2016年11月30日水曜日

EU:市民を洗脳するために市民自ら資金提供をすることについて投票



この表題を見ていったい何のことを言おうとしているのか「ピーン」と来る人は今欧州がどんな政治課題に振り回わされているのかについて適時に情報を得ており、その現状をよくご存じの方々だけだろうと思う。

米ロ間の情報戦争、ハイブリッド戦争、あるいは新冷戦は次々と新たな局地戦を展開している。私はそういう印象を受ける。

対ロ経済制裁がヨーロッパでその効果を挙げるどころか、ヨーロッパ各国では不人気であり、EU圏の政治地図を二分してしまっている。大雑把に言うと、EU圏の南部は対ロ経済制裁が自国の経済にとっては余りにも打撃が大きいことから、それを中断することに傾いている。その一方、ポーランドやバルト三国を中心とするEU圏に比較的最近加わった中・東欧の国々は国内の経済不振から一般庶民の関心を外に向けるためにも現行の対ロ強硬路線は堅持したいようだ。

クリミア半島の市民の圧倒的大多数が住民投票によってロシアへの復帰を選択した。つまり、極めて民主的な手法を使って民族自立の決断をした。それを受けてロシア政府はクリミアのロシアへの編入を認めた。ロシア政府がとったこの政策に関して、西側の圧力があるからと言って、プーチン大統領がその決断を元に戻すような気配はこれっぽっちもない。また、最近の世論調査 [1] によると、ロシア国内では西側離れが進行しており、一般大衆の政府の外交政策に対する信頼感は減退するどころか、むしろ強化されている。西側の政策立案者にとっては残念なことではあろうが、対ロ経済制裁は完全に裏目に出たということだ。

それどころか、国際政治におけるロシアの地位は今上昇中である。

米国のトランプ次期大統領はロシアとより良い関係を構築したいと表明している。そればかりではなく、最近行われたモルドバとブルガリアの大統領選挙では親ロ派が勝利した。オランダ、ギリシャ、キプロス、イタリアおよびスペインは対ロ経済制裁の続行には反対を表明している。フランスでは大統領選が来年の4月に行われるが、もっとも中心的なふたりの候補者、つまり、共和党のフィヨン大統領候補もナショナル・フロントのル・ペン党首もロシアとは仲良くやって行きたいと言っている。今までEUへの加盟を推進してきたトルコは、この夏のクーデター未遂事件を境にして、EU加盟の推進から一転して親ロ派に転向しつつあるようだ。トルコはNATOのメンバーでもあることから、トルコの政治的転向がどこまで進展するのかについては今大きな関心が集まっている。

対ロ経済制裁に代わって、あるいは、それを補完するために、もしくは、完全に新しい試みとして登場して来たのがロシアの国営メディア、Russia Today (RT)を痛めつけるという新しい戦術だ。経済戦争から情報戦争へと移行している。英国では、同国で活動するRT支局を叩き始めた。この動きは英国による対ロ制裁であると見られている。

RTの編集局長を務めるマルガリータ・シモニアンは「英国のナショナル・ウェストミンスター銀行がRT-UKの口座をすべて閉鎖すると通告して来た」と1017日のツイッターで公表した。最大級の皮肉を込めて、彼女は「表現の自由、万歳!」と書き添えている [2]。「表現の自由」や「民主主義」を声高らかに謳い上げて来た英国人にとってはさぞ耳に痛いメッセージであろう。

ナショナル・ウェストミンスター銀行はロイアル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)を親会社としており、RBSの過半数の株式は英国政府が所有している。この事実から、多くの外部の専門家たちは今回のナショナル・ウェストミンスター銀行によるRT-UKの口座の閉鎖に関する発表は英国政府の意向を多分に反映したものだと推測している。もちろん、ナショナル・ウェストミンスター銀行のトップは英国政府の関与を認めてはいない。

RTが如何に多くの人気を得ているかに関しては、まずは、1027日のRT報道 [3] を吟味していただきたい。その表題は「RTはユーチューブで40億回もの視聴回数を記録」としており、RTの人気度を報告している。確かに、これは世界でもトップクラスのニュース報道機関を自負する米国のCNN や英国のBBCを凌ぐものである。これを見ただけでも、西側の一般市民は、特に、イラク戦争以降、西側の大手メディアの報道には飽き足らず、真実の、あるいは、少しでも真実に近い情報を求めてRTの報道を頼りにしているという現実を理解することができるのではないか。

率直に言って、2003年のイラク侵攻を開始した前後の西側のメデイアの大騒ぎ振りや大量破壊兵器が見つからず、あの戦争の大前提が砂漠の蜃気楼の如くものの見事に崩れて行った結末は、多くの人にとっては今でさえも大手メディアの大失敗として鮮やかに蘇って来る。一般庶民のわれわれにとっては、これらの一連の出来事は今まで神話のように語り継がれてきた西側ジャーナリズムの旗艦とも言うべきBBCCNN、ニューヨークタイムズの信頼性を根底から覆すものとなった。あれから10年、視聴者の信頼感を呼び戻すために、西側の大手メディアはいったいどんな改善努力をして来たと言うのであろうか?


