2017年9月25日月曜日

北朝鮮を安定化し、国外との連結性を高めようとする「中ロ」案



919日の報道によると、「もしも北朝鮮が核実験やミサイル発射実験を継続するならば、北朝鮮を完全に破壊するぞ」と、トランプ米大統領が脅しの言葉を放った。

これを受けて、北朝鮮は速やかに反論した。北朝鮮の李容浩(リヨンホ外相は、921日、トランプ大統領を酷評。「こんな諺があるんだが・・・ たとえ犬が吠えても、パレードは続く。もしもトランプが犬の吠え声でわれわれを驚かそうと考えているならば、明らかに彼は夢を見ている。」 

北朝鮮と米国との間でこうした辛辣な言葉の応酬が続く中、920日付けの「田中宇の国際ニュース解説」は「プーチンが北朝鮮を解決する」と題して、鋭い現状分析を提供している。プーチンの提案は北朝鮮をめぐる経済協力の実現を目指すものである。経済協力を活発にすることによって、北朝鮮を国際社会に復帰させ、北東アジア地域の安定と平和を実現しようという試みだ。

この田中宇氏の見解はhttp://tanakanews.com/にて無料で閲覧することが可能である。興味のある方はお試しください。

たとえば、その1節を引用すると次のような具合だ(斜体で示す)。

日本がトランプ政権の過激な策に同調している限り、日本上空を北のミサイルが通過する事態は止まらない。だが、プーチン案がうまくいくなら、日本にミサイルが飛んでこなくなる。日本の安全保障を考えると、トランプでなくプーチンに従うしかない。プーチンが新提案を発したウラジオの東方経済フォーラムには、日本から安倍首相と河野外相らが出席し、露中と協調して北問題を解決したいと、プーチン案を支持する方向の宣言を発している。

私が特に面白いなあと思うのは、「日本のメディアがまったく報じようとはしなかった」情報を記述している点だ。

さらには、「田中宇の国際ニュース解説」は次のように述べている。

今後もしプーチン案が成功すると、北の問題は米国無視・米国抜きのかたちで解決され、日本の安全が、米国でなくプーチン(露中)によって守られることになる。日本は対米従属一本槍から、中露や韓国・北朝鮮との関係強化へと動いていく。この転換を主導するのは政治家(安倍、自民党、国会)であり、官僚でない。

われわれ素人にとってはここまで一足跳びの判断をすることはとても出来ない。ここでは、日本の政治の中枢が今何を考えているのかを僅かながらでも学んでみたいと思う。ということで、日本の安倍首相と河野外相がロシアのウラジオストックの東方経済フォーラムでプーチンと何を喋ったのかを確認しておこう。

田中宇氏が引用しているぺぺ・エスコバーの記事 [1] を仮訳して、読者の皆さんと共有したいと思う。


<引用開始>


Photo-1: 201794日に中国の福建省厦門で開催されたBRICSサミットの晩餐会の前、習主席夫妻がロシアのウラジミール・プーチン大統領を歓迎。Photo: AFP / Fred Dufour

モスクワ政府はユーラシア経済圏を東方に拡大することに役立ってくれる合意を確立することに注力して来た。問題はどうやって北朝鮮を説得するかである。 

北朝鮮に対して課された新たな経済制裁は国連安保理で150の票を確保したが、これは、ある意味で、BRICSグループの中核的な存在である「中ロ」両政府の戦略的提携関係によって演じられている重要な役割を正しく認識することを難しくしている。 

新経済制裁は実に厳しい内容である。たとえば、北朝鮮に対する原油や精製製品の輸出を30パーセント削減、天然ガス輸出の禁止、北朝鮮からの繊維製品輸出(過去3年間の実績を見ると平均で年間76千万ドルを売り上ている)の禁止、北朝鮮労働者に対する新規労働ビザの発給を停止(現時点で9万人以上が国外で働いている)、等。

しかし、先週リークされた安保理の原稿によると、この決議案はドナルド・トランプ米大統領が目標としていたものからは程遠い。金正恩の資産を凍結し、彼の旅行を禁止し、対イラク経済制裁のスタイルで大量破壊兵器に関連する項目さえをも含めていた。さらには、国連加盟国が公海上の北朝鮮船舶を臨検する権限を認め、原油の全面的禁輸も含まれていた。

