2017年1月30日月曜日

ドイツのメディアの行き過ぎた親米路線



ウド・ウルフコッテというドイツのジャーナリストが113日に心臓麻痺で亡くなった。56歳だった。

このジャーナリストはドイツでは良く知られた存在だ。ドイツにおけるジャーナリストの買収の実態に関して内部告発をしたからである。買収に関与したのは米国のCIAやNATOならびにドイツの諜報機関である。

さっそく、最近の記事 [1] を仮訳をして、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

ウド・ウルフコッテからの強力なメッセージ - 「ドイツの政治家は米国の操り人形」であり、ドイツのジャーナリストは米国に好都合な記事を書くよう求められている。

これはウド・ウルフコッテの言葉だ。2014117日、オリエンタル・リビューおよびグローバル・リサーチに掲載された。

グロ-バル・リサーチ(GR)の編集者による注記: この記事はオリエンタル・リビューおよびGRによって201411月に始めて掲載された。

ジャーナリストでありドイツの政治学者でもあったウド・ウルフコッテ博士が亡くなった。同氏はフェークニュース(捏造記事)が如何に主流メディアを蝕んでいるかを暴露していた。 

メディアにおける真実を追求しようとしたウルフコッテ氏の大儀に対する断固とした献身は彼が残したレガシーと並んで後世の記憶に残ることだろう。(ミシェル・チョソドウフスキー、2017115日)

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「今や米国人はウクライナの原発を爆破することさえも企て、その犯人は分離主義者あるいはロシア人であると主張する積りだ」と、ドイツのジャーナリストで、同国では最大の新聞のひとつであるフランクフルター・アレゲマイネ紙の記者を務めたことのあるウド・ウルフコッテが主張している。 

彼は一冊の本を出版した。その表題はGekaufte Journalisten (「買収されたジャーナリストたち」)。彼は米国およびドイツの政治家らが如何にドイツのメディアを偏向させているかを報告した。ドイツのジャーナリストは世界の出来事に関して米国に都合のよい歪曲を施している。

記者たちはまず第一に米国に都合のよい記事を書き、反ロシアの記事を書くよう求められている、とウルフコッテは主張する。こういった事が如何にして起こるのか、このような主張を公開した後の彼自身の生活が今辿っている経路についてウド・ウルフコッテは喋ってくれた。

Q: ウルフコッテさん、親米路線の記事を書いてたくさんのお金を貰ったとあなたは言いましたよね。親米路線のジャーナリストはドイツではどれ程稼ぐんですか?

ウド・ウルフコッテ(UU: 私は現金は受け取ってはいません。貰ったのは贈呈品です。金時計や潜水用具、旅行の際には五つ星のホテルに泊まるとか・・・ どこかの時点で休暇用の別荘を外国で購入することさえもが可能になったドイツのジャーナリストを私は何人も知っていますよ。しかし、現金や贈呈品よりももっと重要なことは親米路線、あるいは、NATOに好意的な記事を書くことによってあなたには支援の手が差し伸べられるという事実です。もしもそういった記事を書かなければ、あなたの将来のキャリアは何も期待できません。オフィスの片隅に座って、編集者宛ての手紙を分類している自分の姿を発見するのが落ちでしょう。



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Q: あなたが喋っている内容によりますと、費用の全額を先方持ちで米国への旅行に招待され、ジャーナリストが秘密裏に買収されています。しかし、真面目なジャーナリストはそんな僅かの報酬のために自分を売り渡すでしょうか? 

UU: 米国へ何度も何度も旅行して、米国での滞在費用をまったく支払う必要がなく、米国の政治家に対するインタビューをお膳立てして貰っているとしたら、あなたは権力者のサークルに一歩も二歩も近づいていることに間違いありません。あなたはエリート・サークルの中に留まっていたいと思うことでしょう。こうして、あなたは彼らを喜ばすような記事を書くようになるのです。誰でもが有名な政治家に特別なアクセスをすることが出来るセレブリティー・ジャーナリストになりたいのですよ。しかし、一言でも言い間違えると、セレブリティー・ジャーナリストとしてのあなたのキャリアーは終わりです。誰でも、そのことを知っています。

Q: あなたは今になってどうしてドイツのジャーナリズムに関してご自分の意見を公開しようと決心したんですか?

