2017年2月28日火曜日

リベラル派よ、気を付けたまえ。犬と戯れていると、蚤にたかられるぞ! - ニューヨークタイムズに対する批判



昨年11月の米大統領選に向けて大統領候補者間では熾烈な情報戦争が展開された。別の言い方をすれば、「フェークニュース」あるいは「偽ニュース」が大量に作り出され、毎日のようにメディアを賑わした。

そして、新大統領がホワイトハウスで執務を始めて1ヶ月を越した今でさえも、その余韻は続いている。弱まる気配は見られない。

ニューヨークタイムズは「米国を記録する」新聞として自他ともに認められた存在である。しかしながら、今となっては「そういう存在であった」と言った方がより正確であろうか。

事実を記録するだけではなく、彼らは世論を誘導し、選挙民を洗脳し、政権の背後で隠然たる影響力を持っている支配層の目標を達成するためには自社の豊富な人的資源を投入することにやぶさかではない。多くの場合、一人一人の記者や編集者は善良で、高学歴で、旺盛な知識欲をもった人たちであることには疑いの余地はなかろう。しかしながら、たとえ個々の記事ではそれが目立たなくても、多くの記事が集積され、ニューヨークタイムズ紙全体としてある特定の事柄に関して一般読者に示す見解が「白だ」、あるいは、「黒だ」と主張した場合、米メディア界全体を代表する同紙の社会に対する責任は格段に大きなものとなる。

具体的に言えば、ニューヨークタイムズは誰かの発言を引用する際はそれが誰の発言であるかを明記するべきである、とトランプ大統領は最近の演説で求めている [1]。そうしなかったからこそ、つまり、無責任な報道姿勢が糾弾されなかったからこそ、フェークニュースの乱造を促す結果となったのだと言えるのではないか。

記事で引用されている内容がその証拠や情報源を適切に示さずに特定の政治的主張を掲載した場合、それはもう犯罪行為すれすれの領域にあると言えよう。

主要メディアを巡る最近のフェークニュースの状況はわれわれ素人さえをも「こんなことで、いいのだろうか?」と思わせる程である。最近、こうした懸念をうまく整理してくれている記事 [2] に出遭った。

「リベラル派よ、気を付けたまえ - 犬と戯れていると、蚤にたかられるぞ!」との表題が付けられている。この表題は、今日、米メディアではフェークニュースを流す代表的な存在となってしまったニューヨークタイムズに対する忠告の言葉だ。あるいは、すっかり変質してしまった同紙に対する別れの挨拶であろうか。

われわれ一般庶民はメディアの倫理観の欠如に関しては冷徹な判断を下す必要がある。そして、もうひとつの現実は主要メディアが信用出来なくなったのは米国だけではない。ヨーロッパも日本も、大なり小なり、まったく同じ状況にあるのだ。

そういう意味合いからも、この投稿が個々人の判断のために何らかの助けになってくれれば幸いである。

本日はこの記事 [2] を仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>

ニューヨークタイムズは現在同紙としてはもっとも野心的なプロジェクトを進めている。現職の大統領を追い出そうとしているのだ。事実、同紙のコラムニストであるニコラス・クリストフは「どうしたらトランプを追い出すことができるか」と題した記事の中で多くこのとを喋っている。

率直に言って、その議論自体はかなり魅力的だ。何故かと言えば、移民や環境、人権、市民的自由、規制緩和、等に関するトランプ大統領の見解はすべてにわたって劣悪で、この国を破滅させるかも知れないと私には思えるからだ。しかし、タイムズの思惑は私の考えとはまったく異なる。タイムズがトランプを追い出したい最大の理由はトランプ新大統領がロシアとの関係を正常化しようとしている点にある。トランプの構想は米国が中央アジアにおいてその覇権を奥深くにまで浸透させようとするワシントンの意図を妨害することになるからだ。