「中ロ」両国はこれらの条件を推進しようとする決議は拒否することを明らかにした。ロシア外相のセルゲイ・ラブロフは存在感が希薄になりつつあるレックス・ティラーソン米国務長官に対して「平和的に解決するために、ロシアは政治的、かつ、外交的な手法を模索する文言のみに同意する用意がある」ことを伝えた。原油の禁輸に関しては、ウラジミール・プーチン大統領は「北朝鮮に対する原油供給を停止すると、これは病院にいる患者やその他の一般市民を苦しることになる」と述べた。 





Photo-2: セルゲイ・ラブロフ・ロシア外相。Photo: Reuters

「中ロ」の優先課題は明白である。それは平壌政府を「安定化」し、政権交代を強要せず、地政学的なチェス盤上での過激な変更を追求せず、大規模な難民危機を引き起こさないことである。

これらは中国が平壌に対して圧力を掛けることを回避するということではない。北東部国境地帯に位置する吉市にある中国銀行、中国建設銀行および中国農業銀行の各支店は北朝鮮の市民が新たに口座を開くことを禁止した。現行の銀行口座が凍結された訳ではないが、預金や送金の業務が中断されている。

この問題の中核部分に迫ろうとするならば、先週のウラジオストックでの東方経済フォーラムで何が起こったのかを吟味する必要がある。ところで、本フォーラムの開催場所は北朝鮮の豊渓里(プンゲリミサイル実験場から300キロ程離れているだけだ。


すべては朝鮮半島を縦断する鉄道の話である: 

トランプ政府やワシントンの環状道路一帯に住む連中の好戦的な文言とはまったく対照的に、「中ロ」両国のプロセスは、本質的には、ロシアの外交官が確認しているように、中立的な場所で開催する「5+1方式」(北朝鮮、中国、ロシア、日本、韓国、プラス米国)による会談である。ウラジオストックにおいては、軍事的なヒステリック状態を鎮めるために、プーチンが出て来て、経済制裁のさらに先へ足を踏み出すと、それは「墓場への勧誘」となりかねないと述べて、警告を発した。それに代わって、彼は商取引を提案したのである。

西側の企業メディアはほとんど報じなかったが、ウラジオストックで起こったことは実に画期的である。モスクワと北京は平壌を加えた三者から成る貿易構造を構築し、朝鮮半島全体とロシア極東との間の連結性に究極的な投資を行うことに合意したのである。

韓国の文在寅(ムン・ ジェイン)大統領は9項目を下らない協力の架け橋」、つまり、ガス、鉄道、北海ルート、造船、作業部会の創設、農業、ならびに、他の種類の協力を構築するようモスクワ政府に提案した。 

極めて重要なことには、文在寅はこの三者協力はロシア極東における合弁プロジェクトに的を絞るであろうと付け加えた。「この地域における開発はわれわれ二カ国の繁栄を促進し、北朝鮮を変化させる手助けとなり、三者合意を実現するための基盤を作り出すであろう」ことが彼には良く分かっているのである。  



Photo-3: ロシアのウラジミール・プーチン大統領と韓国の文在寅大統領がウラジオストックのルースキー島における極東街頭エキシビションを訪問。Photo: Sputnik / Mikhail Klimentyev

この協定に加えて、日本の河野太郎外相と韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は「中ロ」という文言を用いてこの「戦略的協力」をさらに強調した。

地政学的な経済学は地政学的な政治学を補完してくれる。モスクワ政府は二国間に架け橋を構築するという考えを抱いて東京にも接近した。これは日本を物理的にユーラシアと連結することになる - そして、これは「新シルクロード」、あるいは、「一帯一路」構想とか「ユーラシア経済連合」とも呼ばれる通商と投資のための膨大な回転木馬に連結するものだ。また、これは朝鮮半島縦断鉄道をシベリア横断鉄道と連結するという計画を補完することにもなる。

ソウルは韓国と膨大なユーラシアとを結ぶ鉄道網を望んでいる。これは世界でも第5位の大きさの輸出規模を誇る韓国経済にとっては完璧なビジネス的意味合いを持っている。北朝鮮の孤立によって余計な負担を背負わされている韓国は、陸続きにありながらも、事実上ユーラシアからは分断されている。これを解決する答は朝鮮半島縦断鉄道である。