最近、新たな動きが浮上してきた。欧州議会がひとつの決議を採択した。その内容はロシアの国営メディアに対抗して、ロシア側のプロパガンダの嘘を暴くために、EUはメディアを監視する機関を拡大し、その活動を強化するために予算や人的資源を注ぎ込むべきだというものだ。

ロシア側のメディア、特に、RTにとって最大の関心事は過去10年間に築き上げてきたテレビ・ニュース局を西側各国において今後とも活動を続けることができるかどうかという点だ。ウィキペディアによると、拠点のモスクワだけではなく、ワシントンDC、マイアミ、ロサンジェルス、ロンドン、パリ、ニューデリー、テルアビブに支局がある。

この欧州議会の最近の決議についての本質的な議論は今まで西側が旧ソ連邦やその後のロシアに対してお説教をするかのように喧伝してきた「表現の自由」にかかわるものである。

表現の自由は国連憲章でも謳われており、欧州連合の基本理念の一部でさえもある。それに逆らって、今回、EUは上記の決議を採択した。逆説的に言えば、最近の国際情勢を見て、EUの一部の国々はパニックに陥っているのかも知れない。また、EU全体にとってはEUを二分するもうひとつの厄介な要素が加わったということでもある。

本日はこういった議論を詳しく解説している記事 [4] を下記に仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>



Photo-1: ストラスブールにある欧州議会の全景 © Reuters

「ロシアのプロパガンダ」に対抗するために欧州委員会によって設立されたばかりのグループにはもっと多くの公的資金やさまざまな資産を投入して、拡張・強化することになった。しかし、これはヨーロッパ市民は自分たちの無知を助長し、自分たちに偽情報をもたらすことになる枠組みに資金供給を行うことを意味する。

今週、ストラスブールの欧州議会は「ロシアのプロパガンダの偽りを暴くこと」を目的とするメディア監視機関の業務を拡大するために資金を注入することに怪しげな賛成多数の投票を行った 

ほとんど知られてはいない本メディア・グループは11人の「外交官」で構成されていると報道されており、偉大な権力を有するとは言え、選挙で選ばれているわけではない欧州委員会によって1年前に設立された。したがって、このメディア・ユニットは選挙民からの委任は受けてはいない。しかし、潜在的には、ヨーロッパの5億の市民が将来如何にニュースにアクセスし、如何に公的な情報にアクセスをすることができるかに関して影響力を持っているのだ。

上述のEU のメディア・プログラムは、特に、急進的なロシア恐怖症という偏見によって動機付けられたものであることは明白だ。このメディア監視機関と一緒に作業をしているのは熱狂的な反ロシア派であるポーランド人欧州議会議員、アンナ・フォティガを筆頭とする7人の議員たちである。右派の「欧州保守改革同盟」のメンバーでもある57歳の同議員はウクライナにおけるロシアの「侵攻」を常に非難して来たし、一般論としてもヨーロッパへのロシアの侵攻を非難している。

フォティガの自らが決めたメディア・グループは東欧の反ロ派によって占有されており、このグループは「プロパガンダへの対抗に主眼を置いたEUの戦略的コミュニケーション」と題された報告書を今年の始めに作成した。それはヒステリックな調子を帯びた書き物であり、ロシアのニュース・ネットワークであるRT やスプートニクはクレムリン政府のプロパガンダ機関であり、EU のメンバー国を二分し、各国間に不一致を生ぜしめているとして非難している。

本報告書は次のように述べている。「ロシア政府は広範にわたる道具や手段を採用している。たとえば、シンクタンク、多言語テレビ局(つまり、RT)、疑似ニュース局やマルチメディア・サービス(つまり、スプートニク)、ソーシャル・メディアやインターネットにおける扇動行為。これらは民主主義的な価値に挑戦し、ヨーロッパを二分し、国内の支持を集め、EUの東部地域における国々が大失態を犯しているという認識を植え付けようとするものである。

