2017年5月23日火曜日

北朝鮮「危機」とは実際には何なのか



北朝鮮の核実験やミサイル実験を巡る米国と北朝鮮との間の緊張関係については、結局のところ、北朝鮮に核装備を認めてやるしか核戦争を回避する方法はないのではないかといった意見さえもが出てきている。核戦争は是が非でも避けなければならないという命題を国際政治の中心に置いた場合、北朝鮮の核武装は認めてやるしかないのかも知れない。その場合、北朝鮮が得意とする瀬戸際外交の勝利となり、残るは米国に到達することができる長距離ミサイルの開発に成功することだけだ。つまり、それは時間の問題だ。北朝鮮との対話を始めて、米国と北朝鮮との間での和平が成立しない限り、現行の緊張関係は続くことになる。すべては米国がどこで折り合いをつけるかによる。事態はさらに悪化する可能性が十分にある。

米国が北朝鮮に対する敵視政策を止めない限り、北朝鮮は核開発やミサイルの開発は止めないと言う。これは以前からの北朝鮮の持論だ。

米国が空母や原潜を送り込んでも、北朝鮮はミサイルの発射実験を継続しており、最近の実験には成功したようだ。当面は、米国の空母や原潜は朝鮮半島の海域に配備されただけであって、この段階では具体的な軍事行動をとるには至っていない。ある識者の解説によると、北朝鮮のミサイルの射程距離がまだ米国に届いてはいないことから、この時点で米国が最後通牒は発することはないという。

両国はいわゆる「我慢比べ」の段階に入ったかの観がある。しかし、我慢比べは政府高官や指導者らの個人的な性格に大きく左右されよう。そのことを考えると、一時的な安定が如何に脆弱なものであるかは容易に想像することができる。

ロシアや中国が国際的な舞台に登場しつつある今、米国は自国の覇権を堅持するためにはあらゆる策を使ってロシアや中国の台頭を妨害しようとする。中ロ両国に対する米国の一方的な行動を拾い上げてみると、貿易戦争、通貨戦争、情報戦争、サイバー戦争、経済制裁、等と切りがない。これらはもうかなり前からさまざまな形で実施されている。

米国の覇権争いに巻き込まれたロシアや中国はディープ・ステイツの宣伝機関である西側の大手メディアによって悪魔視され、あることないことについて世界中で喧伝され、米政府からはさまざまな経済制裁や脅しを受けている。かっては米国経済を支えていた地方の製造業の中心地は疲弊してしまって、今や、かっての繁栄を想像することもできない。それにもかかわらず、米国の巨額の軍事費は決して縮小する気配を見せない。

視点を変えて米国を観察すると、まったく違った米国の姿が浮かび上がって来る。たとえば、中国の電子商取引ビジネスの分野で大成功を収めている巨大企業「アリババ」の創始者、ジャック・マーはこのような米国の現状を「誰もあんた方の仕事場を奪ったわけじゃあない。あんた方は戦争に金を使い過ぎているんだ」と言ってのけた [1] これは重要な側面を的確に押さえているという意味で非常に興味深い発言である。米国の軍産複合体やネオコン政治家にとってはさぞかし耳が痛いことだろう。

北朝鮮危機の現状を読み解く切り口にはさまざまな要素がある。米国や韓国ならびに中国の、時には日本も含めて、政府高官が発する言葉に一喜一憂している昨今ではあるけれども、その中で私がもっとも興味深く感じるのは、米国にとっては北朝鮮危機は中国に対する包囲網を築くためのひとつの道具、あるいは、ひとつの場面でしかないという見方だ。

このことについてはさまざまな論者が述べてはいるが、本日のブログではポール・クレイグ・ロバーツが54日に報告した記事 [2] をご紹介したいと思う。


<引用開始>

北朝鮮「危機」はワシントン政府が組織化し、作り上げたものだ。北朝鮮にとっては1950年から1953年にかけて起こった朝鮮戦争が最後の戦争である。過去の64年間、北朝鮮は如何なる国に対しても侵攻をしたことはない。北朝鮮は米国によって防衛されている韓国や日本に対して攻撃を仕掛けるような戦力を持ってはいない。また、中国は北朝鮮が戦争を引き起こすようなことは絶対に許さないだろう。

そう考えた場合、メディア界のプレスティチュート各社やトランプ政権が進めている北朝鮮の悪魔視はいったい何なんだろうか?

この状況はイランを悪魔視した時の状況とまったく同じだ。「イランの脅威」については、ロシアとの国境沿いに米国が弾道ミサイル仰撃システムを設置するために、イランから発射されるミサイルを仰撃するためのものであるとの偽りの説明を米国が持ち出した。弾道弾仰撃ミサイル(ABM)は核弾頭搭載の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を仰撃、破壊し、目標物への到達を防ぐためのものだと説明したのである。

ワシントン政府はABM基地はロシアに向けて設置するのではなく、ヨーロッパをイランの核ミサイルから防護するために設置するのだと主張した。無頓着な米国人はこの説明を信じたかも知れない。もちろん、ロシア人はこの説明を信じようとはしなかった。イランはICBMも核兵器も所有してはいないからだ。米国の基地はワシントンによる第一撃に対するロシアからの報復攻撃を防ぐために意図されたものであることをわれわれはよく理解している、とロシア側は言明している。

中国政府も決して馬鹿ではない。中国の指導者は北朝鮮「危機」はワシントン政府が中国との国境沿いに弾道弾仰撃ミサイル基地を建設するための目隠しを提供するべく意図されたものであると理解している。

換言すると、ロシアと中国に対する米国からの(先制)核攻撃に対して両国から報復攻撃が起こった場合に備えて、ワシントン政府は自国を防護するための楯を構築しつつあるのだ。

ワシントン政府の取り組みに対する中国の応答はロシアに比べるとより強硬である。中国政府は韓国への米ミサイルの配備を直ちに中止するように要求した。https://www.rt.com/news/386828-china-thaad-south-korea/ 

米国人を煙に巻くために、ワシントン政府は弾道弾仰撃ミサイルを「高高度ミサイル防衛」(THAAD)システムと呼んでいる。中国は、このTHAADシステムが韓国と国境を接する北朝鮮とは何の関係もないことをよく理解している。北朝鮮をICBMで攻撃するなんてまったく無意味だと判断している。

韓国のTHAADは中国が報復攻撃を行う際に用いられる軍事施設に対して向けられる。THAADや弾道弾仰撃システムはロシアの核クルーズミサイルやロシア空軍に対しては無力であることから、ヨーロッパは完全に破壊されるであろうが、韓国に配備されるTHAADはロシアと中国に対して(先制)核攻撃を行う際に米国に対して行われる報復攻撃を最小限に抑えるための準備である。

如何なる帝国もその従属国の運命なんて心配することはない。ワシントン政府もヨーロッパの運命についてはこれっぽちの関心もない。ワシントン政府は世界に対する覇権の維持について興味を抱いているだけである。

最大の疑問点はこうだ。つまり、ワシントン政府が一方的に進めている政策や行動に対して邪魔になる二つの障害物を取り除くために、ワシントン政府がロシアと中国に向けて先制核攻撃を準備していることを両国はよく理解している今、両国はただ座って、(先制)核攻撃を待っているだけであろうか? 


