2016年9月29日木曜日

米国はロシアとの協調体制を確立する機会を繰り返して逸してしまった



2001年の911同時多発テロの後、米国はテロを撲滅すると宣言した。それを受けて、ロシアは米国に対して対テロ活動のために全面的な協力を提供した。たとえば、アフガニスタンへの米軍の武器や兵力の輸送にはアフガニスタンと接するロシア領内の通過を容認し、さらには、アフガニスタンに関する諜報を提供した。米国にとっては、これは貴重な支援であったに違いない。

しかしながら、この米ロ協調体制は長くは続かなかった。

どうして長続きしなかったのか?

ここに、「米国はロシアとの協調体制を確立する機会を繰り返して逸してしまった」との表題を持つ、興味深い記事 [1] がある。つい先日、924日付けの記事だ。

プーチン大統領を悪魔視することは決して米国の安全保障のためにはならない、と著名な教授が述べている。しかしながら、ひと言付け加えると、西側の大手メディアはこの種の記事が出回ることは好まない。軍産複合体が標榜する筋書きにはまったく一致しないからだ。こうして、一般大衆は継続的に偏向報道に晒される。

この記事がワシントンポスト紙に掲載されたとは驚きでさえもある。私の理解ところでは、ワシントンポスト紙はニューヨークタイムズ紙と並ぶ御用メディアであるからだ。

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有してみたいと思う。


<引用開始>


 Photo-1: © AP Photo/ Evan Vucci, ファイルの写真から

米国と合同でテロリズムと闘うためにロシアがワシントン政府との良好な関係を築き上げようとしていかに働きかけても、米国の「タカ派」は米ロ協調という名のついたリンゴ運搬車を繰り返してひっくり返してしまった。

15年前、ワシントン政府にはモスクワ政府との間で両者にとって有益な関係を築き上げる機会があった。

15年前、短期間であったとは言え、ワシントンとモスクワの両政府にとっては安全保障問題でより恒久的な関係を築き上げる絶好の機会があった」と、ジョージタウン大学の「ユーラシア大陸・ロシア・東ヨーロッパ研究センター」(CERES)で教授を務めるアンドリュー・C・クーチンズ博士はワシントンポスト紙の論説コラムで述べている。

 Photo-2: © Sputnik/ Michael Klimentyev。 脅威だって?「ワシントン政府はプーチン大統領がいかに西側に対して手を差し伸べてきたかを忘れてしまっている」 

元米政府高官の言葉を引用して、クーチンズ博士は、2001年の9/11 同時多発テロの後、米国が行おうとしていたアフガニスタンでの軍事行動に対してロシアが多くの支援をしてくれたことを思い出させてくれた。ロシアは米国が主導する同盟軍に対して諜報や兵站における支援を提供したのだ。

ニューヨーク大学とプリンストン大学でロシア学の名誉教授を務めるスティーブン・F・コーエンも、この5月に行われたジョン・バチェラー・ショウと称されるラジオ番組のインタビューで、9/11 同時多発テロ直後の米ロ関係を特徴づけて、これと非常に似通った発言をしている。

9/11の後、ウラジミール・プーチンはジョージ・W・ブッシュに軍事施設の便宜を図ったり、アフガニスタンに関する諜報およびアクセスのルートを提供して、タリバンに対する米国の地上戦のために大きな支援をしてくれた。プーチンの支援は何百人もの米兵士の命を救った。あるいは、何千人にもなったかも知れない」と、コーエン教授は強調する。

しかしながら、ブッシュ政権はロシアを対等なパートナーとして処遇しようとはしなかった。

「ロシアによるアフガニスタンでの支援が開始されて数か月もすると、ワシントン政府はABM条約(弾道弾仰撃ミサイル制限条約)から撤退すると宣言した。そして、米国はNATO2004年にバルト諸国を迎え入れると発表した」と、クーチンズ教授は強調している。

当時のジョージ・W・ブッシュ大統領はロシアとの関係を改善したかったが、ドナルド・H・ラムズフェルド国防長官や他の高官らが米ロ協調には強く反対した、と同教授は述べた。

クーチンズ博士は、名前は不明ではあるが、元米政府高官のひとりが述べたこととして、「ラムズフェルドはロシアは二等国の強国であって、何の値打ちもないと見なしていた」と引用している。

 Photo-3: © REUTERS/ Brendan McDermid。 米ロ間の緊張緩和2.0NATOに関するトランプの批判はどうして当を得ているのか

米ロ間の溝は2004年に北コーカサスのベスラン第1中学校で起こったテロ攻撃以降に現れたと彼は言う。この研究者によると、あの悲劇を節目として、9/11の事件後に始まった米ロ協調路線は短期間のうちに終わってしまった。

しかしながら、アトランティック誌のジェフリー・テイラーによると、節目は「NATOが継続してヨーロッパで拡大したこと」にあり、1999年にロシアの歴史的な盟友であるユーゴスラビアを空爆したこともあって、これらの出来事によって「モスクワ政府の西側との関係はより厄介なものになり始めた。」