「ロシアのプロパガンダの偽りを暴く」とするメディア・プログラムのために資金提供を拡大するべく今週採択された欧州議会の決議の基礎を固めたのはこの偏見に満ちた「研究」報告書であった。

このメディア監視機関にどれだけの規模の資金が提供されるのかは明らかにされてはいない。しかし、最終的にはヨーロッパ市民が資金を提供することになる。市民が納めた税金が28か国からなる経済ブロックの参加各国の費用を負担するのである。

特に、欧州議会によって今週採択された決議には説得力があるのかと言うと、実はまったくそうではない。「反ロ・プロパガンダ」グループのために304人の議員が賛成票を投じ、179人が反対票を投じた。そして、208人の議員が欠席した。[訳注:全議席数の691に対して賛成票は304で、44パーセントにしかならない。] これは「ロシアのプロパガンダの偽りを暴く」とする機能や信頼性に関しては多くの議員たちが不審を抱いていることを示すものだ。

その結果はこんな具合だ。選挙で選出されたわけではない匿名の職員やイデオロギーに支配され、ロシアに対抗するための斧を公然と研ぎ澄ませようとしている政治家で構成された極めて小さなグループがEU 圏全体の外交政策における重要な領域に関して影響力を与えることが可能となる。また、そればかりではなく、情報へ自由にアクセスする一般庶民の権利を大きく侵害することにもなりかねない。

「ロシア政府主導のプロパガンダ」という非難は西側の指導者、たとえば、バラク・オバマ米大統領やアンゲラ・メルケル独首相が述べた「フェーク(偽)・ニュース」が西側の民主主義を弱体化しているとする最近の主張によって燃え上がったものである。これらの主張に続いて、NATO と繋がっているシンクタンクはさまざまな報告書を発表した。それらの報告書はロシアのニュース報道番組はクレムリン主導の情報操作の最前線だと主張している。 

政治的圧力は今やインターネットやソーシャルメディアのプロバイダー、たとえば、グーグルやフェースブックに対してまでも影響を与え、彼らのネットワークから「フェーク・ニュース」を締め出すような動きになっている。ドイツのメルケル首相は今週こう宣言した。 インターネット企業がフェーク・ニュースを規制する」よう立法化する積りだと彼女は述べている。

この話がどこまで進展するのかはまったく不明である。西側に本拠を置くインターネット企業は 全面的な検閲を持ち出して来るかも知れない。しかし、問題点がひとつある。それは特定の情報や情報源が「偽物」だと断定する上で何処に限度を置くかだ。

ロシア恐怖症を巡る政治的環境は西側の指導者やNATO との繋がりが太いシンクタンクによって扇動されて来たが、今や、それに欧州議会が新たに加わった。そして、RT やスプートニクを「非正統的な情報源」として名指しで実際に非難することはロシアのメディアを全面的に禁止する舞台作りに外ならない。

今週の報道によると、「ロシアのプロパガンダへの対抗」を拡大・強化することになったEUのメディア監視機関は「インターネットの利用者には偽の情報について警告を与える」何らかの手法を採用すると言った。恐らくは、それはオンラインのニュース解説者(扇動者)を採用し、彼らがクレムリンのプロパガンダであると判断されるニュース記事についてはその価値を過小評価するコメントを付けることになるのであろう。今のところ、インターネット・プロバイダーが実際にコンテンツを削除するような動きは明らかに存在しない。しかし、容赦のない反ロの雰囲気、ならびに、「フェーク・ニュース」が民主主義を弱体化していると西側の指導者らが主張をしたことから判断すると、全面的な検閲がすでに一歩手前にまで迫っているかのようである。

今展開しつつある事態は陰湿な側面を持つ。それはNATO 軍に所属するベルギーのジェット戦闘機が先月シリアを爆撃した事件によって簡潔に描写することができる。現地の消息筋によると、1018日、アレッポ県のHassadjek集落が空爆を受け、6人が死亡した。 

その後、ロイター通信を含めて、いくつかのニュース報道機関が報告を行った。 それらの報告によると、ロシアの国防省はベルギーはテロリスト集団と戦っている米国主導の同盟国によるシリアへの空爆作戦の一部としてこの爆撃を行ったものであるとして非難した。

ロシア側の情報は飛行データやレーダー情報からベルギーの戦闘機を割り出したものであって、実体的な内容である。モスクワではベルギー大使が呼び出され、ベルギー空軍がこの死者を出した爆撃に関与した事実をベルギー政府はどうして否定するのかについて説明を求められた。