モスクワとの関係を正常化しようとするトランプ大統領の決断は、米国が中国の成長を制御し、プーチン政権を崩壊させ、中央アジア全域に米軍基地を拡張し、通商条約を推進し、西側が所有する多国籍企業の優勢な役割を確保しようとする中、原油輸送ラインや高速鉄道網の拡大によって裕福なEU とアジアとを結び付け、ヨーロッパとアジアの両大陸が互いに親近感を増し、世界が今までに見たこともないような、世界でももっとも広大でもっとも多くの人口を擁する自由貿易圏を作り出すことになる。これは中国とロシアの野心を阻止しようとする路線にとっては大きな脅威である。

これこそが米国の国際政策の指導層やタイムズが何としてでも回避しようとしていることなのだ。世界的な規模で権力を行使するワシントンの覇権を堅持するためには、アジアとヨーロッパの経済的統合は何としてでも妨害しなければならない。それがすべてだ。

みんな、決して騙されないで欲しい。トランプの急進的な政策によって犠牲となる移民の家族については、タイムズは米国がリビアやシリアで進めている戦争を逃れようとして国を捨てた3百万人もの難民の家族が体験した辛苦に対して気に掛けた以上の行動をとりそうにはない。

タイムズはこの大規模な国外への脱出が米国政府の絶え間のない侵略によって引き起こされた結果であるとしてではなく、何らかの自然災害の結果であると見なそうとしている。このような事実はタイムズが偏見のない、公正な情報源であると評価することはもはや不可能であることを示している。同紙は政治的な意見を持ったエリートたちの見解を反映した政治的な物語を巧みに描き上げる政治的出版物である。これらエリートの戦略的目標はより多くの市民を洗脳し、より多くの抑圧を加え、より多くの戦争をしない限りはとても達成できないのである。

タイムズの記事をしばらく吟味してみよう。これはトランプ政権がロシアの諜報関係者との接触を持ったとする報道によって最近大騒ぎを引き起こした件だ。議会では数多くの議員たちがこの記事を取り上げ、メディアはトランプがモスクワ政府との結託を図ったことを示す格好の証拠であると主張した。下記に同記事の一部を引用してみる: 

「電話の交信記録や盗聴された通話内容から判断すると、ドナルド・トランプの2016年大統領選での選挙運動のメンバーやトランプを取り巻く側近らは選挙前にロシア諜報機関の高官と何度も連絡をとっていたことを示している。これは4人の現職や元職員の発言である。

米国の法の執行部門や諜報機関は通話を盗聴したが、それだけではなく、ロシアが民主党全国委員会のコンピュータに不法侵入し、大統領戦を妨害しようとしている証拠を見つけた、と3人の職員が言っている。さらには、諜報機関はトランプの選挙運動員が選挙戦に影響力を示すためにロシアと共謀して不法侵入したかどうかを吟味することにした。」 (ニューヨークタイムズの記事の表題:「トランプの選挙運動員は繰り返してロシア諜報機関と接触」) [訳注:この記事は214日に出版されたもの。] 

この先を読む理由はない。この記事全体がまったく同一の基本的形態を示しているからだ。つまり、この記事はトランプ陣営がヒラリー候補を妨害するためにロシアと組んだという印象を形成しようとしたものだ。不幸なことには、タイムズは「交信記録や盗聴された通話内容はFBIが収集した膨大な情報の一部である」とする証拠が存在することは確認していないのだ。さらには、(もちろん、マイケル・フリンの例を除けば)トランプ陣営の誰かがロシア側と連絡をとったという証拠はなく、ましてや、大統領選を妨害するために協力をしたという証拠は何もない。全然裏付けがないのだ。

いったい今何が起こっているのだろうか?タイムズはどうして大統領を弾劾するような記事(これによって、メディアや議会ならびに諸外国の批判者らによるトランプに対する攻勢は先鋭化した)を流したのだろうか?しかも、自分たちの主張が正しいことを示す証拠は何も示さずにだ。同記事の中で引用されている諜報機関の人物は誰も名乗り出ては来ないし(通常、主張の内容がこれ程に重要なものであるならば、誰かが名乗りをあげて然るべきである)、タイムズが自ら認めているように「FBIはコメントを控えている」。 

つまり、彼らは証拠を持ってはいないのだ。そうだろう?