モスクワはこの計画に多いに乗り気で、プーチンはこう言った。 「われわれはロシアの天然ガスを朝鮮半島に供給し、ロシアの電力網と鉄道網を韓国と北朝鮮の電力網や鉄道網と連結することができる。これらの構想を実現することは経済的に大きな利益をもたらすだけではなく、朝鮮半島に信頼と安定を築くことにも役立つだろう。」  

「われわれは(ロシアや韓国との)三者強力に反対ではないが、これを実現するには当面適切な状況ではない。」 

モスクワの戦略は、北京の戦略のように、連結性である。つまり、平壌を仲間に引き入れる唯一の方法は朝鮮半島縦断鉄道とシベリア横断鉄道とを連結し、パイプラインを施設し、北朝鮮における港湾開発に関与し続けることである。

ウラジオストックへやって来た北朝鮮からの代表団はこの構想に賛成のようだ。しかし、当面は踏み出せそうにはない。北朝鮮の対外経済関係担当の(キム・ヨンジェ)大臣によると、「われわれは(ロシアや韓国との)三者強力に反対ではないが、これを実現するには当面適切な状況ではない」と言う。つまり、北朝鮮にとっては5+1形式の交渉が最優先であることを物語っている。 

依然として、重要な点はソウルと平壌の両政府がウラジオストックへ出かけ、モスクワ政府と話をしたことだ。中心的な課題は朝鮮戦争を終結してはいない停戦協定にあるという点はほぼ間違いなく、このことについてプーチンと韓国ならびに北朝鮮によって話を切り出さなければならなかったことだ。しかも、米国を抜きにしてだ。

経済制裁が衰退し流れる一方、「中ロ」両国のより大きな戦略は明白である - それはユーラシアの連結性の推進である。問題は如何にして北朝鮮をその気にさせるかである。

<引用終了>


これで全文の仮訳が終了した。

この記事を読んで、田中宇氏が言わんとしていることがより正確に理解できるようになって来たように思う。

「西側の企業メディアはほとんど報じなかったが、ウラジオストックで起こったことは実に画期的である。モスクワと北京は平壌を加えた三者から成る貿易構造を構築し、朝鮮半島全体とロシア極東との間の連結性に究極的な投資を行うことに合意したのである」というぺぺ・エスコバーの報告は圧巻である。

米国は好戦的な発言を繰り返して、「北朝鮮を徹底的に破壊するぞ」と脅しをかけているが、武力の行使に反対する「中ロ」の提案は素人のわれわれが見てさえも政治的には遥かに素晴らしい内容である。常識を満たしてくれ、きわめて全うである。この状況はまるで腕白な子供同士の喧嘩と教養のある大人同士の話し合いとを比較しながら見ているような感じである。

924日のスプートニクの報道 [2] によると、米国防省は北朝鮮がグアムを越して弾道ミサイルを発射した場合は迎撃すると言って、米市民を安心させようとしているが、「米国のミサイル防衛システムは北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃することはできない」と米国のミサイル防衛の専門家が指摘している。この専門家の話では、「目下、米国は飛行中にある北朝鮮の火星14号弾道ミサイルを迎撃することができる確率は5050である。しかしながら、このような確立は北朝鮮が妨害電波発射装置やチャフ、囮(バルーンのような非常に簡単なものも含めて)といった策を講じてはいない場合での数値である。

つまり、米国が実戦で迎撃に成功する確率はどんどん低下するということだ。ここで言う米国のミサイル防衛システムとは日本でもわれわれが良く耳にするパトリオット、THAAD、イージス・システムによる3段階の防衛システムを指している。

要するに、北朝鮮との軍事的対決の方向に進み続ける限り、米国や日本および韓国は米国製のミサイル防衛システムでは対応が不十分であって、北朝鮮の核攻撃に曝されるリスクが高まるのだ。これは非常に基本的なことであるのだが、マスメディアは真面目に取り上げようとはしない。

北朝鮮の弾道ミサイルの能力が高まり、核兵器の開発が進むにつれて、米国とその同盟国(日本や韓国)にとっては北朝鮮との武力対決そのものを回避することが増々重要になってくる。

広島・長崎に続いて二回目の核攻撃に曝されることは何としてでも避けなければならない。日本のそのような戦略的選択肢を考える場合、上記にご紹介した田中宇氏の見方は非常に重要であると思う。

しかしながら、政治の現状を見ると、「北朝鮮の攻撃から日本国民を守るとか、日米同盟強化の重要性を訴える」と日本政府は言う。政府の姿勢そのものに自己矛盾が生じ、国民を守るという政治の究極目的からは大きく逸脱してしまう可能性が高まっているということだ。

読者の皆さんはどうお思いであろうか?