気掛かりなことには、先月アレッポで起こったベルギー空軍の空爆に関するこれらのニュース報道は、このグループに対する更なる資金提供に関して今週欧州議会で行われた投票ではEU メディア監視機関によって「フェーク・ニュース」のひとつとして扱われている点だ 

これは極めて悪質な意味合いを示している。如何に実体があり、如何に事実に基づいていようとも、個々のニュース報告や分析内容がEU 政府の政治的な感受性や評判に少しでも触れるような場合には如何なるものも「偽物」として見なされる危険性があるのだ。その結果、検閲に晒される。

西側政府がイスラム過激派のテログループに対して行う武器の供給に関する報道は果たしてどう受け止められるのであろうか?あるいは、ロシアが推進しているシリアのアレッポの街の解放ではロシアは国際法を違反しているとして非難するホワイト・ヘルメットのようなテロリスト側のプロパガンダの最前線と西側のメディアとの共謀に関する報道は果たしてどう受け止められるのであろうか?

これらの報道のすべては検証が可能であり、文書化することができる。しかし、これらの報道はたまたま西側のシリアへの関与に関する公式の主張には沿わないことから、これらの西側の「意に沿わない」報道は、単純に言って、「ロシアのプロパガンダ」であるとして捨て去られる可能性があるのだ。

これはヨーロッパや米国政府が自分たちをメディアによる批判や詮索から無縁の存在とする大胆極まりないライセンスを与えることになりかねない。しかも、それは単にロシアのニュースは「偽物」であり、「プロパガンダ」に過ぎないとする非常に主観的で、政治問題化された主張をすることによって実行される。

ところで、今週、ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領はブリュッセルでEU の指導者たちに遇せられていた。そこで、彼はこう警告した。「欧州連合はロシアからの厳しい攻撃にさらされている」と。 

ポロシェンコの長く手厳しい非難演説が「フェーク・ニュース」の紛れもない事例であることにヨーロッパのメディア各社やメディア監視機関が気付いている兆候はまったくないのである。

陰鬱な将来が今手招きをしている。EUの市民は、批判的なニュースや情報を入手できなくさせようとする、選挙で選出されたわけでもないメディア管理者たちに資金提供をすることを義務付けられ、それと同時に、市民らは極めて不当な反ロ・プロパガンダにさらされることになろう。

その最終的な結末として、EUの市民は次第に強制され、自分たち自身を洗脳することに資金を提供することになるのである。

EUの市民はEU の寡頭政治のルールに疎外感を抱き、その数が増えている現状は決して驚くには値しない。彼らは専制君主のように振舞っており、粉々に潰してやりたいほどである。

(注)上記の発言、見解および意見は全面的に著者のものであって、RT の見解や意見を代表するものではありません。

著者のプロフィール: フィニアン・カニンガム(1963年生まれ)は国際関係について広範囲にわたって執筆し、彼の記事は幾つもの言語で出版されている。アイルランドのベルファースト出身で、彼は農芸化学の修士号を有し、英国のケンブリッジで英国王立化学協会で科学分野での編集委員として勤務。その後、新聞ジャーナリズムに身を置いた。20年以上にわたって、てミラー、アイリッシュ・タイムズ、および、インデペンデントの各紙で編集者、あるいは、物書きとし働いた。今は東アフリカに在住し、フリーランスのジャーナリスト。彼のコラムはRT、スプートニク、ストラテジック・カルチャー・ファウンデーションおよびプレスTVにて発表されている。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

これは「民主主義」の根幹である「表現の自由」にかかわる問題である。

最大の懸念は「フェーク・ニュース」というレッテルが権力者によって恣意的に乱用されることだ。乱用に歯止めを掛ける策は欧州議会では論じられてはいない。

しかし、この概念は権力者側にとっては情報コントロールのためには非常に好都合な手段となることだろう。政府の政策やイデオロギーに基づいて一般大衆をひとつの方向に向けて洗脳することが可能となる。そこでは、政府が発信した偽りの情報が大手を振って闊歩する。一般市民は自由に物も言えないような世界が間もなくやって来るのかも知れない。現状から判断すると、その可能性は高い。

それは日本の戦前の社会を想い起こさせ、ヨーロッパではナチドイツの陰鬱な社会を彷彿とさせる。ヒトラーの宣伝相ゲッペルスは嘘は大きいほど良い、そして何百回も繰り返せば本当になる」と言った。