この記事の真の意図は少しでも多くの疑惑を植え付けることにあると誰だって断定することができる。トランプ大統領に少しでも多くの害を与えるためだ。しかしながら、具体論は抜きにしてだ。つまり、過ちを犯したという印象を築き上げるためのものではあるが、それを証拠立てるものは何も示さないままだ。そして、その意図に関してはニューヨークタイムズはまんまと成功したようだ。むしろ、実に見事なキャンペーンだったとも言えよう。

(ところで、フォックスニュースの日曜日の朝のインタビューでホワイトハウスのラインス・プリーバス首席補佐官は諜報機関のトップはトランプの側近とロシアとの間には共謀はなかったと彼に伝えて来たと述べている [訳注: これはインタビューの翌日、220日に報道された]。 プリーバスはこう言ったのだ。諜報部門の「高官ら」は彼に「ニューヨークタイムズの例の記事は完璧なゴミである。率直に言って、連中はこれとは違う文言を用いただけのことだ」と彼に言った。

当然のことながら、フォックスニュースのホスト役を務めるクリス・ウレスはプリ―バスにその情報源を公開するように求めた。しかし、彼はそれには応えなかった。)

ここで、タイムズの記事についてさらにおさらいをしておこう:

「ここで言うところの盗聴された通話というのはトランプ政権のマイケル・フリン前国家安全保障担当補佐官とセルゲイ・I・キスリク駐米ロシア大使との間で昨年交わされた会話とは別のものだ。フリンは月曜日の夜辞職願を提出するはめに陥ったが、これを促した例の盗聴された通話では、二人の当人はオバマ大統領がロシアに対してこの12月に課した制裁に関して話をした。」 

これはさらなる歪曲だ。この時点まででフリンの会話に関してわれわれが知っていることと言えば、この新たに課された制裁についてはトランプの就任後にトランプ政権が「吟味する」と述べたことがすべてであった。フリンが何か非合法的なことを仕出かしたとか、ローガン法に抵触する行為があったという証拠は何もない。皆無だ。メディアはこの出来事を利用して、不法行為が行われていたと言わんばかりに報道したのである。しかし、不法行為の証拠は何も示さないままだ。われわれが知る限りでは、フリンは自分に課せられた業務を遂行していただけである。

もっと興味深い点は次期大統領のトランプは多分この制裁を引き継ぐことはないだろうと知りながら、(トランプが選出された後の)12月末になって、オバマはロシアに対して新たな制裁を課したことである。

みんな、いささか不思議だと思わないかい? 特別な思惑は何もないならば、オバマがホワイトハウスを去る直前になってこのような非常に礼節を欠いた行動をとったのはいったい何故だろうか?オバマはロシアとの友好的な関係を築く上で牽引役となる人物(フリン)を排除するための罠を仕掛けたのではないだろうか?

私には分からないけれども、現状は非常に不可思議だ。まず、トランプ次期大統領が制裁には反対するであろうことを知りながらも、オバマは12月末になって追加制裁を課したのである。

二番目には、オバマはロシアが制裁に関してフリンと話し合うことになることを知っていた。そうじゃないかい? 

まったくその通りだ。つまり、あれはフリンを罠に仕掛けるためにオバマが設定したものだ。

恐らくは「その通り」だろうし、「そうではない」かも知れない。断言することは難しい。しかし、われわれが知っていることは何かと言えば、大統領府を去る17日前にオバマが大統領令を発し、「世界中で盗聴された個人的な通話情報を、個人情報には保護を加えることもなく、政府内の他の16の諜報機関と共有することができる」ようにNSA の権限を拡張したのである。(NYT)

いったいどうしてこれが問題となるのか?