上述の情報が信頼に値するのかどうかという議論も、多分、出て来ることだろう。懐疑心を抱くこと自体には大賛成だ。しかしながら、そういった懐疑心は政府の発表についても公平に適用して欲しいし、その内容をより正確に吟味する態度が必要であると私は思う。たとえば、上記にご紹介した米国防省の発表とミサイル防衛システムの専門家の意見には非常に大きな違いがある。違いがあるというだけではなく、違いが大き過ぎる。ミサイル防衛システムの性能や有効性は、私のような素人にさえも、試射を理想的な条件下で実施し、成功することを念頭に置いて行った結果でしかないことが分かっている。その程度の代物だ。少なくとも、そのことをはっきりと記憶に留めておきたい。




参照:

1The Russia-China plan for North Korea stability, connectivity: By Pepe Escobar, ASIA TIMES, Sep/13/2017, www.atimes.com/.../russia-china-plan-north-korea-stability-co..

2US Cannot Shoot Down DPRK Missiles, Global Defense Experts: By Sputnik, Sep/24/2017, https://sptnkne.ws/f5GF




2017年9月21日木曜日

ペンタゴンはチェコから武器を購入し、それらをシリアの反政府派武装組織に供給?


アサド大統領が率いる政府軍が、最近、デリゾールの街で外国からの資金や武器の供給をふんだんに受けて来た反政府武装勢力による包囲網を破ったことから、シリアでは政府軍側の全面的な勝利の日が近くなって来たという見方がメディアを賑わし始めた。このシリア紛争は米国とロシアの間の代理戦争の様相を濃くしていることから、すんなりと事が運ぶかどうか(つまり、米国がそう簡単にシリアを諦めるかどうか)は予断を許さないが、大局はほぼ確定したのではないかと推測される。今や、そんな雰囲気が支配的だ。

ここに反政府武装勢力に対して行われて来た西側からの武器の密輸を詳細に物語る報道がある。これは政治的には非常に大きな意味を持つニュース [1] である。最近、代替メディア上で流れている。読者の皆さんはこのことにお気付きであっただろうか?

この武器の密輸は通関検査の義務を免除されている外交官特権を悪用したやり口を特徴としている。過去、何年にもわたって、米国は東欧圏から武器を調達して、それらの武器や弾薬をシリアの反政府派武装組織へ供給して来たが、その全貌が今白日の下へ引きずり出されたのだ。

すでに報道されているように、これらの武器の一部はテロ組織の手にも渡っている。たとえば、シリアに接するトルコやヨルダンで何千万ドルもかけて米軍が行う軍事訓練が完了し、新たに訓練を受けた穏健派の反政府武装勢力がシリア国内へ派遣されると、彼らは決まったようにテロ組織に襲われ、武器や車両を奪われるという事態が発生した。しかも、繰り返して起こっている。一見、冗談ではないかと疑いたくなる程である。しかし、私にはこれは計画通りの展開であるとしか思えない・・・

早速、このニュースを仮訳して、読者の皆さんと共有しようと思う。


<引用開始>

 Photo-1© AP Photo/

チェコ共和国がテロリストに武器を引き渡すことに関与したなんてあり得ない、と武器弾薬の製造業者や販売業者で組織されている団体の会長が所信を述べた。これは米国が東欧圏のさまざまな業者と契約を交わし、シリアの反政府武装勢力へ武器を供給していたことに関する報告書についてコメントしたものだ。

スプートニクに対して、チェコの武器販売連合会のヤン・スカリツキ―会長は「組織犯罪・汚職報告プロジェクト」(Organized Crime and Corruption Reporting Project - OCCRP)および「バルカン調査報道ネットワーク」(Balkan Investigative Reporting Network - BIRN)によって作成された報告書に関して自分の考えを示した。

調査結果によると、ペンタゴンは東欧圏やソ連崩壊後の国々のさまざまな業者と一緒になって作業を進め、22億ドルにも達する武器弾薬供給プログラムを遂行した。同報告書は多くの国々に混じって、チェコ共和国についても言及したのだ。