あなたはどうする?

427日に私はこのウェブサイトで「ワシントン政府はロシアと中国に対する核攻撃を計画」と題する記事を掲載した。私の記事はこれこそがロシアや中国の指導者たちが自分で到達した結論であると報告した。私はロシア軍参謀本部作戦総局の副局長を務めるヴィクトル・ポズニクヒル中将の文言を引用したものであって、そのリンクを次に示す: https://www.rt.com/news/386276-us-missile-shield-russia-strike/

私のウェブサイトにやって来る読者は「マトリックス」という映画に現れる主人公とはまったく正反対である。つまり、私の読者は知的で、問題意識を持つ人たちであり、現実はいったいどうなっているのかを知ろうとする自薦の読者であることから、ワシントン政府がロシアや中国に対して核攻撃を計画しているとの私の持論については賛成できないと何人かが書いて来た時には、私はいささか不意を突かれた感じがした。私は明白に書いている。しかしながら、私が報告した内容がロシア軍参謀本部が下した結論ではなくて、私個人の意見であるかのように誤解した読者が何人かいたのだ!また、これらの読者は自分たちが、あるいは、私がどう思うかが重要であると思っているのには驚かされた。何が重要かと言えば、それはロシアや中国の指導者がどう思っているかが一番重要なのである。

私の記事を転載してくれている他のウェブサイトでのコメント欄を調べてみたところ、CIAやモサド、米国民主主義基金、ジョージ・ソロス、NATO、米国務省、等によって雇われて挑発的なメッセ―ジを発する投稿者たちやその他の連中が言うところによれば、彼らは私自身が核戦争を推進しようとしているとして私を非難しているのである。もちろん、核戦争を推進しようとしているのはワシントン政府である。そして、ロシアや中国の両国を待ち受けているのは米国からの先制核攻撃であると信じ込ませたのもワシントン政府である。

自信過剰に陥っているワシントン政府はこれがロシアや中国に恐怖心を引き起こし、両国政府はワシントンに服従するだろうと考えているのだ。

両国はそうするかもしれないが、私はそのような考え方に地球上の全生命を賭けようとは思わない。

米国や西側世界における教育は余りにも劣悪であって、最近教育を受けた読者らは、単純に言って、自分たちが読んだ内容を正確に把握することができないという状況も考えられる。さもなければ、ロシア軍参謀本部のスタッフが得た結論に関する私の報告を読んで、誤解するなんていったいどう説明したらいいのだろうか? 他にあり得る説明は次のようになる。つまり、コメント欄を持っているウェブサイトは真実を告げようとする者に関して中傷し、悪口を叩く者を雇い入れる機会や場を支配者層のエリートのために提供しているという構図だ。

コメント欄を持つウェブサイト上で私自身が知的なコメントに遭遇することはほとんど無い。ほとんどのコメントは自分の本名を名乗ったり、本物の電子メールアドレスを記載することは避けたいと思っている連中からのものだ。すべてのコメントはそのほとんどが偽名や偽電子メールアドレスの背後に隠れようとする無知な自惚れ者からであったり、雇われの中傷者からであったりする。

雇われの中傷者や無知な自惚れ者から中傷を受けるために私は記事を投稿しているわけではない。ウェブサイトが匿名者からの非難や悪口によって投稿者の価値を低下させることに加担しているとは無責任も甚だしいと私は考える。コメントをする者について彼らの本当の氏名や本物の電子メールアドレスについて確実に検証する場合を除いて、コメント欄は設けないようにするべきである。

本要件に満たないサイトは今後私の記事を転載することについては私はもはや許可を与えないことにする。

ワシントン政府は、ロシアや中国の政府が理解しているように、地球上の生命を悲惨な脅威に晒してる。これは非常に深刻な事態である。無知で自惚れ屋の馬鹿者共や雇われの中傷者らがワシントン政府の世界的覇権に向けた欲求によって地球上の全生命が直面するであろう悲惨な脅威について報告する少数の者を攻撃するためにインターネットを使う空間なんて提供してはならないのだ。


著者のプロフィール: ポール・クレイグ・ロバ―ツ博士は財務省の経済政策補佐官を務め、ウオールストリートジャーナルの副編集長を務めた。また、ビジネス・ウィーク、スクリップス・ハワード・ニュース・サービス、クリエーターズ・シンジケートのために記事を書いた。数多くの大学から招聘を受けた。彼のインターネット上での記事は世界中から注目を集めた。ロバ―ツ博士の最近の著書としてはThe Failure of Laissez Faire Capitalism and Economic Dissolution of the WestHow America Was Lost、および、The Neoconservative Threat to World Orderが挙げられる。

注: この記事に表明されている見解は全面的に著者の見解であって、必ずしもInformation Clearing Houseの意見を反映するものではありません。

<引用終了>


これで仮訳は終了した。

中国政府も決して馬鹿ではない。中国の指導者は北朝鮮「危機」はワシントン政府が中国との国境沿いに弾道弾仰撃ミサイル基地を建設するための目隠しを提供するべく意図されたものであると理解しているとの指摘は実に秀逸だ。

北朝鮮危機は米国の軍産複合体が中国に対する包囲網を確立するために活用しているに過ぎないという。とすると、その影響圏には韓国だけではなく、当然、日本も含まれる。しかも、日本は韓国よりも大きな経済力を持っている。今や、韓国へ売り込んだTHAADシステムを日本へも売り込む絶好のチャンスである。韓国に設置されたTHAADシステムのレーダーが今回の北朝鮮のミサイルの打ち上げを探知したと早速報道されている [3]。軍産複合体はこのチャンスを逃す筈がなく、THAADシステムの能力をそれとなく宣伝し始めたようだ。

日本では、自民党の安全保障調査会が敵のミサイル基地を攻撃する「敵基地攻撃能力」保有の検討を急ぐよう政府に求める提言をまとめたとのことだ [4]。米国の軍産複合体にコネを持つ議員らはこの機会を逃すまいと一生懸命である。

韓国や日本に対して次に売り込みたい武器は1ヶ月半ほど前に地中海上の米駆逐艦からシリア国内のシャイラート空軍基地へ撃ち込まれたトマホークミサイルであろうか。トマホークミサイルの1発の価格は約150万ドルだそうだ。

そして、その次は・・・と際限なく続くことであろう。

ところで、著者はTHAADや弾道弾仰撃システムはロシアの核クルーズミサイルやロシア空軍に対しては無力である・・・」と述べている。これはどのような事実を指しているのであろうか?