フリンはすでにロシア大使と話をした後であったから、それが問題となったのだ。もしもこの情報を非合法的に収集した諜報機関が告訴されるような事態を回避したいならば、訴訟を回避する最良の方法は他の諜報機関にもその情報を拡散して、当事者である諜報機関のみの責任を追及することを極端に難しくしてしまうことだ。もっと簡単に言えば、彼らは予防的な措置を取って、殺人に使用された武器から血染めの指紋を拭い取ろうとしたのだ。

本件について「ゼロ・ヘッジ」のサイトを調べておこう: 「市民権の専門家であり、米憲法修正第1項に関する最高裁での著名な弁護士でもあるジェイ・セクローによると、諜報機関がトランプ政権の情報をリークしたことは非合法的であるばかりではなく、武力を介さないクーデターにさえも匹敵する。」 これはオバマがオフィスを去る直前に行った規則変更によって拍車が掛けられた。オバマはリークされた情報が拡散することを意図的に可能にし、リークに関与した連中を捕まえることは殆んど不可能にしてしまったのである。

彼の説明はこうだ: 

NSAでは大きな変化があった。大統領府を離れる17日前、オバマ大統領はひとつの命令を発した。従来はNSAがデータをコントロールしていたが、この大統領令によって16部署もある他の諜報機関もデータを共有することを許し、情報リーク全体の状況はいっそう悪化することとなったが、これはまさに大統領がオフィスを去ろうとしている途上で起こったのである。

もしもそれが非常に大事な事であったとするならば、オバマ政権はどうしてこの大統領令を下すのを政権の余命がたった17日になるまで待っていたのであろうか?彼らには8年もの歳月があったのに、そうはしなかった。これが第1番目。第2番目には、この大統領令は既存のルールを変えた。既存のルールはロナルド・リーガン政権によって発せられた大統領令であり、オバマ大統領が大統領府を離れる17日前まで有効であった。それによると、NSA が生のデータを収集し、個々の情報の拡散についてはNSAが判断するものとされていた。

それに代わって、オバマ大統領によって導入された今回の変更は20161215日にジェームズ・クラッパー米国家情報長官により署名され、201713日にはロレッタ・リンチ検事総長によって署名された。今や16の情報機関が生データを取得することができるように決断したのだ。そして、これによって可能となったことは「陰の政府」の樹立である。これらの連中はトランプ大統領の地位を認めようとはしない輩であることから、情報のリークはさらに悪化するばかりとなるだろう。

もしもこの変更を正当化することができるならば、それは結構なことだ。でも、8年前、あるいは4年前、あるいは、3年前にどうしてこの変更を行わなかったのだろうか。彼らは、大統領府を去る17日前まで待ったのである。」

可能性のある答のひとつはこうだ。彼らは「動かぬ証拠」を持っていることを知っており、たとえ情報の拡散が明白な犯罪的結果を招くことになるとしても、その情報を「リーク」させることを容易にすることにしたのである。(「ジェイ・セクローはこう言った。トランプに対して「武力を伴わないクーデター」を起こしたオバマの責任を追及するべきである。ゼロ・ヘッジから。)

これは非常に大きな物語となり、思いがけない展開となったが、私が独自に実証することができるような代物ではない。それに加えて、私をたいそう懸念させることのひとつは民主党支持者や個々の目標に動機を持つメディア、ディープ・ステイトの役割を演じる省庁、厳然たる力を持っている外交政策の指導者、進歩派、等の連携が新たに生まれるだろうという点である [訳注: この「ディープ・ステイト」という言葉の定義については、グレン・グリーンワルドは「正確な、あるいは、科学的な定義は存在しないけれども、一般的には永久的な権力を掌握しているワシントンの省庁を指す」と説明している]

グレン・グリーンワルドは自分の懸念を「インターセプト」への最近の投稿の中で完璧に纏めてくれた。彼はこう述べている: 

「私はトランプ政権は非常に危険だと何げなく思うことがある・・・。彼らは環境関連規制を撤廃したいと思っている。安全ネットを撤廃しようと思っている。超富豪たちに権力を与えようと思っている。イスラム教徒や移民に対する頑固一徹な政策を法律化したいと思っている。他にもたくさんの事項がある。そして、そういった政策に対して抵抗することは大切なことだ。・・・(しかし)一方ではCIAやディープ・ステイト、他方ではトランプ政権があるけれども、もしも両者ともが、実は私もそう思うのだが、非常に危険だとお思いならば、これら両者の間には非常に大きな違いが存在することに留意しておきたい。つまり、トランプは民主的な手続きによって選出されており、民主的なコントロールを受ける・・・。その一方、CIAの場合、彼らは選挙民によって選出されているわけではいない。彼らが民主的なコントロールを受けることはまったくない。したがって、CIAと諜報機関に権力を与え、選挙で選ばれた政府を台無しにしようとするなんてまさに狂気の沙汰だ。これは民主主義を防護すると言いながら、実際には民主主義を破壊する処方箋となるだろう。」  (“Greenwald: Empowering the “Deep State” to Undermine Trump is Prescription for Destroying Democracy“, Democracy Now)

