2017年9月10日日曜日

対ロ紛争の受益者たち



米国の特定の外交政策の背後にはその政策の受益者として特定のグループが存在する。民主政治の場合、その特定グループが大多数の一般大衆、あるいは、選挙権の有権者であるならば、それほど素晴らしい政策はない。

ところが、特定のグループが軍産複合体であるとしたら、どうであろうか? 最悪の場合、一般庶民は夫や子弟を兵士として戦場へ送り出さなければならない。それは最良の選択肢とは言えないであろう。1パーセントのために99パーセントが文字通り命を投げうって、戦場を駆け巡らなければならないのだ。武力の行使を選択する前に、当事国間では相互の対話や外交をとことん追求しなければならない理由がここにある。当然のことだ。

ところが、政治の世界ではなし崩し的にさまざまな政策が推進され、後になって、「ああこういうことだったのか」と思い当る場合がある。そして、全体像がはっきりと見えて来た時にはすでに遅すぎる。そのようにして、日本はシナ事変や太平洋戦争に突入して行った。また、ドイツではナチ勢力による支配がヨーロッパを席捲した。

私らの両親の世代は日本を取り巻く軍国主義や植民地主義について内心では「これで本当にいいのだろうか」と悩んでいたに違いない。あるいは、それとはまったく正反対に、軍国主義や植民地主義に洗脳されて、それにすっかり賛同していたのかも知れない。本当のところは私には分からない。

しかし、われわれの世代は日本の富国強兵政策は最終的に失敗し、惨めな敗戦に至ったという結末を知っている。日本では一世代、二世代前にはあれだけ大きな犠牲を払い、困難を舐めなければならなかったにもかかわらず、今や、再び、軍国化の道を歩み始めている現実はいったい何であろうか。米ロ間の新冷戦は激化するばかりである。政治家間の舌戦が、何らかの理由で、つまり、計算違いや誤判断、あるいは、ほんの小さな電子部品に起こった機能喪失の結果、何時の間にか物理的な戦争へと発展する可能性がいやましに高まっている。

歴史に想いを馳せたり、現在置かれている状況を解析しながら、米国の最近の対ロ政策を再考してみたいと思う。ここに、42日付けで、「対ロ紛争の受益者たち」と題された記事がある [1]

本日はこれを仮訳して、読者の皆さんと共有してみたい。


<引用開始>

130日、NBCニュースは次のように報じた。 「かって何十年にもわたってソ連軍によって支配されていたポーランドの雪降りしきる平原で、米軍の戦車や兵士がモスクワに向けてメッセージを投げかけ、NATO同盟軍の火力の威力を見せつけた。ドナルド・トランプ大統領のNATOに対する信頼感が動揺しているという懸念の中、 戦車が一斉射撃を行い、この危険極まりない新たな世界においては28か国から成る同盟が必須の抑止力であることを宣言した。」
 
この偏った口調にはひとつの興味深い特徴が見られる。それは「かって何十年にもわたってソ連軍によって支配されていた」とか、「必須の抑止力」といった文言だ。ここでは明らかに、あたかもロシアが何らかの理由でポーランドを侵攻したいと思っていると示唆しようとして、NBCはこれらの文言を用いているのである。西側のメディアにおいてはごく普通のこととして受けとめられているが、ロシアが他国を支配することに没頭していると言う主張に関しては何の正当性や証拠も提示しようとはしない。その一方で、米国自身は自国の国境からは遥か遠く離れたロシアの国境付近で作戦を展開しているという事実があり、これは「世界にとって不可欠な国家」にとってはごく当たり前の振舞いであると見なされる。

そして、ロイターは次のように記録した。 2月から、米軍部隊はポーランド、バルチック諸国、ブルガリア、ルーマニア、および、ドイツに展開して、訓練や演習ならびに保守点検を実施した。米軍は50機のブラックホークと10機のCH-47チヌーク・ヘリコプターならびに1,800人の兵士から成る第10戦闘航空旅団を送り出し、それと同時に、別個に400人の兵士と24機のアパッチ・ヘリコプターから成る航空大隊を配備した。」 

米国・NATOの軍事同盟はロシアの国境線に沿って軍の配備を続け、これには31日に開始された米英が支援するノルウェーにおける「バイキング2017」合同演習も含まれる。また、4月からはポーランドへのさらなる米軍の配備が行われ、モスクワによる2014年のクリミアの併合に応えて、同盟国側は新たな軍事勢力を構築しようとしている。いわゆる「ロシアの侵攻」には反対する立場にある米英両政府は軍の規模や強さを増強し続け、それにべったりのメディアは総力を挙げてプロパガンダ役を演じている。

ウクライナ外相のパヴロ・クリムキンが367日とワシントンを訪問した。その間、彼はレックス・ティラーソン国務長官および上院外交委員会のマルコ・ルビオ上院議員と面会し、「ロシアの侵攻に対処する」際には米国は支援を保証するという約束を取り付けた。その一方で、英国では「モップのような髪形をした道化者」と称されるボリス・ジョンソン外相はロシアを訪問し、ロシアに対して西側の政策には「口を出すな」と忠告するという。ジョンソン氏はロシアは「ありとあらゆる悪事を働き」、「サイバー戦争に手を染めている」と宣言した。 

