2016年3月30日水曜日

まったくお門違いの勝利 - 米軍の現状



ドミトリー・オルロフというロシア系米国人のブログが面白い。このブログでも彼のブログをみなさんにご紹介したことがある。「米国の財政的破綻が戦争をもたらす」という表題で昨年の54日に掲載した。あの投稿は人気があって、今も多くの皆さんに読んでいただいている。

彼の気鋭に満ちたブログは、もちろん、その後も続いている。最近の投稿として「まったくお門違いの勝利」と題された論考がある [1]

米国の軍事予算は巨額で、他を圧倒している。この論考は自慢気に吹聴する軍産複合体やメディアを戒める格好の内容となっている。例によって、手厳しい批判があちこちに見られる。彼の鋭い批判精神はここでも米軍の巨大化を許してしまった米国社会の矛盾を小気味よく指摘する。言われてみると、素人にも合点がいくのである。

今日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんにお届けしようと思う。


<引用開始>

米国の軍事費は他国を何カ国も束にしても比較にはならないほど大きいと言う事実については誰もが何回となく聞いている。通常、これは米国が軍事的には他の国を遥かに凌ぐ強国であることの証拠として引用される。ずば抜けて強国であることから、多分、地球上の他の国のすべてを相手にして全世界に君臨することさえも可能であると思わせる程だ。しかし、私はこのような見方は非常に疑問だと考える。米国はいったいどのような種類の「国防」に金を注ぎ込んでいるのか、そして、軍事的能力の観点からその見返りとしていったい何を実現しているのかを詳しく調べてみると、まったく違った姿が浮かび上がって来る。つまり、汚職がまん延し、失敗ばかりを繰り返すこの巨大な海獣はいたる所で自分たちの目標を挫折させているのである。

まずは、軍事費を比べることによって相対的な軍事力を評価するのは個々の競争馬がどれだけ餌を食べるかによって馬券を買うようなものではないか。確かに、馬は餌を食べなければならない。しかし、他のどの馬に比べても10倍も多く餌を食べる馬は、多分、一着でゴールインするようなことはないだろう。何故かって?この論理には深刻な間違いがあるからだ。

次に、米国の軍事費のために米国内で消費される1ドルはロシアや中国で消費された1ドルに相当するルーブルや元とは直接比較することはできないという現実を考えてみよう。購買力平価の観点で比較すると、同じ1ドルでもその価値の比率は51、あるいは、101となろう。もしもロシアが同じ出費で10倍にも見合う価値を購入することができるとしたら、米軍がどれだけの量を呑み込むかに基づいて推算された米国の軍事的優位性はあえなく消え去ってしまう。

また、米軍は他の国々とは違った目標を持っているという事実を見失うことがないようにしなければならない。米軍の目標は防衛にあるのではなく、むしろ、侵攻することにある。米軍は全世界に君臨し、各国を支配することを目指している。米国以外の国々はすべてが自国の領土を防衛することに専念している。そして、幾つかの国は米国が全世界に君臨し、支配しようとする野心を阻止しようともしている。

一般に、目標が非現実的である場合、その目標を達成するためにいくら浪費したとしても問題とはならない。もっと具体的に言うと、何かをうまく作動するように状況を改善するよりも、それを壊してしまう方が遥かに安上がりである。たとえ無力化のためにどれだけの費用を注ぎ込んだとしても、米軍は無力化した方が遥かに安上がりだ。たとえば、ニミッツ級の空母のコストは50億ドル前後となる。その一方、1200キロも離れた場所に位置する漁船のようにちっぽけな艦艇から発射され、空母を破壊することが可能なロシアのカリブル巡航ミサイルは比較にならないほどに安価だ。1基当たり120万ドルである。これらの数値を視点に物事を考えると、年間軍事訓練費の枠を超過することもなく、ロシアは米空母を一掃することが可能である。

米国が何らかの軍事目標を達成するために実際に金を注ぎ込もうとする場合、これは重要になって来る。米国の防衛関連の支配者集団が自慢するためのプロジェクトや超高価で、かつ、技術的にも心配の種となるような代物に軍事費のほとんどを注ぎ込む限り、米軍の状況はもうまったく問題外となってしまう。しかし、このような状況が今現実のものとなっているのである。


ここで、米国が実際に軍事費を何のために費やしているのかを見てみよう: 

― 米国は世界中で何百カ所もの軍事基地に金を注ぎ込んでいる。これらの軍事基地はいったい何のためにあるのだろうか?軍事基地の存在はいったい何を実現するというのだろうか?それは誰にも分からない。軍事基地はすべてが外国からの「脅威」を評価し、それに対応する米軍の「活動」の一部であると考えられている。しかしながら、それらの脅威の殆んどは純粋に理論の枠を出ないものばかりである。地球上のあらゆる地点を米軍基地を抜きにしては済ませられないと考えることは非理性的な衝動に過ぎない。ほとんどの場合、資源の浪費でしかない。 