別の言葉を借りて言えば、「犬と戯れていると、蚤にたかられるぞ!」

左派の連中はトランプを排除するという自分たちの短期的な目標を達成するためにこれらのグループや省庁と結託し、最終的に(ジョージ・オーウェルが描いた未来小説)「1984年」の実質的に警察国家である社会に近づけるようなことをしてはならない。ディープ・ステイトに対する場違いな支援は権力の座にある治安国家の締め付け役を演ずる連中に権力を与えるだけとなるだろう。それは決して勝利への道ではない。それは破滅への道である。

著者のプロフィール: マイク・ウィットニーはワシントン州に在住。彼はHopeless: Barack Obama and the Politics of Illusion (AK Press)に寄稿している。 HopelessKindle editionでも入手できる。彼はfergiewhitney@msn.comにてコンタクトが可能。

注: この記事に表明された見解は著者のものであって、必ずしもInformation Clearing Houseの見解を反映するものではありません。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

「諜報機関がトランプ政権の情報をリークしたことは非合法的であるばかりではなく、武力を介さないクーデターにさえも匹敵する」という。市民権の専門家であり、米憲法修正第1項に関する最高裁での著名な弁護士でもあるジェイ・セクローのこの言葉は秀逸だ。米国の政治が大揺れに揺れている理由はこの辺にあるということがこの引用記事で分かった。

また、オバマ大統領がオフィスを去る17日前に発した大統領令の意味は「影の政府」を築き上げる環境を整えるものであるとする見方は、米国の民主主義の根幹を揺るがすような歴史的な出来事であることを示している。

個人的な印象ではあるが、米国の政治は完全に生活習慣病に陥っている。この引用記事は病める米国政治の実態を明確に描写していると思う。

その病状のひとつとして、政府の機密情報を非合法的にリークしながら、当事者を訴訟沙汰から解放するためにはオバマ大統領から大統領令を発して貰い、リークに関与した張本人を特定しにくい状況を作り出した・・・という解説は実に秀逸だ。われわれ素人にはとても読み取れない複雑な内容である。

軍産複合体は自分たちの金銭的な利益を確保するためには思いつくことは何でも実行する。そして、その責任は必ずしも追及されず、野放しのままとなる。かっては順調に機能していた議会制民主主義が、今や、長年の好ましくない生活習慣の結果、機能しなくなってしまったのだ。米資本主義を推進して来た政治は今やそういう段階にあると言えよう。 



参照:

1‘Fake news, military budget, trade deals’: Trump speaks at CPAC: By RT, Feb/24/2017,  https://on.rt.com/8422

2Liberals Beware: Lie Down With Dogs, Get Up With Fleas: By Mike Whitney, “Counterpunch” – “Information Clearing House”, Feb/23/2017

  




2017年2月21日火曜日

米国の指導層は核戦争を選択したのだろうか?



「ネオコン派や米国を背後から操る指導者らはトランプ大統領を去勢してしまった。みんな、これですべてはお終いだよ!」と題した衝撃的な記事が米ロ間の政治や安全保障の分析で定評が高いThe Sakerのブログに掲載された [1]

何が終わったのかと言うと、これはトランプ大統領が選挙運動中に約束していた公約が反故になったという意味だ。トランプ政権の安全保障担当補佐官として登用されていたマイケル・フリン少将がネオコン派や主流メディアの攻撃にあってついに辞表を提出し、トランプ大統領が彼の辞表を受理したのだ。当面、ジョセフ・キース・ケロッグ退役陸軍中将が補佐官代行の任につくという。