サイバー戦争云々に関するジョンソンの言葉に盛り込まれている見事とも言える皮肉は、米国の諜報機関による大規模なサイバー関連でのごまかしに英国の諜報機関も深く関与していたという事実が判明する直前に発せられたのであった。再度、西側の二大民主主義国家が大嘘やごまかしにどっぷりと浸かっていることをウィキリークスが指摘し、これらの漏洩情報には世界でももっとも人気のある技術基盤に不法に侵入する際に用いられる破壊工作ソフトやその他のツールに関するCIAの計画や説明が記述されている。これらのツールを、所有者が気付くこともなしに、目標のコンピュータへ侵入させることができるようにと、担当の開発者が特別に狙って開発した経緯が示されている。これらのツールや情報はCIA国家安全保障局、および、その他の連邦諜報機関の間で、さらには、オーストラリアやカナダ、ニュージーランド、および、英国の諜報機関との間で大幅に共有されている。

ABCニュースは「ウィキリークスの背後にいる人物、ジュリアン・アサンジはロシアと強力な関係を持っているようだ」と何の証拠も提示せずに言明したものの、CNNによる報告を完全に隠蔽することはできなかった。これらの文書は「自分たちが行った行為を隠すために、CIACIA自身のハッカーがあたかもロシア人であったかのように見せかけるテクニックを日常的に採用していた」ことを暴いたのである。

米上院議員のエイミー・クロバチャーは、1月に、「われわれの民主主義を破壊しようとして、ロシアはサイバー攻撃やプロパガンダを駆使している」と宣言したが ウィキリークスの主張に関しては彼女は何のコメントもしなかった。「これはわれわれだけのことではない。ロシアは世界中の民主主義国家に対してサイバー攻撃や軍事侵攻を仕掛ける行動パターンを持っている。」 彼女はベン・サッシ上院議員からの賛同を得た。彼は「対ロ経済制裁の強化はプーチンの計算を覆し、ロシアのサーバー攻撃や政治的介入から米国を防護してくれるだろう」と言った。

もちろん、上院議員らが自分たちのロシアに対する憎悪を悔い改めることは不可能であり、米国家偵察局が31日に打ち上げたスパイ衛星はロシア製のRD-180 エンジンによって駆動されたアトラス5型ロケットによって遂行されたことを認めるために自分たちの惨めな自尊心に打ち勝つことなんて不可能なのだ。これは狭量な精神がもたらした難読化を指し示す驚くべき事例であると言えようが、打ち上げについて報告する1,500語の公的な報告書RD-180について3回も言及しているにもかかわらず、その製造企業がどこの国であるのかについては一言も喋ってはいないのである。大手メディアもこれに倣った。

3月にはアトラス5型ロケットを用いたもうひとつ別の打ち上げが予定されていた。これは国際宇宙ステ―ションへの物資の補給用であったが、「打ち上げのために必要な地上の支援機器の油圧系統に問題点があることが判明して」、遅延となったのである。もしもこの遅延がロシア製エンジンの機能不全によるものであったならば、さぞ満足そうな見出しが躍っていたことであろう。

ウィキリークスによる情報の暴露に対する米国政府の反応はそれらの暴露行為を非難することにあった。 何故ならば、「暴露行為は米国の兵士や軍事行動を台無しにするばかりではなく、敵国にツールや情報を与え、それらが米国に危害をもたらすと推測される」からだ。予想通り、サッシ上院議員はこうツイートした。 「ジュリアン・アサンジは囚人用のオレンジ色のジャンプスーツを着て、余生を過ごすべきだ。彼は米国市民の敵であり、ウラジミール・プーチンの同盟者だ。」 

米英両国の諜報機関の活動についてはいささかの驚きも無い筈だ。盗聴を受け、個人的な会話に聞き耳を立て、忍び笑いをしている盗聴者の侮辱に曝された世界の指導者の例を挙げると、国連のコフィ・アナン事務総長やドイツのメルケル首相、ジャック・シラクやニコラス・サルコジ―およびフランソア・オランドといった歴代フランス大統領、ならびに、ディルマ・ルセフ・ブラジル大統領、等を両国がスパイしていたことは証拠が示す通りである。

20136月、ワシントンおよびニューヨークにあるEU のオフィスでEU のコンピュータネットワークをこっそり調べていた事実が判明した。ドイツのデア・シュピーゲル誌によると、『20109月のある文書が国連におけるEU 代表部を「狙いの場所」として明確に記述していたのである。』 デア・シュピーゲルは「NSAは欧州閣僚会議や欧州理事会が入居するブリュッセルの建物でも電子的盗聴を行っていた」ことを発見した。英国人の同僚らと共に、つまり、英国の政府通信本部のテクノ通たちと共に、米国の諜報機関はおおいに楽しんでいたのだが、ロシアが「われわれの民主主義を台無しにしようとしてサイバー攻撃やプロパガンダを用いた」という主張を実証することはできなかった。