UU: 私は心臓麻痺を三回も経験していますし、私には扶養しなければならない子供もいません。毎日のようにニュースで米国人を見ています。彼らはまたもや新たな戦争の準備をしています。今度はウクライナにおけるロシアとの戦争です。どんな能天気な者であってもMH17便の撃墜事件後に米国が行った一方的な反ロシアのプロパガンダに気が付かなかった人はいないでしょう。今や、米国人はウクライナの原発を爆破し、犯人は分離主義者かロシア人のどちらかだと主張しようと企んでいます。私はそういった話をしょっちゅう聞いています。実に不道徳です!

Q: ドイツは「バナナ共和国」だとあなたは主張していますよね。でも、それは誇張し過ぎではありませんか?結局、ドイツには野党がありますし、中には急進的な動きもあります。そして、メディアは政府に対して批判的です。たとえば、Die Anstalt という最近のテレビ番組では酷く歪曲して報道を行っているドイツのメデイアが痛烈に批判され、波紋を引き起こしました。

UU: ドイツのメデイアに対する批判、つまり、さまざまな出来事を親米的に報道することに対する批判を通じて、ジャーナリストらはあの放送では風刺を活用していましたが、あれが終わってから苦情が提出されて、彼らは裁判所へ出頭することになりました。この出来事はドイツがバナナ共和国であることを示す完璧な証拠です。つまり、偏向した報道を批判する際に風刺を活用することさえも出来ないのですから。我が国では外見上の報道の自由があるだけです。まったく酷い状況です。

Q: ドイツ各紙が十把ひとからげにして「ロシア支持者」と称されている政治家(シュレーダーやギジ、ヴァーゲンクネヒト、他)や親ロ派ジャーナリストに対する攻撃についてはどうお考えですか?

UU: これらの「ロシア支持者」は高い教育を受けた、非常に率直な人たちです。私は政治的には彼らと協調してはいませんが、そう評価したいです。彼らの高潔さには敬意を表します。彼らが集中攻撃を受けているという事実はドイツがバナナ共和国であることを示す典型的な状況です。ドイツでは主流の意見から逸脱しますと、こっぴどく抑圧されます。

Q: ドイツは1988年の3月、当時は西側の同盟国であったイラクのサダム・フセインがイランとの国境付近にあるクルド人の都市でドイツ製の化学兵器を使って虐殺を行ったという事実を隠蔽しているとあなたは言いましたよね。今でさえも、反政府派の新聞をさえも含め、そのことについては一紙も報道してはいないって本当なんでしょうか? 

UU: いいえ、そうではありません。そのことは報道されていますが、報道をするまでにまるまる1年もかかったのです!米国人の目の前でドイツ製の化学兵器を使って毒殺されたイラン人を私は撮影しましたが、そういった写真は一般に公開されることはありませんでした。当時、イラク人やドイツ人および米国人はイランに対する「最終的な」勝利を祝っていました。バグダッドでは皆が協調して地域住民を化学兵器で殺害したという事実を祝っており、残虐そのものでした。私は毒ガスで痛めつけられました。後には癌を患いました。私は現場で起こったことを何でも記録に残しました。そうした記録が国際的な批判を引き起こしてくれるだろうと期待したのです。しかし、誰も出版してはくれなかったのです。その代わり、誰もが自分たちの勝利を祝っていました。 今でさえも私は自問自答しています。ドイツの首相がイスラエルへ出かけ、ユダヤ人を虐殺したことに関して許しを乞うことがどうして問題ではないのだろうか?ドイツ製の化学兵器を使って虐殺されたイラン人は二等市民であるとでも言うのだろうか?テヘランでドイツの首相がそのことに関して謝罪しているのを聞いたことがありますか?ドイツの政治家は米国の操り人形に過ぎないという事実を目にしているわけです。ワシントン政府に言われた通りに彼らは従順に動かなければならないのです。われわれは米国の植民地のままです。バナナ共和国であって、自由な国家ではありません。



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Q: あなたの話によりますと、あなたは諜報機関からリビアに関する情報を貰い、ご自分の署名の下でその情報を出版しましたよね。そして、あれはCIAやドイツ連邦情報局(BND)からの仕事だったとあなたは言っています。もしも、その情報が興味深い内容であって、真実であったとすれば、ご自分の関心事とも上手く噛み合うんではないでしょうか?結局のところ、あなたはその情報を出版することは拒否することも可能でした・・・