上記のEUの動きに何の抑制もかけられないままで放置していると、やがては陰惨な社会がやって来る。歴史が証明しているにもかかわらず、またもや繰り返すのであろうか?恐ろしい話である。




参照:

1Have Western Sanctions Against Russia Backfired?: By Fred Weir, Defense News, Oct/22/2016, defensenews-alert.blogspot.com > ... > IFTTT

2UK bank to close RT accounts, ‘long live freedom of speech!’ – editor-in-chief: By RT, Oct/17/2016, http://on.rt.com/7s3p

3RT hits record 4 billion views on YouTube: By RT, Oct/27/2016,  http://on.rt.com/7t2e

4EU votes for citizens to fund their own brainwashing: By RT/Op-Edge, Nov/26/2016,  http://on.rt.com/7w5h







2016年11月22日火曜日

クリントンの敗北後、傷口を舐めているメディア



118日、米大統領選挙の投票が行われた。数日後に判明した投票結果によると、ドナルド・トランプが勝利を手にし、ヒラリー・クリントンは敗退した。

米大統領選の場合、総数538人の代議員のうちで270人以上からの賛成票を獲得すれば勝ちだ。今回の大統領選ではトランプとクリントン候補との間では票が306232と分れた。大差である。

メディアの間では、今回の大統領選におけるトランプの勝利は「ショッキングな勝利」と形容されている。

何故か?それは、選挙の前日までの熱狂的な報道によると、多くの専門家たちはクリントンが圧勝すると予測していたからだ。クリントン候補のために選挙運動を続けてきた人たちにとっては信じられないことが起こったのだ。CNNとかCBS、ワシントンポストやニューヨークタイムズ、等の大手メディアはショックを受けて茫然自失の体たらくだ。

もちろん、この逆転劇はクリントン支持者(大手メディアを含めて)には途方もない困惑を与え、怒りさえをも引き起こした。しかしながら、この結果は自業自得だとする見方もある。つまり、彼らの困惑と怒りは選挙運動中の過剰なまでの自信や傲慢さが最大の要因であると指摘されている。

本日はそういった見解を代表するひとつの記事 [1] を読者の皆さんと共有しようと思う。

これはモスクワに住むロバート・ブリッジという米国のジャーナリストが書いたもので、「クリントンの敗北後、傷口を舐めているメディア」と題されている。


<引用開始>



Photo-1:  118日、ニューヨーク州のワシントン郡に住むマーヴィン・デレオン(左)はニューヨークのジェイコブ・K・ジャヴィッツ・コンベンション・センターにて民主党大統領候補のヒラリー・クリントンのために行われる投票日夜の大会会場には入り切れず、屋外で立ったまま泣いている。© Mark Kauzlarich / Reuters

ヒラリー・クリントンが実際にホワイトハウスの座を勝ち取ることができるかどうかに関して視聴者に選挙の模様を報道するという役割においては、米国の主要メディアは大失態を仕出かした。その結果、反トランプの抗議デモに油を注ぎ、抗議行動は第2週に入った。

選挙はいったいどんな違いをもたらしたか。一週間前、米国の大手メディアは向こう見ずにもヒラリー・クリントンはホワイトハウス入りの競争で90パーセント以上の確率をもってドナルド・トランプを下すだろうと予測していた。

ロイターズ/イプソスが行ったえらく間違いだらけの世論調査を引用して、彼らは軽薄な口調で「トランプによる巻き返しは・・・6州か7州でどれだけ多くの白人や黒人、ヒスパニックが投票所へやってくるか、そして、その組み合わせがどうなるか次第だろう」予測した 全米で、各地の新聞はこの予測をオウム返しに繰り返して、選挙人団の投票ではトランプ候補は前国務長官には235303の票差で敗退するだろうと報道した。

[訳注: この世論調査は選挙が行われる118日の早朝、ニューヨーク時間の午前3時に発表された。つまり、もっとも最新のデータだった。表題には「クリントンが90パーセントの確率で勝利する」とあった。この引用には「6州か7州でどれだけ・・・」という記述があるが、これらの州は選挙のたびに民主党が勝ったり、共和党が勝ったりするいわゆる「スウィング州」を指している。一方、114日のロサンジェルスタイムズはトランプがクリントンを5パーセントも引き離しているとの世論調査結果を報じていた。この調査はロサンジェルスタイムズと南カリフォルニア大学が共同で行ったもの。ロサンジェルスタイムズが伝統的に民主党が強いカリフォルニア州に本拠を置く新聞社であることを考えると、この報道内容は実に興味深い。]