言うまでもなく、米国の後押しを受けて2004年にウクライナで起こった「オレンジ革命」、ならびに、2008年の北京オリンピックの最中にジョージアのミカエル・サーカシビリ大統領が起こした南オセチアに対する軍事侵攻はまさに踏んだり蹴ったりであった。南オセチアに対する侵攻はブッシュ政権の暗黙の了解の下に始まったばかりではなく、当時、ブッシュによって自分の後継者として自他ともに認められていたジョン・マケイン大統領候補は「本日、われわれは皆がジョージア人である」と言って、サーカシビリの動きを熱烈に支持した。

2011年にリビアの指導者であるムアンマル・カダフィに対して行われた米国主導のNATOによる軍事行動は我慢の限度を超えさせるものとなった、と専門家らの意見は一致している。




Photo-4: © REUTERS/ 米空軍の上級将校マシュー・ブラッチ/資料。失敗の連続: ワシントン政府はシリアの反政府派をしっかりと制御することができない

「あの年の秋、私は外国の専門家たちとの間で開催される年次会合に出席していたが、プーチン大統領は激怒をチラッと見せて、NATOの行動は「野暮な違反」であると指摘し、延々と語った。これはシリアのバシャル・アル・アサドにはリビアの殺害された指導者と同じ運命を辿ることは決して許さないとする彼からのメッセージであった」と、クーチンズ博士は回想する。 

一見したところ、歴史はシリアでも繰り返している。シリアでは状況はどうにか均衡を保っている。イスラム国と闘うためにはワシントン政府と組みたいとするロシア側の度重なる努力にもかかわらず、米国の「戦争屋」は米ロ協調の将来については懐疑的なままである。

ペンタゴンはシリアに関する米ロ合意を何としてでも覆そうとしている、とロシアの専門家であり、中東・コーカサスに関するシンクタンクの所長でもあるスタニスラフ・タラソフは推測する。

「それは(Deir ez-Zor近郊の)シリア政府軍の陣地に対して空爆を実施したことやアレッポの近くで人道支援物資を輸送する車列をロシア側が空爆したとうそぶいて、非難したことによって証明された」と、タラソフはロシアのオンライン紙「Vzglyad」で語っている。

「ここで認識しておきたい点がある。米国務省の長官を務めるジョン・ケリーは間もなく任期が切れる政府を代表しており、彼らにとってはシリアに関して、選挙前に、少なくとも何らかの合意に達しておくことが外交上の原則である。その一方、ペンタゴンにとっては国務省の計画を台無しにすることだ」と、この専門家は指摘する。

ペンタゴンと国務省とが秘密の政府内の闘争に明け暮れている中、シリアでは状況が悪化するばかりである。

「米国が自国の安全保障に到達することができる道はモスクワを経由している」と、コーエン教授はジョン・バチェラー・ショウ番組のインタビューで強調している。

「プーチンを悪魔視し、プーチンを拒絶すればする程、われわれは組織的に自分たちの国家の安全保障を損なう。そのテーマが核拡散であろうと、テロリズムや環境問題、あるいは、国際経済であろうとも、プーチンを悪魔視することは米国の安全保障を組織的に無視することと等しい」と、同教授は警告している。

関連記事:
US Massacre of Syrian Soldiers Exposes Washington's Mendacity
Deir ez-Zor Attack 'Further Poisoned Mistrustful Relations' Between US, Russia
Washington 'Unable to Make Syrian Rebels Adhere to Ceasefire Deal'

<引用終了>


これで仮訳は終わった。

米国がロシアとの協調を実現できない要因は何かと言うと、この引用記事によると、最大の要因はペンタゴン(軍部)と国務省(外交)との間の主導権争いである。

シリアやウクライナではどちらが米国の政策に関して主導権を握っているのだろうか。シリア紛争の展開を評して、シリアのある政治家は「(米国の)外交は飾り物でしかない」と言った。結局、軍産複合体の利益のためにさまざまな策を展開しようとするペンタゴンのやりたい放題だということだ。

サダム・フセインが大量破壊兵器を所有しているとしてイラク戦争に踏み込んだ米国は大失敗を仕出かした。大量破壊兵器はどこにも見つからなかったのだ。今も、イラクは大混乱のままである。イラクだけではなく、アメリカが触手を動かされる資源が豊かな国では決まったように無政府状態に陥り、何十万、あるいは、何百万もの無辜の市民が殺害され、大混乱が待っている。大混乱になればなるほど、米国では莫大な軍事費が浪費される。軍産複合体にとってはこれ程有難い話はない。

こうした大失敗を比較的最近に経験しているにもかかわらず、米国議会やペンタゴンの高官らは多くが長い眠りから覚めてはいない。少なくとも、私にはそう思えてならない。そして、ほとんどの一般市民も同様である。米国では、例外主義、単独覇権、グローバリズム、ネオキャピタリズム、等、彼らを夢中にさせ、自己陶酔させ、あるいは、妄想に走らせるイデオロギーには事欠かないようだ。 

