンサートを文明論的に観察した場合はどうなるのであろうか?

その答えが見つかった。時々、このブログでも取り上げている「The Saker」が見事な文明論を展開している [3]。見逃したくはない内容である。

この記事も仮訳して、読者の皆さんと共有してみよう。


<引用開始>

最近ロシア人によってパルミラで催されたコンサートは象徴に満ちた出来事であった。この古都を解放したのはシリア人であって、ロシア人は単に支援を提供しただけであったが、この支援は極めて重要であった。そして、ロシアが救出したのは単にパルミラの街だけではなく、シリアという国家を救出したのだとも言える。さらには、パルミラにおけるロシア人たちは単にシリアを救出だけではなく、文明全体を救出したのだと私は言いたい。

あなた自身が今宇宙からこの地球を観察している宇宙人であると想定してみよう。あなたが目にするのは肝臓を喰う狂人、ダーイシュによって行われた、言葉ではとても表すことが出来ない流血沙汰だ。しかし、そればかりではなく、他の文明にも増して現代の世界を形作って来たいわゆる「西側文明」がこのダーイシュを全面的に後押ししている姿も目にすることだろう。

あなたはダーイシュと戦うことができる唯一の軍隊に対抗して用いられる米国製の対戦車ミサイルを観察することだろうし、多くの国がいわゆる「有志連合」に参加しており(それらの国々の約3分の1は実際にこの現場へ来ている)、合法的に選出されたシリアの大統領を政権の座から追い落とすことにやっきとなっている姿を目にすることだろう。そんなことをすれば、ダマスカスにおいてさえもダーイシュの黒い旗が翻ることになるかも知れないのに・・・ 

あなたはキリスト教徒の世界が目を反らす中で、キリスト教徒が虐殺されている様子を目にすることだろうし、イスラム教徒の世界が目を反らす中で、イスラム教徒(そのほとんどはタクフィーリー)が虐殺されている様子も目にすることだろう。あなたは「自由世界の指導者」と自称する国家がシリアでの(非常に限られた)ロシアの介入を非難している姿を目にすることだろうし、この地球上で最強の軍事同盟の一員(トルコ)が盗み出された原油をダーイシュと取引することによって何百万ドルもの利益を挙げている姿も目にすることだろう。

このリストは延々と続くが、これを観察する宇宙人は人類についてはまったくやり切れない嫌悪感を覚え、圧倒されてしまうのではないかという点に関しては我々は誰もが同意できるのではないだろうか。

でも、あなたはもうひとつの国、ロシアを目にすることだろう。ロシアは古都パルミラを破壊しようとした悪魔たちの手からパルミラを解放し、地雷や不発弾を完全に排除し、この街を再建するのに安全な場所に変えようとしている。そして、最後に、あなたはロシアが同国でももっとも素晴らしい交響楽団をこの地に連れて来て、ダーイシュによってだけではなく、ダーイシュを育て彼らを送り出した連中、つまり、アングロ・ザイオニスト帝国によって拷問を受け、殺害された市民たちに対して悲痛なオマージュを捧げている姿を目にすることだろう。



Photo-3: シリア政府軍によって解放される以前で、ダーイシュのコントロール下にあった頃のパルミラの円形競技場

このコンサートがロシア人作曲家の作品で開演されたのではないということも非常に重要だと私は思っている。それに代わって、ロシア人たちはヨハン・セバスチャン・バッハの感動的な曲、かの有名な「シャコンヌ」、無伴奏バイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調、BWV1004で開始することにした。ユーディ・メニューインはシャコンヌを「バイオリン独奏曲として存在する曲の中では最高の構成である」と言い、バイオリン奏者のジョシュア・ベルはシャコンヌは「今までに作曲された中で最高であるというだけではなく、歴史上人類が達成した物事の中でさえも最高のものだ。精神的に力強く、感情的にも力があり、構成も完全だ」と言う(出典)。 

これは単なる偶然の一致ではない。ロシア人は人類の偉大な作曲家を選び、その作曲家のもっとも素晴らしい曲を選んだ。これは人類がただ単に邪悪や恐怖、虚偽および殺戮を行う存在であるということだけではなく、西側の文明は幾つかのもっとも洗練され、精神的に奥深く、しかも美しい芸術を創造したという事実を示そうとしたものだ。ダーイシュが大量処刑を行ったまさにこの場所へ美をもたらすことができる「声」はバッハの並外れた音楽だけであろう。これは「あんた方は文明や美を破壊しようとするが、我々はあんた方にバッハをお届けしよう!」というメッセージだ。