私が思いつく情報のひとつは、黒海で米イージス駆逐艦「ドナルド・クック」がロシアのスホイ24ジェット機の電子戦攻撃に遭って、最新鋭の兵器システムやデータ処理システムが遮断されてしまったという件だ。それはあたかもテレビのスイッチを切るかのようだったという。これはイージス艦に守られた米空母船団が持つ潜在的な脆弱性のひとつであるのかも知れない。また、ルーマニアにすでに設置され、来年ポーランドにも設置される弾道弾仰撃ミサイル・システムはイージス艦に搭載されている対空防衛システムの陸上版であることを考えると、これらの弾道弾仰撃ミサイル・システムはロシア空軍の電子戦によって機能麻痺に陥るかも知れない。(注: 詳しくは、本ブログで20141121日に投稿した『手も足も出なかった! - 黒海で米ミサイル駆逐艦「ドナルド・クック」を恐怖に陥れたのは何だったのか』を参照願いたい)

ロシアの核クルーズミサイルについては、私は何の情報を持ち合わせてはいない。

しかし、シリア紛争では、カスピ海上のロシアの艦艇から1000キロ以上も離れたシリア国内のイスラム武装兵力の拠点に向けてクルーズミサイルが打ち込まれた。その威力を考えざるを得ない。爆発物による弾頭を核弾頭に置き換えることがどれほど困難かは素人の私には知る由もないが、それほど難しくはないのかも知れない。とすると、地上発射型の中距離ミサイルを禁止した米ロ間の「INF全廃条約」に抵触することもなく、小型の艦艇に搭載できる中距離核ミサイルが現出することになる。その場合、カスピ海や黒海、地中海、あるいは、北海の海上にある艦艇からでもヨーロッパ各国へ向けて核弾頭搭載のクルーズミサイルを撃ち込むことが可能となる。

これらの二件についてはロバーツ博士はまったく別の事を念頭に置いてTHAADや弾道弾仰撃システムはロシアの核クルーズミサイルやロシア空軍に対しては無力である・・・」と述べているのかも知れない。その詳細は今後どこかの時点に判明することだろう。




参照:

1Nobody ‘stealing’ your jobs, you spend too much on wars, Alibaba founder tells US: By RT, Jan/25/2017, https://on.rt.com/80sx

2What the N Korean ‘Crisis’ Is Really About: By Paul Craig Roberts, Information Clearing House, May/04/2017

3在韓米軍のTHAAD 北朝鮮ミサイルを探知 = 韓国国防相:聯合ニュース、May/16/2017

4「敵基地攻撃」早期検討を  ミサイル防衛能力強化も - 自民: 時事通信、Mar/29/2017



 


2017年5月17日水曜日

先制核攻撃という米国の神話



先制核攻撃を行う事によって米国はロシアや中国が新興勢力として立ち上がって来るのを押さえ込むことができるとする論理が米国の軍産複合体やネオコンの間では信じられている。この思い込みこそが新冷戦を推進する原動力であり、米国の優位性を知らしめ、ロシアや中国に恭順の意を示させることによって米国が世界に対する覇権の座を堅持するという筋書きを可能にさせている。

しかし、この論理が単なる一方的な思い込みに終わるとしたら、どうであろうか。予測がひどく狂ってしまった軍産複合体やネオコン政治家がひどく気の毒である点は仕方がないとしても、最悪の場合、彼らの誤算が原因でわれわれ一般市民は瞬時に蒸発してしまうかも知れない。あるいは、何年にもわたって核の冬が到来し、世界的な規模の飢餓になるとしたら、とんだはた迷惑な話だ。全面的な核戦争となったら、多くの人たちが言っているように文明の終焉となるだろう。新冷戦あるいは第三次世界大戦の結末がどのように展開したのかについて語れる歴史家のひとりさえも生き残ることはないだろう。文明はこの地球上から消えてしまうのだ。もっとも幸運な展開になったとしても、生き残った人たちは石器時代に逆戻りすることになる。

核戦争を生きながらえるという考えはすべてが誤謬だと指摘する専門家の声もある。

最近、先制核攻撃の論理を批判する記事に遭遇した。この記事は「スーパー起爆装置の恐怖の意味を解明する」と題されている [1]

本日はこの記事を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>

何週間か前に私は読者から電子メールを受け取った。それはロシアに対して報復攻撃の可能性をゼロにする、つまり、先制核攻撃を可能にする「スーパー起爆装置」と称される技術開発を米国が行ったのかどうかというものであった。この電子メールによって私は何週間にもわたってパニックに襲われている。スーパー起爆装置はロシア側が宇宙空間を舞台にした早期警戒システムを持ってはいないという事実と組み合わせて論じられている。ロシアにはこの種の早期警戒システムが存在しないことから、ロシア側が米国の核攻撃に対応する時間は少なくなるのだ。

この主張には事実としての根拠が存在する一方、オリジナルの報告書は「米国の核の近代化プログラムは如何に戦略的安定性を弱体化するか:爆発高度がス―パー起爆装置を補う」という衝撃的な表題によって、さらには、いくつかの裏付けのない結論を導くことによって、読者を誤導している。端的に言って、本報告書で述べられている事実が実際には何を意味しているのかを理解するには専門知識に欠けた人たちには困難ではあるものの、このオリジナルの報告書はそういった非専門家たちの間でさらに議論され、さまざまな情報源がお互いに引用し合い、何の根拠も持たない「スーパー起爆装置の恐怖」を生み出してしまったようである。そこで、本件がいったい何を意味するのかを皆で解明してみたいと思う。


核攻撃と攻撃目標について理解する: 