― 米国は数多くの空母に金を注ぎ込んでいる。これらの空母は自衛能力のない国々へ侵攻する際には非常に有用である。しかし、中国やロシアならびにイランが介入し得る地域においては、これらの空母を武力衝突が起こり得る領域の外に配置しておくことが非常に重要となる。これらの国々は何種類かの費用効率が非常に高い手段を有しており、空母に対抗することができるからである。たとえば、弾道ミサイル、超音速巡航ミサイル、超音速魚雷 [訳注:原文では「超音速魚雷」と記述しているが、これは「スーパーキャビテーションを活用した高速魚雷」のことを指しているのではないだろうか]、等である。すべての空母船団は完全に時代遅れであり、空母に金を注ぎ込むことは膨大な浪費でしかない。

― 米国は「イージス戦闘システム」にお金を注ぎ込んでいる。このシステムは最先端技術であり、数多くの巡洋艦や駆逐艦に搭載されている。しかし、問題がひとつ存在する。ロシア軍が最近実証してくれたように、このイージス・システムを無効にすることはいとも簡単である。ロケットやミサイルは何も実装してはいないロシアのジェット爆撃機が米海軍の軍艦を無力化し、その上空を何度も飛行し、模擬爆撃を行ったのである。 [訳注:これは黒海へ入って来た米駆逐艦「ドナルド・クック」のことを指している。この出来事に関しては、20141121日に投稿した「
手も足も出なかった! - 黒海で米ミサイル駆逐艦「ドナルド・クック」を恐怖に陥れたのは何だったのか?」を参照願いたい。]

― 米国は大失敗に終わるようなさまざまな開発プロジェクトに金を注ぎ込んでいる。古典的な事例はロナルド・リーガン政権の頃の「スター・ウオーズ」と名付けられた戦略的防衛構想である。結局のところ、この構想は戦略的に有用なことは何も産み出さなかった。他にも事例を挙げるとすれば、最近の事例としてはF-35ジョイント・ストライカー戦闘機がある。この戦闘機は開発に1兆ドルもかかっている。同戦闘機はさまざまな用途に供されるとされてはいたが、それらの用途のどれをとっても役に立たないことが判明している。

このリストは実際には際限なく続くが、上記の事例だけから判断しても基本的な原理を明らかにしてくれる。すなわち、うまく行かない物事に金を注ぎ込むだけでは米国を軍事大国にしてはくれない。

次に、国防に金を注ぎ込む米国のやり方に注目してみよう。米国は軍需契約企業に支払いを行う。これらの契約者は高利益を生み出そうとする公開企業である。これらの軍需関連の契約企業は国防費用の支払いに見合うだけの価値を納入することに興味があるわけではない。彼らは各企業の株主のために如何に利潤を挙げるかについてのみ興味を抱いているのである。これは民間企業のすべてに課された至上命令である。したがって、軍需関連の費用の3分の1強は企業の利潤として吸い上げられると言っても間違いではない。この金は数多くの輩の私腹を肥やすかも知れない。しかし、そのこと自体は軍事目標とはまったく関係がない。

また、実際にはかなり多くの金が着服されるという事実に留意して欲しい。ペンタゴンは数十年にもわたって会計監査を受けたことがなく、説明のつかない額は何十憶ドルにも達する。防衛関連支出のかなりの部分がさまざまな形で米議会の議員のための政治献金としてリサイクルされ、議員らは防衛関連予算の増加にこぞって賛成票を投じる。また、防衛関連の契約企業は退役した将官らに途方もない額のコンサルタント料を支払う。これは現実には一種の繰延給与である。彼らは職責にある間ずっと防衛関連企業のために働き続けるが、退役してから初めて給与を手にするのである。このような仕組みやこれ以外の無数の仕組みを通して国防予算の内でいったいどれほどの額の金が動いているのだろうか?詳細は誰にも分からない。米軍の支配者層はこの地球上に見られる汚職集団の中では最大級であると思われる。

たまたま有用な防衛システムの開発に使われることになった僅かばかりの金は乗り越えられそうもない厳しい問題に直面する。それは頭脳の欠如だ。ご存知のように、今や、米国は世代を通じて科学や数学の分野で後塵を拝している。また、他の分野についても然りである。米国には優秀な大学や研究所が幾つもあり、最優秀の技術専門家が輩出されてはいるのだが、多くの場合彼らは外国からやって来た留学生たちである。科学や工学分野では米国人学生は少数派である。

多くの科学の分野ではこのことが問題視されることはまずない。米国では外国生まれの専門家を雇い入れることはごく普通の事であるからだ。しかし、何と言っても、国防の領域は別格である。優れた業績を達成するには米国生まれの才能、または、誠実さや道徳心が必要となる。しかし、率直に言って、そう簡単には手に入らない。こうして、防衛産業の企業は防衛に関係のない企業への就職ができなかった米国生まれの大男たちを雇い入れることになる。国防省でも、同様に、頭の鈍い連中が配属されている。彼らの多くはカフェインをたっぷりと取り込み、健康マニアだ [訳注:「しかし、彼らの頭は空っぽだ」と著者は言いたいようではあるが、明言を避けている!?]。彼らは忙しそうにそこいら中を走り回り、次の昇進を待ち続け、上司の言う事については批判をしようとはせず、上司の命令が如何に馬鹿らしくても命令には背かない。真剣に考え過ぎることなんて皆目ない。このようなシステムではいったい何が起こるのだろうか。大失敗が起こる。それが現実の姿である。

これこそが我々が実際に目にしていることだ。この一連の大失敗は低減されることはない。長い間、米国は軍事的には非常に弱い敵国ばかりを相手にしてきた。これらの軍事作戦では米国は破壊行為をすることには非常に有能であることを実証してくれたが、無数の民間人犠牲者を出し、イスラム国の誕生というまったく考えてもみなかった結果を招いた。それだけだ。

批判的に言うと、和平を勝ち取ることにはまったく不能であることが判明したのである。そもそも、軍事作戦の最終目標は如何なる場合であっても停戦を好条件で実現することにある。もしもこの目標が達成出来ないならば、その軍事作戦は無用の長物よりも遥かに性質が悪い。米国が侵攻した国、つまり、アフガニスタンやイラク、リビア、イエメン、シリアならびにウクライナ、等において米国は停戦を好条件で実現したことがあっただろうか?一度もない!