「文明の武器」としてのバッハは、この意味において、SU-34戦闘機や巡航ミサイルがテロに対抗する「物理的戦争」においては非常に重要であるという事実に勝るとも劣らない程に重要なのである。

「西側世界」の一部を構成することは一度もなかったロシアがパルミラにバッハを届けたという事実は皮肉でさえある。たとえ米国人がコンサートを企画したとしても、彼らにとってはパルミラやシリア人のことなどは考えにも及ばないだろう。彼らはせいぜい米軍基地に駐留する海兵隊員のためにトビ―・キースアメリカン・ソルジャーを歌ってもらう程度だろう(あるいは、これだ)。ロシア人は、それに代わって、パルミラでバッハを演奏した。

今日、ロシアはさまざまな文明のすべてを代表する存在である。西側文明さえをも代表する。

<引用終了>


仮訳はこれで終了した。

この文明論はあまりにも誇張されていると感じた方が多いかも知れない。しかしながら、パルミラでのクラシック・コンサートを聴いて多くの人たちが薄々感じた、あるいは、抱いた印象は「実はこれだったんだ!」と、これを読んで、今、気付かされたのではないだろうか。この著者は言葉を付け足して我々の考えや印象を整理し、纏めてくれているかのようだ。

前半の旅行記と後半の文明論とを注意深く読み比べてみるのも面白いと思う。かなり刺激的な内容である。

結局、好むと好まざるとにかかわらず、米国による単独覇権とロシアや中国の台頭によって起こる国際政治の多極化との間で進行している覇権の綱引きの全容が浮き彫りにされてくるのだ。

多くの論者によって懸念が表明されているように、米国が主導するNATOはあちこちで火遊びをしている。しかも、最近の投稿ですでに議論したように、米国は放火犯と消防車の二役を演じることが多い。これは非常に危険な火遊びだ。人類にとっての究極の課題はツキジデスの罠に陥った米国がこの綱引きによって核戦争を誘発するようなことがあってはならないという点だ。ところが、米国では先制核攻撃によってロシアの核戦力を一気に叩くといった軍事的戦略がまかり通っているようだ。

その一方、ロシアの潜水艦は世界でももっとも静寂で、追跡が困難であるとも指摘されている。ロシアでは新型の潜水艦が次々と進水している。中でもボレイ型原子力潜水艦は米国にとっては脅威となる。この型の潜水艦は16基の弾道ミサイルを搭載する。そして、ミサイル1基当たりに6個から10個の核弾頭を搭載することができる。核弾頭の搭載総数は潜水艦1艘当たり96~160個となる。これらの大陸間弾道ミサイルは足が長いので、バレンツ海やオホーツク海に潜む潜水艦から米国本土の全域を攻撃することが可能だと言われている [4]

つまり、米国は報復攻撃を受ける可能性が高いのだ。結局のところ、東西冷戦の時代から言い古されて来たように、米ロ間での核戦争では相互確証破壊が起こり、人類は滅亡することになるだろう。

まさに愚の骨頂である。他に何と言えようか?

このような愚の骨頂は一日でも早くおさらばにして欲しいものだ。象徴的に言えば、米国の一般市民もネオコン政治家も人類が築き上げて来た文化的遺産に関心を向け、バッハのシャコンヌをじっくりと聴いてほしいと思う次第だ。



参照:

1Palmyra liberated: First images of ancient heritage site freed from ISIS (PHOTOS): By RT, Mar/28/2016,  http://on.rt.com/78bp

2A Russian Concert in Syria? I Took a Bulletproof Vest: By Andrew E. Kramer, The New York Times, May/09/2016, www.nytimes.com/.../munitions-and-music-with-the-russians-i...

3In Syria, Russia Defends Civilization - the West Sides with Barbarism: By The Saker, The Duran, May/12/2016, http://theduran.com/syria-russia-defends-civilisation-west-sides-barbarism/

4Russia’s 5 Most Deadly Naval Weapons as Seen by US Media: By Vitaliy Ankov, Sputnik, May/09/2015, sputniknews.com/world/20150509/1021930976.html