実際に何が起こるのかを理解するために、まず基本的に重要な用語を定義しておきたいと思う: 
  • ハードな目標を破壊する(HTK)能力: これは地下に構築されているミサイル・サイロ、あるいは、地下深くに設置された指令所のような非常に強固に防護されている目標物を破壊するミサイルの能力を指す。
  • ソフトな目標を破壊する(STK)能力: 軽微に防護された、あるいは、まったく防護が施されてはいない目標を破壊する能力。
  • カウンターフォース攻撃: これは敵の軍事能力に目標を置いた攻撃を指す。
  • カウンターヴァリュー攻撃: 市街地のような非軍事的な目標に対する攻撃を指す。
戦略核ミサイルのサイロや司令部は通常強固に防護され、地下深くに設置されていることから、「ハードな目標を破壊する(HTK)能力」を持ったミサイルだけがこの種の設備に対してカウンターフォース攻撃を遂行することが可能だ。「ソフトな目標を破壊する(STK)能力」を持つミサイルとは敵国の都市を報復攻撃するためのものである。ここでもっとも基本的な点はHTK能力は爆発力にあるのではなくて、命中精度にあるということだ。理論的にはとてつもなく強力な武器は、確かに、精度の欠如をある程度補ってはくれるが、現実にはHTKにとって現実的に重要な点は精度にあるということを米国と旧ソ連・ロシアは両者とも以前からよく理解している。 

冷戦の最中、大陸間弾道ミサイル(ICBM)は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)よりも精度が良かった。それは地表に固定された位置から目標物を狙うことは潜水航行中にある潜水艦から目標を狙う場合よりもはるかに容易であったからだ。米国はHTK能力を持つトライデントD-5SLBMを初めて開発した。ロシアも、最近になって、この種のSLBMを開発している(R-29RMU シネバ型SLBM)。

原子力科学者会報によると、10年ほど前までは米国のSLBMはその内のたった20パーセントがHTK能力を備えていただけである。今は、「スーパー起爆装置」によってSLBM100パーセントがHTK能力を備えている。これらのスーパー起爆装置が果たす役割は起爆する高度を非常に正確に測定する点にある。そうすることによって、HTK能力を持たない武器にさえも精度に欠ける点を部分的に補ってやれるのだ。簡単に言えば、これらのスーパー起爆装置は米国のSLBMのすべてにHTK能力を与えてくれた。


だから、どうだって言うのか?

どちらとも言えない。それが紙の上で意味することは米国はHTK能力を持った米国のミサイルの数を増大させたという点だ。こうして、米国は今やカウンターフォース攻撃を行い、相手を武装解除する能力を持ったミサイルを大量に保有することになった。しかしながら、現実には物事はそれ程単純ではない。


カウンターフォース攻撃について理解する: 

かっては旧ソ連時代、そして、現在はロシアに対して相手を武装解除するようなカウンターフォース攻撃を遂行するという考えは古くから米国の夢であった。リーガン時代の「スターウオーズ作戦」をご記憶だろうか?あの作戦の考え方は非常に単純であって、ソ連の報復攻撃から米国を守るために、領空に侵入して来るソ連のミサイルを仰撃する能力を開発しようというものであった。言うなれば、それは次のように展開する。たとえば、ソ連のICBM/SLBM70パーセントを破壊し、残りの30パーセントは米国へ到達する前に仰撃する。これは技術的にも(そのような技術は無かった)、戦略的にも(たとえたった数個のミサイルではあっても、仰撃から漏れると、それらは米国の都市を消し去ってしまう。そんなリスクをいったい誰がとれると言うのだろうか?)まったく無意味であった。もっと最近になってからヨーロッパへ配備された弾道ミサイル仰撃システムもまったく同じ目的を持つものである。つまり、報復攻撃から米国を守ろうとするものだ。複雑な技術的議論には入らずに、ここでは、現時点ではこのようなシステムは米国を守ってはくれないとだけ言及しておこう。しかし、将来はそのような能力を想像することが可能となるかも知れない。
  1. 米ロ両国は戦略核兵器をさらに削減し、ロシアのSLBM/ICBMの総数を劇的に削減することに同意する。
  2. 米国は米国へ向かって来るロシアのミサイルをそれらの行程の初期に捕捉し、破壊することができる弾道ミサイル仰撃システムをロシア周辺の全域にわたって配備する。
  3. 領空へ侵入して来るロシアのミサイルを仰撃するために、米国は宇宙空間やロシアの周辺に数多くのシステムを配備する。
  4. 大規模なHTK能力を持つ米国はロシアの戦力の約90パーセントを成功裏に破壊し、残りはその飛行中に破壊する。
これは夢物語に過ぎない。物事はそんな風には決して展開しない。何故かと言うと、下記の通りだ:
  1. ロシアは戦略核の削減には決して同意しないだろう。
  2. ロシアはヨーロッパで前方展開されている米国の弾道ミサイル仰撃システムを破壊する能力をすでに配備済みである。
  3. ロシアのミサイルや核弾頭は今や操作が可能で、南極上空を経由するルートも含めて、如何なる弾道軌道さえをも採用することが可能であって、結局は米国へ到達する。新型のロシアのミサイルはその第一段目の行程が劇的に短縮され、高速化されていることからこれらのミサイルを仰撃することはより困難になっている。
  4. 弾道ミサイルへのロシアの依存性はしだいに(長距離型の)戦略クルーズミサイルへ移行しようとしている。(詳細については後程議論しよう)
  5. この筋書きでは米国側はロシアのSLBM搭載潜水艦がミサイルを発射した際に何処に位置しているのかを知っている場合を想定しているが、これはとんだ間違いだ。(詳細については後程)
  6. この筋書きはロシアの道路上や鉄道上を移動するICBMを完全に無視している。(詳細については後程)


多弾頭ミサイルについて理解する:

上記の第4項や5項および6項を説明する前に、私にはもうひとつの重要な事実を押さえておく必要がある。それは1個のミサイルは1個だけの核弾頭を装備することもできるし、複数個の弾頭(12個まで。これは今後増加するかも)を装備することもできるという点だ。個々の弾頭がそれぞれ独立した目標を狙える弾頭を複数個装備しているミサイルは「多弾頭ミサイル」(MIRV)と称される。