米国の国防関係者のお偉方はある特定の面においてのみ立派な勝者であることを示した。彼らは米国の一般大衆を征服し、彼らを従属させ、彼らからは多くの賛辞を受けている。しかし、軍組織は純粋な寄生虫である。何の有用な目標もない。米軍は解体すべきである。隣人に立ち向かうことに関して言えば、メキシコが軍事的に米国南西部のいくつかの州の奪還を決心した場合には、テキサス州兵がメキシコ連邦軍とよくつり合う対戦相手となることだろう。しかしながら、この奪還作戦は人口統計的な面において既成の事実として非常に巧妙に進行していることから、武力に訴える必要性はなさそうだ。一方、北部の国境地帯においては、カナダが軍事的に侵攻して来るという脅威は考えられないことから、国境を防護する必要はまったくない。

もちろん、米国が自発的に米軍を解体することについては代替案もある。つまり、それは聡明でコスト感覚の高い敵国の手によって大敗を喫することだ。これは屈辱的な軍事的敗北を意味する。しかしながら、この取り組み方は核戦争を招く危険性をはらんでいる。核爆発は自分たちの余命を著しく損なうかも知れないとの懸念を抱く米政府の高官らはこの自発的な対処については慎重に考えてみるべきであろう。

追記: 我々は誰もが「米軍を応援するべきである」と考えることから、多くの人たちは私が述べた批判や提案は「非愛国的」であると見なすことだろう。しかし、これらの批判や提案は兵卒たちとは何の関係もないことであるから、安心をして欲しい。彼らは巨額な調達の可否を決定するわけでもなく、自分たちの使命を選択するわけでもない。愛国心について言えば、国民のために奉仕し、国民を守ることこそが兵卒たちが遂行を誓う愛国的な職務であって、それ以外の何物でもない。もしもあなたが愛国者でありたいならば、あなたも国民に奉仕し、国民を守ることが可能だ。特に、兵卒たちをだ。(何故かと言うと、彼らも国民のひとりであるからだ。そのことを忘れないで欲しい。)彼らを無事に故国へ帰還させ、何か有用なことをする民間の仕事に就かせることによって、少なくとも世界に対して、あるいは、国家財政や環境、健康、名声、あるいは、安全保障に危害を及ぼすことがないようにしたいものである。


ドミトリー・オルロフのプロフィール: レニングラードに生まれ、1970年代に米国へ移住。著書としては、「Reinventing Collapse」、「Hold Your Applause!」および「Absolutely Positive」があり、非常に人気が高いブログwww.ClubOrlov.com を毎週発行している。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

この著者の書き物は読者をニヤッとさせることもあり、個々のテーマについて深く考えさせたりする。彼の記事を読むと、日頃は曖昧模糊としていた数多くの事象が結びついて来て、突然明快な全体像を見せてくれるから不思議だ。

「批判的に言うと、和平を勝ち取ることにはまったく不能であることが判明したのである。そもそも、軍事作戦の最終目標は如何なる場合であっても停戦を好条件で実現することにある。もしもこの目標が達成出来ないならば、その軍事作戦は無用の長物よりも遥かに性質が悪い・・・」という著者の指摘は実に興味深い。単純明快にして、実に見事だ。この明快な認識がこの著者に「米軍は解体すべきだ」と言わせているのだろう。他には答がない。
昨年、米国防省は報告書を発行した(2015 F-35 test report)。 今年の39日の記事 [2] によると、F-35は依然として大混乱の状態にあり、最大の問題は当初の性能が実現しそうもないという点である。しかも、開発費の予算超過だけではなく、予定のスケジュールよりも大きく遅延している。

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また、上記に引用した記事にはロシア海軍がカスピ海から巡航ミサイルを発射して、イランやイラクの上空を横切って、1500キロも離れたシリア国内のテロ集団の拠点を爆撃した事例が引用されている。

米国ではこのロシア海軍の成果は形勢を一変させるものであるとして受け止められている。何が驚きであったかと言うと、この長距離巡航ミサイルが非常に高精度であるという点だ。北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)の専門家はこれは米国にとっては脅威となる、と述べている。巡航ミサイルには2種類あって、最長攻撃距離は3000キロだという。カスピ海を拠点にした軍艦の場合、地中海やアラビア半島およびペルシャ湾をその射程距離圏内におさめることが可能となる。長距離爆撃機と巡航ミサイルとを組み合わせると、ロシア軍機はロシア領から外へ出ることもなく、米本土を爆撃することが可能となるのである。