UU: はい、その通りです。私は「ノー」と言えた筈です。ADAC、つまり、全ドイツ自動車クラブはヘリコプター救援サービスの職員をBNDのために秘密裏に協力させようとしましたが、彼は拒否。この従業員は間もなくADAC から追い出され、彼は裁判所へ不服を訴えました。しかしながら、裁判官の判断としては一従業員がBNDのために働くことを拒否することはできないとして、抵抗することによって職を失ってもそれは問題ではないとの判断を示しました。分かりますか?私が言っていることが理解出来ますか?私は失職したくはなかったのです。

Q: あなたは諜報機関によってご自分の家を6回も捜索されたと言っていますよね。もしもあなたが諜報機関が望んでいる記事を出版していたとしたら、どうして彼らはあなたの家を捜索する必要があったんでしょうか?あるいは、それとは反対に、もしもあなたが諜報機関が隠ぺいしようとしている情報を独自に究明していたとしたら、あなたは独立したジャーナリストとして仕事をしているのであって、「非公式にCIAのエージェント」として働いていることにはなりませんよね?

UU: それは翻訳上の間違いです。家宅捜索を命じたのは諜報機関ではなくて、国の秘密警察でした。ナチが当時ゲシュタポと呼んでいた組織は現在は国家保安局と称されています。彼らは私が国家機密を暴露するかも知れないという想定の下で6回も家宅捜索をしたのです。この種の脅しをかけるのはバナナ共和国では典型的なやり口です。

Q: この本を出版するとあなたご自身に問題が派生するかも知れないとおっしゃいましたよね。たとえば、それはどんな問題ですか?

UU: フランクフルター・アレゲマイネ紙は文書で私に刑事、民事、労働関連法の違反、ならびに、ジャーナリズム界における企業基準に違反したことにより裁判所へ訴えると私に伝えてきました。それだけでも私を潰してしまうことが可能でした。私がまたしても「国家機密」をばらしたとして私を刑務所へ送り込みたい連中が何人もいたと聞いています。多分、エドワード・スノーデンのように私もモスクワへ飛んで、亡命の請願をするべきかも知れません。ドイツのバナナ共和国の指導者たちがどのように反応するか、しばらく様子を見ることにしましょう。彼らは譲歩していますし、彼らが我が国で出版の自由の外観を如何に取り繕ってるかに関して、あるいは、ドイツにおける民主主義は単なる幻想に過ぎないということについては、誰もが私の良く売れている本で読むことができるからです。

ロシア語による原典: VZ.RU
翻訳: オリエンタル・リビュー
本稿の原典はOriental Review and Global Research

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

この記事の原典はVZ.RU、つまり、Russia Beyond The Headlinesに掲載されたOriental Reviewの記事(ロシア語、20141024日)である。オリエンタル・レビューはモスクワに本拠を置いた独立系のインターネット誌。そして、グローバル・リサーチはカナダのモントリオールに本拠を置く独立系代替メディアである。

ドイツにも上記のような非常に根本的な政治的課題が潜んでいるとは知らなかった。米国は実際には民主主義国家ではないとプリンストン大学の研究者らによって指摘されてすでに久しい [2]。研究者らによると、米国の政治はいわゆる民主主義から少数独裁政治へと徐々に変身してきた。今や、米国の政治は大部分の有権者の意思とは関係なく、ほんの一握りの政治家や経済エリートらによってすべてが決断されているのである。

上記の引用記事を読んでみると、EU圏の経済をけん引するドイツも、意外なほどに、同類項であることが分かる。

それでは、いったい日本はどうなのか?私の個人的な理解によれば、日本も外観的には民主主義国家を装ってはいるが、その実状は実に寒々としたものでしかない。たとえば、出版の自由や表現の自由を取り上げてみると、ドイツ以上に抑圧されているのではないかと思う。具体的な例を挙げれば、情報公開法に基づいて行政文書の開示を請求した場合、全面が真っ黒に塗りつぶされた文書が官庁から提供されたりする。

 
 
Photo-3: TPP文書開示真っ黒 政府の姿勢を民進が批判」 (出典:東京新聞201646日 朝


このように真っ黒に塗りつぶされた文書を一般に提示して情報公開を行っている国はとても民主主義国家であるとは言えない。これは情報公開制度を悪用しているばかりではなく、ここには透明性を高めようとする行政側の努力が、残念ながら、まったく見られない。こうした行政側の対応には唖然とさせられる。ウド・ウルフコッテの言葉を借りて言えば、バナナ共和国の典型的な特徴を示していると言えよう。