「私が認識している限りでは、これらの非難はチェコの武器製造業者に対するものではなく、米国の支配層自身の問題だ。忠実にお金自体が悪臭を放つわけではないという原理原則に基づいて言うと、チェコ企業がテロリストへ武器を供給するといった背徳行為に関与していたとはとても思えない」と、ヤン・スカリツキーはスプートニクに述べた。 

彼は「チェコ企業自身が産業・貿易省からの許可を取りつけたとはとても思えない。1994年の法律38号によれば、如何なる貿易に関しても要求されることではあるが、この場合、これらの武器の最終使用者としてテロリストの名前を表示しなければならなくなるからだ」と言った。

「そのような許可申請が関連省庁によって受理されるだろうとは考えられない。そのような申請があった場合、たとえば、諜報や治安サービス部門が取り扱うことになる」と彼は言った。 

これらの武器が武力紛争が進行している国へ再輸出される疑いが存在する場合は、チェコ当局はそのような武器輸出の事例には積極的に介入するのかという問い掛けに対して、スカリツキーは「当然、介入すべきだ」と言った。 

「しかしながら、このような貿易業務をある国の軍隊や政府の名を騙って遂行することは完全に不可能だ」と彼は指摘する。

米陸軍で心理戦争を専門とする元将校ではあったが、今は国務省の対テロ対策について下請け業務を請け負うスコット・ベネットはスプートニクに対して次のように述べている。「米国がソ連時代の弾薬をシリアの反政府組織に供給していたことが報じられているが、テロリストに対して資金提供を行うことは法律を「大っぴらに破る」ことになるだけではなく、紛争を中東全域に拡大するリスクが高まる。」

OCCRPならびにBIRNが行った調査によると、ペンタゴンはふたつのチャンネルを通して弾薬を調達している。ひとつは「特殊作戦コマンド」(SOCOM) を経由し、もうひとつはニュージャージー州にある米陸軍の武器を取り扱う施設「ピカティニー・アーセナ」を経由している。

Photo-2© AP Photo/

供給物資はヨーロッパから陸路あるいは空路でトルコやヨルダンあるいはクウェートへ輸送され、シリア北部と南部に位置する米国と同盟関係を持つ反政府武装勢力に引き渡される。

これらの密輸武器には銃、迫撃砲、AK-47ライフル、重機関銃、携行式ロケット弾発射装置やさまざまな種類の弾薬が含まれていると報じられている。

シリアの反政府武装集団に対する武器の供給においては米国は「誤解を招きやすい文書」を用いており、このことは国連の「武器貿易条約」に抵触するものだと、本報告書は指摘している。しかしながら、ペンタゴンはこの主張を退けて、ペンタゴンの文書は正しいと言う。

<引用終了>


これで、全文の仮訳は終了した。

しかし、上記の情報だけでは武器の密輸、特に、関税検査を回避するために外交官特権を活用して行われた密輸の実態はわれわれ素人には見えてこない。この密輸にはさまざまな「からくり」が用いられている筈だ。

たとえば、ペンタゴンが作成した「誤解を招きやすい文書」とはいったいどんな内容なのだろうか?

「東欧から中東に向けて何十憶ドルもの武器を輸送するために、シルクウェイエアラインの外交官用の空輸便が使用された」と題された別の記事がここにある。これは中東を専門とするブルガリアのディリアナ・ガイタンジヴァ記者がスクープしたものだ。そこには驚くべき事実が報じられている。この情報は2ヶ月程前の7月始めに出版された。その一部を下記にご紹介しておこう(斜体で示す)。

中東特派員のディリアナ・ガイタンジヴァがシリアやイラク、アフガニスタンおよびコンゴといった紛争地域に対する広範な武器の密輸をスクープした。

武器はシルクウェイエアラインと称するアゼルバイジャンの航空会社によって外交官特権の庇護の下で輸送されていた。 

シルクウェイエアライン(アゼルバイジャンの国営企業)による外交官用の空輸は過去3年間以上にわたって少なくとも350便も運行され、世界中を網羅して来た。アゼルバイジャンの国営航空は何十トンもの重火器や弾薬を積み込み、外交官専用便としてテロリストたちの地へ向かったのである。 

シルクウェイエアラインによる武器の空輸を示す文書が無名のツイッター・アカウント、つまり、Anonymous Bulgariaから私の元へ送られて来た。


関連書類: 