もうひとつの驚きはこの巡航ミサイル攻撃に使われた艦艇は米国の常識から言えば非常に小さな艦艇であるという点だ。4艘の小型の艦艇で構成された艦隊が見事な成果をあげたのである。要するに、排水量が950トンそこそこのコルベット艦の製造コストは大幅に小さくなる。この種の概念は米国にも存在してはいたが、結局、陽の目を見ることはなかった。今回のロシア海軍の成果を見て、米海軍は自分たちの非力さ、あるいは、先見の明の無さについて恥じなければならないといった指摘も出ている。


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米空母が持つ脆弱性について再確認をしておこう。昨年の1014日に発行された記事 [3] の一部を下記に仮訳してみる(斜体で示す):

メキシコの日刊紙Le Jornadaのハリフェ・ラーメはモスクワ在住の政治分析の専門家であるロスティスラフ・イシチェンコの見解を引用して、次のように伝えた。先週カスピ小艦隊から発射されたカリブル・クラスのミサイルはワシントンの度肝を抜いたようだ。このロシア艦隊の行動によって、ロシアは米国が今まで誇示していた米海軍の優位性に終わりを告げることになった。

「私の主張は時期尚早だと言う人がいることだろう」とハリフェ・ラーメが自らコメントしている。「しかし、ロシアが巡航ミサイルを発射した2日後には米空母「セオドア・ルーズベルト」は突然ペルシャ湾を後にした。同空母はこの4月からペルシャ湾に配備されていたものである。多分、これは単なる偶然ではないと思う。」 

同空母の動きによって、上記の分析専門家は「これで、2007年以降で始めて、中東に配備された米空母は一艘も存在しないことになった」と述べている。

要するに、米空母「セオドア・ルーズベルト」はこのロシアの長距離巡航ミサイルの手が届かない場所へ退避したのである。インドネシア沖に退避したと報告されている。

余談になるが、別の著者が実に興味深い質問を投げかけている。出処をここに記述できなくて恐縮ではあるが、その内容が面白いので記憶を頼りにここに要旨をご紹介しておこうと思う。

カスピ海からの巡航ミサイル攻撃では第1回目の攻撃には26個のミサイルが発射された。一方、ペルシャ湾に展開していた米空母の名称として冠されているセオドア・ルーズベルトは26代目の米大統領である。この「26」という数字には何らかのメッセージが込めらていたのであろうか?それとも、単なる偶然だったのであろうか?


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昨年の710日、私は「対ロ戦において米海軍は何日持ちこたえられるか?」と題して投稿した。

あの投稿も空母の脆弱性を論じたものだ。インターネットを検索してみると、この種の情報は非常に限られており、ほとんど見当たらない。ご興味のある方は「芳ちゃんのブログ」を覗いていただきたい。

ハリウッド映画や米国のテレビ番組をみていると、白の制服を身にまとった格好のいい海軍士官たちが登場して来る。何千人もの空母乗組員がそれぞれの役割を担い、全体として国益を果たすという任務を遂行する姿が爽やかに描かれている。しかも、その軍事的な威力たるや抜群だ。向かうところ敵なしだ。そして、乗り組み員同志の友情や上司と部下の間の信頼感、等が描写される。

しかし、空母はすっかり時代遅れとなってしまったと言えそうだ。

当然なこととは言え、実際の姿はもっとおどろおどろしい側面や暗闇に包まれた部分もたくさんある筈だ。一部の良心的な提督が米議会で証言をしているように、現実はハリウッド映画に描かれているものとはまったく違うのである。言うまでもなく、この点は非常に重要だと思う。

米国民(ならびに、同盟国の市民たち)はいったい何時になったらハリウッド映画が描く格好のいい空母乗組員や戦闘機乗りたちにまつわる幻想から目覚めるのであろうか?つまり、一般市民を幻想に浸らせたままにしておくことに米国の産軍複合体の支配者集団はまんまと成功していたのである。少なくとも、最近までは・・・



参照:

1The Wrong Kind Of Victory: By Dmitry Orlov, Information Clearing House and ClubOrlov, Mar/19/2016

2The F-35 Joint Strike Fighter Is Still a Huge Mess: By Dan Grazier, WAR is BORING, Mar/09/2016, warisboring.com/.../the-f-35-joint-strike-fighter-is-still-a-huge-...

3Has Russia Now Demonstrated Its Ability to Challenge US Naval Supremacy?: By Opinion, Sputnik, Oct/14/2015, sputniknews.com/.../russian-caspian-sea-flotilla-us-naval-supre...






2016年3月24日木曜日

ロシアは依然として西側の同盟国となれるか



今年の11月には米大統領選の投票がある。米国の大統領選は共和党が勝っても、民主党が勝っても、その外交政策に大差はないと見る人が実に多い。「コカ・コーラとペプシ・コーラのどちらを選んでみても、飲み続けていると健康には有害だ」という皮肉な見方もある。

大統領候補の中では共和党のトランプ候補が異彩を放っている。彼は悪評がすこぶる多いが、ロシアのプーチンとは仲良くやっていけると公言している。彼以外の候補者は、ヒラリー・クリントンを始めとして、皆が金太郎飴のように決まって「反ロシア」色が明らかで、「ロシア嫌い」である。間違いなく、これは選挙資金の出処のせいであろう。自己資金が潤沢なトランプ候補の場合は、他の候補とは違って、莫大な選挙資金を供出する産軍複合体やウオールストリートの巨大銀行あるいは多国籍企業に媚びを売る必要はまったくない。彼は自分の所信を自由に表明することができる非常に貴重な存在となっている。