現実からはかけ離れているこの報告は米国がふたつの「別世界」に二分されているという考えを強調し、たとえ真実の姿が何処かにあるとしても、それは中間のどこか望ましい場所に位置しているわけではなく、むしろ遥か彼方の宇宙のどこかにある超空間にでも紛れ込んでしまったかのようで、その実像はまったく分からなかった。

確かに、多くの人たちは「こんなことはいったい可能なんだろうか」と問うていた。つまり、クリントンが269日間も記者会見に応じなかったこと、さらには、(少なくとも、ウールストリートの銀行家たちがやって来るようなことはない会場で)もっとも小さな会場であってさえもクリントン陣営は入場券を売り捌くことに結構苦労していた。それにもかかわらず、クリントン候補は演説会場である野球場を騒がしい支持者たちで一杯に埋め尽くしてしまう対抗馬を依然として凌いでいるという見方、等々。

このような非常に容易に観察することができる現実があったけれども、クリントンがたった232票を確保しただけの時点に、トランプはすでに290票もの選挙人を獲得したことを知った時、大部分の人たちは衝撃と畏怖の念を覚えた。このニュースを聞いて、世界中何処でも一様に衝撃状態に陥ったが、それはメディアが自分たちの責任を果たすことに失敗したというメディア自身の症状そのものを示すものでもあった。もしも米国の大手メディアが両候補者に関して詳しい報道をしていたならば、誰もトランプの勝利を番狂わせとして受け取ることはなかっただろうし、リベラル派の連中も今選挙に敗れたからと言って、カッとなって、全米で滑稽極まりない適合振りを言い争うような事態にはならなかったに違いない。

大手メディアではトランプは踏みつけにされた負け犬であり、民主党の対抗馬を打ち破る確率は完全にゼロだと見なされていただけではなく、彼は常に否定的な報道を受け取る側に回されていた。ここに事実関係を示すデータがある。トランプが共和党の指名を受けた7月以降、ヒラリー・クリントンに比べると彼は遥かに頻繁に報道されていた。しかし、ここに興味深い点がひとつある。「メディア研究センター」(MRC)の調査結果によると、彼に関する報道の殆んど(91パーセント)は敵対的な内容であった。

そして、両候補者は自分たちの物語のほとんどの部分についてはどちらも秘密にしていたが、大手メディアはトランプが秘密にしていたことを報道するためにテレビで440分もの時間を費やしていた。それに比べて、クリントンの物語を徹底的に報道するために費やされた時間は185分のみであって、トランプよりも多くはない。

たとえば、トランプの「女性の扱い」に関しては、夜のゴールデンアワー・ニュースで102分も費やし、これはクリントンの電子メールを巡るスキャンダルに関する報道(53分)やクリントン財団は政府に口出しをするには寄付金を支払わせる仕組であるとする批判(40分)の総計よりも多かった。確かに、セックス・スキャンダル関連のニュースは関心を呼ぶのは事実であるが、利害関係を考慮して両候補者の間でもっと均衡を図るべきであった。

これらの数字を踏まえて言うと、明らかに、米国のメディアは視聴者に対して両候補者について公正な、徹底した議論を提供するよりも、むしろ、ヒラリー・クリントンを押すことに注力していたと言える。事実、全米の地方紙の中でいったい何紙が米国の第45代大統領になるために行われたトランプの選挙運動は支援しなかったかを理解すれば、彼の勝利は惨敗の憂き目から奇跡的に救出されたのだとさえ言えよう。さて、この勝利は決して驚きではないけれども、いわゆる「驚異的」なトランプの勝利を受けて、リベラル派はメディアがもたらした混迷状態からようやく目を覚まし、今や反トランプを叫ぶ街頭デモに繰り出している。

Photo-2: バノンに関する反動。トランプが彼をブレーンのトップに据えたことには異論が殺到。

次の事を考えてみて欲しい。ヒラリー・クリントンは、ニューヨークタイムズ、ロサンジェルスタイムズ、シカゴサンタイムズ、ニューヨークデイリータイムズ等を含めて、米国の大手メディアによって公に支持されていた。創立以来30年以上にもわたって大統領選では特定の候補者を支持することはなかった「USAデイ」でさえもがクリントンに味方をして、トランプは「大統領職には適しない」と宣言していた。 1857年以来刊行を続けて来たアトランティック誌はクリントンに対して三回目となる支持表明を行った。一方、トランプはラスヴェガス・リビュー・ジャーナル(日刊で、発行部数は175,000部そこそこ)を大手メデイアの支持者として甘受しなければならなかった。