MIRVはいくつかの理由から非常に重要である。第一に、10個の弾頭を装備したミサイルそのものは1個ではあっても、理論的には、10個の目標を破壊することが可能である。あるいは、1発のミサイルに34個の核弾頭を装着し、残る67個は「おとり」とすることも可能だ。実際的な観点から言えば、1発のミサイルの5個の弾頭は本物として、これらは別々の目標を狙い、残る5個の弾頭はおとりとして使い、相手側の仰撃をより困難にすることが可能となる。しかしながら、MIRVは大問題を提起することにもなる。これらは大層な目標物となり得るからだ。つまり、「こちら」の核弾頭のひとつが「相手側の」MIRVミサイルを破壊することができたとすれば、こちらは1個の弾頭を失うだけであっても、相手側は10個もの弾頭を失うことになる。これこそが米国が陸上用のMIRVICBMから撤退しようとしている理由のひとつである。

ここで重要なことは、ロシア側にはあり得そうな選択肢がいくつもあることから、ロシアのミサイルの中でいったい何個がMIRV型であるのかを予測することは不可能であるという点だ。それに加えて、米ロのSLBMは近い将来すべてがMIRV型となるであろう(SLBMを非MIRV型のままにしておくことはまったく無意味だ。何故ならば、核ミサイルを搭載する潜水艦は、定義上、巨大なMIRV発射装置に他ならないからだ)。 

MIRVミサイルとは対照的に、単一弾頭ミサイルは核兵器を用いて破壊する目標としては非常に劣った目標物である。つまり、「こちらの」ミサイルが「相手の」ミサイルを破壊したとしても、両者はそれぞれ1個のミサイルを失う。いったい何が要点かと言うと、こうだ。もし「こちら」が「相手の」ミサイルを確実に破壊するために2個のミサイルを使ったとすれば、相手のミサイル1個を破壊するためにこちら側は結果として2個のミサイルを失うのだ。これではまったく意味を成さない。

最後に、報復的なカウンターヴァリュー攻撃においては、多弾頭ICBM/SLBMは大きな脅威となる。つまり、たった1発のR-30ブラヴァ(SS-N-30)SLBM、あるいは、R-36ヴェヴォダ(SS-18)ICBMは米国の都市を10か所破壊することが可能だ。こんなリスクがとれるとでも言うのかい?例えば、ボレイ級の弾道ミサイル搭載潜水艦の1艘を破壊することに米国が失敗したとしよう。理論的には、このたった1艘の潜水艦は最大で200カ所の米国の都市を破壊することが可能だ(20個のミサイルが搭載されており、個々のミサイルには10個の核弾頭が装備されている)。このような状況をリスクとして考えられるだろうか? 


対照的な米ロ間の三元戦略核戦力:

戦略核兵器は陸上、海上、ならびに、航空機に配備することができる。これは「三元戦略核戦力」と呼ばれている。ここでは米ロ両国の航空機に配備される部分は全体の構図に対して著しい影響を与えるとは思えないし、両国共にほぼ似通ったものであることからも、この部分は割愛しよう。海上および陸上へ配備された戦略核兵器システムそのものやそれらの背景にある戦略はそれ程大きく異なることはなかった。海上では、米国は今まで何年にもわたってHTK能力を保持しており、米国は核兵器のもっとも重要な部分を弾道ミサイル搭載原潜に委ねている。それとは対照的に、ロシアは道路移動型の大陸間弾道ミサイルを開発する道を選んだ。最初のミサイルはRT-2PMトーポリ(SS-25)であって、これは1985年に開発された。それに続いて、T-2PM2 «トーポリ-M» (SS-27)1997年に開発。そして、革命的なRT-24ヤルスまたはトーポリ-MR (SS-29)2010年に開発された(米国は道路上配備型の戦略核ミサイルの開発を考えたけれども、技術開発には成功しなかった)。 

さらに、ロシアは鉄道移動型ミサイルも開発した。これはRT-23マラジェッツ(SS-24)と称せられ、より新型のミサイルはRS-27バルグジン(SS-31?)と称される。下記にその外観を示す:



Photo-1: ロシアの道路移動型ならびに鉄道移動型ICBM

弾道ミサイル搭載原潜、道路移動型ミサイルおよび鉄道移動型ミサイルはふたつの共通した特性を有している。つまり、これらは移動型であって、破壊を免れるためには身を隠すしかない。弾道ミサイル搭載原潜は海洋深くに隠れ、道路移動型ミサイル発射装置は広大に広がる森の中に隠れ、文字通りどこの森にでも隠れることが可能だ。鉄道移動型ミサイルの場合は、ロシアの巨大な鉄道網の中で他の列車の中に紛れ込んでしまう(目の前にある列車が通常の列車であるのか、それとも、ミサイルを発射する特別の列車であるのかを識別することは不可能だ)。これらのシステムを破壊するには、精度だけでは明らかに不完全だ。目標となるシステムを発見しなければならない。相手がミサイルを発射する前に相手のミサイルを発見しなければならないのだ。たとえ如何なる説明を試みたとしても、これらのミサイルを発見することは不可能だ。

ロシア海軍は弾道ミサイル搭載原潜は北極海の氷の下やオホーツク海といった「砦」に待機させることを好むようだ。これらの海域は米国の攻撃型原潜にとっては必ずしも立ち入り禁止海域ではないけれども、これらの海域では米海軍に比べてロシア海軍が圧倒的な利点を有していることから非常に危険である(たとえ米国の攻撃型原潜が海洋上の艦船や航空機からは支援を受けられないことだけがその理由であるとしてもだ)。米海軍は地球上でもっとも素晴らしい原潜を有し、この上なく良好に訓練された乗組員を配属しているけれども、ロシアの原潜が発射する前に米国の弾道ミサイル搭載原潜がロシアの原潜を発見し、それを破壊することができるという保証はどう見てもあり得そうにない。 

陸上の道路移動型や鉄道移動型のミサイルに関しては、これらは世界でも指折りのロシア空軍によって守られており、これらの場所は米国がB-53 B-1 あるいはB-2 爆撃機を送り込むのを躊躇するような空域である。しかし、もっと重要な点はこれらのミサイルは完全に隠れているという点だ。たとえ米軍がこれらのミサイルを破壊することができたとしても、十分な数を破壊して、先制攻撃に成功し、武装解除をするという実行可能な選択肢にはなり得ないであろう。ところで、RS-244個のMIRVを装着し(米国の四つの都市を破壊することが可能)RS-2710個から16個のMIRVを装着している(10カ所から16カ所の米国の都市が蒸発することになる)。


地理やクルーズミサイルに着目してみる: 