このThe Sakerのブログによると、フリン国家安全保障担当大統領補佐官の更迭によって、トランプ大統領の外交政策上の中核であった「ロシアとは仲良くやって行きたい」という非常に基本的な路線はその方向性を見失ったのである。すべてはネオコンの好戦的な筋書きに逆戻りする可能性が高い。

これらは214日の報道である。

ネオコンの筋書きはロシアを米国の脅威と見なすことによって、さらには、ロシアをNATO軍の仮想敵と位置付けることによって米政府の天文学的な軍事予算を正当化し、武器や弾薬を大量に消費させ、軍需産業の繁栄を何とか継続させることにある。そうすることによってのみ、米国の陸・海・空の数多くの将官らは退役した後の天下り先をたくさん確保することが可能となるのだ。そして、政治家たちは見返りとして軍産複合体の団体や企業から豊富な選挙運動資金を入手する。この癒着構造には衰える気配がない。

こうした一連の動きは米ロ対決路線への逆戻りを可能にし、トランプ大統領が約束していた選挙公約を反故にしてしまうだろう。好むと好まざるとにかかわらず、その延長線上には米ロ核大国間の戦争が再び浮上して来る。

実は、こうした予見は今回の国家安全保障担当のフリン大統領補佐官が辞表を提出する前からくすぶっていた。上記の記事 [1] は次のように述べている(斜体で示す)。

「本日、クレムリンではこの出来事を祝う人は誰もいない。プーチン大統領、ラブロフ外相、および、その他の政府高官らは今回起こったことの意味を正確に理解している。それはあたかも2003年の大統領選 [訳注: 大統領選は2003年ではなく、2004年だった] でホドルコフスキーがプーチンを破ることに成功したかのようなものだ。事実、私はロシアの批評家たちに敬意を表したい。すでに数週間も前から彼らはトランプを(ウクライナの)ヤヌコビッチに喩えていた。ヤヌコビッチも選挙民の大多数によって選出されてはいたのだが、彼は自分に対する「色の革命」を阻止する決意を実現することには失敗した。もしも、トランプが新たなヤヌコビッチであるとするならば、米国は次のウクライナに相当するのであろうか?」

また、ネオコンの政策が再登場するかも知れないことを受けて、ポール・クレイグ・ロバ―ツは最近の記事 [2] に「米国の指導層は核戦争を選択したのだろうか?」という不気味な表題を付けている。

本日はこの記事 [2] を仮訳して、読者の皆さんと共有してみたい。


<引用開始>

もしもあなたが米国のテレビやプレスティチュートと呼ばれる西側の主要メディアの対談番組でその司会役を務めたいと望むならば、まずは、あなたはビル・オライリーやCNNMSNBC、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、ウオールストリートジャーナル、等のように無能で、知性を疑われるような人物となる必要がある。

ドナルド・トランプ大統領との対談で、オライリー [訳注:1949年生まれ。FOXニュースのニュース番組「ジ・オライリー・ファクター」の司会者] は次のように言った。「プーチンは殺人者だ」と。

オライリーは熱核戦争が一度起これば地球上の生命を死滅に追いやるという事実にはまったく無関心である。オライリーにとっては、トランプ大統領が願望する対ロ関係の正常化が進められると、米国の大統領は殺人者たちと取引を行わなければならないことを意味する。これはあたかも最近の三代の米国大統領は他国を完膚なきまでに、あるいは、部分的に破壊したことや何百万もの無辜の市民を殺害したことには決して関与してはいなかったとでも言いたいかのようである。

オライリーの文言に対してトランプ大統領からの反撃があった。「我々の側には数多くの殺人者がいる。あんたはいったいどう思っているんだね?米国は比べようもない程に無実であるとでも思っているのかね?」

トランプ大統領の反撃の言葉にはひとつだけ間違いがあった。それはプーチンはオバマやジョージ・W・ブッシュならびにビル・クリントンとは変わりがないと暗黙のうちに認めているようなものであるからだ。しかしながら、プーチンが「殺人者」であるという証拠はまったくない。この非難は資金や権限が自分たちに向かってとどこおりなく流れて来ることを堅持するために「ロシアの脅威」を主張し続けている連中が唱える文言そのものである。