要するに、もしもゴライアス対デイヴィッドのようなスタイルでメディアの巨人に対して挑んで行ったこの選挙戦がソーシャル・メディアの活用に長けたトランプ向きではなかったとしたら、彼の選挙中のメッセージは支持者の大半に届くことはなかっただろう。

しかしながら、この並外れた能力を持ったトランプのことはさておき、全米のムードをしっかりと読み取っていたのは共和党員で下院議長を務めたニュート・ギングリッチだった。これは誰にでも見て貰いたいのだが、フォックス・ニュースの超苛立たしいメーガン・ケリーとのインタビューで、トランプは世論調査を叩きつぶそうとしても、結局は大敗に終わるだろうとする彼女の的外れの示唆をギングリッチは冷やかに退けている。

ケリーはインタビューの始めに誘導的な質問をした。「ホワイトハウスを目指す選挙戦でドナルド・トランプが負け、共和党が上院の過半数を割るとすれば、これは共和党が人選を誤ったということになりませんか?」 

相手が年長者であるにもかかわらずやる気十分のケリーを避けて、ギングリッチはその攻撃を封じ込め、スリーポイントシュートを決めてしまった。「これからの二週間がふたつの別世界の間の競争となる。世論調査によると、あなた方はヒラリー・クリントンがアフリカ系の米国人の間でバラック・オバマが実現したような素晴らしい出足を今回も実現するだろうと期待している。けれども、そのようになるとは私は思ってはいない。ワシントンポストとABCニュースとの共同世論調査結果があるが、彼らはその結果が気に入らなくて、8パーセントもの票を削ってしまった。勝算はどちらか・・・ 私が思うには、彼女には勝ち目なんてない。」 

ふたりの会話がトランプが10年ほど前に喋ったという例のセックスの話題で満載の「ロッカー・ルーム」談議に移ると、ニュース番組は、クリントンの電子メールスキャンダルに比べて、比較にならない程多くの時間をこの話題に費やしている、とギングリッチが言った。ケリ―は厚かましくも美辞麗句で飾った質問をして、ギングリッチを遮ったが、この時、彼女は反則を犯した。「もしもトランプが性犯罪者だとしたら・・・?」 彼女はこの質問を終わらせることもできず、その時点から彼の名人芸が始まった。ギングリッチは明らかに立腹していた。「ヒラリー・クリントンはブラジルのある銀行で非公開の講演を行い、225千ドルもの謝礼を受け取り、その講演では彼女の夢は国境を解放して、6億人が米国へやって来ることだと喋ったが、彼女の発言は報道には値しないかのようだった。ところが、3大テレビ網はトランプのスキャンダルに関してはどうして一晩に23分も費やしているのだろうか」と逆に質問して、それに応戦したのだった。

ギングリッチはケリーに講義を垂れることによって自分の言いたかったことには決着をつけた。これは大手メディアのすべてにも適用することが可能だ。彼はこう言った。「あんた方はセックスの話には夢中になるけれども、公共の政策に関してはどうでもいいんだね。」 

トランプが大手メディアの世論調査結果や評論家に挑み、ホワイトハウス入りを確保した今になって、この選挙期間中にはメディアは無責任な報道をしていたばかりではなく、彼らの主たる責務はヒラリー・クリントンを支援することにあって、視聴者に公正な情報を提供することではなかったという事実が一般大衆にも良く分かっていたことをメディア自身が理解し始める時がようやくやって来たのだ。 

たとえば、今週、ある者に言わせると米国の「記録紙」としての役割を担うニューヨークタイムズが米国を二分することになったこの大統領選の間にとった自社の振舞いに関して謝罪を伝えた。 

「あのように異常で、予測が困難な選挙を終えて、今は次のような疑問が残されている。トランプの非伝統的な振舞いや人となりがわれわれや他の新聞社をして米国の選挙民の彼に対する支持を過小評価させてしまったのだろうか?米国の如何なる勢力あるいは歪が我が国を二分し、あのような選挙結果をもたらしたのだろうか?もっとも重要な事は、新大統領が執務を始める時、謎だらけのままである大統領はいったいどのようにしてこの国を統治していくのだろうか?」

この発言はまったく的外れだ。これはニューヨークタイムズが自社の公的機能を完全に見誤っているという事実を示すものだ。選挙民の間における特定の候補者に対する人気度をメディアが過小評価しているかどうかを判断するには、メディア自身がどんな衣装をまとっているかに関心を寄せるべきではない。彼らの仕事はグミベアのように一般大衆の好みに迎合することではない。彼らの仕事は投票する市民が投票所で正直な意思決定をすることができるように、各候補者に関して公正で均整がとれた情報を提供することである。それにもかかわらず、民主主義はジェスチャーゲームと化してしまい、メディアの報道内容は彼らがクリントンの「影の選挙運動チーム」の一部として機能していることを示したのである。今、彼らは大失態の現場を押さえられて、本当に赤面している。あるいは、実際に自分たちが行った報道を信じているのであろうか?