Photo-3 : 関連書類(1



Photo-4: 関連書類(2

これらの文書によると、シルクウェイエアラインは米国やバルカン諸国、イスラエル、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、米特殊作戦コマンド(USSOCOM)、ならびに、アフガニスタンにおけるドイツ軍やデンマーク軍、イラクにおけるスウェーデン軍のために外交官特権で守られた空輸サービスを提供した。外交官専用の運行便は検査が免除され、航空貨物輸送状の作成の必要がなく、免税である。つまり、シルクウェイの航空機は、何の規制も受けずに、何百トンもの武器を世界中の如何なる場所に対してでも自由に空輸を行うことが可能である。彼らは給油とかの特別な理由もなしに途中で着陸し、時には23時間、時には丸一日もその地に留まることもあった。

アゼルバイジャン外務省は関係国に対してはシルクウェイエアライン宛てに外交官用の離着陸許可を「取得する」よう示唆していたようだ。 

IATA(国際航空運送協会)の規則にでは民間航空機による武器の輸送は許されてはいない。この規則を何とか免れるために、シルクウェイエアラインは各地の当局を通じて外交官免除を申請していたのである。 



10憶ドルにも及ぶ米軍の標準仕様外の武器: 

シルクウェイエアラインが提供する「武器の密輸サービス」の主要な顧客の中には米国企業が含まれている。これらの米企業は米陸軍や米特殊作戦コマンドに対して武器を納入する。これらの事例において共通に見られる重要な要素はこれらの業者は誰もが米軍の標準仕様以外の武器を供給している点だ。つまり、これらの武器は米軍自身が使用する訳ではない。 

連邦契約登録によると、過去の3年間、これらの米企業は米政府の特別プログラムの下で米軍標準仕様外の武器を供給するために総額で10憶ドルもの契約を請け負った。


白リンの輸送: 

書類を見ると、議論の多い化学兵器(技術的には、焼夷弾用)を何百トンも輸送した詳細が浮かび上がって来る。白リンがベルグラードからアフガ二スタンのカブールへと空輸されているのだ。

白リンは焼夷弾として用いられ、これの使用は致命的な危害を引き起こすことからも議論が多い化学物質である。2015331日、シルクウェイはセルビア(輸出業者:Yugoimport)からの白リンを含む26トンの軍用貨物、ならびに、ブルガリア(輸出業者:Arsenal)からの63トンの貨物を空輸した。322日には、別の100トンの白リンがベルグラードのユーゴインポルトからカブールへと輸送された。これらの貨物便には契約書は添付されていない。

201552日、シルクウェイはブルガスの空港で白リンを含めて17トンの弾薬を積み込んだ。輸出業者はブルガリアのドナリト(Dunarit)。この航空機は一回のテクニカルランディングを行い、バクーで4時間を費やし、その後最終目的地であるカブールへ到着した。荷受人はアフガン警察である。証拠になる契約書類は何も添付されていない。


Photo-5: 関連書類(3


白リンに関するさらなる情報: 



米国の業者:

シルクウェイエアラインと結託した武器の密輸には米国のさまざまな業者が絡んでいる。

ケムリング・ミリタリー・プロダクツ 社(Chemring Military Products)


Photo-6: ケムリング・ミリタリー・プロダクツ
 

ケムリング・ミリタリー・プロダクツ(CMP)はケムリング・グループのエネルギー・システム部門に属し、米国やその同盟国の軍部に対して高品質の弾薬や武器を競争力のある価格で納入する企業である。さまざまなサブシステムを統合して納入する企業として、CMPは米国標準仕様の武器だけではなく、米国の標準仕様ではない武器や弾薬、部品、爆発物、ならびに、プラットフォームを納品する。

CMPは国内や海外の顧客とも提携して、低価格な企業構造や供給網、プログラム・マネジメント、品質保証、物流、等における中核的な競争力を背景にして最高の価値を誇る解決策を顧客に提供する。

CMPは米国務省の国防貿易管理局(Directorate of Defense Trade Controls)では仲介業者として登録されており、武器や弾薬の輸出許可を速やかに取得するために無駄のない作業を行う。また、軍需物資の米国への輸入に当たってはCMPはアルコール・タバコ・火器・爆発物取締局(ATF)や国務省での登録業務を提供する。


ケムリング・オーデナンス社(Chemring Ordnance):