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そして、米大統領選は昨年の118日に投票が行われた。その結果、伝統的な経済エリートや大企業、銀行、大手メディアが支持していたクリントン候補は破れ、現行のオバマ大統領の政策を否定するトランプ大統領が予想に反して勝利を手にした。トランプ新大統領の勝因はその支持者が西部や東部の都市部からの住民ではなく、伝統的な産業が退廃し職場を失った中部諸州の白人系の労働者階級であると言われている。大袈裟に言えば、オバマ大統領までの米国政府は経済エリートや大企業によって支えられて来たが、トランプ新大統領は持たざる者たちによって支えられているのだ。これは革命的な変化である。新トランプ政権は大統領選でのライバルであった民主党からだけではなく、与党の共和党内部にも反対者がいると報道されている。逆風の中をトランプ政権は今後どのように舵を切って行くのか、また、同政権は選挙公約をどれだけ実現するのかが全世界の注目の的となる。

それと並んで、2017年はヨーロッパも大きな大統領選を控えている。フランスとドイツにおける選挙である。果たしてヨーロッパの選挙民が覚醒するのか、覚醒するとしたらどの程度の規模となるのかに関心が集まる。トランプ政権は選挙運動中には国内経済を最優先したいと言っていることからも、ヨーロッパが米国による支配から脱却するには今や最適な環境が訪れようとしている。ヨーロッパが抱える中東からの難民問題やEU圏の経済不振はロシアとの和解が無くしては問題の解決には至りそうもなく、これらの問題を解決できないでいると、EUの崩壊さえも招きかねない。

今後の動きに注目して行きたい。



参照:

1Udo Ulfkotte’s Powerful Message: “German Politicians are US Puppets”. German Journalists are Urged to Bias their Writings in Favor of the US: By Udo Ulfkotte, Global Research, Jan/15/2017

2Princeton Study: U.S. No Longer An Actual Democracy: By Brendan James, TPM Livewire, Apr/18/2014



 

2017年1月22日日曜日

米国は実際には日本をどう見ているのか - 「屈服した敵国」としてか、それとも、「同盟国」としてか



この投稿の表題はわれわれ日本人にとっては非常に気にかかる。

この問い掛けに対する答えは三通りありそうだ。

敵国、同盟国、あるいは、中立・・・ そして、それらの三通りの答とは別に、そういった色分けをすること自体をできるだけ避けたい気持ちもある。何しろ、すべては相対的な価値観によって支配され、その種の議論は感情論に陥りやすい政治の世界の話であるからだ。さらには、さまざまな言い分はいくつかのサブグループに再分類することも可能であろう。世論をふたつに、あるいは、三つに分断してしまう可能性がある。

そういった状況を承知の上で、本日はひとつの見解 [1] をご紹介しておきたいと思う。

結局のところ、現在の日本が置かれている国際政治環境においては、この設問はわれわれ日本人にとっては避けては通れないし、かなり気になる事柄でもある。したがって、この問い掛けを直視する必要がある。少なくとも、私にはそう思える。


<引用開始>
Photo-1: © REUTERS/ Kevin Lamarque

日本の安倍晋三首相が真珠湾の戦艦アリゾナ記念館を訪問したことを受けて、日本は米国の同盟国であるとするさまざまな主張があるけれども、現実を見ると「米国は日本を屈服した敵国として扱っている」と、ロシアの政治学者であるイーゴル・プシェニチ二コフはスプートニク・ニュースに説明した。

12月末、日本の安倍晋三首相がホノルルへやって来て、真珠湾の戦艦アリゾナ記念館を訪問した。何人かの彼の前任者たちがかって訪問したことはあるが、1941年に日本軍が真珠湾を奇襲し、その結果、米国が第二次世界大戦に参戦することになった歴史的にも有名なこの地を日本の現役の首相が訪問するのは初めてのことである。


Photo-2: 日本の安倍晋三首相がホノルルのパンチボールに所在する国立太平洋記念墓地にて献花。20161226日。© AFP 2016/ STR / JAPAN POOL VIA JIJI PRESS

日本の安倍晋三首相は、20161226日、米国ハワイのホノルル、パンチボールにある国立太平洋記念墓地において献花した。

この訪問は先に米国のオバマ大統領が米国の現職大統領としては始めて原爆投下の被災地を訪問したことに対する答礼である。

スプートニク・ニュースはロシア戦略問題研究所(Russian Institute for Strategic Studies)所長の顧問役を務めるイーゴル・プシェニチニコフをインタビューし、これら二国が如何にして第二次世界大戦の遺産について折り合いを付けるべきかについて論じ合った。