フィニアン・カニンガムが示してくれているように、新大統領がこれから正常な関係を構築しようと願っている一国の大統領に対して証拠もなく、外交的な配慮に欠けた非難をしたとしてトランプ大統領はオライリーを叱責するべきであった。http://www.strategic-culture.org/news/2017/02/06/trump-apology-for-killer-putin-wrongheaded.html

明白な事実であるにもかかわらず、トランプ大統領の主張に対しては議会の共和党員やヒラリー大統領候補を推していた民主党員、自由主義者、進歩派、左翼、および、西側のプレスティチュート、等によって「殺人者の擁護」というレッテルが貼られた。

たとえば、politico.comというオンラインのサイトでさえもが、「ウラジミール・プーチンの殺人歴に対するドナルド・トランプによる擁護」という文言を批判している。アフガニスタンやイラク、ソマリア、リビア、イエメン、パキスタンおよびシリアにおけるイスラム教徒に対して、さらには、イスラム圏以外ではユーゴスラビアやウクライナのロシア語地域の住民に対して、ワシントン政府は過去24年間方々で大量殺人を行った来た。その後の言葉としてはまさに驚きに値すると述べているのである。ワシントン政府は人類の歴史においては大量殺人を行った最悪の政府のひとつとしたランクされるが、西側のプレスティチュート各紙はプーチンに対して大量殺人者としてのレッテルを貼っている。

ここで、ワシントンにおいて米国民を代表する議員たちの言葉を聞いてみよう: 

上院多数派のリーダーであるミッチ・マッコネル(共和党、ケンタッキー州)は3回も選出されているロシアの大統領を指して「彼は悪党だ」と言った。マッコネルは過去15年間ワシントン政府が関与してきた市民の殺戮を支持して来た。そして、この大量殺人への加担者は、ワシントン政府による何百万人もの殺戮の結果、西側諸国の至る所へもたらされた無数の難民は米国を非難するのに十分な証拠にはならないと言った。トランプの発言に対する反論として、実際に、マッコネルは「われわれはロシア人が振る舞うようには振る舞わない。米国人全員が理解することができるような違いが歴然として存在すると思う。私はその違いをそのような仕方で特徴付けようとはしなかった」とも述べている。http://www.politico.com/story/2017/02/republicans-denounce-trumps-defense-of-killer-putin-234665

フロリダ選出のマルコ・ルビオ共和党上院議員は「我々はプーチンとは同じではない」と言った。もちろん、われわれは同じではない。われわれの方こそが大量虐殺者なのだ。

ネブラスカ州選出のベン・サース共和党上院議員は「プーチンは政治的に反対意見を持った敵だ。米国は政治的な反対意見を祝福し、暴力に遭遇することなく、何処でも[カリフォルニアのバークレイのように]、どんな考えについてさえも市民が論争する権利を称賛する。世界の歴史を見ても自由をもっとも愛する米国と自分の身内を擁護するプーチンの下にある悪党共との間には道徳的に等価なものは何もない」と言ったが、これはもう無知以外の何物でもなく、米国人にさえも理解することが困難だ。 [訳注: 彼の発言を読んでみると、論理が支離滅裂だ!]

ウオールストリートジャーナルのブレット・スティーブンスは「トランプは米国をプーチンが率いるロシアの道徳と同レベルに置いた。大統領自身が自国をこのように中傷するとは歴史的にはなかった」と言った。

ブレット、そうじゃないよ!君はまったく逆に受け取っている。確かに、米国の大統領はロシアをこのように中傷したことなんてないんだ。ワシントン政府とモスクワ政府との間には道徳的に等価なものなんて何もない。ワシントン政府には道徳のかけらさえもない。でも、ロシアはそうではない。過去15年間にわたって少なくとも9ヵ国で殺人を犯し、人々を不具にし、故郷から移動させ、難民を西側各国へ送り出したのは(米国であって、)ロシアではない。そうした難民の中の何人かは当然恨みを抱いても不思議ではない。