このような状況は、私の記憶では、今までの選挙では見られなかった。これは今年の米大統領選の最大の特色であると言えるのではないか。

最近の米国での世論調査では面白い結果が出ている。それは「プロパガンダにもかかわらず、ロシアを脅威であると見る米国人は少なくなりつつある」と題された224日の報道 [1]である。その一部分を下記に示してみよう:

若い世代はより多くの者がロシアに関して親近感を抱いている。ギャロップの世論調査によると、米国人のロシア観は2015年にはもっとも悪化したが、今年に入ってからやや改善しつつある。回答者の30パーセントはロシアに好意を感じており、65パーセントはロシアを脅威であると思っている。2015年には、ウクライナ情勢とかロシアが中東で米政府に対抗する行動に出たことから、ロシアについて好感を抱く米国人はたったの24パーセントだった。若い世代になるほどロシアに好感を抱いている。18歳から29歳の年齢層は43パーセントがロシアについて積極的な評価をしている。一方、55歳以上の年齢層は冷戦時代には敵国であったロシアを今も否定的に受け止めており、好意を抱いているのは21パーセントでしかない。

米ロ間の親愛の度合いはセルゲイ・ラブロフ外相とジョン・ケリー国務長官との間の会談の回数が非常に多いことや個人的な親密感だけでは決まらない。その裾野には産業界があり、メガバンクがあり、シンクタンク群、マスコミ、そして、遥か末端には一般大衆が控えている。彼らこそが米ロ間の将来、ならびに全世界の明日の運命を握っているとも言えよう。最悪の場合、米ロ間の関係がうまく機能しないと地球規模の核戦争に発展する可能性があるのだ。

米国人はロシアをどう思っているのか、そして、ロシア人は米国をどう思っているのかは実に重要な指標である。

最近、米ロ間の愛憎劇を論じる興味深い論評 [2] に出遭った。「ロシアは依然として西側の同盟国となれるか」という表題である。これは世論調査とは違い、軍事分析に従事していたことがある専門家が表明した個人的な見解である。この著者が提示する議論は多くの場合一味も二味も違う。

本日はこれを仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>

この記事はウンズ・レビューに掲載された。http://www.unz.com/tsaker/could-russia-still-become-an-ally-of-the-west/

ドナルド・トランプ大統領候補がロシアを同盟国にしたいと論じているのを聞いて、私はそれは今でも可能なんだろうかと疑問に思った。結局のところ、「西側」(この言葉はここでは西側のすべての政治家を意味するものとする)はソ連邦の崩壊以降ずっと嘘を言い続けて来た。西側はロシアに対して嘘をついていたばかりではなく(たとえば、NATOは東方へは拡大しないという約束)、西側はロシアの背中を刺した。つまり、もっとも性質の悪いロシアの敵であるチェチン国内のワッハービ派やウクライナのナチ勢力を全面的に手助けしたのである。西側は巨大な空軍力を組織して、歴史的にはロシアの盟友であり同じ正教に属するセルビアを不法にも爆撃した。爆撃はクロアチアでも、ボスニアでも、そして、コソボでも続けられた。さらには、モンテネグロやセルビア本国も爆撃された。国連安保理の決議に直接違反して、西側は不法に、かつ、残虐にカダフィ政権を倒し、リビアを瓦礫の山にしてしまった(そして、イラクもだ!)。同じような成果をシリアにおいても再度実現しようとしている。ウクライナの場合は、ウクロナチ [訳注:この著者の造語。ウクライナ+ナチを意味する] がドンバス地方の街をあらゆる武器(化学兵器、弾道ミサイル、重火器、多連装ロケット発射装置、クラスター爆弾、爆撃機、等)を使って攻撃をした際にも、西側は支援を続けた。そして、経済制裁を課した。この経済制裁はそういった非人道的な攻撃を行っているキエフ政権に対してではなく、何とロシアに対して課したのである!ウクロナチがオデッサで100人を超す民間人を焼き殺した時にさえも、西側は再び彼らを完璧に支援した。ソチでのオリンピックが開催される前、西側は「ホモ・ロビー」を解き放った。「プシー・ライオッター」はロシアがあたかもサウジアラビアに良く似た社会であるかのように描写しようとした(実際に、所謂「必要不可欠な国家」の盟友であるサウジアラビアでは現実に起こっている事柄に関して批判めいた言葉を口に出すことさえもできない)。トルコがロシアの爆撃機を待ち伏せし(ロシアは、両国間の協定に基づいて、米国に対してこれらの軍用機の飛行経路等のすべての情報を事前に知らせていた)撃墜した際、西側はこの事件に関しては何も言わなかった。さらには、エジプトのアルカエダの一派がロシアの旅客機を撃墜した際もだ。狂気じみたロシア恐怖症の最近の現れとしては、ケリー米国務長官の主導の下で西側は二人のロシア人ジャーナリストを殺害したナチ暗殺集団のメンバー、ナジェジダ・サフチェンコを釈放するようロシアに対して要求をしている。もっとも大きな驚きは、ロシアはその当事国ではないにもかかわらず、ケリーはロシアがサフチェンコを裁判にかけることは「ミンスク―2の合意」の下での彼女の義務を侵犯することになると主張している。もとより、ミンスク―2の合意はサフチェンコの件についてとやかく言及する筋合いは毛頭ないのだが。もしも悪魔が米国またはヨーロッパの何処かに現れることを決心し、ロシアと戦うことを宣言したならば、西側はその悪魔を全面的に支援し、資金を提供し、訓練を行い、その非公式な国家を承認することであろう。