「当時、疑いもなく日本に大成功をもたらした真珠湾の奇襲に米国は大きなショックを受けた」と、彼は言う。



Photo-3: © AFP 2016/ TOSHIFUMI KITAMURA. 2016527日、バラク・オバマ米大統領が阿部晋三首相と共に広島の平和記念公園の慰霊碑に献花。オバマ大統領は、昨年の527日、原爆犠牲者に向けて世界でも初の感動的な言葉を捧げた。

彼はさらに続けた。ソ連による前代未聞の努力によって、ならびに、ソ連が受けた甚大な被害を通じて均衡は崩れ、ヒトラーに対抗する同盟国の側に有利な展開となって行った。

その後、米国は真珠湾で自分たちが受けた屈辱を報復したのだ、と彼は言う。

すでに日本の軍部は疲弊し、ほとんど完敗の状況に追い込まれており、降伏するまで余すところ何日かとなっていた。したがって、広島や長崎へ原爆を投下することには戦略的な必然性は何もなかった。

しかしながら、この政治学者が言うには、原爆の投下はワシントン政府にとっては倫理的な課題ではなかった。つまり、真珠湾は原爆を使用するための道義的な言い訳となったのである。原爆の使用は長期的な目的を追求するのには絶好で、米国側にとっては最適の条件下で日本に対する勝利を実現したのである。

ワシントン政府が手にした恩恵は歴史が証明している。つまり、それはアジア・太平洋地域における軍事的優位性である。1945年の日本の降伏後、米国は日本へ数多くの部隊を配備して、同地域を軍事的に強化した。



Photo-4: 日本の安倍晋三首相 © REUTERS/ Toru Hanai. 日本の首相が1941年の真珠湾の奇襲によって生じた死者に対して哀悼の意を表した。

こうして、米国は日本を冷戦の真っただ中にあるソ連邦と対峙する橋頭保とした。そして、ソ連邦の崩壊後でさえも、米国はこの地域での軍事的存在を継続している、とプシェニチニコフは言う。 

彼によると、日本に配置されている米軍基地の数は現在94カ所あって [訳注: 米軍基地の総数は報告者によって異なる。つまり、米軍専用の施設だけを数えるのか、それとも、日米共同使用の施設も数えるのか、さらには、自衛隊の施設を米軍が一時的に使用することができる施設も含めて数えるのかによって総数は大きく異なる。注意が必要だ]、アジア・太平洋地域では最大規模となっている。「日米相互協力および安全保障条約」はペンタゴンが必要とする米軍部隊や武器を米国の裁量で配置することができるようにあらゆる権利を米国に与えている。

日本に配備されている米国の軍隊は日本を防衛するためのものであるという主張は純粋なフィクションである、と彼は言う。現実には、日本に駐留する米国の軍隊はすべてがロシアに対抗するものであって、それ故に、反撃するにはロシアは報復処置を取らざるを得ない。日本は米国の不平等なパートナーである。 

<引用終了>


ソ連邦はゴルバチョフ大統領が辞任したことによって、19911225日に崩壊した。あれから満25年が過ぎた。ソ連邦時代の共産主義が政治的イデオロギーとして国際的に拡大することを防ぐための橋頭保としての役割を担ってきた日米安全保障条約は冷戦の終結後も温存され、現在に至っている。

上記の引用記事の最後の文章は「日本に駐留する米国の軍隊はすべてがロシアに対抗するものであって、それ故に、反撃するにはロシアは報復処置を取らざるを得ない。日本は米国の不平等なパートナーである」と言っているが、これは何を言おうとしているのだろうか?

「不平等なパートナー」とは「軍事的に不平等なパートナー」という意味であろう。米ロ戦争が起こった場合、ロシアが報復せざるを得ない相手は西太平洋では日本と韓国だ。米国の本土は何千キロも離れている。この地理的な条件が軍事的には日本と米国との間に非常に大きな非対称性を生み出している。それ故、ロシアを相手にした場合、日米両国はお互いに軍事的にはとても平等にはなり得ないのだ。