米国はイスラム国に対する戦争にはまったく気が進まないようだ。しかしながら、ロシアを最大の敵と見なすことには一生懸命になっている。これはいったいなぜかという命題に対して、あるジャーナリストが単刀直入な答をしている。要約すると、それは、イスラム国相手の戦争では金にはならないからだ。それに比べて、ロシアが相手であれば、全ヨーロッパを巻き込むことが可能であるから、NATO全体を動かすような大きな軍事的展開となる。米国の軍産複合体が欲しがっている高利潤のビジネス・チャンスとなるのだ。こうして、新冷戦が始まった。

さらなる詳細については、「芳ちゃんのブログ」にて「NATOはロシアを最大の敵として見るのか?なぜイスラム国ではないのか?」と題した725日の投稿をご一覧願いたい。

米国の経済構造はそのようなレベルにまで堕ちてしまったということだ

そして、政治家の場合、次回の選挙で自分が再選されるかどうかを考えると、当面の政治的潮流には逆らうこともなく、それに乗っかっていた方が無難だとする判断が意識的に、あるいは、無意識的に働いているのではないか。残念ながら、そこには真の政治家らしい洞察や将来像はまったく見られず、打算しかない。


米国人の長い眠りを覚ます方法は今のところひとつしかない。好むと好まざるとにかかわらず、米国では頻繁に行われている内部告発だけではないだろうか。たとえば、歴史的な事例から何らかの手法を掘り出そうとすれば、実は先例があるのだ。米国がベトナム戦争の泥沼にのめり込んでいた頃、機密扱いの「ペンタゴン・ペーパー」がダニエル・エルスバーグによって報道機関に漏洩された。その結果、ニクソン政権の終焉をもたらし、ベトナム戦争の終結に貢献した。

しかし、今進行しつつある米ロ間の新冷戦を終結させるには、いったいどんな内部告発があり得るのだろうか。私には見当も付かない。さらには、内部告発と言うと物騒な話として受けとられる。多くの国では内部告発は違法行為となる。

もっと穏当な手段を考えてみよう。少なくともひとつ言えるのは、米国人はロシアについてもっともっと多くの事を学ぶべきだ。2年前にウクライナ紛争が起こった時、大多数の米国人はウクライナの場所さえも正確に指し示すことはできなかったと報道されている。これが現実である。誤解されることを恐れずに言えば、米国人はロシアを知らな過ぎる。そして、われわれ日本人も然りだ。ロシアを学ぶ近道はロシアへ旅行し、ロシアでの生活を体験し、一人でも多くのロシア市民と交流することだと思う。

米国はそれとはまったく逆の方向へ進んでいるとしか思えない。

一例を挙げると、今年の夏、リオ五輪では目に余るロシア・バッシングが横行した。薬物の使用は多分に個人的な次元での話である。それにもかかわらず、トラック競技に参加するロシア人選手たちは十把一絡げで五輪への参加を拒否された。競技参加者のレベルにおいてさえも、ロシア人選手に対するあからさまな嫌がらせが見られた。たとえば、ある種目で表彰台に登った3人の選手のひとりはロシア人で、他のふたりは米国人であった。ここで何が起こったか。ロシア人選手が求めてきた握手を米国人選手が拒否したのである。これを見た時、我が目を疑った。

米国主導の新冷戦の延長として、ロシア・バッシングは国際政治とは関係がない筈の五輪の運営にまでも影を落とし、さらには、競技会場における選手の行動にさえも及んだのである。

ロシア市民との交流を深めることによって、米国市民がロシアを少しでも理解し始め、ロシアを国際政治のパートナーとして考えるならば、新冷戦を中断させることができるかも知れない。そして、最終的には、多くの人たちが心配し始めている米ロ核戦争を回避することができるかもしれない。

現状のままで、米国およびその同盟国(日本を含む)がロシアとの和平に向けて何の努力もせず、新冷戦が進行するのを座視し続けることはまさに愚の骨頂である。


新冷戦の状況が現在のまま継続する場合を想定して、その行方を孫子の兵法を拝借して占ってみよう:

1彼を知りて己を知れば、百戦して殆(あや)うからず。
2)彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。
3)彼を知らず己を知らざれば、戦うごとに必ず殆うし

米国は今(2)あるいは(3)の状況にあるのではないだろうか。

軍産複合体が米国の外交を牛耳ってしまって、外交は単なる飾り物にしか過ぎないという現状が続くとすれば、残念ながら、この可能性は高まるばかりだ。そして、そこには日本も巻き込まれていることだろう。



参照:

1US Has Repeatedly Missed its Chance to Establish Partnership With Russia: By Sputnik, Sep/24/2016, sputniknews.com/.../us-russia-partnership-security.html





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