最後に、地理とクルーズミサイルに着目してみよう。われわれにとっては二種類のロシアのクルーズミサイルが特に重要である。つまり、KH-1023M-14Kだ:

                          KH-102                        3M-14K
射程距離:            5500km                        2600km
発射装置:             戦略爆撃機                   航空機、艦船、コンテナー
弾頭:                   核弾頭、450kt                核弾頭(爆発力は不明)

これらの二種類のクルーズミサイルについて重要な点はKH-102は大きな射程距離を持っていることであり、3M-14K は航空機や艦船あるいはコンテナーから反射できるという点にある。これらのミサイルの能力を示す下記のビデオを観ていただきたい:
         

さて、米国の大部分の都市がどこに位置しているのかを考えてみて欲しい。大きな都市は東海岸や西海岸に位置している。それらの都市を防御する対空防衛システムは実際には皆無だ。西海岸の如何なる都市であっても、ロシアの戦略爆撃機は太平洋のど真ん中から攻撃することが可能だ。また、ロシアの潜水艦は大西洋のど真ん中から米国の如何なる都市に対しても攻撃することができる。最後に、ロシアは通常のコンテナーとまったく変わりのないコンテナーに無数のクルーズミサイルを隠すことが可能であって(ロシアの国旗を掲げていたり、あるいは、まったく別の国の旗を掲げているかも知れない)、単純に言って、米国沿岸の何処にでも近寄ることができ、そこから核クルーズミサイルを連射することが可能だ。

このような連射に見舞われたとしたら、米国政府にはいったいどれだけの対応時間が与えられると言うのだろうか? 


対応時間について理解する: 

ソ連時代でも、現ロシアにあっても、宇宙空間に本拠を置く早期警戒システムはご粗末そのものだ。何はともあれ、中国はそのような宇宙空間に本拠を置く早期警戒システムを開発しようなんて考えたこともないという事実はご存知だろうか?中国人には何か悪い点があるのだろうか?彼らは馬鹿者なのだろうか?技術的に遅れているのだろうか?それとも、われわれが知らないことを彼らは知っているのであろうか?


Photo-2: 各国の核弾頭所有個数(2017年)

これらの質問に答えるには、われわれは核ミサイル攻撃を受ける国が直面するであろう選択肢を考えてみる必要がある。最初の選択肢は「警報に応えて行う発射」だ。つまり、ミサイルが侵入して来るのを見て、自分たちのミサイルを発射するために「赤ボタン」を押す(実際にはキーを回す)。これは、時には、「それらを用いるか、あるいは、それらを失うか」の選択として言及される。次の選択肢は「攻撃があってから発射する」場合だ。つまり、自分の領土内に核攻撃を受けてから速やかにすべてのミサイルを発射する。そして、最後の選択肢は「攻撃を何とか切り抜けた後に行う報復攻撃」だ。つまり、敵の攻撃を受け、それを乗り越えてから反撃を実行するのだ。明白な点としては中国は、それが政治的な判断であったにせよ、あるいは、宇宙空間における能力に制約があったからにせよ、「攻撃があってから発射する」、あるいは、「攻撃を何とか切り抜けた後に行う報復攻撃」のどちらかを選択したようだ。中国が所有する核弾頭の数が少ないこと、そして、長距離射程を持ったICBMはさらに少ないことを考慮すると、これは殊更に興味深い。

ロシアはかなり以前から「死者の手」と称されるシステム(Perimeterとも呼ばれる)を運用して来た。これは核攻撃を受けたことを自動的に探知し、自動的に反撃を行うシステムである。中国の対応をロシアのそれと比較してみよう。それは「攻撃があってから発射する」という姿勢に匹敵するものだと言えようが、ロシアは二重の姿勢を採用していると理解することも可能だ。つまり、同国は警報を受けて攻撃を行う能力を持とうとしているけれども、自動化された「死者の手」を用いた「攻撃があってから発射する」能力によって二重の安全装置を課している。

各国における戦略核弾頭の推定保有数量を見ていただきたい。中国は260発を保有しているだけであるが、ロシアは7000発も保有している。そして、「死者の手」も持っている。中国は、それでもなお、「先制攻撃は行わない」という政策を宣言するだけの自信を持っている。宇宙空間に本拠を置く早期警戒システムを持ってはいない中国がどうしてそのような宣言をすることが可能なのであろうか?

中国は実はもっと多くの核弾頭や宇宙空間に本拠を置く早期警戒システムを持ちたいのだと多くの人たちが言うかも知れないが、単純に言って、中国の経済的および技術的環境はそうすることを許してはくれないのだ。多分。しかしながら、私の個人的な推測によれば、彼らは自国の核装備がごく限られたものではあっても潜在的な侵略国に対する抑止力としてはこれで十分であると思っている。それには一理がある。

あなた方に次のように質問してみたい。米国の将軍や政治家の中でいったい何人が中国やロシアを武装解除するためには米国の大都市を犠牲にしてもいいと考えるのだろうか?恐らく、何人かはそう考えるかも知れない。しかし、ほとんどの人たちはリスクが余りにも大きいと考えるだろうと私は確信している。

ひとつ言えることは、現代的な核戦争はコンピュータを駆使して紙の上で「模擬試験」を行っているだけではないか?(そのことについては神に感謝したい!) つまり、核戦争が実際にどのように展開するのかは誰も知らないのだ。確信を持って言える唯一のことは政治的ならびに経済的な結末はまったく予想もつかないという点である。さらには、そのような戦争が起こった場合、相手の国を全面的に破壊する前にどうやってその戦争を中断させるのかはまったく分からないままである。いわゆる「段階的縮小」は素晴らしい概念ではあるが、これを解明してくれた人はいない。最終的に、米国とロシアは両国ともたとえ相手からの全面的な核攻撃を受けても、それを乗り越えて行こうと意思決定をするに足るだけの多くの核弾頭を温存させることが可能であろう、と私は個人的には思っている。これは多くの善意の平和論者が決して気付かない重要な命題である。つまり、「米ロ両国が全世界を10回も壊滅させることができる手段を保有している」ことはいいことなのである。何故ならば、一方が相手を破壊する、たとえば、相手の核戦力の95パーセントを破壊することに成功したとしても、残りの5パーセントを使って壊滅的なカウンターヴァリュー攻撃を実行することが可能であって、攻撃した側を一掃するのには十分なのだ。もしも米ロ両国が、たとえば、たった10発の核弾頭しか所有していないとしたら、相手をやっつけてしまおうという誘惑がはるかに高まるのではないか。