CMPの関連会社であるケムリング・オーデナンスは軍部や国内治安当局、あるいは、災害時の初期応答者のために軍需品や爆発物、その他の武器弾薬用部品を設計、開発、生産する世界でも屈指の企業である。CORはあらゆる種類の低・高速度の40ミリ手榴弾、爆発物、発煙筒、照明弾、戦場効果シミュレーター、手榴弾用ヒューズ、その他の弾薬用部品、たとえば、爆発物用の遅延回路、等を製造する。



サウジアラビア王国: 

サウジアラビアは同国地域においては最大級の武器調達を行い、輸出も行う大国である。しかしながら、サウジ自身は米国標準仕様の武器のみを用いていることから、米国標準外の武器の調達はサウジ自身の軍隊が使用するためのものではなく、むしろ、これらの武器はサウジの国益を支えるテロリスト集団に供するためのものである。

サウジの軍隊は西側の武器だけを用いているので、サウジ王国はこれらの武器を自分たちの使用のために調達したのではない。これらは自国の軍隊の仕様には合わないのだ。したがって、外交官専用便で空輸された武器は最終的にはサウジアラビアが公に支援するシリアやイエメンにおけるテロリスト集団の手に渡るのである。


これらが意味すること: 

この物語は膨大だ。これは、以前、セイモアー・ハーシュが報じたリビア・カタール・トルコ・シリア間を結ぶとされるストーリーを上回るものである。これは単に氷山の一角を示しているだけかも知れない。他にも数多くの航空会社やさまざまな国の外務省がこれらと同様な行為に関与しているのではないか?

23か月前、私は武器の密輸や人身売買行為のために外交官専用の貨物輸送が用いられているのではないかと推論した。ことによると、もっと多くの企業や当局あるいは組織が外交官特権を隠れ蓑にして非合法な、法律に反する行為を隠ぺいしているのかも知れない。


さらなる情報源: 



以上で、全文の仮訳が終了した。

まさに驚くべき内容である。

ブルガリアのディリアナ・ガイタンジヴァ記者が報じたスクープ記事によって、非合法的な武器輸出の実態が詳細にわたって暴露されたのである。

(なお、CIAとシリアの反政府派武装集団に対する武器の密輸とを結びつけることに初めて成功したこの調査報道記者は後に捜査を受け、勤務先であったブルガリア最大の日刊紙「Trud」から解雇された。報道の自由がここでも蹂躙されたのである。詳しくは、828日付けの「Journalist Interrogated, Fired For Story Linking CIA And Syria Weapons Flights」と題された別の記事を参照されたい。)

ペンタゴンといえども米国の国内法でテロリストと認定されている武装組織へ直接武器を供給することは表立っては出来ない。しかしながら、アフガニスタンやシリアを巡っては、それを避けて通る方法が編み出され、公然と行われて来た。シリアに接するトルコやヨルダンでは何千万ドルもかけた米軍による軍事訓練が完了して、新たに訓練された穏健派の反政府武装勢力がシリアへ派遣されると、彼らは決まったようにテロ組織に襲われ、武器や車両を奪われるという状況が繰り返して起こった。

一見、冗談ではないかと疑いたくなる程である。私はかねてから胡散くさいと思っていた。これはまさに意図的な展開であったと言わざるを得ない。

結果的に、ペンタゴンはシリアの反政府派武装集団の手に大量の武器や弾薬を届けたのである。国内世論を不必要に刺激しないために、この手法はペンタゴンにとってはアサド大統領を政権から追い出すための重要な作戦であったのかも知れない。苦肉の策として採用されたのであろう。しかしながら、シリア紛争は今その終焉に近づいている。大方の専門家の見方によると、反政府派武装勢力はシリア政府軍によってほぼ駆逐された。

しかしながら、実際には最強の軍を有する米国が相手であり、これは戦争である。戦争にはルールがない。西側の支援によって国際法で禁止されている化学兵器が使用され、海上の米艦艇からはシリア空軍基地に向けてクルーズミサイルが撃ち込まれた。西側の大手メディアはプロパガンダ機関に成り下がって、大合唱を続けて来た。西側に偏った国連派遣の化学兵器調査団は機能しなかった。こうした過去の実績を見ると、これから何が起ころうとも現実にはまったく不思議ではない。

予断は許されない。シリア紛争はいったいどこへ落ち着くのであろうか?



参照:

1Does the Pentagon Buy Arms for Syrian Militants From Czech Gun Firms?: By Sputnik, Sep/17/2017, https://sptnkne.ws/f29g