CIAの律義な宣伝マンであるニューヨークタイムズは12月に次のように述べている。「米国のスパイ当局や法の執行機関は、大統領選の何週間も前に、ロシア政府は選挙運動中に大混乱を引き起こす種を蒔くためにコンピュータ・ハッカーを配備したとの考えで一致した。」 しかし、それだけではなく、「CIAの高官らは議員たちに新たな驚くべき判断を伝えたのである。これはこの議論をひっくり返した。彼らは、ロシアはドナルド・J・トランプ大統領を支援することを中心的な目的として介入したのだと言ったのである。」

しかし、ロシアが選挙の最中にコンピュータに不法侵入したという証拠はなく、今や、「自分たちの行動を隠蔽するために、CIAは自分たちのハッカーをあたかもロシア人のハッカーであるかのように見せるテクニックを日常的に採用していたという証拠が挙がっているのである。」 

ロシアが米国に対してサイバー戦争をしていたという主張はどれを取っても実証することはできないけれども、ワシントンの反ロシア・プロパガンダの動きは近い将来ずっと続くことになるだろう。その一方、モスクワとの対話を始めるというトランプ大統領の当初の意図は萎み始め、今やゼロに近い。たとえ自分自身が認めている、この理に適った政策を彼が蘇らせようとしても、ロシアの「侵攻」や「サイバー攻撃」に関する主張をさらに繰り広げて、彼を取り巻くワシントンの信奉者らは全力を挙げてそれに反対することだろう。反ロシア・キャンペーンは勢力を増している。こういった非生産的な反対運動がどうして西側の多くの市民の関心を呼ぶのかについてはその理由を指摘するのは決して難しいことではない。

米国の武器や諜報関係の業界こそが対ロ紛争の最大の受益者である。そして、米国・NATO の機能不全に陥った軍事同盟の階層型組織が僅差でそれに続いている。この軍事同盟は自分たちの存在の意義を見い出そうとして何年にもわたって苦労をしてきた。軍産複合体がワシントンで権勢を振るっている限りは、軍事力による威嚇や愚かな見せかけだけの軍事的行動は後を絶たないことであろう。

しかしながら、国際宇宙ステーションに対してはロシア産のエンジンで駆動されたロケットを使った物資の補給は継続されるだろう。 

著者のプロフィール: ブライアン・クローリーは対外政策や軍事政策に関して執筆している。彼はフランスのヴトネー・シュル・キュールの在住。 

注: 本記事は当初Counterpunchにて出版された。

この記事に表明されている見解は全面的に著者のものであって、必ずしもInformation Clearing Houseの意見を反映するものではありません。

<引用終了>


これで、全文の仮訳が終了した。

この記事の表題「対ロ紛争の受益者たち」はいったい誰を指しているのかと言うと、それは米国の武器や諜報関係の業界であり、米国・NATO の機能不全に陥った軍事同盟の階層型組織が僅差でそれに続く、と著者は断じている。この結論は多くの識者が述べていることであって、目新しいことではない。

しかしながら、この米ロ関係の構図には致命的な欠陥が潜んでいるのである。それはディープステ―ツの存在と絡んでいる。米国政府を裏から指導する影の政府である。表の米ロ政府間における外交交渉で「白だ」と言っていたオバマ政権のケリー国務長官はロシアのラブロフ外相との会合を終えて帰国すると、前言を翻して「黒だ」と言った。彼はそういう場面を何回も繰り返した。

米国では、昨年の大統領選でロシア人ハッカーが民主党全国委員会のサーバーコンピュータへ不正侵入したとの主張が高まった。大手メディアも加わり、大合唱となった。この騒ぎは1年以上も続いている。ところが、米国の元諜報専門家のグループ(Veteran Intelligence Professionals for Sanity)は科学捜査の結果としてまったく別の見解を示した。この集団はロシア人ハッカーが不法侵入したのではなくて、内部犯行者がサーバー、あるいは、ネットワークから電子メールを含む膨大な量の情報をコピーしたのだと指摘する報告書をトランプ大統領宛てに送付した。これは今年の7月のことであった。こうして、ロシア人ハッカー侵入説は科学捜査によって物理的に成立しないことが証明されたのである。

この大混乱のそもそもの原因は大嘘とごまかしにある。これこそが米国の政治の致命的な欠陥である。

しかしながら、当面はディープステ―ツがそのまま素直に舞台から退場するとは思えない。今後も、次から次へとロシア・バッシングの新手を繰り出してくることであろう。軍産複合体にとっては世界の平和は最大の敵である。いや、正確に言うと、ロシアには敵の役割を担って貰いたいのだ。対テロ戦争は近い内に終わるかも知れない。終わらなくても、かなり下火になるだろう。何処かで武器や弾薬を大量に消費する戦争が続いていないと彼らは失業する。米国の経済は成り立たないのである。大悪党のプーチンが指導するロシアが長い間米国の敵になっていて欲しいのだ。




参照:

1The Beneficiaries of Conflict With Russia: By Brian Cloughley, Information Clearing House, Apr/02/2017





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