この記事を読んで明らかに理解することができることは米ロ戦争が起こった暁には日本国内の米軍基地は当然ロシアからの報復の対象となる。それが核弾頭なのか、通常兵器なのかはここでは問題ではなく、ロシア側が行う反撃の戦略としては日本国内の米軍基地は疑いもなく報復攻撃の対象となるのだ。94カ所の基地のすべてが対象なのか、その一部だけが対象となるのかは素人の私には分からない。大量の米軍戦闘機が配備されている三沢、横田、厚木、岩国や嘉手納の基地、ならびに、海軍基地である横須賀や佐世保は真っ先に報復を受けることだろう。さらには、司令部やレーダー施設、燃料・弾薬の貯蔵施設の所在地も同様だろう。

また、このロシアの政治学者の見解によると、米国は日本を「屈服した敵国」として位置付け、対等な「同盟国」として扱っては来なかった、と言う。

そう言われてみると、たとえば、沖縄の米軍基地周辺で起こるさまざまな暴力事件に対する米国側の対応には、歴史が教えているように、対等な同盟国間に求められる真摯な態度はまったく見られない。その不平等さは目を覆うばかりだ。同じような事件が何度となく繰り返して起こっているのに、対応策は変わらず、基本的な構造は変わらない。これらの状況を見ると、この政治学者の結論は容易に理解することが可能だ。

次に、一国の指導者のレベルでは日米間で何が起こっているのだろうか?

昨年の12月末、安倍首相は真珠湾を訪れ、戦艦アリゾナ記念館で米兵の犠牲者のために献花した。これは、昨年、オバマ大統領が広島で原爆投下の犠牲者に献花したことと並んで、日米間の和解を象徴するものだとして広く受け止められている。また、阿部首相はハワイでクリスマス休暇を送っていたオバマ大統領とも会談した。安倍首相は日本の国民に向けては日米間の同盟の強化を喧伝している。

しかし、日米間の外交の深層はどうかというと、綺麗ごとだけでは終わらない。月刊誌「エルネオス」1月号の巻頭リポート「パワーポリティクスの2017年、外交で躓いた安倍首相の正念場」には興味深い記述が見られる。この記事は、一言で言えば、安倍首相はクリスマス休暇でハワイに滞在していた「オバマ大統領に呼びつけられて」ハワイを訪問したのだとして、日米間の政治の現実を暴露している。

安倍首相は近いうちにホワイトハウスから去って行くオバマ大統領自身のレガシー作りの一翼を担わされたのである。残念ながら、日米二国間に対等な外交姿勢は見られない。

この見方が真実であるとすれば、やっぱり、米国にとっては日本の安倍首相は「屈服した敵国」の首相でしかないのだと言えよう。


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ここで、一点だけ付け加えておきたいことがある。

中国のある高官はこう言った。「尖閣諸島をめぐって日中間で武力衝突が起こり、米軍が参戦した場合、中国が報復する対象は日本の米軍基地だ」と。

ロシアと中国とが日本を叩くために口裏を合わせたのであろうか。これは、多分、そういった次元の低い話ではない。すべては日米間の安全保障条約の存在がそう言わせているのだと考えられる。

太平洋戦争で完璧な敗戦を経験し「不戦」を誓った筈の日本で軍備が拡張され、米軍と一緒になって地球の裏側にまで自衛隊を送り込もうとする政治的環境や法律による裏付けが日本で着々と進められている。まるで悪夢を見ているようだ。「日本はこうするんだ」、「日本はこうしたいんだ」という日本独自の選択肢は日米同盟の存在によって歪められ、狭められている。具体的な例を挙げるまでもなく、米国は自国の利益のためには他国の主権や尊厳にはお構いなしだ。

やはり、米国にとっては日本は「屈服した敵国」でしかないのだろう。

しかし、米国が今や世界における覇権を失っていく過程にあるとはいえ、「従順」を基調とした対米政策しか持とうとはしない日本は米国にとっては貴重な存在であろう。戦闘機だ、イージス艦だ、対空ミサイルだと言って、日本は超高価な米国製の武器をあれこれと買わされる。しかも、その機能たるや実際には不完全なものも多く、日本側には無駄遣いとなってしまう。そして、日本は莫大な額となる米軍の駐留経費の一部までも支払っている。

国際政治に対してはコントロールをする術を持たないわれわれ一般庶民はせめて最悪の事態(つまり、米ロ戦争)が起こらないようにと祈るだけである。



参照:

1: How the US Really Views Japan Prostrate Enemy or Ally?By Sputnik, Jan/05/2017,https://sputniknews.com/world/201701051049294503-us-japan-asia-pacific/