これらの事柄のすべてを考慮すると、ロシアでは西側に対する悪感情が沸騰点に達しており、ロシアが西側の同盟国に帰り咲くことなんてあり得ないと誰もが思うのではないか。

しかし、上記のような判断は大きな間違いだと私は思う。

大多数のロシア人は嫌悪感をもって西側を見ていることは事実である。しかし、彼らはクレムリンの執務室に座っているわけではない。ロシアの意思決定者はまず第一に現実主義者である。彼らはひだ飾りがたくさんついた感情とか傷ついた感情は政治を定義する要件からは実に程遠いということを十分にわきまえている。さらには、彼らが西側に関して如何なる感情を抱いていようとも、ロシアの指導者は西側との抗争においてはロシアは依然として弱者の立場にあることから、西側とは何らかの良好な関係を維持していくことが非常に望ましいということをよく理解している。私はここで「非常に望ましい」と言ったが、このことをご記憶願いたい。「必要だ」とか「不可欠だ」と言っているわけではない。ロシアは、もしそれが必要だとするならば、長く続く「暖かい戦争」 [訳注: 冷戦と熱核戦争との中間に位置する戦争を指している] を遂行する準備はできている。しかし、それがロシアのためにいいのだとは決して言えない。事実、ロシア外交の中核的な原則はラブロフ外相やプーチン大統領によって過去に何回となく表明されている。その原則は「我々は敵を中立化させ、中立国をパートナーにし、パートナー国を友人にし、友人を同盟国に転換する必要がある」というものだ。アングロ・ザイオニスト [訳注: 著者の造語であって、英米・イスラエル連合を指す] の立ち位置と比較をしてみるまでは、これは自明の理だと思うかも知れない。アングロ・ザイオ二ストの立ち位置を要約すると、それは「世界中を自分たちの奴隷にする」ことだ

ここで自問自答していただきたい。「ロシア人はいったいどのようにして敵国を中立化させるのか?」と。そのような成果を導くには西側の誰かに働きかけ、何らかの政治勢力に働きかけ、西側を正しい方向に導くしかないと私は考える。もしもロシア人がすべての人たちを「敵」のカテゴリーにひとくくりにしてしまうならば、自分たちの目標を達成することはとてもできそうにはない。ロシアがしなければならないことはロシアと何らかの協力をすることに興味を抱いている人物や政治勢力を探し出すことである。そして、できる限り幅広い協力を実現することが望ましい。そのようなわけで、ヨーロッパの右翼政党(たとえば、フランスの政党、ナショナル・フロント)とはある種の関係がすでに樹立されている。

さてと、西側の政治家や政治集団はいったい誰がロシアとの協力に興味を示すのだろうか? 一般に、ロシア恐怖症に陥っている西側においてはこの仕事はとてつもなく大きな責任を伴うことになる。協力に反対する連中はそれは「弱さ」の兆候であるとか、「裏切り」だとして非難するのではないか。一番大切なことは、そういった政治家や政治集団に対してロシアはいったい何を提供しなければならないのかという点だ。 

ひとつづつ考えてみよう: 

まず、西側のロシア恐怖症について私は大袈裟に取り扱おうとは思わない。我々がエリートたちについて喋る場合は、大袈裟に喋ってもいい。一般的に、彼らはロシア恐怖症に感染しており、重症状態にあるからだ。しかし、一般市民の場合はどうだろうか?その傾向は遥かに少ないと思う。ロシア恐怖症を示す人たちはロシアを恐怖の念を持って眺めるようメディアによって洗脳されているからである。それは表面的な感情であって、常識や利己心によって押し戻すことができる。ロシアとの協力について反対する連中はこれを非難するだろうか?もちろん、彼らは非難するだろう。この攻勢が成功するか、あるいは、失敗に終わるかはそういった協力の成果に依存する。したがって、もっとも重要な点はロシアはいったい何を提供しなければならないかである。

実際には、たくさんある: 

何よりもまず、反ロシア的ではない政治家あるいは政党が西側の何処かの国で政権を取ったと想定してみよう。ロシアは彼または彼女には「最恵国」待遇を与えることが可能だ。これは何を意味するかと言うと、交渉の場においてロシアはその人物あるいは政党が政治的に立派な成果を挙げることに貢献するという重要な役割を担うことになる。分かり易い例を挙げると、トランプが米国の大統領となり、シリアだけではなくイラクにおいてもイスラム国のテロリストを一掃するためにロシアに連携を提案して来た場合だ。私が言いたいのは次の点だ。ロシアにはトランプにこの目標を「伝える」という重大な役割がある。何と言っても、これは米国内の反ロシア勢力を沈黙させる上では最強の策となるからだ。もうひとつの例も挙げておこう。EU圏のある国の指導者がEUのお偉方とは袂を別って、ロシアに対する経済制裁を一方的に解除すると決断した場合だ。その時点で、ロシアはこのような動きに対しては恩恵を施すことに熱心になるに違いない。このような国に対しては利益をたっぷりと見込めそうな優先契約を数多く締結することになるだろう。