トランプの副大統領を務めるマイク・ペンスは、急遽、NBC テレビでトランプ大統領は米国が道徳的にプーチンのロシアよりも優れているわけではないと言いたかったわけではないと注釈した。もちろん、米国は道徳的には誰よりも優れているのだ。何百万人もの市民を殺害し、故郷から追い出していることこそがわれわれの道徳的優位性に疑問の余地を感じさせない証拠だ。我々が結婚式や結婚式に参列して殺害された人たちの葬式、あるいは、子供たちのサッカーの試合や数知れない病院や医療センター、学校、農場、公共輸送機関、等を爆撃した時、例外的な存在で、かつ、必要不可欠な存在であるわれわれ米国人は全世界に対して決まってわれわれの道徳的優越性を行動で示して来た。道徳的に優位な者だけがその責任を問われることもなく人間性に対する重大な犯罪を犯すことが可能なのだ。

ロシアとの正常な関係は手の内のカードに含まれてはいない。悪魔視することや嘘は継続するだろう。「新冷戦」の存在は支配者層にとっては極めて重要であって、トランプ大統領がロシアとの関係を正常化することは軍事・安全保障関連からの選挙運動資金に依存する下院や上院の議員らにとっては何としても回避したい一大事である。

リーガンとゴルバチョフが成し遂げたことはすべてが覆されてしまった。一握りの連中が求める物欲が再び人類を危機の瀬戸際にまで追い込んでいるのだ。

「世界の歴史の中で自由をもっとも愛する偉大な国家」でありながら、それを論じることさえもない。何故ならば、その議論はまさにプーチン自身の弁証論であり、プーチンと道徳的に等価であることを意味することになるからである。

著者のプロフィール: ポール・クレイグ・ロバーツ博士は経済政策担当の財務次官補を務め、ウールストリートジャーナルでは副編集長として働いた。また、ビジネスウィーク、スクリップス・ハワード・ニュースサービス、および、クリエーターズ・シンジケートではコラムニストとして執筆した。数多くの大学から招聘を受けている。彼のインターネット・コラムは世界中の読者を魅了している。ロバ―ツ博士の最近の著書:The Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the WestHow America Was Lost、および、The Neoconservative Threat to World Order

注: この記事に掲載された見解は全面的に著者のものであって、必ずしもInformation Clearing Houseの見解を代弁するものではありません。 

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

このブログでは同一著者の記事がふたつも続いてしまったが、ポール・クレイグ・ロバーツの見解は歯切れがいい。国際政治の深層を見事に読み解いてくれる。

私が理解した内容で私流に反芻するとすれば、米国の好戦派の政治家や支配者層および主流メディアの論説委員たちは日頃プーチンを悪魔視し、プーチンについて嘘の報道を行っているからこそ、テーブルを挟んでプーチンと議論をすることは受け入れられない。そうすることは非常に恐れている。彼らは自分たちがプーチンに関して流して来た嘘八百によって金縛りにされているのだ。何故ならば、そんなことをすれば道徳的には自分自身もプーチンと同列となってしまい、日頃米国民に向かって言い聞かせて来た心地よい言葉、つまり、全世界に対する米国人の「例外主義」や「必要不可欠な存在」が胡散霧消してしまうからだ。そうなったら、今まで行って来た軍産複合体に対する支援は継続する意味が無くなってしまい、自分たちの出る幕は消えてしまう。この点こそが、著者が指摘する「一握りの連中」にとっての最大の関心事であり、一歩も譲歩することは出来ないのである。

「一握りの連中」は、何とまあ、利己的な考えに浸っているのであろうか?

しかしながら、これこそが現実の姿であり、大なり小なり今日の米国の政治を操っている原動力なのである。

こうして、ポール・クレイグ・ロバーツの「米国の指導層は核戦争を選択したのだろうか?」という懸念がいや増しに現実味を帯びて来る。




参照:

1The Neocons and the ‘deep state’ have neutered the Trump Presidency, its over folks!: By The Saker, Feb/14/2017

2Has The American Establishment Opted for Thermo-Nuclear War?: By Paul Craig Roberts, Information Clearing House, Feb/08/2017