これらの状況は恐怖そのものであり、病的でさえもあるが、多数の核兵器を所有していることは「第一撃による安定性」の観点からはほんの僅かばかりを所有する場合よりも安全側にあると言える。間違いなく、今、われわれは狂気の世界に住んでいるのだ。

危機的な状況となった場合、米ロ両国は戦略爆撃機を空中に可能な限り長時間にわたって待機させ、必要に応じて給油を行い、地上で破壊されることを防止する。たとえ米国がすべてのロシアのICBMSLBMを破壊したとしても、何機かの戦略爆撃機は待機状態にあって、何時でも爆撃命令に応じることができる。ここで、われわれは最後のもっとも重要な概念に辿りつくことになる:

カウンターフォース攻撃はたくさんのHTK弾頭を必要とする。もちろん、両国が得ている推定値は極秘ではあるが、実際には攻撃が行われないにしても、表に纏められており、われわれが論じようとしている目標の数は1000か所を超える。しかしながら、カウンターヴァリュー攻撃の目標ははるかに少なくなる。米国で100万人以上の人口を有する都市はたった10カ所に過ぎない。ロシアは12カ所だ。そして、理論上ではひとつの都市に1発の弾頭で十分だ(これは正しくはないのだが、実際的な議論を進めるため・・・)。単純に言って、9/11同時多発テロが全米に与えた影響を想い起こしていただきたい。たとえば、マンハッタン地区が核攻撃を受けたと想定してみよう。その結果がどのような展開となるのかは容易に想像することが可能だ。

結論-1: スーパー起爆装置は実際にはまったくスーパーではない。

スーパー起爆装置の恐怖はたいそう誇張されており、ほとんど都市伝説の類いである。事実は、たとえ米国の潜水艦発射弾道ミサイルが今やHTK能力を備えており、その一方でロシアは宇宙空間に本拠を置く早期警戒システムを持ってはいないにしても(ところで、ロシアは新システムを開発中である)、基本的事実に影響を与えることは何もないのである。まったく、何の影響もない。ロシアが報復攻撃を行うことによって米国に壊滅的な打撃を与えることを予防する術はないのである。その反対もまったく同様だ。ロシアが米国に核攻撃をして、米国からの報復攻撃を回避し、無傷で生き延びることは出来ないのである。

本当のことを言うと、1980年代の初頭、ソ連(オガルコフ最高司令官)や米国の専門家は核戦争を勝ち抜けることはできないという結論にすでに達していた。過去の30年間、ふたつのことが戦争ゲームを劇的に変化させた。第一に、大量に増加した伝統的兵器の威力は小型の核兵器と同レベルに迫り、クルーズミサイルは以前にも増してその能力を高めている。今日の潮流はレーダー断面が小さい(つまり、ステルス性が高い)長距離クルーズミサイルであり、ICBMの核弾頭を自由に操縦することである。したがって、こういった弾頭を探査し、仰撃することはより困難なものとなる。次のことを考えてみよう。たとえば、ロシアが米国の海岸から100キロ程離れた潜水艦からクルーズミサイルを発射したとしよう。米国にはどれだけの対応時間があるのだろうか?これらのステルス性の高いミサイルは最初の段階ではレーダーや赤外線、あるいは、音響によって実際に発見されることがないような中程度の高度で飛行し、大西洋上では海面から35メートルの空間を飛行し、マッハ2から3の速度へと加速する。これらのミサイルがいったん水平線を超えると、間違いなくレーダー上に見え始めるが、残っている対応時間は「秒」の単位である。「分」ではない。それに加えて、いったいどのような武器システムがこれらのミサイルを仰撃できるのか?多分、空母の周辺を防護する武器システムならば可能であろうが、米国の海岸線にはそのような武器システムは配備されてはいない。

弾道ミサイルの弾頭について言うと、現在使用されている弾道ミサイル仰撃システムや近い将来稼働するシステムは弾頭が操縦されてはいないことを前提として計算を行う。弾頭が方向を変えたり、ジグザグ行動をとった場合、これらの弾頭を仰撃する計算は数段も困難なものとなる。R-30ブラヴァのようなロシアのミサイルは最初の燃焼段階においてさえも操縦することが可能であり、弾道コースを推測することはより難しくなる(ミサイル自身を仰撃することはより難しくなる)。

近い将来に関して本当のことを言えば、弾道弾仰撃ミサイル(ABM)システムはABMをやっつけるミサイルを開発するよりも高価で、かつ、困難なものとなろう。また、ABMミサイルは弾頭よりも遥かに高価であるということも念頭に置いて欲しい。私は何時も思うのだが、率直に言って、何種類ものABM技術を持ちたいとする米国の執着心はその大部分が軍産複合体にキャッシュをもたらし、もっともうまく事が運んだ場合にはどこかで有用に活用することができるような技術を開発することにあるのではないかと言えよう。

結論-2: 核抑止システムは安定したままである。非常に安定している。

第二次世界大戦が終ってから、ソ連の同盟国はロシアに対する西側の伝統的な愛に動かされて、通常兵器や核兵器による対ロ戦争の立案を速やかに開始した(想像を絶する作戦 オペレーション・ドロップショットを参照していただきたい)。 しかし、どちらも実行されることはなかった。西側の指導者らは、多分、十分に妥当な考え方の持ち主であったらしく、ナチの戦争マシーンの80パーセントを破壊することに成功したロシアの軍隊に向けて全面戦争を仕掛ける意欲はなかったようだ。しかしながら、確かだったことは何かと言えば、両者は核兵器の存在が戦争の特性を大きく変貌させてしまったという事実を理解していた。そして、世界は二度と元へ復帰することはないだろうとも理解していた。人類の歴史上で初めて人類は真の意味で生存の脅威に直面したのだ。このような自覚がもたらす直接的な結果として、莫大な額のお金が地球上でもっとも優秀な頭脳を持った科学者たちに注ぎ込まれ、彼らは核戦争ならびに核の抑止にかかわる課題に取り組むことになったのである。この膨大な努力はひどく冗長で、多次元で、かつ、先鋭的なシステムをもたらした。ただひとつの技術的な進歩だけでこのシステムを妨害することは不可能である。ロシアや米国の戦略核の戦力には非常にたくさんの冗長性や警備手段が組み込まれており、たとえ一方にすべての有利な条件を与え、他方にはすべての不利な条件を与えるといったあり得そうもなく、手が届きそうにもない想定をしてみたとしても、第一撃で武装解除をすることはほとんど不可能である。このような極端に生存の可能性を高めたシステムを理解することは一般人にとっては非常に難しいことではあるが、米ロ両国は核戦力による交戦に関しては何百回、何千回と先進的な模擬試験を繰り返して来た。相手のシステムの中に弱点を見い出そうとして、数え切れない程の時間を費やし、何百万ドルもの費用をかけてきたが、得られる結果は何時も同じだった。つまり、完全に壊滅的な報復攻撃を与えるのに十分な核戦力は依然として生きながらえるのである。