ニューヨークタイムズ紙のいわゆる謝罪記事を読んでも、米国の大手メディアに対する私の信頼感は回復しなかった。むしろ、昔の最悪の記憶をよみがえらせてくれた。同紙は、多分、他紙のどれよりも抜きんでて、イラクの大量破壊兵器の存在を伝える一連の記事を通じて、2003年のイラクへの侵攻を受け入れるようにと米国の一般大衆を騙したのである。同紙が後に自認した調査報道の役割は「当然あるべきレベルに比べても十分に厳密ではなく」、間違った情報に基づいていたのである。 

そのような過失が百万人を超す市民に死をもたらした(あるいは、単に殺害を続行するような指導者をホワイトハウスに送り込もうとする)時、「過失」や「謝罪」という言葉が真の意味で適用できるのかどうかについて私には確信がない。そういった言葉に代わって、むしろ、小槌で「ばーん」と机を叩くように、断固として、判事が「有罪」という言葉を宣言している様子が見えてくる。でも、それは私だ。

同様に不注意極まりないスタイルで、ドナルド・トランプは説得力のないメディアにおいてはある種の怪物として面白おかしく祭り上げられた。米国市民はどんな対価を支払ってでも、この生身の大量破壊兵器を回避しなければならないとでも言うかのように・・・ しかしながら、今回は、米国の一般大衆は大手メディアの誘いには乗らなかった。これは2016年の大統領選挙における正真正銘の「番狂わせ」となった。


さらに観察を続けよう: 

虚偽や嘘っぱちを見通すことには失敗し、何も気付かずにいた市民、あるいは、クリントンが大統領に選出されるのは確実だとする間違った筋書きを流布することにメディアが大きな役割を演じていたことには何の疑いも持たなかった人々のために・・・ 

われわれは何かを学び取るだろうか?  


注: この記事に掲載された発言や物の見方および意見は純粋に著者のものであって、RTの物の見方や意見を代表するものではありません。

著者のプロフィール: ロバート・ブリッジは米国の作家であり、ジャーナリストでもある。ロシアのモスクワに在住。彼の記事は、Russia in Global Affairs誌、モスクワタイムズ、Lew Rockwell.comおよびGlobal Researchを含めて、数多くの刊行物で発表されている。ブリッジは企業パワーに関して新著を発表している: 「Midnight in the American Empire」との表題で、2013年に発刊。電子メール: robertvbridge@yahoo.com

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

非常に興味深い内容だ。

この記事を始めて読み、しかも、他の同種の記事には接したことがない人にとっては米国の大手メディアはこんなにも腐敗しているのかと意外に思うかも知れない。しかしながら、これが現実の姿である。

大手メディアが庶民の生活の質を高めることに使命感を置いたジャーナリズムから企業の利益だけを追いかける報道機関に変わってしまったことを見抜きながら、一般庶民は今回の大統領選では自分たちの職場を確保したい一心でトランプ候補を選択した。海外での戦争に明け暮れ、税金を無駄遣いするクリントン候補を見捨てたのである。少なくとも、米国の一般大衆は目を覚ましたのだ。

トランプ大統領候補はこうした選挙運動中のメディアの姿勢には批判的であった。今後のトランプ政権下の4年間、大統領府は何らかの形でメディアに対する新政策を打ち出してくるかも知れない。両者間の攻防戦が見物である。

今回の米大統領選の推移は新しい現象として、今後、ヨーロッパにも飛び火するかも知れない。昨日(1121日)の報道によると、すでに、フランスでの予備選では前大統領であったサルコジが敗退した。要は、従来型の政治家は票を集められなくなっているのだ。来年はフランスやドイツで大統領選が行われる予定だ。新たな政治の潮流が現れようとしている。どういう結末になるのだろうか?



参照:

1: American media licking its wounds in wake of Clinton loss, anti-Trump protests: By Robert Bridge, RT, Nov/16/2016, www.rt.com/.../367022-us-media-clinton-trump-protest...