逆説的かも知れないが、そのような筋書きからもっとも多くの利益を得ると思われる国のひとつはトルコだ。もちろん、これはエルドアン大統領が君臨するトルコのことではない。クレムリンは、サーカシビリに関して対処したのと同様に、エルドアンについても非常に効果的に対処して来た。エルドアンの将来は、控えめに言っても、今やわびしい限りである。ここで、トルコ軍がエルドアンを放り出すことを決断し、その直後モスクワに「我々を支援してくれ。我々も貴国を支援する」という短いメッセ―ジが送られて来た場合を想定してみよう。エルドアンが失脚した後のトルコに対してロシアは何をすることができるかを考えてみて欲しい:

まずもっとも大事なことはアンカラ政府とクルド人社会との間で真面目な仲介役を買って出ることだ。これは北アイルランドで米国が担った役割とよく似ている。ロシアはシリアやイラクおよびイランを「引き込んで」来ることも可能であろうし、数多くのクルド人勢力と「総括的な取引」を推進することができるだろう。

ロシアはトルコ経済を促進させることができる。トルコが利益の大きいロシア経済(建設、農業、観光の分野)に参入して来ることを許してやるだけではなく、ロシア国内に限らずロシア国外(南米やアジア)においても一連の協力関係を促進することができる。少なくとも、ロシアは「旅行業の扉」を再度開いてあげることが可能であって、これは人手を借りずに観光業を一気に推進させることが可能だ。両国の間には12回もの戦争があったことを歴史が教えているとは言え、可能性としてはアンカラ・モスクワ間の連携は両国にとってはもっとも有益なものとなろう。

目下、エルドアンはまったくひどい状況にある。サウジや米国と言えども誰も彼を助けることはできない。彼が権力の座にある間は、ロシアは完全に彼を無視し続けるだろう。とは言え、ロシア人は決して馬鹿ではない。ロシア人はトルコが敵国であることを十分にわきまえており、その一方、ロシア人にとって必要なことはトルコを少なくとも信頼の置けるパートナーに転換することである。この血なまぐさい混乱状態を何とか修復するに当たっては、これこそがプーチンは、エルドアンを除いては、誰とでも一緒に取り組もうとする理由である。

西側は、今、北極海から太平洋に至るまで、まさにあらゆる場所でロシアと「対抗」しようとしている。しかし、いったい誰がそのような状況を必要としているのかと疑問に感じる程だ。ロシアと一緒に仕事をすればどれだけ有益であるかが分かっている今、これは膨大な資源のロスを招くことになろう。ロシアに対する現行の「気の抜けたような戦争」を続ける理由はアングロ・ザイオニスト帝国がその野心から「一人残らず我々の奴隷にしてやる」ことをトップからの命令として動いていることを考慮すると、この現状はなおさらグロテスクに見えてくる。これはプーチンがいみじくも言わんとしたことである。米国はロシアに屈辱を与えようとしているのではないかとの質問に答えて、プーチンはこう言った「米国は我々に屈辱を与えようとしているとあなたは言うが、これはそうではない。彼らは我々に屈辱を与えたいのではなく、我々を支配下に置こうとしているのだ。彼らは自分たちの問題を解決するのに我々にその費用を払わせようとしている。我々を彼らの影響圏に入れようとしている。ロシアの歴史を見ると、そのようなことは誰も成功しなかったし、今後も成功する者なんていない。」 地球上のあらゆる国を隷属させようとするこの狂気のような執着心は、相互信頼に基礎を置いて協力し合うことにはまったく無能であることを示す現状と相俟って、ロシアと米国は両国の間に熱核戦争が勃発する一歩手前にまで迫ってしまった。これは純粋にイデオロギー上の問題であって、現実には如何なる目的とも絡んではいないのである。

トランプの話を聞いていると、明らかに、米国にはこのような誇大妄想をまったく苦にしない人たちや持続性のない「世界にとって不可欠な国家」の名の下で同国家を犠牲にすることについてではなく、物事 [訳注: つまり、軍事行動?] をやり遂げることに興味を抱いている人たちが結構いるのだと感じとることができる。ヨーロッパの人たちはアングロ・ザイオニストによる支配を受け入れている。しかし、この協力関係はあくまでも難民が大挙してやって来るようなことはなく、犯罪や飢餓が起こらない場合だけに限定される。すでに、サルコジやベルルスコーニといった大物の政治家たちは他の主流の政治家たちとは袂を別っており、ますます多くの市民が「気の抜けたような戦争」を遂行し、ロシアとの抗争に明け暮れすることが果たして妥当なのだろうかとの疑念を抱いている。特に、キエフにおけるナチによるクーデターを支援し続けることについてはなおさら懐疑的だ。

この「現実を認識する」プロセスはさらに加速していく可能性があると私は思っている。故ケネディ大統領はかってタキトスを引用してこう言った。「勝利の戦いには100人もの父親がいるが、敗戦は孤児だ。」 ウクライナやシリアにおいて、あるいは、それ以外の何処でもそうであるのだが、成功裏にロシアと対峙することに失敗すると、その失敗については「父親であることを拒む人たち」が続出し、もっと容易に成功を約束するロシアとの協力政策に走ることになるだろう。