結論-3: われわれの共通の将来に対する現実的な危険性

われわれの地球にとって現実的な危険性は核戦争を安全化し、ある日突然達成されるような技術進歩にあるのではなく、「核による度胸比べ」のゲームを行って、自分たちの面前にロシアを跪かせることが可能だと信じて疑おうともしない米国のネオコン派に特有な認知症的精神にあるのだ。これらのネオコンの連中は、たとえば、シリアにおいて一方的に飛行禁止区域を設けようとしているが、ロシアに対して通常兵器で脅しをかけるという試みはわれわれを核の対決に近づけてしまう可能性についてはどう見ても考えてはいないのである。現実には、核による対決の危険性を増している。

ネオコンは国連に難癖を付けるのが好きなようだ。そして、国連安保理の常任理事国5カ国(P5)の拒否権に関してもまったく同様だ。彼らはそもそもこの拒否権が創設された理由は明らかに忘れてしまったようだ。これは核戦争を引き起こしかねない行動を禁止するためのものである。もちろん、これはP5のすべての国が国際法を順守することを前提とする。米国が明らかにならず者国家と化し、国際法に準拠しないことが全面的に起こるようになってしまった今、米国が人類の将来に危険を及ぼすような行動を起こすことを中断させる法的な術は見つかってはいない。これこそが現実に恐怖心を起こさせるのであって、決してスーパー起爆装置ではない。

今日われわれが直面している最大の問題は認知症的な連中によって主導されることであり、大量の核兵器を持っているならず者国家の存在だ。彼らは民族的優位性や徹底した刑事免責ならびに帝国主義的な尊大さで構成された培養液の中に浸されており、常にわれわれを核戦争に一歩でも近づけたがっている。これらの連中は何によっても制約されず、倫理観や国際法あるいは常識や基本的論理によっても束縛を受けない。本当のことを言うと、われわれはジム・ジョーンズやアドルフ・ヒトラー、あるいは、その他の自己崇拝傾向が強い狂信者や正気を逸した救世主的なカルトと付き合っているようなものであって、彼らは自分たちが難攻不落であるとさえ信じ込んでいる。

これらの認知症的な連中が社会をコントロールすることを西側の社会が何の抵抗も示さずに許容してしまったこと、ならびに、西側の社会はそのほとんどが私が悪魔的カルトとしか呼ぶことができないような相手に対してすっかり降伏してしまったことを認めようともしないことは「西側世界」の大きな罪悪である。アレクサンダー・ソルジェニーツィンが1978年に喋った言葉は今や完全に現実のものとなってしまった: 

勇気の低下は今日の西側社会に関して外部の観察者が認めることができるもっとも顕著な特性であるかも知れない。西側世界は各国において、それぞれの政府において、それぞれの政党において、そして、もちろん、国連においてさえも、全体として、あるいは、個別にその市民的勇気を失ってしまった。この勇気の低下は支配層や知的エリート集団において特に顕著であり、これが社会全体に勇気の低下をもたらしている。勇気のある個人はたくさんいるが、彼らは公衆の命に対する影響力は持っていない。(ハーバードでの演説、1978年)

その5年後、ソルジェニーツィンはふたたびわれわれに警告をした。

われわれを取るに足りない者にし、われわれを核戦争や非核戦争による死の瀬戸際にまで追いやった最後のふたつの国家が持つ悪意のこもった希望に対しては、われわれは神の暖かい手のみを断固として探求するよう提言することが可能だ。われわれは早まって、自信過剰にもそれを拒絶してきた。そうすることによって、この不幸な20世紀の誤謬に対してわれわれの目は開かれ、われわれの支配権を正当に設定するよう導かれることが可能となる。この地滑りの中ではしがみつく物なんて他には何もないのだ。啓蒙主義時代の思想家たち全員の見識を集めたとしても何にもならない。われわれの五つの大陸はつむじ風に捉われてしまっている。しかし、人間的な精神の中で神から与えられた最高の贈り物が明示されるのはこのような裁きの場においてである。もしもわれわれが消滅し、この世界を失うならば、その責任はわれわれ自身だけにあるのだ。(テンプルトンでの演説、1983)

われわれは警告を受けたが、果たしてわれわれはこの警告を拝聴するのだろうか?

セイカー

<引用終了>


これで、仮訳は終了した。

読み応えのある記事である。内容が素晴らしい。三つの結論を何回でも読み返していただきたい

この記事が教えてくれたことは幾つかあるが、一言で言えば、先制核攻撃はどうみても成立しそうもないということに尽きる。もちろん、引用記事の著者が言うように、核戦争は誰も経験してはいないことから、実際にはどう展開するのかは誰も予想することはできない。それでもなおかなりの確信を持って言えそうな点は、核大国間での核戦争は最初に攻撃を仕掛けた側が一方的な勝利で終わる可能性は非常に小さい。

先制核攻撃が如何に大きな矛盾を秘めているのかに関してこれだけ微に入り細にわたって説明してくれている論文は少ない。その意味からも、この記事は多いに評価するべきだと私には感じられる。

非常に重要な点がひとつある。それはこの記事の著者は大手メディアには属さず、独立したブロガーであるからこそこの種の記事を世に送り出すことができたのだという点だ。

ひとりでも多くの人がこの記事が言わんとしている点を理解し、軍産複合体やネオコン政治家らが喧伝する先制核攻撃という概念や政策に対して反論の意思を固めて欲しいと思う。核戦争が起こってからでは取返しがつかない。

また、今日的な視点から言うと、国際政治の世界では「きな臭い匂い」があちらこちらで感じられるということを十分に理解しておきたい。核戦争の引き金役を果たすかも知れないシリア紛争やウクライナ紛争、あるいは、北朝鮮問題を平和裏に解決することは今すぐにでも必要なのだ。




参照:

1Making sense of the ‘super fuse’ scare: By The Saker, Unz Review, May/11/2017, http://www.unz.com/runz/making-sense-of-the-super-fuse-scare/