[補足: それが実際に起こったとしたら、私はバルチック諸国や中欧の国々を歓喜の念を持って眺めようと思う次第だ。これらの国々は自分たちはロシアと対峙する西側にとっては非常に大事な存在であって、西側の魅力的な「同盟国」なんだと自己陶酔に陥っていた。しかし、現実には西側もロシアも彼らを歯牙にもかけようとはしない。]

米国の大統領選がどのような結果を見せようとも、「プ-チンやロシアと一緒に仕事をしたい とするトランプの言葉は、他の候補者と比べると、非常に大きな競争力を彼にもたらしている。彼は端的にこう言った。「いったい何のために問題を引き起こしたいのか?!」 もちろん、彼はどう見ても正しいと思う。

歴史的にはロシアの西側との関係は「困難なもの」であった。ソ連邦はそれが存続したほとんどの期間にわたってさまざまな経済制裁を受けていたことを皆さんは多分ご存知だろうと思う。しかし、1917年以前の帝政ロシア時代においても間違った前提条件に基づいて何十年間にもわたってさまざまな制裁を受けていたという事実はご存知だろうか?実際には、1242年の教皇グレゴリウス9世の所謂「北方十字軍」以降、西側はイデオロギー上のもっともらしい理屈 (ローマ・カトリック教、革命的フリーメイソン組織、ナチズム、資本主義)に則ってロシアを支配下に治めようとして来た。しかし、これらの理屈には必然性はなく、抗争を永遠に継続する客観的な理由は何もなかった。西側の指導者が神に導かれた「文明の旗手」であると自認し、地球上のすべての人々を「キリスト教」に改宗させるのだと自分自身を信じ込ませることが出来る限り、必然的に抗争へと発展して行ったのである。しかし、今や、西側は「西欧文明」と称していたものを崩壊させてしまった。それはまるで寄生虫が宿主を食い殺すような状況だ。その一方、ロシアや中国といった国々は、何世紀にもわたって初めてのことではあるが、従属的な立場から解放されようとしている。しかし、これは長く危険な道のりであり、その兆しはすでに観察されている。この兆しを読み取ることができる西側の賢者たちや例外主義を破棄する勇気を持つ人々はこの機会を自分たちの強みとして活用することだろう。ロシア人に関して言えば、彼らは帝国に従属することはきっぱりと拒み、新しいパートナーの出現を待つことになるだろう。たとえ非常に長く待たされることになるとはしても・・・ 

セイカ―

<引用終了>


これで引用記事の全文を仮訳した。非常に面白い内容である。日頃、ロシアについては大手のメディアが扱う情報は非常に限られており、しかも偏向することが多いという現実からも、私には非常に興味深く思えた。この記事の冒頭で著者はロシアに対する嫌がらせ、攻勢の数々を列記した。この部分を読むと、西側の攻勢はこんなにも多くのことが行われていたのか、と今さら気付かされる。

私はウクライナ紛争やシリア内戦に関して無数の記事を漁ってきたが、この記事を読んで、この著者のように情報を分析することは決してなかったことに気が付いた。出来事だけを追っかけていた。その背後にあるもの、あるいは、将来何が起こるかについては分析をしようともしなかった。もちろん、私は職業的にも知的にもそのような訓練を受けてはいない。この著者は自分が持っている専門的な能力や知識を駆使してこれらの記事を書いている。これこそがこの著者(セイカー)の持つ非常に稀な価値であると思う。

私がもっとも秀逸だと思ったのは今や、西側は「西欧文明」と称していたものを崩壊させてしまった。それはまるで寄生虫が宿主を食い殺すような状況だというくだりだ。著者はこのプロセスが今進行していると指摘している。鋭い見解だと思う。

米国の経済は軍需産業がその牽引役を務めている。伝統的な製造業はとうに海外へ四散してしまった。今や米国経済の半分は軍需産業とそれに関連する経済活動やサービス業によって占められているという。つまり、常に最大級の浪費をすることになる戦争が何処かで進行していないと米国は好景気にはならないし、生半可な国際情勢では米経済は回らないのである。そのことを実証するかのごとく、20数年前に米ソ間の冷戦が終結後、しばらくの間(911同時多発テロが起こるまでの約10年間)、米国の軍需産業は大きな売り上げの低下に悩まされたという。

2001911日にニューヨークで起こった同時多発テロ事件は、自作自演であったとする見方が根強く残っている。結局のところ、あれは米経済を回復させるための起爆剤だったのではないか?要するに、米国の経済を繁栄させ続けるには大規模な戦争が次から次へと起こることが必要であって、すべてがそのマニュアルに沿って実践されてきたのである。

日本の政治に目を向けると、上記に見るような米国に追従するだけでは日本の将来はないことは明白だ。米国への追従は緩慢な自殺行為に等しい。進路変更をせずにいると、日本もまた米国と共に宿主を食い殺そうとする寄生虫の餌食になってしまう。冷静な観察眼が今ほど求められている時はないのではないか。


参照:

1Despite Propaganda, Fewer Americans See Russia as a Threat: By Bradford Richardson, Russia Insider, Feb/24/2016

2Could Russia still become an ally of the West?: By Saker, Mar/11/2016, www.unz.com/.../could-russia-still-become-an-ally-of-the-west...